AWC 焦点  1         永山


        
#2244/5495 長編
★タイトル (AZA     )  93/ 7/30   9:32  (198)
焦点  1         永山
★内容
ルーペ ’92 九月号  −−目次−−
 犯人当て・問題編 「お似合い」          奥原丈巳
 エッセイ 「たかが本格されど……」        玉置三枝子
 明智クン登場? 「江戸川乱歩殺人事件」      香田利磨
 マジック種明し 「舞台裏からマジシャンを」    剣持絹夫
 アリバイ破り 「最初のアリバイ」         本山永矢
 今月のベストミステリー              奥原丈巳
 コンゲーム 「カモに白羽の矢を」         玉置三枝子
 犯人当て・解答編 「時森邸の殺人」        香田利磨

 執筆者の言葉&編集後記
 表紙・本文イラスト/木原真子


犯人当て お似合い     奥原丈巳
*登場人物             鬼馬村恵美子
鬼馬村武郎(きばむらたけお)    竹久保真理亜(たけくぼまりあ)
栗畑真夫(くりばたけまお)     神田俊彦(かんだとしひこ)
水島礼子(みずしまれいこ)     加藤夏美(かとうなつみ)
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 今回、作者の時間の都合により、本作はプロ作家A氏の某作品を原案として
います。ご了承下さい。
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 春、新しいクラスになってから、ずっと彼女のことが気になっていた。何故
だろう? そう考えて、彼女の横顔を、気付かれないようにじっと見つめたこ
ともあった。
 彼女−−竹久保真理亜は恵美子さんに似ているんだ。僕が好きだった、だけ
ど死んでしまった恵美子さんに。
 彼女と口をきいたことは、あまりない。自分は、男子女子の区別なく、話を
よくする方だと思う。その中で、竹久保とは比較的、会話が少ない。これには
訳がある。
 僕は彼女に対し、いい印象と悪い印象を、同時に抱いている。いい印象とは、
もちろん、彼女が恵美子さんに似ていること。性格は、どちらかと言えば落ち
着いた雰囲気の恵美子さんに対して、竹久保は華やかで活動的。だが、その姿、
特に髪をさわる仕草と笑顔がよく似ていた。恵美子さんがパーマをあててみた
ら、竹久保みたいな雰囲気になったに違いない。
 悪い印象も、彼女が恵美子さんに似ているからこそ、抱いているのかもしれ
ない。恵美子さんと違う振舞いを彼女が見せる度に、「ああ、そうじゃない。
そんなこと、恵美子さんはしないはず」と、僕は思ってしまう。かと言って、
あまり彼女と恵美子さんが似すぎていると、「やめてくれ!」と叫びたくなっ
てしまうのだ。
 僕の勝手な気持ちも知らず、彼女は笑う、話す、考える。そう感じていた。
だけど……。
 いつか、日直当番が一緒になったとき、朝早くに、彼女の方から話しかけて
きたことがあった。他には誰もいない教室で。
「ねえ、武郎君」
 クラスの友達はみんな、僕のことを武郎と呼ぶ。鬼馬村という名字では、何
となくつっかえるものがあるようだ。だから、下の名前で武郎。
「何?」
「私のこと、どう思う?」
 思いがけない質問だった。
「どう思うって」
「そのままの意味。少し前まで、よく私のこと見てたでしょ、武郎君」
 確かに、よく見つめていた。近頃は、意識してそうしないようにしていたの
だが。
「……」
「ごまかしても駄目よ。どう?」
 すぐ目の前に、彼女がいた。
「……何とも思っちゃいないよ」
「そう」
 こっちの苦し紛れの返答を、彼女は淡々と受け止める。
「ほんとに?」
「……」
 僕が何か答えなくてはと考えていたところへ、クラスメイトが数人、教室に
入って来た。それきり、会話は途絶えてしまった。
 僕自身、彼女のことが好きなのかどうなのか、はっきりしない。今でも−−
彼女がいなくなった今でも。

