長編 #2472の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
病院の中で一番天国に近くて遠い、あの一室。クリーム色の天井と、手垢が ところどころついている白い壁。空気のきいんと静まる瞬間のないあの空間。 先生の啖の絡んだような咳ばらい。ベットは鉄製で白いペンキがひとところ欠 けていた。それから泣く声。でもあの部屋、空気さえ微睡むような甘さ。ぽや ぽやと薄く毛の生えた頭に紅葉のような手の平を持っていた、それが僕らの姿 だったんだ。 僕が施設に預けられることに決まって、看護婦が近づいてきた。ベットから抱 き上げられた瞬間、隣のベットで寝ていたはずのマヨイがこちらを向いた。僕 らはもちろん口を利くことさえ出来ない赤ん坊だった。マヨイは覚えてないだ ろうけどね。僕は泣いたよ。マヨイも泣いてた。僕は忘れない。 ・・ 57618523,8046282940814629175102 10年前のことだって、僕は何もかもを覚えている。僕は施設に入れられて学 校と病院でずっとずっと暮らしていた。 担当医が僕の顔を覗き込む。 「さあ、さっき言った数字、思い出せる?」 「・・・57618523,8046282940814629175102」 こんなことに何の意味があるのかなと少し腹をたてながら、子供の僕はそれを 答えたのだった。 僕に興味を持った施設の先生が僕に言う。 「ねえ、ちょっと試してもいいかな」 46390545176431,81530416041574588411 091516523036003351728305 少し時間をおいて、僕がこたえる。でも先生は欲張って長い数列にしたものだ から、自分が正解を忘れてしまったようだ。あいまいに驚いたような顔をして からパチパチと拍手をした。 ・・ 僕はどうでもいいことさえ忘れることが出来ない。 人は大切なことまで忘れてしまう。 どちらがいいかなんて誰にも分からない。 ・・ でも誰が考えるだろう? 「46390545176431,8153041604157458841 1091516523036003351728305」 10年たった今でも 軽い気持ちで先生が口にした数列さえ僕には忘れることが出来ないなんて。 ・・ 頭痛は断続的に続く。どうでもいいことをも記憶に刷り込んでいく僕の脳。 だから僕は見たり聞いたりすることを最小限にする努力をしてきた。 マヨイが心配そうに僕を見ている。 「ねえサダカ、痛むの?頭・・」 「違うよ」 ふわぁっと笑顔になるマヨイ。僕は優しい気持ちになれる。僕は嘘を覚えた。 でもそれはとてもいいことだ。 ・・ 誰よりも、お母さんよりお父さんより マヨイ。君に会いたかったんだ。 例えばマヨイの言葉や仕草、声やぬくもりといった情報で僕の頭が オーバーヒートしてしまうのならいいのに。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE