AWC 女神の憂鬱 −3−  作 うさぎ猫


        
#2381/5495 長編
★タイトル (CWJ     )  93/10/16  14:55  (147)
女神の憂鬱 −3−  作 うさぎ猫
★内容
 sapaシリーズエピソード3

 漆黒の闇の中に浮かぶ赤い惑星マース。軍神マルスの名を名乗るこの星は虐殺と
狂気に彩られた人類の墓場。一説にはマースのこの赤い色は人々の血の色ではない
かといわれる。
 そんなマースに向かうラミーのホバー。黒いボディに白いラインが2本と、ハー
トを型どったマーキング。ちょっとスポーティタイプな自家用ホバーにしか見えな
いが、動力源から内装にいたるまで完璧にチューンナップされている。
 「あれね」
 ラミーが見付けた。マース上空に浮かぶ巨大要塞。
 「想像していたより大きいわね」
 ファラルもその大きさに目を見張り、そして震えた。ここがチャイルドワンスの
本拠地であることは間違いなさそうだ。
 「どうやって入るの」
 不安そうに聞くファラルに、ラミーは簡単に言った。
 「正面ゲートからよ」
 「無理よ、防衛システムがあるわ。それにゲートだって硬く閉ざされている」
 「ゲートが? よく見てみなさいよ」
 巨大要塞のゲートは開いている。それに、予想される防衛システムも働いていな
いようだ。
 「いったい・・・」
 「クリスでしょうね。さぁ、突入するわよ」
 ホバーのスピードが上がる。大きく開いたゲートへそのまま突っ込んだ。
 「ウッ!」
 ゲート内のカタパルトへ着地したときに振動が襲う。着地時の振動だ。馴れてい
ないファラルは声をあげた。
 「主任、行くわよ」
 ラミーはすでにホバーから出て、内部へと駆けていく。ファラルは慌ててホバー
から出る。出るときに銃身の長いビームライフルが少し邪魔になったが、それでも
なんとかラミーを追いかけた。

 「ひゃぁ、主任も来たんだ」
 ゲートのコントロールを司る部屋のモニターを見ながら、クリスは真っ赤に染まっ
たフラワースカートでニコニコしていた。部屋は、つい先程まで人間だった肉の塊
がブヨブヨした臓物をまき散らしている。
 「!」
 グシャリと臓物の一部を踏み潰す足音。そして凄まじい憎悪。クリスは後ろを振
り向いた。そこにいたのは黒いマスクを被った男。
 「ハァーイ! あなたがマスクマン?」
 クリスは言葉はふざけていても、瞳はマスクマンを刺すように見る。マスクマン
はゆっくりとクリスに近づいた。クリス・ターナの額に汗が滲む。なんとも言えぬ
凄まじいばかりの恐怖。マスクマンは右手でクリスの首を締めた。
 「うぅぅ・・・」
 クリスの身体はすでに恐怖心で動かなかった。ただマスクマンに締め殺されるの
をじっと待つだけだ。いままで、こんな事はなかったのに、後悔とくやしさがクリ
スの脳裏にちらついた。
 「いあぁぁぁ・・・!!」
 マスクマンの腕にさらに力が入る。首の骨の軋む音がする。クリスは白目を剥き
出し、口から血の混じった唾液を流しながら泣き叫ぶ。
 「クリス!」
 部屋の入り口から聞きなれた言葉とともに、マスクマンの背中に数発のビームが
雨のように当たった。マスクマンの腕の力が弱まり、クリスはドサリとその場に倒
れた。
 「クリス逃げなさい!」
 声の主はラミーだ。そして、その後ろにはファラルもいた。しかし、クリスは立
てない。意識は遠くへ生きかけていた。ただ、涙だけが止まらず流れるだけ。
 「マスクマン・・・ あなた・・・」
 ファラルが不思議なものを見るように、マスクマンを見つめる。マスクマンも、
ファラルに気づき、ただ呆然としていた。
 「主任、何してるの!」
 ラミーは再び、マスクマンに向けてビームを撃つ。ビームはマスクマンを覆い、
その熱で煙が上がった。
 「やめて!」
 ファラルは、ラミーのビームサーベルにしがみつく。
 「ちょっと、何考えてんの!」
 ラミーはビームサーベルでファラルを押し倒す。
 「あんたどっちの味方なのよ!」
 その時、マスクマンはラミー目掛けてぶつかった。身長164センチの小柄なラ
ミーは大柄なマスクマンにはじき飛ばされるように倒れた。マスクマンはそのまま、
要塞の奥へと走り去る。
 「待ちなさい!」
 立ち上がり、逃げる後ろ姿へ向けてビームを撃とうとする。しかし、再びファラ
ルがそれを妨害する。
 「お願い、やめて」
 「主任! あんた何考えてんの。相手はチャイルドワンスの黒幕なのよ。」
 「・・・あたしが、・・・あたしがやる」
 ファラルはそう言うと、マスクマンを追い掛けた。
 「ちょっと、主任」
 「クリスをお願い」
 そう言って、要塞の奥へと消えた。ファラルはコントロールルームの冷たい床に
倒れるクリスの横へ膝を下ろした。
 「クリス」
 クリスは眠っていた。安らかに、蝋人形のように、すでに呼吸はしていなかった。

