長編 #2413の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 杏子さんへ 僕は今日、赤瀬と牧島で魚つりをしていて遥かに水平線の上に杏子さんの家の橙色 の屋根が眺め渡されました。青い水平線の上にポッカリと浮かんでいる杏子さんの家 の橙色の屋根、とっても綺麗でした。青い水平線ととてもよくマッチしていて。 赤瀬は相変わらず三味線島の岩の上から魚釣りをしていましたが、僕は釣れないた め三味線島の根元の岩のごろごろした所に寝そべって蟹と戯れていました、と言うの はウソで紫色のアメフラシを突っついたりして遊んでいました。今年はアメフラシが 異常繁殖していて一つの水たまりに十匹もいたり、大きな水たまりには五十匹ほども いるのじゃないかな、食べられないのかなあ、食べたら宇宙人のように空を飛べたり できるようになるんじゃないのかなあ、それともこれを餌に使ったらでっかい石鯛と いうかサンバソウが釣れないかなあ、と僕は水平線上の杏子さんの家を眺め渡しなが ら考えていました。 大きな水たまりには10cmぐらいのちっちゃなサンバソウがいました。それでも 釣れたらいいのですが今釣れているのは8cmぐらいのハグロばかりです。だから僕 は面白くなくて魚つりするのをやめて泳ごうかなと三味線島の根っこの方にやって来 ていました。 紫色のアメフラシの肌ってとっても柔かくて杏子さんの頬もこんなのかな、と思っ ていました 敏郎 中三 八月 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※(書きかけの手紙) 杏子さんへ 僕は今日、赤せと春日にサザエ取りに行ってきました。そしてサザエ取るのに疲れ て浜辺に寝転んでいながら『僕らって何だろう 生者って何だろう ゴロや夏の雑草 、そして沖の岩や青い空、向こうに見えてる雲仙岳や僕が小学校のころ夏休みや春休 みや冬休みには必ずそこで過ごしてきたじいちゃんの家のある加津佐、浮いている入 道雲、僕らは何のために生きているんだろう。そして真実って ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 真実って何だ 生きることって何だ そして僕らの存在って ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー (敏郎さんへ) 私たちの存在は海のような存在なの。 私たちの心は小さい頃は青い海みたいで 年とってくると冬の海のように暗く冷たくなってくるの。 そして幸せは海の中に 夏や春のような海の中にあるの。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 敏郎・中三・夏 真夏の太陽が照っていた。僕は草の上に倒れていた。ゴロが僕の周りを周っていた 。遠くに波の音が聞こえる。大きな草っぱには僕とゴロだけで誰もいない。 過ぎてゆく夏への悔しさにいたたまれなくなってゴロと家を飛び出してきた。自分 には青春がないような、もう僕には楽しい日々は訪れないような気がした。このノド の病気のために僕は今からもずっと苦しまされていくのかと思うとたまらなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 中三・九月 家より・pm:十一時 真心が欲しい。 僕を愛してくれる少女の真心が。 僕は寂しさに耐えかね 今日もオレンジ色の屋根の杏子さんの家を見ながら杏子さんに語りかけている。 でも何の応答もないけれど ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ときどき僕もふと思う。 ゴロと一緒に夕暮れ海を見つめながらふと思う。 僕らの存在って何なのか?って。 そして木や岩や草の存在って何なのか?って。 すると風がビュンッビュンッ吹いてくる。 僕らの髪をなびかせてビュンッビュンッ吹いてくる。 ゴロの黄土色の手も波打っている。 まるでモンゴル地方の草原のように 僕がソッと手で触ると、ゴロは不意に僕を見返る。何事かが起こったのか訝しむよ うに。 (…ペロポネソスの丘の夕暮れはそうして暮れていっていた。ペロポネソスの丘は赤 く夕陽に染まっていて、僕とゴロはそこに寝転んでいた。) s51.10,3 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 僕はこのまえ友人と東望の海岸の新しく出来上がったばかりの道を自転車で行って いた。すると対岸の杏子さんのいつもいる浜辺に杏子さんの車椅子に乗っている姿が 見えた。僕は友人に『俺、やっぱり帰る。』と言い残して急にスピードを上げて杏子 さんの居る浜辺へと向かった。どうせいつものように裏のみかん畑からこっそりと眺 めるだけなんだけど。 僕は友人と別れて寂しくその浜辺へ自転車を走らせていた。頬に打ち寄せてくる風 が涙のようで友人と急に別れてきた悲しさがあった。