長編 #2491の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
職員はちょっと驚いた顔になって、部屋から出て行った。 「あんなこと言って、勝算はあるんですか?」 真子が言った。不安そうな顔。 「あー、あれは出まかせ」 高野君はあっさりと言ってくれる。でも、あたしは別に驚きはしない。相手 を追い返すためだけのために言ったようなだと思ってたから。 「でも、何とかしないと、いけなくなりましたよ」 とか言いながら、ちっとも焦っているように見えないのは本山。こんなとき でも、相変わらずである。 「心配ないわ。私が期限を指定したから、私が責任を取る」 「副部長さん、ほんまに大丈夫ですか? 言い出したのは自分やし」 ミエが言い切ったのに、高野君は心配そうに横から口を出した。 「大丈夫。ちょっとは勝算があるの。だからこそ、あそこまで言えたんだけど」 と言って、ミエは何故か、あたしの方を見た。何の意味だろう? 「早いとこクッキーを作りたいから、さっさと片付けるわよ。まず、みんなに 質問。この間できた会誌の最新号、誰かにもう配った人、いる?」 ミエの質問に、皆は首を横に振った。チェックするまでもない、会誌は山と なって、部室の棚に積んである。 「誰も渡していない、と。次、現場で見つかったこの原稿、プリンター室に忘 れたのは間違いない?」 「多分ね」 あたしが答える。 「あのときは綴じるのに忙しくて、部室に戻って来てからは元の原稿は見てい ないけど」 「部室に持って帰った後、誰かが持ち出したり、泥棒が盗んで行ったりなんて ことはなかったわね?」 「そのはずだけど」 「じゃあ、この原稿を手に入れるのは、リマ達の後にプリンター室に入ったら、 誰にでもできる可能性はある。そうなるわね」 ミエがあたしの方を見る。うなずくあたし。 「原稿を盗んだのがB4用紙を盗んだ犯人だと考えるのは、極普通よね。プリ ンター室に置き忘れた原稿が、勝手に隣の部屋に紛れ込むなんてことはあり得 ないんだから」 「でも」 剣持が手を挙げた。 「逆に、盗みに入った先でそんな原稿を置き忘れるなんてことも、考えにくい んじゃないんですか? 少なくとも僕ら推理研なら、そんなことはしない」 「そうでしょうね。だから、考えてみたの。犯人は原稿をわざと置いて行った と考えるべきじゃないかって」 「わざと?」 「理由はもちろん、私達推理研に疑いを向けさせるため。犯人自身には疑いが 向かないようにね」 「それだけで犯人が見つかるかしら?」 と真子。ミエは軽く微笑してみせた。 「まだよ。ちょっと記憶しておいてほしいんだけど、犯人は自分が疑われない ようにという意味以上に、推理研そのものに恨みがあったんじゃないかしら? まあ、恨みは大げさで、推理研の存在を快く思っていない人……」 推理研の存在を快く思っていない人って、誰がいるだろう? あたしは色々 と想像してみた。過去にいくつかの殺人事件に関わっているから、そのつなが りかしら……。でも、この大学にそのときの関係者が来るなんて、考えにくい。 「ここで視点を変えるわね。原稿の内容が漏れた可能性は、他にないかってこ となんだけど。さっき確かめたように、私達の誰も会誌を持ち出していない。 念のため、内容を部外者に喋った人はいる? 現場にあったこの原稿について、 だけど」 問題の原稿を指し示しながら、ミエは言った。 「誰もいないみたいだ」 高野君が場の雰囲気で判断した。 「では、他にこの内容を知ることができる人、いるかしら? もちろん、さっ きの職員は除いて」 「プリンター室の係の人がいるんじゃない?」 あたしは思い付きを述べた。 「あの人なら、原稿のチェックをするから、そのときに」 「あ、それがあったんだわ。でも、チェックと言ったって、全ての中身をじっ くりと読むんじゃないでしょう? ぱらぱらとめくって、学園祭に関係のない、 例えば過去のテスト問題がコピーされていないかなんてことを調べるだけよね、 確か」 「そりゃそうだけど」 「だったら問題ないわ。