AWC 「傷心旅行」(5)        久作


        
#2217/5495 長編
★タイトル (ZBF     )  93/ 7/11   1:18  ( 93)
「傷心旅行」(5)        久作
★内容

「傷心旅行」(5)−鬼畜探偵・伊井暇幻シリーズ−   久作

     ●大団円(守山麻美)

 ふわぁぁぁあ、あん? 珍しいわね、衒学さんが朝から縁側に出てきてるなんて。
ん? また要蔵ちゃんの遺作読んでるんだ。何度読んだら気が済むのかしら。そん
なに傑作でもなかったと思うけど。
 「こんちゃー」誰かしら、まぁ人相の悪い人。庭から入ってくるなんて、泥棒?
 「あ、兄貴」え、ってぇことは暇幻さん。志摩里さんや衒学さんとは比ぶべきも
ない醜男。本当に兄弟かしら。小林君の愛人だから、シブい美青年と思ってたのに。
 「よっ、元気か。ん、その同人誌、俺も持ってるぞ。中元って子の追悼号だろ」
 「う、うん……」あら、衒学さん、元気ないわね。
 「相変わらずモテてんだな。このMさんって、お前だろ」
 「いや、それは……」
 「隠すなってば。解ってんだから。で、抱いたのか」
 「そっ、そんなっ」
 「据え膳食わぬオマエじゃないだろ」
 「だから、それが……」あ、衒学さん、何か隠してる。チャンと私には解るのよ。
女には直感ってのがあるんだから。
 「なんだよぉ。お前は両刀遣いだろ。それに俺は中元君が美少年って知ってんだ。
  コミケで一度、犯り損なったことがある。いやぁ女の子だと思って脱がしたら
  男の子だったもんでな、驚いてる隙に逃げられたんだ」やっぱり、あの黄金バ
ットもどきは、暇幻さんだったのね。
 「うるさいな。だから、犯ってないってばよ」あ、衒学さん、ムキになってる。
 「嘘こくなよぉ。やぁい、嘘つきぃー」小林君には悪いけど、暇幻さんってば、
馬鹿なのね。
 「馬鹿野郎っ、俺はその時、メリーとっ、……あ、あの、だから、中元君が訪ね
  てきた時、私は、あの、メリーと……」口ごもる衒学さん。
 「ええっ、メリーって衒学さんが飼ってる犬のメリー?」叫んじゃう私。
 「ははぁ、これで謎が解けた」子細らしく頷く暇幻さん。
 「何が」思わず訊いちゃう私。
 「だからさ、中元君の遺作には、これからも生きていくって書いてたろ。それが
  警察の捜査が迫ってきたワケでもないのに自殺した。動機が解らなかったんだ。
  今、解ったよ。こいつが全部、悪い」ビシリと衒学さんを指差す暇幻さん。唇
  を噛み締めうなだれる衒学さん。美形って、どんな表情しても美形なのよねぇ。
  衒学さんが女だったら、押し倒しちゃうのに。残念だなぁ。
 「くっくっく、中元君は衒学を慕って、衒学に抱かれたくて忍んできた。その時、
  こいつが何してたかっていうと、どうせ誰かの靴の臭いを嗅ぎながらだろうが、
  犬のメリーを犯ってたのさ。中元君の年頃は特にねぇ、恋人に、自分の理想を
  投影しちゃうんじゃないかなぁ、ショックだったろうなぁ。善と美の理念を投
  影した相手がフェティッシュ獣姦野郎だったんだよなぁ。残酷だよなぁ」暇幻
さんはチラチラ衒学さんに視線を流しながら嫌味ったらしい口調で喋る。固く目を
閉じ、ブルブルと打ち震える衒学さん。この人たちって、本当に兄弟かしら。あ、
衒学さん、涙ぐんでる。なんて愛しいお姿。もう、男でもイイわ。押し倒しちゃお。
誰だって欠点はあるものよ。この美しさの前には、男であることなんて些細な欠点
だわよね。うん。
 「うっくううっっ」あぁあ、泣きだしちゃった。可哀相。暇幻さんって、鬼畜の
ような人だわ。
 「くうっっ、うううっっ、…………タタリじゃ、タタリじゃー、
  タァタァリィじゃーー」あ、泣いてると思ってた衒学さん、ガバと顔を上げ立
ち上がると、踊り出した。暫らく踊った後、目を見開き、張り詰めた表情で喚きな
がらドタバタと駆け出して行った。残された私と暇幻さん、顔を見合わせ、
 「衒学さん、イッちゃいましたね」
 「なぁに晩メシには帰って来ますよ。変態だって腹は減るもんですから」ドッカ
リと縁側に腰を降ろす暇幻さん。
 「ところで暇幻さん、どうなさったんですか。今日は突然……」
 「いえね、そろそろ小林を引き取ろうと思って」
 「えぇー、小林君、もう帰っちゃうんですかぁ」本当に残念、まだ犯ってないっ
てのに。狙ってたのにぃ。
 「ははは、仲良くなったみたいですね。結構、結構。ま、宇和島にも遊びにおい
  でなさい」
 「えぇ、是非」本当に行っちゃうからね。ふっふっふ。

     ●エピローグ(小林純)

 昼下がりの予土線、単線無電化、一両編成。木立ちが民家が山が流れていく。四
万十川が、せわしい小波を立てて流れている。今度の事件は後味が悪い。可哀相な
中元君。でも、殺さなくたって。死ななくたって。こんなに自然はノホホンと流れ
ているっていうのに。気持ちは解るけどさ。知らぬ間に、ため息が洩れちゃう。隣
に向けた背中の温かさに気付く。窓ガラスに先生の優しげな目が映ってる。僕を心
配そうに見下ろしてる。もう大丈夫だってば。僕だって子供じゃないんだから。…
…でも、もう少しだけ、心配させてやろ。

 久々の事務所、ボロっちくても、やっぱり我が家、懐かしいなぁ。ドアを開ける。
絶句する僕と先生。
 「はあっはあっ、こっ小林くぅぅん」
 「あああっっ、美貴さぁん」
 美貴さんが僕(?)の上に跨って激しく腰を遣ってる。どう見ても、押し倒され
ているのは僕。ただ一点違うとすれば、チャンとペニスが付いてるところ。そのペ
ニスが、それを銜え込んでいる美貴さんの腰の上下する度に、見え隠れしてる。呆
然と立ち尽くす僕と先生に、今ごろ気付く二人。
 「あ、あら、早かったのね」慌ててワンピースで胸を隠す美貴さん。
 「ぼ、僕のセイじゃないよ。美貴さんがペニスを付けた小林君を妄想しながら、
  僕を押し倒したから、僕……」
 「だ、だから、前からアタシ、小林君が本当の男の子だったらイイなって……」
アタフタする美貴さん。酷いよ、僕、美貴さんのこと本当のお姉さんみたく想って
たのに、優しそうな顔して、コッソリ肉体を狙ってたんだね。酷いよ、裏切るなん
て、裏切るなんて、だから、だから……、
 「バッカヤロォォォ、大人なんてデェッキレェェダァァーー」僕は思いっきり叫
んで夕焼けの街へと駆け出した。もう、帰ってくるもんか!

(了)




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