長編 #2488の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
エッセイ 「たかが本格されど……」 玉置三枝子 最初に、「りぃだぁずぼいす」にあるZ・O氏の意見に答えておく。筆者は 本格の復権が錯覚だとは思わないし、推理出版の本流がスケールの大きいサス ペンス物に限られているとも思えない。もし仮に、氏の言う通りだとしても、 ミステリーの血液たる本格が消えてしまえば、推理文壇そのものが衰退すると いう考えを持つことは何の抵触もないはずだ。私に言わせれば、氏は「推理小 説」の「小説」の方に比重を置きすぎている。その読み方までは否定しないが、 世の中には「推理」の方にも重きを置こうとする人達がたくさんいることを認 識してもらいたい。 さて、ここからが本文。第一回目のエッセイにおいて、本格作品のあら捜し をすると筆者は宣言した。だが、それは中途半端なままに終わっていると、あ ちこちから指摘を受けた。それは認めよう。ある程度、わざとあら捜しを避け ていたのだから。 自分から宣言しておきながら、何故、そんなことをしたのか? 理由は、本 誌掲載の「今月のベストミステリー」にある。奥原氏との連絡がうまく取れず、 ひいては、「ベストミステリーで紹介されている作品のあら捜しをしてしまう ような事態は避けねばならない」と考える筆者としては、むやみにあら捜しを することを控えていた訳である。 だが、目次をご覧になればお分かりのように、今号は奥原氏でなく、同回生 の香田利磨が「今月のベストミステリー」を書く。これを利用しない手はない ということで綿密に連絡を取り、作家を選べた。今までのやれなかった分もと ばかり、あら捜しをさせていただく。 今回、俎上に乗せることにしたのは法月綸太郎。「密閉教室」で鮮烈なデビ ューを飾ったとされる彼は、その第二作からエラリークィーンばりに作者と同 じ名前を持つ名探偵を登場させた。設定もエラリークィーン物と酷似している 点がある。真似すること、それは構わない。エラリークィーンの足跡を追おう としていいる意気込みが、充分に伝わって来るから、それは構わないのだ。 ただ、彼はあまりに急ぎ過ぎではないか。第二作「雪密室」で読者への挑戦 という試みを見せたのだから、それでしばらく押し通すのかと思っていたら、 続く「誰彼」「頼子のために」「ふたたび赤い悪夢」では、一転して名探偵を 痛めつける展開の物語を披露してくれた。これでは読者がついていけないので はないか。エラリークィーンに追い付きたいのは分かる。だが、そんなに先を 急ぐ(死に急ぐ?)ことはないと思う。仮に、近い将来、作者がテーマとして 捉えているらしい「名探偵の存在とは何か?」について、はっきりと示すこと ができたとしても、どこか虚しくなるに違いない。そう危惧する。 エラリークィーンは、読者への挑戦型のミステリーを膨大に残したからこそ、 その後、名探偵に対する疑問が湧き、苦闘を続けた。そのバックボーンを省略 して、いきなり苦悩しても読者はついていけない。 読み返してみると、あら捜しと言うよりも作家のスタンスに対して疑問を投 げかける形となってしまった。この疑問を快く思わない法月ファンもいるだろ う。しかし、その逆に思っている法月ファン、あるいは本格ミステリーファン がいるのも確かなのである。名探偵・法月綸太郎の『黄金時代』と呼べる作品 群を発表してから、じっくりと次の仕事に取り掛かればいいではないか。 幸い、十一月頃に「法月綸太郎の冒険」なる「エラリークィーンの冒険」の 向こうを張った本格推理短編集が出るらしい。大いに期待したい。 大阪で生まれた探偵 SATOMI 「こんな妙なこと、ないで。なあ、難波」 「あのな、林。入って来るなり、それはないやろ。ここは喫茶店や」 「おまえに言われんでも、分かってるよ。ここは喫茶店や。サテン言うても、 ドレスのこっちゃないよ」 「当り前じゃ。こっちが言いたいんは、喫茶店に来たら、何か注文するんが筋 とちゃうか? ちゅうことや」 「あー、そうか。ミルクと砂糖抜きのコーヒー、もらおか」 「まだるっこしい言い方やな。ブラックって言うんや」 「すぐにはでけへんやろ? やったら、話、聞いてもらいたいねん。ほんま、 妙なことなんやから」 「どんな妙なことやねん?」 