#2292/5495 長編
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近世大坂出版統制史序説(0) 夢幻亭衒学
★内容
近世大坂出版統制史序説(0) 夢幻亭衒学:Q-SAKU/MODE OF PEDANTIC
・はじめに・
大阪の本屋仲間を例に江戸期の出版統制を見ていきます。体裁は、歴史の論文
のフリをしていますが、大雑把なノンフィクションとでも思って戴ければ幸いで
す。前半は全体的な鳥瞰図を描いています。統制の制度の側面です。後半は、大
阪の出版統制事件の面白そうなものを取り上げます。まずマクロ、そいでもって
ミクロを見て、最後にマクロにフィードバックします。合い言葉は「日本人は昔
から日本人だった!」。
大阪府立中之島図書館編纂の「大坂本屋仲間記録 八、九巻」所収「差定帳」、
「鑑定録」、「裁定帳」と「大阪編年史」所収「大阪書籍商旧記類纂」、必要に
応じて、「徳川禁令考」などを使用します。
参考文献は宮武外骨の「筆禍史」、「江戸の出版資本」今田洋三(「江戸町人
の研究
三巻」西山松之助編 吉川弘文館 昭和五一所収)、「江戸の禁書」今田洋三
(シリーズ江戸選書 吉川弘文館 昭和六〇)、「歴史公論」(八五年四月号・
特集・江戸のマスメディア 雄山閣)、「出版事始め」諏訪春男(シリーズ江戸
毎日新聞社 昭和五三年)など。
ここで史料紹介をしておきます。「差定帳」とは、「仲間」(同業者組合)の
扱った訴訟等について規矩となるもの(重要判例など)が掲載されている「大坂
本屋仲間」の“公的文書”。「鑑定録」とは、「差定帳」から更に重要と思われ
るものを抜粋し編集しものです。「裁定帳」とは、規矩とはならないが証拠とは
なる程度の事件記録で「仲間」の参考資料のような性格をもっています。これら
も本文中で詳しく説明します。
なお「差定帳」、「裁定帳」は元文四(一七三九)年正月起筆し明治まで続く
のですが、大坂本屋仲間創設(享保一一/一七二六年)以前の古証文も写しおか
れています。「鑑定録」は天明四(一七八四)年起筆しましたが文化五(一八〇
八)年以降は白紙。ただし、文化五年以降も他二書の記述には登場するので、あ
るにはあったと思うんですが……。「大阪書籍商旧記類纂」は「大阪編年史」や
「筆禍史」には載っていますが、本物の所在は解りませんでした。よって孫引き
になります。
・「本屋仲間」以前の出版・
日本に於ける印刷の歴史は古く、孝謙天皇の宝亀元(七七〇)年に天皇の発願
によって作られた「百万塔陀羅尼」だったようです。以後、寺などで出版は行な
われましたが(「五山版」など)、「同人誌」的なものや美術工芸的なもの、教
育的なもの(「天草版」など)で、商売としての出版は、だいたい江戸に入って
からだったようです。
出版資本が最も早く成立したのは京都でした。ほぼ時を同じうして大坂でも成
長が始まったようです。江戸でも、ちょっと遅れて始まりますが、初めのうちは
京都や大坂の出張所程度のものでした。江戸の本屋が自立し、いわゆる「地本問
屋」(京や大坂の店の出張所ではなく「地元の本屋」)になるのは寛延年間だっ
たようです。また出版活動が飛躍的に発展したのは元禄期ですが、背景には庶民
の生活水準と識字率の向上があったのでしょう。
(つづく)