長編 #2407の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
――うちひしがれた二人の愛の記録―― ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー (夢の中で) 青い海辺に僕らは腰かけている。 杏子さんはさっきから『幸せは何処なの。幸せは何処にあるの』と聞いている。 僕は黙って海を見つめている。 ゴロも僕の横でさっきから黙って海を見つめている。 でも杏子さんだけは、 さっきから幸せは何処にあるのと尋ね続けている。 僕は答える方法もなく、海を見続けている。 でも杏子さんはさっきから泣きじゃくりながらそう尋ね続けている。 でも僕には答えることはできなかった。 僕がこれを書いて5年経って杏子さんが死んだ。その頃僕らはまだ文通を始める前 だった。僕らはそのときすぐ近くに住んでいた。夕暮れどきいつも見渡す僕の家の窓 辺から杏子さんの家がすぐ近くに見えていた。 僕はすぐ近くに住んでいる杏子さんの家の窓を毎日よく見続けていた。僕が市場の 2階にまだ住んでいた頃のことだった。 狭い六畳2間の市場の2階に僕たち一家は住んでいた。一階で果物店と衣料品店を 僕の家はしていた。僕が小学四年の頃までは経営はとても苦しかった。そのためもあ って父と母は毎日喧嘩していた。 小学六年の頃だから僕の家にも光が差し始めたばかりの頃だった。僕は小学五年の 一月頃から再び勤行・唱題をするようになっていた。だからそれから三ヶ月ぐらい経 った頃書いたものだと思う。 ときどき僕らは道ですれちがっていたし、窓辺から杏子さんが車椅子で杏子さんの 家の傍のちょっと坂になった道を登っていっているのを見ていた。僕はよく夕暮れど き窓辺に腰かけて杏子さんがその坂道を登ってゆくのを哀しげに見つめていた。 いま思えば哀しい思い出かもしれない。でもいまの僕の胸の中には光って見える。 遠い過去の思い出として悲しいけど美しく映っている。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 暗くて良く解らなかったけれど、杏子さんがいた。車椅子の上で何かを囁いていた 杏子さん。 杏子さん、あのとき何を言っていたのだろう。夜の6時の闇が僕らを覆い尽くそう としていた。 (ボクが小学6年のとき、松尾商店の前で。) いまも解らない。あのとき、杏子さんは何を言おうとしていたのだろう。でも死ん でしまったいまではもう解らない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー (悲しい声援) 僕は走っていました。顔を歪ませながら懸命に走っていました。 僕は第3コーナーに懸かっていました。僕たちの学年で一番速い古賀さんなんかも う第4コーナーに懸かろうとしています。そのあとに健康優良児で市で2番だった山 口司朗が腹を突き出すような格好で走っています。僕のうしろにも3人走っています 。 そのとき僕は運動場の端の方からじっと僕を見つめている二人の可憐な少女の姿を 認めました。由美ちゃんと杏子さんです。由美ちゃんは体操服姿がとても美しい。そ して杏子さんはいつものように銀色に輝く車椅子の上です。 僕は途端に感動というのかなんて言うのか解らない不思議な感情に捉われてしまい ました。不思議な涙が今にも溢れ出ようとします。僕は二人の少女の視線のなかに温 かいとても暖かいものを感じ取っていました。 僕はなおも走り続けました。コーナーを曲がると二人の姿は見えなくなりました。 そしてもうゴールだけが僕の目に見えていました。 二人は運動場の片隅に咲いていたコスモスの花。じっと僕を見続けていたコスモス の花。僕たちの学年にはいないとっても可愛い花。 僕は幸せいっぱいに走り続けました。二人は僕たちの学年にはいないとっても可愛 いコスモスの花。僕の家のすぐ近所の僕の家を挟むようにして咲いているコスモスの 花。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー (僕が小学5年のときのことだ。) 僕は吃り吃り喋った。そして悲しい視線が由美ちゃんたちから帰ってきた。 それ以来、由美ちゃんたちは僕を振り向こうともしなくなった。それまでいつも廊 下ですれ違うたびごとに僕に好意の視線を送っていたのに。 