「妙も妙。妙の百乗、りゃくして『みょうじょう』や。あ、ここんとこの雑誌、 一度も俺の記事をつこうてくれんかったから好かんなぁ」 「脱線しとらんと、どんな妙なことか、言うてみ」 「苦労して取材したのに、没になったネタや。ここでただで話すんは、ちっと 惜しいなあ」 「あ、そうか。ほな、さいならぁ」 「待ちいな。ちょっとちょっと、行かんといて。悪かった。話します、はい」 「はよ、話せ。もうすぐ、忙しいなるんやからな」 「わーってるって。ミステリーやぞ、これは」 「何を見捨てるって?」 「しょうもないこと言うな。見捨てるやない、ミステリーや」 「おまえがすっと話に入らんからじゃ。せやなかったら、こんなくだらん洒落、 言うかい」 「あら、きついお方。で、本題やけど……。あ、本題言うても、本の代金とち ゃうよ」 「分かっとるわ! 主力部隊でもないし、宮城の県庁所在地でもなし、ベッド のことでもない」 「後の二つは仙台と寝台やろう。最初のは何や?」 「これが一番、近いぞ。本隊じゃ! 分からんか」 「分かりにくい。で、話を戻すと……あ、コーヒー、できとるみたいや」 「あー、分かった分かった。ほら、飲め」 「どもども。うー、苦いわ。砂糖入れてええか?」 「それやったら、最初からブラックなんて注文すな!」 「そう、怒りいなや。……で、どこまで話したっけ?」 「全然、話しとらんわい!」 「そうやったか? もう、偉く話した気になっとるけどな。まあ、ええか。で、 ときは三週間ほど前、場所はとある百科辞典……やなかった百貨店。その一角 に宝石専門店があるんや。そこに美人やけどちょっと大人しそうな女が来よっ た。女は店員が声かけても、曖昧に返事するだけで、どんなもんが欲しいんか、 はっきり言わへん。店員は最初、冷やかしかいなと思うたが、そうでもなさそ うなんやな。女は初めに指輪の並んだケースの中をじーっと見つめとった。そ れはもう、熱心やったそうや。それから他のアクセサリー、例えばネッスルと かイカリングとか……」 「何やそれ? 食い物のアクセサリーか?」 「あ、違うた。ネックレスとかイヤリングとか、や」 「全然、違うやないか!」 「ちょっとボケただけや。とまあ、そんな風に宝石を一通り見て、深くため息 をついた後、女は店を出て行ったらしい」 「どこが不思議なんや? 欲しいジュエリーがあるけど買えん女性なんちゅう のは、全国どこにでもおるやろ」 「ジュエリーちゅうたら、女物の下着のことか?」 「それはランジェリーや! こっちの質問に答えんかい」 オンナ 「そやそや。これだけやったら、不思議でも何でもないわな。この女と同じ女 が……。おもろいな、このフレーズ。オンナが三つ、連続しとる」 「どうでもええ」 「……同じ女が他の宝石店にも現れたそうなんや」 「何で、そんなこと、分かってん? 店の間に連絡網でもあるんかいな?」 「そういうこっちゃ。強盗の下見か詐欺かもしれんような、怪しい人間につい て、チャックし合うんやな」 「チャックしてどないすんねん。チェックやろ」 「ささいな間違いや。んで、店は気ぃ付けとったんやけど、女はどこの店でも 何もせんかった。同じように商品をじーっと見取っただけやった」 「まだ不思議にならんぞ。他の店に行って、値段を比べていたのかもしれん」 「いよいよ、これからや。自分はその女の話を聞いて、ちょっと興味を持った んで、つかまえて話を聞いてみようと考えた。記者根性やな」 「その程度で根性も何もあるかい」 「ええんや、自分で思とるから。そいで、仲々見つけられんかったけど、ここ いらで唯一、女が姿を見せてない宝石店で張っていたら、ようやく、問題の女 をつかまえたんや。 まあ、いきなり話を聞くのも無茶やと考えて、しばらくは跡をつけて、様子 を見ることにしたんや。女は店を出たら、駅に通じる地下街へ降りて行った。 どないんするかと見物しとったら、女は行き止まりになってる方へ向こうたん や。そしてハンドバッグから、きらっと光る小さな物を取り出しおった。何や と思う?」 「今までの話の流れからして、宝石の……イミテーションか?」 「ネオンサインに使うのはイルミネーションや。冗談はともかくとして、自分 もそう思うた。で、その光る物をいきなり、投げ捨てよったんや。偉く怒った 様子やった。