#2347/5495 長編
★タイトル (CWJ ) 93/ 9/22 21:19 (125)
軍神の罠 −3− 作 うさぎ猫
★内容
「オナニーしてよ」
ジェームスはへらへら笑いながら、ラミーの身体を見つめる。
身長164センチ体重51キロ。バスト88、ウエスト59、ヒップ86。卵型
のきれいな輪郭に高い鼻。少し釣り上がった妖艶な目尻にコバルトブルーの瞳。長
い黒髪に透き通るような白い肌。まるで作り物の人形のような美しさには、たいて
いの男が虜になる。
「ガキが生意気言ってんじゃない」
ラミーは強気だ。実際に強いし、ストレートに思ったことを口に出す。そのあた
りが、同性にも人気がある理由だろうとラミーは思っていた。
「神官を殺してもいいのかよ!」
奥では闇の中、目をしっかり開け、青ざめて震えるザンルフがいた。
「へへへっ、裸になっていい声上げてりゃ、俺が相手してやる。ヒーヒー言わせ
てやるからよ」
ラミーはフンと鼻を鳴らすと、怪物のネバネバした液体で濡れたマントを脱いだ。
すぐに、上着のボタンに手を触る。ジェームスはじっとそれを見つめた。
「ウゥゥゥ・・・」
唸り声が聞こえる。その声を聞いたとき、ジェームスはハッと気づいた。
「待て、あの黒猫はどうした!?」
聞いた直後、ジェームスの頭上から黒い物が突進してきた。
「クワーッ!!」
血しぶきが上がる。頭蓋骨の砕ける音と大脳がつぶれる音。闇に支配された船の
牢室は真っ赤な血の海と化した。
「ラジアン、脱出するよ」
ザンルフの腕を掴み、身体を起こす。
「神官様、お助けに来ましたわ」
掴んでいる傷だらけの腕にわざと力を入れる。
「うあぁ!」
ザンルフが痛みで声を上げた。
「バカが。」
マスクマンはシートを立った。カタパルトのスイッチを入れ、脱出しようと船橋
を出る。そのとき、ザンルフを抱えたラミーと会った。
「あんたが黒幕ね」
ラミーはザンルフを無造作に放ると、ビームサーベルを構えた。
「おまえのようなザコを相手に出来るか」
マスクマンはそういうと、スッと左手を振った。ラミーの身体はバランスを失い
その場に倒れた。力が入らない。
「そんなバカな・・・ あんたはいったい」
マスクマンは無表情のまま、その場を去ろうとした。それをラジアンが追う。
「クワーッ!」
飛び掛かるラジアンだが、それはマスクマンの首まで数センチのところで止まっ
た。電気に感電したように、ラジアンは猛烈に身体を揺さぶられ床に落ちた。
「目障りな連中だ」
マスクマンの行く手の闇から、あの怪物が現れた。
「やつらを始末しろ」
そのとき、ひとひらの花びらが落ちて来た。そして、もうひとひら。花びらが少
しづつ落ち、それが舞い、人の形を造る。
「エミリー!?」
着物を羽織った清楚な美女。宇宙船のなかで違和感のある姿がラミーの前に立つ。
「ラミー、あの男はあなたでは無理よ」
「エミリー、どういうつもりよ。あんたの助けはいらないわ」
「そんな体でどうやって戦うつもり?」
ラミーは起き上がろうとした。しかし、目眩がして立てない。力も入らない。ま
るで魔法でも掛けられたようだ。
怪物がエミリーに触手を伸ばそうとする。そんな怪物を刺すような目つきで見る
エミリー・ファラ。
「おどきなさい!」
怪物はハッとしてエミリーを見た。
「聞こえなかったの? それともあたしの命令に逆らう気?」
怪物は改めてエミリーの顔を見て、何かに気付いたように震えはじめた。そして、
道を開ける。エミリーはゆっくりと、マスクマンのところまで歩いた。
「まさか、あなたが黒幕だったなんてね」
エミリーの問いにマスクマンは不信そうな顔で見た。
「30世紀も昔の軍神さん、あなたの時代は終わったのよ」
マスクマンは左手を振り上げる。それをエミリーは右手で掴んだ。
「無駄よ。あなたは私には勝てない」
必死にエミリーの右手をはがそうとするが、ぴくりとも動かない。それどころか、
少しずつ力が入っている。
「うぐぐぐ・・・」
エミリーの右手はどんどん締まっていく。マスクマンは痛みで苦痛の表情を浮か
べた。
「ふふっ、あまりいじめるとファラルに叱られるわね」
その言葉にマスクマンはハッとしてエミリーを見た。
「あたしはすべてを承知しているわ。ファラルは知らないでしょうけど。彼女が
知らない間に、また永眠につきなさい」
そのとき、黒猫ラジアンがガバッと起きた。頭をブルブル振っている。
「ラジアン、こっちへ来てあたしを支えて」
ラミーは呼ぶが、ラジアンは知らん顔で頭をブルブル振っている。普通なら、ラ
ミーの呼び掛けにはすぐ答えるのだが様子が変だ。
「フゥー!!」
ラジアンはダッと走るとエミリーにぶつかった。体長100センチもの肉の塊が
エミリーの背中に突進したのだ。マスクマンを掴んでいた右手の力が一瞬ゆるんだ。
「あっ!」
マスクマンはエミリーを突き飛ばし自由になると一気に走り、船内の闇へ消えた。
ラジアンはどうやら感電のショックから狂ったようだ。こんどは船内の機器を破壊
する。
「ラジアン!」
マスクマンの魔法から解けたラミーはラジアンを落ち着かせようとするが、狂っ
た黒猫は暴れまわり手がつけられない。
「ラジアン、いいかげんにしなさい!」
ラミーのサーベル光がレーザーとなってラジアンの鼻先をかすめる。
「ウニャニャ?」
ラジアンはハッと我に返った。キョトンとしてラミーを見る。そして、何事もな
かったかのように毛づくろいを始めた。
「まったく・・・」
ラミーが、毛づくろいを止めて大あくびをしているラジアンを捕まえようと一歩
踏み出したとき、船の底のほうでズズーンッという腹に響く音がした。ラジアンの
破壊活動で神宮保安庁の大型巡視船は崩れはじめているのだ。
ラミーは床の上で気を失っているザンルフを抱えると急いで甲板へ出る。エミリー
はいつの間にかいなくなっていた。
「ラジアン、船壊してどうすんのよ!」
ガラガラと船を構成してるパイプやフレームが崩れていく。振動とともに響く音。
壁のペンキが剥げ炎が上がる。爆発音。
ラミーは崩れ落ちる通路をただひたすらに走り飛行甲板に出た。そこには、ラミー
たちの黒いホバーが忠実に主人の帰りを待っていた。
ホバーに乗り込むとエンジンを始動。イオンエンジンの独特な音が響く。
「飛行甲板がくずれるぅー!」
ホバーはがらがらと崩れる飛行甲板とともに落ちる。
「エンジン始動!」
ドーンッという衝撃とともに飛び上がる。身体を圧迫するG。飛び上がったホバー
の足元で巡視船は爆発した。
「ふぅ、あぶない」
ラミーはため息をつくと、ホバーをヴィーナスレノアへ向けた。後部座席で伸び
ている神官を送り届けるために。
「本部へよってファラル主任とエミリーに今回のことを問いただしてやる」
マースに集結したチャイルドワンス。
そして、黒幕のマスクマン。
3000年前の戦いの亡霊が、ヴィーナスレノアを包もうとしている。
しかし、そのことに気付く者はまだいなかった。
SAPAシリーズエピソード2
軍 神 の 罠 END