長編 #2503の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(結局出されなかった手紙) 愛子へ 僕が日に日に廃人になりつつあること知ってるかい? 2度目の留年は僕の不眠を更にひどくし、僕はもうお酒なしでは眠れなくなった。 そして中二の頃のように夜の2時半ぐらいになると驚いて起き出すようになってしま った。 もし愛子が長崎に残っていてくれたのなら僕は今こんなに苦しまなければならない ようにはならなかったのにと思うと残念でたまりません。僕は今、愛子がうらめしい 気持ちでいっぱいです。 夜眠れない辛さは僕を発狂の渦の中へと巻き込んでしまいそうです。夜いつも2時 半ごろ目が醒め、それから4時半または5時半ごろまで眠れません。きっとそのころ 愛子は気持ち良く福岡の寮のなかで眠っているのだろうなあ、と思うと、長崎は地獄 で福岡は天国のような錯覚も湧いてきます。そして現役のとき、また浪人のとき、九 医に入っていたならという口惜しさとともに。 そして僕は空が白々と明けてきた頃ふたたび眠りに就いています。悔しさと淋しさ で心をもみくちゃにしながら。 あの日、僕が愛子への誕生日のプレゼントを手に持って、浜ノ町のベスト電器へと 行ったとき、僕は愛子に似たちょっとポッチャリしたまだ高校を卒業したばかりのよ うな女の子に尋ねた。するとその女の子は愛子が福岡勤務になったことを悲しげに伝 えた。そしてその女の子が福岡の愛子にすぐ電話したのだろう。2日後の4月5日の 夜、愛子から寂しげな電話が掛かってきた。僕は吃り吃り喋ってほとんど話をできな かった。 愛子のその寂しげな電話ののち僕は受話器を握りしめながら立ちつくした。黙った まま立ちつくした。悲しみに耐えながら、いつもいつもの悲しみに耐えながら。 心をいつものように打ち震わせながら耐えていた。悲しみに耐えるのには強い僕だ った。 夜はだんだんと更けてゆき僕は親子電話になっている僕の部屋の黒電話の前でずっ と畳に手をついて俯き続けた。 (春だから) 春だから、君の所へ飛んでゆこう。春だから愛子の所へ飛んでゆこう。 (汽車の中で、愛子は) 春なのに、悲しみの風が吹いてきて、長崎から博多発の急行列車の上に、桜の花び らが、僕の涙のように落ちていっていた。そして愛子は、いつも明るすぎるほど元気 な愛子は、泣いていた。しくしくと春なのに、泣いていた。明るすぎる春なのに。 そして僕は博多へ向けて走ってゆく愛子を乗せた汽車を、護国神社の丘からずっと 見送っていた。 愛子を乗せた電車はもう帰って来ない。 僕は護国神社のベンチに座って俯きながら愛子と出会ってからのこの2年間の日々 をとてももの哀しく振り返っていた。2年間、僕らはいつもすれ違ってばかりでろく につき合えなかったけれど、愛子が卒業してからは僕らは毎日のように会ったりする ことができるようになれるような気がしていたのに。 でも、愛子は福岡で僕と離れて楽しいOL生活を送ってくれればいいなあ、と思っ ていた。愛子が幸せになってくれるなら、そうしたら僕の心も軽くなり罪悪感も薄れ てゆくのだけれど。 愛子が幸せに福岡でOL生活を送ってくれるなら僕は心配しないのだけど。きっと 明るく活発な愛子のことだからきっと楽しく福岡でOL生活を送るだろうと思ってい た。 帰っておいで、愛子。桜の花びらと一緒に福岡に行ってしまった愛子。帰っておい で。帰っておいで。そうして僕を慰めてくれ。愛子の元気いっぱいの明るさで、落ち 込んでいる僕を慰めてくれ。 愛子へ 桜の花とともに福岡に行ってしまった愛子。戻っておいで。戻っておいで。