ここまで来たら、リマ、あなたにも分かっているはず なんだけど」 と、ミエは三度、あたしを見た。 「え? どういうこと?」 「気付いていないかなあ。犯人は恐らく、あの国文学概論の助教授よ」 「え?」 訳が分からない。それは他の部員も同じらしく、すぐに疑問の声が。 「どうしてですか?」 「実はね」 ミエは、この間の国文学概論の最中、あたし達が注意されたときのことを説 明し始めた。 「……で、『先輩に奥原ってのがいるな。原稿も出せないほど苦労しているら しいが、就職はどうなっている?』みたいなことを、その先生が言ったのよ。 そのとき引っかかったから記憶していたんだけど、リマは覚えているかしら?」 「ええ。何となく、覚えているわ」 「これっておかしくない? あの先生が、奥原先輩が就職に苦戦しているのを 知っていても不思議じゃない。でも、原稿も出せないほどっていうのは、どこ から聞き込んだのかしらね」 あ! あたしはようやく、ミエの言いたいことが分かった。あの先生は、奥 原先輩が今度の会誌に原稿を出していないことを知っていた。現場にあった原 稿を除いたら、会誌の内容はどこにも漏れていない。これで、必然的に……。 「でも、動機は? 紙がほしかったんじゃないんでしょうし」 「だから言ったでしょう。推理研の存在を疎ましく思っているから。あの先生 は国文学が専門だけど、最近の学生はミステリーとかファンタジーばかりで、 古典や純文学はほとんど読まない。推理研なんて部に入っている連中もいる。 こんな風に思っていた矢先、プリンター室に用があって行ってみたら、たま たま推理研の物らしい原稿が手に入った。これを使って、あいつらを窮地に陥 れることはできないか。とっさに思い付いたのが、隣から用紙を盗み出し、代 わりに原稿を置いて行くということ。そんなところじゃないかな」 なるほど。動機の方も完璧。 そうか、もしかしたらあの助教授め。あたし達が推理研だと知っていたから、 ずっと目を光らせていたのね。それであのとき、わざわざあたし達を注意した んだ。でも、そこで調子に乗って、余計なおしゃべりまでしてしまったのが、 失敗だったわね。お気の毒と言うかおっちょこちょいと言うか……。 「確かめに行くんですか?」 と、本山。あっさりと解決しちゃって、気抜けしたようね。 「もちろん。でも、私とリマの二人でね。うまくすれば、『優』をもらえるか もしれないから」 ミエはそう言って、ウインクしてみせた。そういう考え方もあったか。 優かどうか分からないけど、国文学概論の単位の確保はできた。 あの後、例の助教授のところへ詰問に行ったら、最初は言いがかりだ何だと、 言うのよね。あたし達が論理的に話しても、認めようとしない。 「奥原君が原稿を出せないって、僕が口にした証拠でもあるのか」 こんなことさえ言うんだから呆れちゃう。でもまあ、実際、物的証拠はない。 ちょっと困ったなと思っていたら、ミエが言った。 「そのお言葉、取り消すんなら今ですよ」 「何だと?」 「よく考えてください。先生の講義は受講者が多く、中にはテープレコーダー を置くだけの人もいますよね。後で再生し、勉強するつもりなんでしょうけど」 ここまでミエが言ったら、目の前の助教授、急に態度が変わった。 「分かった。すまん、認める」 平身低頭って、正にこのこと。こんな先生でも、国語の勉強にはなったかな。 で、用紙盗難の件は、あたし達の方も真実には目をつぶり、全てはこの先生 が緊急の必要があって借用したってことで収めるという話にまとまった。 もう、この件は落着。まあ、事件の顛末を伝えたときの、あの嫌なおじさん 職員の驚いた顔も見物だったけど。 それより、今日からいよいよ学園祭! 張り切って参りましょう。最後の下 準備に忙しい、忙しい。暇そうにしてる友達のきよちゃんや細山君も手伝わせ てやれ。 あ、向こうから来るのは、奥原先輩? 就職、やっと決まったのかしら? −終−
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