#2082/5495 長編
★タイトル (AJC ) 93/ 4/29 4: 7 (197)
冒険学校を作るのが夢だった 1 木村ガラン
★内容
虫歯ってイヤだよね。だけど、ビールの栓を抜けるほど丈夫だったおいらの歯も
虫食いになってしまったんだ。この歯はもう二度ともとに戻らないんだなー。どん
なうまく治療しても、もとどおりって訳にはいかないんだなー。
どうして人間の歯は融通がきかないのだろう。人間の歯もさ、ジョーズみたいに
沢山生えてくればいいのに。あるいは、ビーバーみたいに無限にのび続ければいい
のに。神様はもう少し考えてくれてもよかったと思うよ。 フンフン まあ、他の動
物は歯がなくなると死んじゃうのが多いらしいけど。なんかなあ。
だいたい、永久歯に生え変わるのが早すぎるな。ちゃんとした大人になってから
、生え変わるようになってればいいのにさ。なんともないままで、最初の歯が抜け
ちゃうなんてもったいないよ。おいらたちにもうワンチャンスくれればいいのに。
さんざん使ってぼろぼろになってから、
グッ じゃあ、しかたがないなあ
なんて言いながら、新しい歯が生えてくるようになってればいいのに。
ミシシッ 今度はうまくやるんだぞ
ってね。うん。おいらが悪かったよ。今度は大切にするからね。
とにかくなってしまってものは仕方ないけど。おいらは現実をしっかりと見つめ
て冷静に対処しなくちゃな。雅子さんは小声でおいらに囁やいたんだよな。久しぶ
りにみんなに会えてはしゃいでいたおいらは、大きく口を開けて馬鹿みたいに大笑
いをしていたんだ。雅子さんも楽しそうにしてた。でも、ちょっと二人っきりにな
った時、彼女は小さく眉をひそめて言ったのさ。「ルルンさん虫歯よ。早く歯医者
にいったほうがいいわ」 スッ おいらは半笑いのまますぐ答えた。「あっそうか。
いしゃしゃ」 アハッ 意味はなかった。ギャグにもなっていなかった。「そうよね
」雅子さんは微笑したつもりのようだった。そして、みんなのところにトレイに飲
み物を乗せて戻ったのさ。そして、なにもなかったようにふるまった。実際にたい
したことはなにもなかったから。たかが虫歯じゃないか。どってことない話だよね
。
もう虫歯になんかならないぞ。治療してきた歯を鏡で見ながら固く決心する。そ
もそも歯垢が白いのはよくないよな。歯も白いから、歯垢が取れたかどうかよく分
からないんだ。 クックッ 今回だって毎日ちゃんと研いてたのに虫歯になってしまっ
たもんな。
歯磨き粉なんかじゃダメなんだ。デンタルリンスでもまだ甘い。だからおいらは
ウエムラ液で研こう。そうだそうだそれがいい。硫酸よりも強烈で、塩酸よりもし
ょっぱいのさ。なにしろぽよよん液は、濃い酸を含んだエイリアンの体液から抽出
されたものらしいからね。グッドアイディア。おいらってやっぱり頭いいや。 フフ
ンッ 早速そうしよう。善は急げだ。急いでやろう今やろう。 フフッ こんなことも
あろうかと学校の研究室から一瓶盗んでおいたんだ。おいらって用意周到だ。
プラスチックの歯ブラシじゃ溶けちゃうから、ワイヤーブラシを使おう。歯医者
からの帰り道引き返して買ってきたんだ。これは鉄錆を落とすのなんかに使う丈夫
なブラシだってさ。落合ホームセンターに一本六百円で売ってるんだ。これで虫歯
とおさらばできるんだから、とても安いぜ。まだ沢山あったから君も買いなよ。出
光のガソリンスタンドの脇の道を入ってけばすぐだよ。では研こうっと。まずこの
特濃ウエムラ液を口に含んでぇ、ムガァムグッ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
グモッ 快調快調。うん。もう少しいっとこうかな。
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
うんうん。グシュシュ 念のためにもう少しいこ。グシュグシャ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
グショーボタタッ うーんきれいになった。これでもう二度と歯垢がつくことはないん
のだ。おいらってとっても清潔だ。歯もきれいに溶けちゃったもんね。 ウフッ な
にもかも溶けちゃったよ。はじめから分かってたんだ。おいらは馬鹿じゃないんだ
。歯根も溶けたよ。顎の骨も溶けたよ。顎そのものがなくなっちゃったよ。おいら
の頭は下半分がなくなっちゃったのよ。
こうなることは分かってたんだ。うん。こうして鏡に写してみると、 ススッ 首
が丸出しになって、なんかのびた感じだ。首が長い男ってかっこいいよね。ヘヘッ う
んうん。いかにも女の子に好かれそうな感じだ。やぎの首みたいにほっそりしてる
なあ。
顎がなくたっていいんだ。そう。物を食べるのは少し不自由かもしれないけど、
どってことないぜ。ジュースとカロリーメイトで暮らせばいいじゃん。いいんだ。
そんなことは重要じゃない。そんなことを気にするやつは心が狭いとおいらは思う