そしてどうせ口もきかず隠れて 黙って杏子さんのうしろ姿を見つめているだけである虚しさと悲しみと ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー もう浜辺も、足を入れると冷たくて、もう秋になったことを、もう冬になろうとし ていることを、僕に感じさせてくれます。でも杏子さんはこのごろ風邪をひいていて もうずっと浜辺に出ていませんね。僕とゴロはだからとても寂しいです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー (敏郎中三の12月11日) 敏郎さんが泣いていたわ。今日パパと帰りがけにちょっとパパの友だちの家に寄る 用事があって日見中学校の前を通っていたら私、まさかと思ったけどちょうど敏郎さ んが中学校の入り口の坂を降りてきてたわ。あっ、敏郎さん! 私とっても嬉しくて とっても幸せな気持ちになりました。でも敏郎さん泣いていました。目をまっ赤にし て何故か泣いてたみたい。 敏郎さん、どうしたの?。どうして敏郎さん泣いてるの。 私はパパに『ちょっと止まって。』といって俯いて広い肩を震わせながら歩いてゆ く敏郎さんを見つめました。『どうしたの? 敏郎さん。』杏子は車の窓越しにそう 呟いていました。12月なのに春のような暖かい日でした。そして周りには何人か帰 っている人と十人ほどほうきを手にした掃除中の人たちがいました。 なぜ泣いてるの?。敏郎さん?。あっ、敏郎さんはいま級長で、そして喉の病気で 大きな声が出なくて。あっ、きっとそうだわ。そのために泣いているんだわ。 大きな声が出なかったの? でも杏子はもっとひどい障害があるのよ。泣くなんて 敏郎さんらしくないわ。 泣かないで敏郎さん。敏郎さんが泣くなら杏子はどうなるの? 杏子の苦しみと敏 郎さんの苦しみは全く種類が違うけど。 僕はあの日大きな声が出なかったんだ。6時間目の授業が終わって掃除が始まった とき突然先生から呼び出されて職員室へ行くと先生が伝言をくれた。今ごろになって 、今ごろになってなぜ伝言くれるんだい、先生。僕はそう言いたかった。椅子に大き く腰かけて呑気そうにそう言う先生に向かって。 僕は教室へ戻った。そして僕は力いっぱい伝言を伝えようとした。 でも僕の声、教室のみんなの喧騒に虚しく消されていった。僕の声、誰にも聞かれ なかった。僕はただ口に両手をあててもぐもぐと教室のまえで口を動かしているだけ だった。みんな、クラスのみんな、楽しそうに放課後わいわい騒いでいるだけだった 。 僕はそうして伝言を伝えきれないまま虚しく一人でとぼとぼと教室を出ていったん だ。 校門を出るとき学校の裏の山に夕陽が懸かっていたっけ。杏子さんには夢中だった ため全く気づかなかった。でも視界の端に見覚えのある車が停まっていてその中にい たいけな生命がガラスの向こうで必死にもがいているらしく感じたような気もする。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 僕は浜辺で海に向かって発声練習をしていた。 でも大きな声は出なかった。 いくら大声を出そうとしても僕の声は波の音そして風の音に消されていっていた。 どんなに力いっぱい声を出そうとしても、大きな声は出なかったみたいだ。 ただ声が枯れ、ガラガラとした声になっただけだった。 絶望感が僕を覆っただけだった。 そして僕はゴロと家路についた。 絶望の闇が僕を覆っただけだった。 そして冷たい北風が走る僕に吹きつけていた。 (僕は学級委員になって、大きな声が出ないことでものすごく苦しんでいた。 冬で波は荒く、僕はペロポネソスの浜辺の先の立石の岩場で発声練習をした。大声 を張り上げようとする僕を訝しげに見るゴロ。冷たい北風。口に手を当てて海に向か って叫ぶ僕。でも僕の声はとても小さくて、僕がどんなに大声で叫んだって普通の人 の話し声ぐらいの声しか出ない。僕は落胆し打ちひしがれ、痛くなった喉を我慢しな がら家路に着いていた。 立石から僕の家までの道は長かった。でも僕の躰は燃えていた。僕はあまり寒くな かった。北風も僕には何でもなかった。授業の始めと終わりの号令をもしかするとま た友達に頼まなくてはいけないかもしれない悲しみが僕を襲っていた。それは大きな 大きな苦しみだった。) 中三・1月 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー (夢の中で) 僕はいつかこんな草原を見たことがある この山の上の 小鳥のさえずりと草の葉の風になびく音しか聞こえて来ないこんな草原を 僕はいつか見たことがある 草の葉が風に揺れている様子は まるでゴロの黄土色の短い毛が風になびいているのに とてもよく似ていて、そのために僕はこの草原にいつか来たことがあると思ったの かもしれない でもいつか幼い頃、僕の両親か親戚の人と あの貧しくて苦しかった頃、 来たことがあるような気がする
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