 ノーラ・ジーンはすでに脱出の準備を整えていた。ノーラの使命はただひとつ、
リーダーを守ることだ。
 「リーダーキュロット、準備整いました」
 そう言ってリーダー室へ入るノーラ。その一部始終をラジアンはじっと見ていた。
きっとリーダー格の人間と接触するだろうとふんでいたのだが、案の定リーダー室
が見つかった。ラジアンは天井を蛇の大群のように這うパイプの間に身をひそめな
がら舌嘗めずりをした。
 「リーダー、さっ、早く」
 身長の高いノーラ・ジーンに連れられて出てきたのは、かわいらしい少女だ。そ
の少女の姿をどこかで見たなぁと、ラジアンは頭を巡らせた。パイプに沿って2人
についていく。
 「ノーラ、わたしは悔しい」
 リーダーと呼ばれる少女がノーラに言った。
 「はい、しかし今回のところはお逃げください。第2ゲートにホバーを用意して
おります。リーダーキュロット」
 どうやら2人は逃げるらしい。そうはさせるかと、ラジアンはパイプから飛び出
し2人の前に降りた。
 「フゥゥゥ・・・!!」
 威嚇するラジアン。その姿は、かってテラで百獣の王といわれた猛獣そのもの。
 ノーラの左目に埋め込まれたカメラアイがキラリと光った。そして、もの凄い熱
量を持つレーザー光がラジアンを襲った。
 ラジアンはそれをヒラリとかわすと、ノーラの喉もと目掛けて飛び上がる。しか
し、ラジアンのそういった行動パターンはすでに読まれていた。ラジアンが床で飛
び上がる姿勢を見せたとたん、ノーラの右腕はすでに殴る体制に入っていた。
 「ギャン!」
 ノーラの右ストレートパンチをまともに食らって、ラジアンはクルクルまわりな
がら床に叩きつけられた。
 「あたしを他の連中と一緒に考えんじゃないよ!」
 ノーラの左目が再び輝き、倒れ込んだラジアン目掛けレーザーが発射される。漆
黒の毛皮のラジアンは、レーザーに焼かれ燃え上がる。
 「フギァァァ・・・」
 炎に包まれたラジアンの肉体が炭になるのにさほどの時間はかからなかった。

 ファラルはマスクマンを追いつめた。壁に背を向け、ファラルの顔をじっと見つ
めるマスクマン。
 「なぜだ、なぜ君がSAPAなんだ」
 「それはこっちが聞きたいわ。どうしてチャイルドワンスに手を貸すの。あなた
そんな人じゃなかった」
 「人は変わるものだ」
 「うそ。魂まで悪魔に売り渡したって言うの」
 「魔女の言葉とは思えんな」
 「わたしは魔女なんかじゃない。あなたと同じよ、ポール・ミルン」
 「そうか、同じか。なら、一緒に戦ってくれ」
 「なにバカな事言ってんの! ・・・今ならまだ間に合う。逃がしてあげるから、
だから、ケレスでおとなしくしていて。あたしも後で行く」
 「そんなこと、出来はしない。君はSAPAを裏切るというのか? 君にそんな
勇気はない。いや、君がやると言ってもエミリー・ファラが許しはしない」
 「ミネルバの事なんかどうでもいいわ。わたしは、あなたと戦いたくはない」
 マスクマンはハンドガンを抜いた。そして、ファラルに向ける。
 「ポール!」
 「所詮、君とは住む世界が違いすぎた。3000年前と何も変わっていない」
 「・・・やめてよ、あたしは・・・あたしは、あなたとは戦いたくない」
 ファラルは泣き崩れ、床に膝をついた。そのとき、要塞を凄まじい振動が襲う。
 「何、何が起こったの?」
 「神宮保安庁が来たんだ」
 「保安庁? なぜ?」
 振動が再び襲う。保安庁の巡視船が要塞を攻撃しているのだ。
 「行け! この要塞は破壊される。保安庁が来た時点でコア部隊の任務は終わっ
たはずだ」



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