#2315/5495 長編
★タイトル (WMH ) 93/ 8/26 4: 2 ( 61)
安らぐ[9]/有松乃栄
★内容
9
テレビは、クリスマス番組を映していた。
〈栗スマス饅頭をどうぞ。〉
〈焼肉屋、サンタクロース。〉
〈プレゼントは○○工務店で。〉
〈クリスマスにお墓参り、○★霊園。〉
〈イブは彼と二人きり、ゲームセンター▽▼▽。〉
〈食欲戦士チューカマン、サンタ危機一髪の巻。〉
〈クリスマス落語会、生中継。〉
〈クリスマスゴルフ巨人−阪神戦。〉
……紀美子は。
小学五年生の時でした。
私には、親友と呼べるとても仲のいい友達がいて、彼女は真っ直ぐ私のことを
見ていてくれました。
二学期の終業式の日、私は自分の家でクリスマスパーティーを開こうと、沢山
の友達を誘いました。
一週間も前から、色々なものを用意しておいて、パーティーの用意は万全で。
ケーキも、料理も、揃えてあって。
だけど、来てくれたのは彼女ただ一人でした。
みんな、別の友達の家のパーティーに呼ばれて行ってしまったのです。
私は、たった一粒だけ、こっそり涙を流してしまいました。誰にも見せずに。
その日彼女は、私の家に泊まっていってくれました。嬉しかったです。
この話は、今まで誰にも話したことはありません。もちろん、自分で振り返っ
たことも、それが事実だと認めたこともありません。まるで、自分の否のように
思えてならないのです。
「もしもし。もしもし。……あの。切らないで下さいね……。たぶん、今日で
十日目ですね。毎日、三時半。
どういうつもりなのか、私はわからないけど……、なんて言うのかな、うまく
伝えようがないけど、私はすごく迷惑してるし、おそらく、あなたも迷惑してる
んじゃないかと思うんです。自分で。
たぶんあなたは、私の顔も、正確な名前も知らなくて……、もし知っていたと
しても、今、私がどういう生活をしていて、どんなことを考えているか、わから
ないでしょ。
イヤなんです。
あなたは、一方的に私の家に電話をかけてきて、一言もしゃべらなくて。あな
たが本当に満足しているとは思えないし、もちろん、それは私には、本当にどう
でもいいことで。だけど、私は不満でたまらないんです。
あなたの不器用さは、まるで私の不器用さのようで。
イヤなんです。
私の名前は、及川紀美子です。それ以上、言う気はありません。
もし、今度またかけてくるのなら、私と対等の立場として、かけてきて下さい。
一市民としてでも、一人間としてでも。卑屈になることなく……。
………………黙って聞いていてくれて、ありがとうございます………………。
あの、私から……、電話、切らせてください。おやすみなさい」
遊代の家。
遊代の母も、祖父であるウガマ商店の社長も、もちろん遊代も。
眠っている。眠っている。
遊代の部屋の、白い机の、引き出しの中の、白い紙の上に、彼女の描いたサン
タクロースが。
眠っている。眠っている。
遊代の頭の中で、サンタクロースが、白いベッドの上に。
眠っている。眠っている。
もちろんトナカイも。
(つづく)