AWC 男と女とバラとバラード2    時枝 玲(代理UP 妙耶)


        
#2384/5495 長編
★タイトル (PDG     )  93/10/24  14:25  (123)
男と女とバラとバラード2    時枝 玲(代理UP 妙耶)
★内容

 空は、ブルーよりもパープルに近い。                   緑は
どぎつさを増し、雨期が終わったばかりのこの時期の一つの象徴でもある
かのように葉を茂らせている。
下界の景色に見入っていた俺に、後ろからロバートが声を掛けてきた。
「降下地点まで後、1時間弱か」
「まったくえらい落とし物をしてくれたもんだぜ」
 俺は途切れさえしない一面の緑を見ながら答えた。
「いいじゃないか、たまには。
ピクニックだとでも思えよ。それも美人のレィディ付きだ」
 俺は思わず振り返った。
相棒は目を細め、笑っていた。
「確かに。研究中の最新兵器を落っことした上に、其を解除するのに5人。運べ
ない程の代物だから、ちょいと花火を仕掛けて来いなんてのは中々どおして楽し
いピクニックだぜ」
「おまけに、開発途中で見捨てられた星なんてのはおつなもんさ」
「ロバート、一体どうやるとあんなもんが落とせるんだ」
「其が知りたきゃ、あの世とやらに行くんだな」
 後ろ向きに手を振って。
笑いながら遠ざかって行く姿が其処にはあった。

   ***************

 昼間とはいえ静かすぎる程のカフェ。
「・・・・・すか?中佐」
「えっ、ああ。何だって」
「マリアにお会いになりますか?」

 意外な言葉だったような気がする。少なくとも俺には。
「そうだな」
 どうして、その気になったのかさえ不思議だが。
ただ、会ってもいいとその時思った。
 あの作戦で、あいつが庇いその為に命を落とした。
そんな事は、過去の事とでしかない。
死んでいたのは俺かも知れないのだから。
あれからどうなったのか。あのまますぐこの星を離れた俺は調べさえしなかった。

 景色が移ろいで行く。長い閑静な町並みへと。
「いま、基地で静かに流行っている唄があるんです」
 運転をしながら隣で彼女がしやべり始める。
薄茶色のサングラス。軍服姿にはそれさえも似合っている。
「別れの唄です」
 整った横顔に少しだけ笑みを浮かべて続けた。
「出逢いと別れが此処には満ちていますから」
 俺の中で昨日の唄が想い出される。
生きていたら・・・・か。
生きたいと、何物にも変え難く思う。
戦場でただ生き延びる事を考えている、自分を知っている。


 ほどなく目的の場所に着いた。
こじんまりとした、小さな家。
「マリア」
 彼女がドアを開ける。
「フラン、やっぱりあなたね」
 後ろ姿でマリアは答えた。
波打つ亜麻色の髪が静かに振り返る。
透き通る白い肌。化粧さえしていないのに赤い唇。
そして、閉じられた瞳。
「入って、今お茶でも入れるから」
「ええ、ありがとう」
 スムーズな手の動き、身のこなし。
とても見えていないとは思えない。
「相変わらず凄いのね。見えてるみたい」
「見えているも同じよ、この家の中でならね」
 入って行こうとする彼女を思わず留めていた。
黙って首を横に振る。
「どうしたの、フラン。誰かいるの?」
「いいえ、御免なさい。時間がないの。
今日は貴方の顔を見に来ただけ、また来るわ」

「私は貴方に、彼女を逢わせたかったわ。
私達がまだこんなに傷みを残しているのに、
貴方は違うのね。 傷さえないのね。
だってそうでしょ、貴方はあの後一度だって此処を訪れもしなかった」
 いやに力の入った口調で彼女が言う。
「否定はしない。だが、弔いかたは人それぞれだ」
 どんな作戦であれ傷跡は確かに残ってゆく。
それをどう処理していくか、それが出来るのが人間であり、それが出来ないのも
・・・・。
「どうした、フラン・ウォレンス中尉」
 細い線。睨み付ける蒼い瞳。
俺は彼女の顎を軽く上に引いて 「「 。
「あんたらしくない」
「・・・・・」
 唇の端を軽く噛んで無言で答える。
 どれくらい時間が経っただろう、俺達は無言のまま車を走らせていた。
 別れ際に彼女が言った。
「発つのはいつ」
「たぶん明日」
 そう答え車から降りた。
「飲むか」
 少しの沈黙の後。
「いいえ、よすわ。
貴方が何処かで死んだ時に、貴方の為に泣きたくないから」
「そうさな、それがいい」


 目の前に拡がる何処でも代わり映えのしない基地内の風景。
其でも美しい時がある。今の様に。
夕映えを映し建物のシルエットが闇の様に浮かび上がる。
あと少しすれば辺りは本物の闇に包まれるだろう。
発つにはいい。
 タラップを上がり、用意された輸送機に乗り込む。
「グレイ中佐!」
 その刹那、呼び止められる。聞き覚えのある声。
俺は思わず振り返っていた。
「ウォレンス 「「」
 息を切らせ近付いて来る。
手から何か小さな物を投げてくる。受け取る。
白いドレス、金色の髪、蒼い瞳 「「。
暫くは忘れられないだろう。

 シートに凭れ掛かる、ゆっくりと離陸していく。


 手の中に残されたのは再生用のボイステープだった。
それは、ハスキーボイスでやけに響きわたる声の甘く切ない
スローバラード 「「 別れの唄だった。

                      89・ 9・21
                  時 枝   玲





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