長編 #2439の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
どこへ行っても同じ明るい建物と、あの挨拶。 「いらっしゃいませ、こんにちわ。デリイズへようこそ!」 隣の市のこのファミリーレストランで、昔初めてパフェを食べたっけ。憧れて たんだ、パフェ。夢だった。だって色が奇麗でいかにも女の子らしくて可愛い 食べ物でしょ? なんでだか知らないけど中学一年のときまで食べたことがな かったから。どきどきして口に入れたけど、ただ甘いだけでちっともおいしい なんて思わなかった。二年くらい前に四人でペンションに泊まって、その帰り 際によったのも旅行先のこのファミリーレストランだったっけ。思い出すと苦 しいような甘くて楽しい出来事。いつ来てもどこに行っても同じ内装で同じ挨 拶をしてくれる、ここは何だか懐かしい。 窓際の席に案内される。ここらはみんな車で来てしまうので、せっかくの窓際 の席だけどそんなにうれしくない。 「私コーヒー。」 「俺チョコパフェ」 杉山くんはテーブルにひじをつこうとして、がくんとずっこけてみせた。ウエ イトレスの女の子がくすくす笑いながら注文を繰り返す。 「ご注文繰り返します。コーヒー1つ、チョコパフェ1つ、以上 ですね」 「はい」 ウエイトレスの後ろ姿を見送ってから、私は杉山くんに毒づく。 「だっさー。みえみえだよ」 「っるっせーなぁ、お前に可愛いなんて思われたかねーよ」 ファミリーレストランのウエイトレスの前でそんなおちゃめなことしたって大 して意味ないのにそーゆーことしちゃうんだよな、この人って。 「悲しい性だよね」 「ほっとけ」 びくり と杉山くんの頭が動いた。 「おっ、フェラーリッ!」 「え?どこ?」と私。 「もう行っちゃった」 私たちはそのまま外をを見ていた。杉山くんが口をひらく。 「みんな休みって何してるんだろ。こう月末で金もねーのにな」 「さーねぇ」 ・・・あちこち電話したんだろうな、この人も。少ぅしだけ、思いやってみる。 杉山くんはユリと別れるちょっと前まで、一日に三人とデートしていたという。 午前中に一人、午後から一人、夜から次の日までに一人、そのうえストックが 二人いると豪語していた彼なのに。長いグラスのふちについたチョコレートを 長いスプーンでかき集めながら、杉山くんが言った。 「なあ、今度飲み会でもやろーぜ。五対五くらいでさ。友達連れて来いよ」 私は意地悪く笑ってみる。 「ははー、杉山くん。もしかして最近、遊んでくれる女の子がいないんじゃな いですかー?」 「・・・まあ、不況だしよ」 杉山くんは、珍しく私の言葉を認めてつるりと自分の顔をなでている。さらに 追い打ちをかけてみる私。 「五人ねぇ・・・ユリも連れてっていい?」 杉山くんの手が止まる。「・・・・それはちょっと・・・」 杉山くんのタコ足配線のように入り組んだ、数人の女の子とのお付き合いがユ リにまで発覚した後、すったもんだの末彼らは別れた。杉山くんはその時は、 まさか今みたいにお淋しい状況になるとは夢にも思わなかっただろうけど。 「わかった、ユリは連れてかないよ。カッコイイコ連れて来てねっ。ま・どー せ杉山くんの友達だから期待してないけどさ」 「そんなことないぞ。お前こそカワイイ子連れてこいよ」 「私の友達はみんなカワイイよぉ」 「女のカワイイはあてにならないからなあ」 「はあ?!」 「いえいえ」 私と杉山くんの会話はオソロシイくらいに不毛だ。お互い相手が違えばまた、 もう少し思いやりのある言葉を使いあうのに、たぶん。 不思議なことだけど私と杉山くんは同じことを念じていて、それはお互いに言 葉にしなくても通じている。それはそれは一生懸命に、念じているから。 “いいかー分かってるかー? 暇じゃなかったらなー、オマエとなんかお茶し ないゾー”って。お互いに念じているから。 私たちの念は共鳴しあって、殺伐とした時間と空間をつくる。それでも、一人 よりは二人のほうがいい。ファミリーレストランでお茶するくらいならほんと 誰とでもいいんだよね実際のハナシ、私も杉山くんも。 ただ私は最近まで「こんなどーってことない男に、どうして付き合う女の子が 絶えないのか、なぜにタコ足配線なのか」 ず〜〜〜っと疑問に思っていたけれど、今ならなんとなく、わかる。無難なルッ クスとああいう図々しい電話を出来る性格。多分それを忌み嫌う人も居るけど、 それに乗っかってこうしてだらだらとお茶してる、私みたいな人。その先にそ うしてたらたら会う延長線上に、例の“タコ足配線”が乗っかってるんだろう。 今はしてなくても、この人はそういう類いの人だ。杉山くんの前で可愛い女で いれば、運ばれていく、ベルトコンベアーの先に、いくつかのプラグに入るひ とつにされる、なってしまう。 一人より二人がいい。だけど。 運ばれてきたパフェのフルーツにパクつく杉山くん。可愛くなーい、可愛くな いぞっ。まあ、考えようによっては可愛いかな。友達以下、恋人未満。可愛か ろうと可愛くなかろうとどうでもいい。 どうでもいいのに。こんなにどってことないのにこんな気持ちのまま、いつか 私はずるずるとこの人になびいてしまうのかな。潔癖だった子供の私だったら、 きっと杉山くんなんてすっぱり見事切り捨ててみせるのに。強くなくても生き られるのを知ってしまったから、走らなくても生きて行けるのを知ってしまっ たから。どんどん弱っていくのがわかる。杉山くんになびくとかじゃなくて、 ただ人恋しさに。どこまで流されてしまうんだろう。怖い。これから先どうなっ ちゃうんだろう。杉山くんが口をひらいた。 「で、どうする? 飲み会は」 「・・・・来月がいいけど・・・やる気あったら水曜日くらいに電話して。そ れまでに私、友達に聞いておくから」 「分かった」 やおらサイフの中の紙切れにメモしだす杉山くん。だいたい約束にはいーかげ んな人なんだけど、こーゆーおいしい餌のある時は確実に電話してくる。私は 杉山くんの電話番号を知らない。言わないし、わざわざ聞く必要もない。 スカスカの毎日。でも私は一生懸命念じている。このまま流れていかないこと を。いつかどんな方法でか分からないけど、こんなスカスカの気持ちを切り落 とすことを。だから今は大丈夫。とても危ういけど、今はまだ大丈夫。 おわり
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