でも杏子さんだけは、車椅子の可哀想な杏子さんだけは、廊下ですれ違うたびごと に僕を見つめていた。でも、その視線はあれ以来哀しげな視線に変わったように僕に は思えるのだけど。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 敏郎 出さなかった手紙 (僕には杏子さんしか似合わないんだ。足の悪い杏子さんしか。) ※こういう走り書きが便箋の裏にあった。 杏子さんへ 杏子さん、あのときはごめんね。ありがとうの言葉もろくに言えなくて。 僕は言語障害なのです。以前僕に由美ちゃんたちが喋りかけてきたとき僕はひどく ひどく吃り吃り喋って由美ちゃんたちは笑いながら走り去っていったことを。もう一 年以上も前のことになると思います。 僕は喋るのが怖かったから…だからこのまえ杏子さんの花束を奪うようにして持っ ていったけどすみませんでした。でも僕はとても嬉しかったです。あんなにいっぱい 胸に抱え込んでいて大丈夫でしたか。白い真っ白い薔薇でとても綺麗でした。僕は今 まであんなに綺麗な花を(その花束の向こうに杏子さんの顔が見えて僕は今でも瞼の 裏にありありとあのときの光景を想い浮べることができます。 白い白いたくさんの薔薇の向こうに恥づかしげに俯く杏子さんの顔がありました。 周囲はさんさんと日の光が降り注いでいて杏子さんの車椅子も銀色に輝いていました 。 でも杏子さん、あの白い薔薇、刺がたくさんあってそのとき杏子さんの着ていた赤 いセーターに傷が付いたような気がしてあとでとても悩みました。僕はそのことあと で発見しました。誰もいない体育館裏の小さな空間で。杏子さんから貰った大きな一 抱えほどもある白い薔薇に杏子さんの着ていた赤いセーターの柔らかくてすぐに飛ん でいってしまいそうな赤い毛が付いていました。僕はそれを指でつかんで、ふっ、と 吹いてしまおうかな、と思いました。するとさんさんと日の光の降り注ぐ体育館裏か ら隣りの中学校や遥か家並みを越えて杏子さんの家や僕の家などが立ち並んでいる処 へ風に乗って飛んで行ってしまいそうで僕はだから思いきって薔薇の刺に付いていた 赤い毛糸との切れ端を指で取ってふっと風に乗せました。すると本当に赤い風船のよ うにどんどん上に浮かんでいってだんだんと中学校の方の太陽のなかに見えなくなっ てゆきました。 そしてその眩しい太陽がふと杏子さんの眩しい白い美しい顔に変わったようで僕は 驚きました。ああっ、杏子さんが微笑んでいる。僕は奪うように杏子さんからほんの 少し『ありがとう』と呟くように息の下で呟いて奪うように取ってきたのだけど。で ももしかしたらこの花束、僕でなくてほかの奴にやるつもりじゃなかったのかな、と ふと僕は疑いました。 やがて赤い毛は眩しく白い太陽を通り過ぎて僕の目にちゃんと見えるまるで赤い花 束のようにも僕と杏子さんを繋いでいる霊界の赤い糸のようにも見えました。赤い雲 のようにゆっくりと風に乗ってますます上昇してゆく杏子さんの着ていた赤いセータ ーの毛玉。まるで僕と杏子さんの恋を乗せてゆくようにゆっくりと何か古代の船を思 わせるように動いてゆきます。 そう言えば僕…このまえ変な夢を見ました。僕と杏子さんが結婚式を挙げたあと新 婚旅行に出かけるときの光景でしょう。船尾に竜の顔を形どった木製の船に(奴隷が 20人ほど櫓を漕いでいました。)のって僕らがどこかに旅立つ光景が浮かんできた のです。杏子さんはまっ白なウェディングドレスを着飾ってまるで花のようです。僕 は髭をモジャモジャとはやしていてどこかの王子か何かなのかなあ。 杏子さんからのあの花束、名前何と言うのだったんでしょうね。 白い白い花でまるで杏子さんの肌のようで僕とても胸ときめきました。 あの白い花びら 僕裏庭で杏子さんに喋りきれなかった悔しさと後悔の念に襲われ つづけながら 僕 ふっと息を吹きかけました。すると白い花びら 雪のように風に 舞い始めました。ちょうどそのとき吹いてきたつむじ風に花びらはまるで僕と杏子さ んがダンスを踊るように舞いました。とても不思議でした。中庭に立ち登る小さなつ むじ風のなかで戯れる僕たちは白い花びら。白い小さな小さな王子とお姫さまのよう でした。白い白い小さな僕たちは花びら。 僕たち不思議な花びらで 誰もいない裏庭で誰にも気づかれないように踊る恋人ど うし。白い白い恋人どうし。
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