長編 #2385の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
彼女は可憐で純真で無垢で、心もすべて真っ白なんじゃないかというくらい素敵な 容貌をしている。こんな女性って今時珍しいと思う。 どうにかして話しかけたいと頭で考える。彼女の前にくると全身がこそばゆくなっ て、せっかくのイメージトレーニングもふいになってしまう。 (きっとウブなんだなあ、僕って) ああ、見つめられたい。 僕はため息を一つ意識せぬままについた。冷え込んだ廊下を歩きながら物思いにふ ける。授業もすべて終わっている。家にかえろう。だけども家にかえりたくない。声 をかけよう。だけども声をかけられない。 僕は随分と思い詰めている。半年前に芽生えた芽が、繰り返された想像によっても う今では大木になっている。状態と立場はあの頃とまったくかわらないのに。 すれ違いざまに僕と視線が交わったとしても、彼女は何の恥じらいもなく過ぎ去っ てしまう。豆腐のような彼女の脳味噌のなかに、僕はどんな状態であっても存在して いない。 僕の小さな脳味噌の中では、川中さんが自由に動き回っているのに。 もう手の付けられないほどのわがまま娘なんだけども、欲求を満たして上げたとき にふと見せる微笑みが可愛いから、僕はいつも彼女に従っている。 これはこれで結構な幸せだと思う。 日曜日の朝に、僕はまどろみの中にいる。ねっとりとした水飴のような微風を感じ ながら、まだうまく思考できない頭で今日を思い巡らしている。玄関がノックされて 川中さんの声。ビニールの袋を抱えて、僕におはようと微笑む。僕はねむたげにそし て少しきどって面倒げにおはようと答える。 彼女は小さな台所で料理を始める。僕は洗面所で顔を洗い終わった後、鏡を見つめ る。ほんと幸せそうな顔だ。 どこにでもあって、なんら珍しくない朝だからこそ、僕は安心と平安それに未来を 覚えられる。 いつもいつも、ずっとずっと、僕はこうしていたい。刺激なんていらない。 毎日のように、こうやって川中さんを見つめ、やがて彼女が瞳を綴じて、僕はこう やって華奢な体を両手で包み込みながら、耳たぶなんかと比べほどのないほど柔らか な唇に自分の唇を重ね合わせる時間だけで、一生歩んでいきたい。 僕があんまり彼女をきつく抱きしめていたので、彼女が少し「くるしいよォ」とお どけた。 僕はある所で入手したある薬を服用している。すると非現実と現実との境界線が曖 昧に揺れ動きだす。大変な空腹のときなどは、境界線なんていうものは無くなってし まう。仮想現実なんかじゃない。僕の想像が現実なのだ。 だけども誰にでも等しくふいに訪れるという刹那的な孤独感のまえには、実質的な 温もりが欲しい。最近じゃ頭の中の彼女のパターンも決まってきている。そして最終 的にはいつも僕の思い通りになるのだ。 求めれば求めるほどジレンマに陥いる。心のなかで叫べば叫ぶほど自らの苛立ちに さらに苛立つことになる。そういう時に僕は考えさせられる。実質的な温もりと、想 像上の温もりとの違いっていうものは、どこにあるのか。完全な温もりというものは、 結局のところ脳で感じるはずだ。完全な想像による温もりはもう持っている。あと何 を混合すれば良いのか。何がたりないのか。 想像の中で温もりを得られている今、さらに肉体的にも温もりが得られるならどう だろう。 少し早いが僕は炬燵を押入からだした。高ぶった精神で震えながら。僕はその中に 潜り込んで、薬を服用して後、川中さんのことをひたすら考え始める。アルキメデス が法則を掴み得たときに感じただろう興奮を、僕も等しく感じながら。これで僕は完 全な幸福につつまれるのだ。 だけども温もりが得られたのは皮膚と想像による脳の一部分。これはこれでいつも の通りの温もりなのだけど、完全を求めた僕にとって、何の温もりでもない。 心臓と醜い内臓に温もりは来ない。 堪えても堪えても涙があふれでる。両掌が滴でべとべとになる。涙でさらに僕はど こかに一人でおきざりにされる。 炬燵からでたときは、唇と僕が乾燥しきっていた。 薬が切れるとしばらく何もする気がおこらない。全身の力がぬけきって頭が中で建 設工事が行われているように痛んだ。シャワーだけ浴びて、僕は布団にくるまりなが ら必死に夢のなかへ旅立とうとする。 全身の血液が脳に充血するような不快感。とりかえしのつかないほどの長い孤独感。 僕の細胞がいたずらに分裂していくかも。 誰かが僕を哀れんでくれたため、僕はどうにか睡眠に入ることができた。 (やっぱり川中さんが欲しいよ。たまらなく、たまらなく) 翌朝になれば、いつも通りの体調に戻る。始めは恐れた薬の副作用も、笑顔がさわ やかな青年の言った通り、数時間の眠りでほとんど完全に消える。裏モノを手にいれ た僕も裏人間になれるかと少しの期待を秘めていたけど、未だもって僕は相変わらず 普通の平凡人。
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