 一学期の後期試験も終わり、夏休みに、どこかへ泊まりがけで遊びに行きた
いということで、特に仲のいい三人で話していたときだ。
「どこか行くの?」
 竹久保が話しかけてきた。彼女の後ろには、もう二人、女子がいる。
 放課後の教室とは言え、人は多く、かなり騒がしい。それを聞きつけてくる
とは……。僕の想像が膨らむ。
「うん、遊べる内に遊ぼうと思ってね」
 神田俊彦が言った。一見、取っつきにくそうな印象を与える眼鏡の野郎だが、
勉強・運動ともよくできて、話も面白いから、人気がある、と思う。特に、女
子には。
「来年になると、遊んでなんかいられなくなるし。多分」
「神田君なら、遊んでられるんじゃないの?」
 ちょっと茶化し加減に言ったのは、加藤夏美という女子。何か忘れたが、運
動部に入っているために、短く切りそろえた髪。それがよく似合う顔立ちで、
性格の方も活発を絵に描いたよう、と男子の間ではされている。僕自身は、そ
んな固定したイメージで他人を捉えるのは好きじゃない。
「どうかなあ。それより、とりあえず、鹿児島の方を考えてるんだけど、一緒
に来てみる気、ない?」
 神田が言った。こいつが言うと、さまになる。
「えー、九州じゃない。お金、かかるんじゃないの?」
 肯定も否定もせず、竹久保が声を上げる。
「そりゃ、多少はさ、かかるだろうけど……。こういうチャンス、滅多にない
よ」
「そうよね。武郎君や栗畑君は、もう決めてるの?」
 竹久保が、こちらに話をふってきた。
「あ、うん」
 竹久保のこと、そして恵美子さんのことを考えていた僕は、短く返答するの
が精一杯だった。
 対照的に、栗畑真夫の方は、待ってましたとばかり、喋り始める。どこかお
笑い芸人みたいな雰囲気で、元からおしゃべりな男だから、当然だ。
「もちろんもちろん。中学んときから、この三人みんなで、よく遊びに行った
り、旅行に出たりしてるんだけど、計画するのはたいていが俺なんよ。武郎な
んかは、どっちか言うとあまり出歩きたがらないのを、無理矢理引っ張ってん
だから」
 余計なことを。憎めない三枚目顔をしてるんだが、お喋りが過ぎると憎める
かもな。
 それからも、ほとんど栗畑が喋り、鹿児島の名所案内をやってのけた。
「どうする?」
 と声に出した訳じゃないが、女子はお互いに見合わせ、目でそんな風な会話
をしている様子。
「行ってみたいけど、高校生だけ、それも男子と一緒の旅行なんて、両親が許
してくれないわ」
 ほとんど口を開いてなかった三人目の女子、水島礼子が言った。髪の長い彼
女は普段でも、多少は引っ込み思案のようなところがある。が、決して、性格
が暗いというのではない。何て言うか、殻が堅くて、その中へ行き来できれば、
よく話すんだと思う。それにしても彼女、竹久保や加藤と一緒だと、暗いと見
られがちで損だと思うが、余計な心配か。
「あ、そのことか。僕らの仲じゃ、当り前になってたから気が付かなかったけ
ど……」
 神田が、軽い笑みを浮かべつつ、視線を水島から栗畑に移した。栗畑が、言
葉を受け継ぐ。
「平気平気。向こうに行って泊まる場所なんだけど、俺の親父の実家。何かし
たくても、なーんもできやしないよ。残念ながら」
「え? 栗畑君、鹿児島なの?」
「そうそう。薩摩隼人でゴワス」
 とても薩摩弁とは思えぬアクセントで、栗畑はふざけた。そもそも、親父さ
んが鹿児島生まれなんだろうが。
「古めかしい家だけど、広さだけは保証付き。何人でも泊まれる」
「でも、家の人が、迷惑がらない?」
「ないない、そんなこと。おばあさんは優しいし、じいさまは厳しいとこもあ
るけど、賑やかなのが好きな性格だから、基本的に」
「それなら」
 女子は三人とも、乗り気になっているようだ。自分としても、それは結構な
んだが、ただ、竹久保が気になってしょうがない。
 その彼女が、水島に、何か目で合図したように見えた。それを契機に、水島
が言った。
「あの……。もし、行けることになったら、うちのお父さんに頼むといいと思
う。お父さん、旅行会社に勤めてるから……」
「へえ。じゃあさあ、ちょっとは安くしてもらえるかな」
 嬉しそうに、神田が笑った。