そして 淋しくて落ち込んでいる僕を救っておくれ。 僕は愛子が燕のように長崎に舞い戻って来てくれないかなと、または僕の家が以前 飼ってた文鳥のように戻ってきてくれないかなと、窓の外ばかりを見つめています。 僕の部屋の窓に愛子が小鳥になって飛び込んできてくれないかな?と夢のようなこ とばかり考えています。 学一留年期間中 4月 家にて (結局出さなかった手紙) 愛子へ。僕は落ち込み果てて何もする気が湧きません。もう一回解剖実習をしなけ ればいけないと言うし愛子は福岡へ行ったと言うし。 愛子。僕は落ち込み果ててコタツの中でずっと午前中を過ごしていました。 明日から解剖実習が始まります。僕は幽霊になって愛子の傍に…明るく福岡のベス ト電器でお客と応対している愛子の傍に…居たいなあ、という気持ちでいっぱいです 。そうしたら楽しいだろうなあ、と思います。 愛子の傍で何も喋らなくてもいいから時間を過ごしたいなあ、という気持ちです。 (途中、逸損) 愛子へ 僕は廃人になりました。2度目の留年をして僕はもはや廃人になりました。 愛子。 僕は灰になって長崎でひらひらと春風に吹かれて飛んでいる。愛子の居ない長崎で 。淋しい空で。 僕は一人ぼっちで飛んでいる。でもやがて僕は福岡へと飛んでゆこう。途中で疲れ て、疲れつきて、佐賀の辺りでおっこちてしまうような気もするけれど。 生きる。僕は生きる。愛子がいなくても。一人でも僕は生きる。 僕はそう思った。窓を開け外を見た。創価学会に戻ろうかとも思った。淋しさにや はり僕はやりきれない気がした。 愛子。愛子のいないこの長崎で生きてゆくのは辛いことです。長崎では“空を見上 げても一人”という変な言葉を空を見上げるときに思い出す変な僕です。 でも本当に長崎では空を見上げても一人です。寂しい空が僕を覆っています。あま りにも寂しすぎるようです。でもこの寂しさに耐えなければいけないと思っています 。 愛子は福岡に旅立ち、僕はこの長崎に一人淋しく残された。誰か愛子に代わる女の 子が、この丘を飛んでいる燕のように、春になって暖かくなった空を燕となって、現 れてくれないかなあ、 僕は浦上川の方を眺めながらそう思っている。 愛子はツバメと交代に長崎から去っていって、僕は思い出のこの丘にただ一人取り 残されている。愛子が楽しいOL生活を送ってくれることを、僕はただそれだけを願 っている。幸せであれよ、愛子。幸せになれよ。今まで苦しかった辛かったかもしれ ないけど、これからは幸せであれよ。楽しい幸せなOL生活を送れよ。 春なのに、愛子は福岡に一人、僕は長崎に一人、福岡の空も長崎の空も青く染まっ ていて同じようだけど、僕らはお互い別々にその空を見つめている。僕も愛子も孤独 な心を胸に秘めて、4月の空を見つめている。 春なのに、悲しみの風が吹いてきて、僕と愛子を悲しみでいっぱいにしてしまう。 こんなに明るい春なのに。 春なのに、悲しみの風が吹いてきて、その風に僕は包まれて、愛子、僕は発狂しそ うだ。 人生には出会いと別れがあるというように、僕らも出会って2年して別れることに なった。でも愛子、僕が早く卒業して医者になったら愛子の住んでる福岡まで行くか らね。早く卒業して、もう留年なんかしなくて。 福岡の空は青い空。僕と愛子の恋を溶かし込んでゆく青い空。 僕は長崎から、遥かな北東の方角の福岡の空を一人ポツンと眺め遣ってるけど、一 人でポツンと眺め遣ってるけど、愛子は今頃仕事に夢中なんだろうなあと思う。新入 社員で大変なんだろうな、と思う。
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