んだ。もしかして清潔なおいらにジェラシーしてるのかな。うん。 コクリッ グキッ
イタタッ。いかんいかん。頷くと思いっきり下を向いてしまうな。うっかり頷いて
首の筋をどうにかしちゃったぞ。 クキックキッ
おいらは自分の言葉にいちいち頷く癖があるから、少し注意しなくちゃ。まあ、
これも大したことではないけど。 クキックキッ とにかく前向きにいきましょ。まだま
だおいらの人生、先は長いからね。
さっぱりしたから気分がいいな。 ラララン なんだかとってもいい気持ちだ。なに
しろおいらは悩みがなくなったんだもんね。歌を歌おう。うん。陽気な歌を歌おう
っと。
もひゃひゃひゃん もひゃひゃひゃん うひゃひゃひゃーひゃーひゃーひゃー
もひゃひゃひゃん ひゃひゃひゃん ひゃひゃひゃーひゃーひゃーひゃーひゃー
もひゃーひゃー ひゃーひゃーも もひょひーもひょもひょもひょーひょひょ
ひゃもひゃひゃひゃん もひゃひゃひゃん うひゃひゃひゃーひゃーひゃーひゃ
やー爽快爽快。歌を歌うってほんとにいいもんだ。
もひゃひゃひゃん もひゃひゃひゃん うひゃひゃひゃーひゃーひゃーひゃー
もひゃひゃひゃん ひゃひゃひゃん ひゃひゃひゃーひゃーひゃーひゃーひゃー
もひゃーひゃー ひゃーひゃーも もひょひーもひょもひょもひょーひょひょ
ひゃもひゃひゃひゃん もひゃひゃひゃん うひゃひゃひゃーひゃーひゃーひゃ
もひゃひゃひゃん ひゃひゃひゃん ひゃひゃひゃーひゃーひゃーひゃーひゃー
もひゃーひゃー ひゃーひゃーも もひょひーもひょもひょもひょーひょ ひょ
ひゃもひゃひゃひゃん もひゃひゃひゃん うひゃひゃひゃーひゃーひゃーひゃ
もひゃひゃひゃん ひゃひゃひゃん ひゃひゃひゃーひゃーひゃーひゃーひゃー
もひゃーひゃー ひゃーひゃーも もひょひーもひょもひょもひょーひょひょ
ってなもんでね。「ララル」の歌をらららんって歌ったんだけど。ちょっとうま
くいかなかったかな。まあいいや。大した違いはないな。それにしてもおいらは今
、とても気持ちがいいなあ。こんなに晴れ晴れとした気分は久しぶりだよ。とにか
くこれからもおいらはがんばろっと。ちょっと自分に気合いを入れようかな。ファ
イトォー!
ひゃひひょー!
さてとテレビでも見ようかな。今日もまだお正月のはずだから、おいらの大好き
なお笑い番組も沢山やってるんだ。 ゴソゴソ あれっ。リモコンはどこかな。部屋
は散らかってるから捜し物は大変なんだよな。 ゴソゴソソ ここかな。 クチッ あ、
これは違う。これはおいらの左足だ。 ゴソゴソソソ ムチャ あいや。私のリモコン溶
けてるあるよ。ぽよよん液こぼれてたあるよ。まあいいや。リモコンがなくてもテ
レビは見られるもんな。よいしょ。 プチッ リモコンなんて本当は必要ないものなん
だよね。あっ植村直巳の特集をしてるなあ。ふーん、そうかあ。彼ってそんな人だ
ったんだなあ。分かる気がするなあ。だいたい見た目もそんな感じだったもんなあ
。冒険家って顔じゃないもんなあ。関口宏ってよくテレビ出てるな。やっぱり対人
関係を苦手にしてたんだ。社会でうまくいかない反動で思いっきり山に登ったり、
北極を横断しちゃったりしたんだなあ。 ムズ ふーん、引退したら、冒険学校をつ
くって子供たちを育てたかったんだ。叶えさせてあげたかったなあ。 ムズムズムズズ
あれ、今度は頭が痒くなってきたぞ。 ムズズズズ まいったなあ。
そうなんだ。おいらはフケ症でもあったんだ。フケ。 サッサッ なしね。黒い服で
も安心だわ。フケってほんとに不潔な感じがするよね。だから、おいらは断じてフ
ケ症なんかであってはいけないと思うんだ。石田ユリ子さんも眉をひそめてるよ。
恥ずかしいことだよね。おいらは毎晩二回ずつシャンプーしてるんだ。だけどだめ
だったんだ。
でも、もうおいらは大丈夫なんだ。 ハハハ おいらには魔法の薬があるんだ。ウエ
ムラ液は過去を消してくれる素敵な薬だ。まだ五分の四は残ってる。 チャブンチャプン
じゃ、早速シャンプーしましょ。ラララン 目にしみると嫌だからシャンプーハットを
したいけど、プラスチック のハットは溶けちゃいそうだから我慢しよう。それにコ
ンビニに売ってるとは思えないし。なあに、しっかり目を閉じてれば大丈夫だよな
。では、ジョボジョボ はい、
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
うんうん、かいちょー。
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
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おいらは清潔な人間なのだ。ぽよん。
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だから、みんなおいらのこと嫌いにならないでね。
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