「あーあ、身体がばらばらになりそう」
 目的地の駅に到着目前のとき、竹久保が言った。そりゃそうだろう。二十一
時間も列車に揺られてやって来たんだ。慣れてる僕らだって、この寝台列車と
いうやつは好きになれない。
 見ると、眠れなかったと言っていた加藤や水島は、今頃になってうつらうつ
らしている。
「さあ、降りたり降りたり」
 午後三時過ぎ、駅に到着。
「思ったより、暑くないんだ。鹿児島でも」
 女子は、口々にそんなことを言った。僕らでも、初めて来たときは、そう思
ったけど。
「そんなもんだよ。日本の夏なんて、どこも同じ。さ、これからはバス」
 いい加減なことを口にしつつ、栗畑は先頭切ってバス停に向かう。
「どれくらいかかるの?」
 竹久保が聞いた。荷物を片手に、ちょっとしんどそう。特に顕著なのは、や
はり水島で、僕は荷物を持って上げた。
「値上がりしてなけりゃ、七百八十円だったかな」
「そうじゃなくて、栗畑君。時間はどれくらいかなって」
「あ? 時間ね。時間、時間は、と。四十分足らずと思っといて」
 この答に、うんざりした表情をした女子三人だった。
 結果から見れば、バスはいい昼寝場所となった。栗畑のおじいさんの家に着
く頃には、みんなすっきりしていたはずだ。
「よく来たねぇー」
 独特の抑揚を持つ鹿児島弁が、僕らを出迎えてくれた。腰の少し曲がり始め
たおばあさんが、嬉しさいっぱいといった笑顔で出て来てくれている。
「おばあちゃん」
 栗畑は「ちゃ」に第一アクセント、「あ」に第二アクセントを置いて、声を
張り上げる。
「一人? じいちゃんは?」
「知合いの結婚式に呼ばれてぇ、出て行ってる。二日くらい経たないと、帰っ
て来ないよ」
 二日くらいとは、大ざっぱなことだ。
「へえ。とにかく、友達の方、紹介するよ」
 栗畑は、順に僕らを紹介し始めた。僕と神田のことは知っているはずだが、
記憶が薄れているとこもあるようだから、改めての紹介だ。
「はい。分かりました。ゆっくりして行きなさいよ」
「お世話になります!」
 おばあさんの笑顔につられ、こちらも意識せずに、「爽やかな高校生」を演
じてしまう。まあ、悪いことじゃないだろう。

 家に上がってまずしたことは、部屋割り。畳敷の間ばかりが、たくさんあっ
て、まじに広い。一人一部屋を充てがうことになったのだが、それでも余裕が
ある。
 次は夕飯なんかの手伝いをしながら、家の造りを知ること。
「えー、水道がないの?」
 説明を聞いていた女子が、悲鳴に近い声を上げた。
「そうなんだ。三十メートルばかり離れたとこに、井戸があって、そこから汲
み上げて使ってる」
「へえ、飲んでみたい」
「いや、それはよしといた方がいいよ」
 面白そうに言った竹久保に、神田が忠告する。
「どうして?」
「生水だからね、やっぱり。身体に合わなかったら、お腹にくるんだな。最低
でも、沸騰させないと」
「とか言って、初めてここに来たとき、飲んでひいひい言ったんだからな、俊
は」
 栗畑がからかうように言った。

−続く




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