あっけに取られてな、女を追いかけるのも忘れて、捨てられた物 を確かめてみたんや。緑色のきれいな宝石の指輪やった。ただ、ちょっとばか し、ゴミみたいな物が中に混ざってたけどな」 「結局、どっちやってん?」 「ドッヂボールはボールがどっちから来るか、分からへんからどっちボール言 うんやろか?」 「訳が分からん! 宝石の話や。ジュエリーや。ランジェリーとちゃうぞ」 「沢田研二のことかいな」 「それはジュリーじゃ! ええ加減にせい」 「そう怒らんと、聞いてえや。宝石やったな。警察に届けたら面倒になるんで、 知合いの知合いの知合いを通じて、鑑定してもろた。その結果、正真正銘、本 物の宝石、キャラメルやと出た」 「キャラメル?」 「キャラメルやない。エナメル……ヘラルド……エメロン……そうや、エメラ ルドや!」 「全然、違う!」 「似た物やないか。どういうこっちゃ、これ?」 「それが妙なこと、不思議やと言うんか」 「そや」 「ん、まあ、確かに変わってはいるなあ。宝石店巡りをやって熱心に品物を見 ていた女。当然、買いたくても買えないもんと思うわな。でも、その女は本物 の宝石を持っとった……。 おまえ、そのエメラルド、どないしてん?」 「あ、勝手に換金したと思とるやろ。そんなことしてへんで。この林達也、い くら貧乏してもそこまでは落ちぶれへん。肌身離さず、持っとるよ」 「そこまでするとは、その石、相当な値うち物なんか?」 「実はそうやったんや。ン百万円は下らんそうやで、鑑定した人の話やと。吉 本新喜劇の洒落とちゃうで。『天ぷらとビールと枝豆で合わせてハイ、六百万 円』ちゅうのと違うで」 「分かっとるがな」 「それにしてもおかしいもんやな。ゴミみたいな物が入っとるのに、こんな高 い値がつくなんて、鑑定した奴、でたらめ言うたんちゃうんかいな」 「ふむ。ちょっと気になってるんやけど……。エメラルド、今も持ってるんや な?」 「ああ」 「出してみ。何も取って食おういう訳やないから」 「食えへんぞ、こんな物。ほら、これや。きれいな緑色やろ。かなりでかいし。 でもな、中に黒っぽいゴミがあるんが珠に傷や。それによう見てみ、角の方が 小さく割れとる。これで本物の宝石とは信じられんわ」 「いや、これは傷とちゃうぞ。そうか、分かったわ。問題の女性はおまえと同 じで、宝石についてちょっと無知やったんやな」 「SMと宝石が関係あるんか?」 「ムチ違いや! ええか、この宝石、すぐにでも返したらなあかん。どこにお るか、分かるか?」 「そんなこと言われてもなあ。もう、宝石店には姿を見せていないようやし。 あ、ただな、指輪のリングの裏に何か刻んであったよ」 「それを早く言え。ん、これで名前は分かったぞ。おっちょこちょいの名前は、 KURINA−MIDORIさんだ。フロム KAZUHIKOってあるぞ。 五月生まれってことは、エメラルドは誕生石なんやな。こりゃ、いよいよ早と ちりは深刻やぞ」 「どういうことやねん。一人で納得しとらんと、説明してくれな」 「推測だけやけどな。このエメラルド、みどりさんは恋人のかずひこから贈ら れたもんなんやろ。こんな高い誕生石をプレゼントするなんて、結婚を考えと るんちゃうかな。 もろたときは、みどりさんも嬉しかったやろう。指にはめて、普通に生活し とったはずや。ところがそんなある日、何かの拍子に宝石を何かにぶつけたん やろう。床にでも落っことしたんかもしれん。そのときや、宝石の角が欠けて しまった」 「そこが変や。本物の宝石が何で割れるんや? ガラスなら分かるけど」 「そこが無知や。宝石言うたらがちがちに硬い物やと、イメージを持っとるや ろ。ところが硬ければそれだけ、割れ易いってこともある。ダイヤモンドかて、 トンカチで殴ったら砕けるって話や。んなこと、実際にやった奴は、聞いたこ とないけどな」 「ふーん、そんなもんか。でも、普通は知らんよ。割れたら偽物やと思うて、 不思議やない」 「そこや。みどりさんも偽物やと思うたんや、きっと。よく見てみると、宝石 にはゴミみたいな物も入ってる。こりゃ、かずひこに騙されたんやと思い込ん でも、まあ、しゃあないわ」 「そのゴミについても、よう分からんなあ。何なんや、これは?」 −続く−
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