長編 #2384の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
空は、ブルーよりもパープルに近い。 緑は どぎつさを増し、雨期が終わったばかりのこの時期の一つの象徴でもある かのように葉を茂らせている。 下界の景色に見入っていた俺に、後ろからロバートが声を掛けてきた。 「降下地点まで後、1時間弱か」 「まったくえらい落とし物をしてくれたもんだぜ」 俺は途切れさえしない一面の緑を見ながら答えた。 「いいじゃないか、たまには。 ピクニックだとでも思えよ。それも美人のレィディ付きだ」 俺は思わず振り返った。 相棒は目を細め、笑っていた。 「確かに。研究中の最新兵器を落っことした上に、其を解除するのに5人。運べ ない程の代物だから、ちょいと花火を仕掛けて来いなんてのは中々どおして楽し いピクニックだぜ」 「おまけに、開発途中で見捨てられた星なんてのはおつなもんさ」 「ロバート、一体どうやるとあんなもんが落とせるんだ」 「其が知りたきゃ、あの世とやらに行くんだな」 後ろ向きに手を振って。 笑いながら遠ざかって行く姿が其処にはあった。 *************** 昼間とはいえ静かすぎる程のカフェ。 「・・・・・すか?中佐」 「えっ、ああ。何だって」 「マリアにお会いになりますか?」 意外な言葉だったような気がする。少なくとも俺には。 「そうだな」 どうして、その気になったのかさえ不思議だが。 ただ、会ってもいいとその時思った。 あの作戦で、あいつが庇いその為に命を落とした。 そんな事は、過去の事とでしかない。 死んでいたのは俺かも知れないのだから。 あれからどうなったのか。あのまますぐこの星を離れた俺は調べさえしなかった。 景色が移ろいで行く。長い閑静な町並みへと。 「いま、基地で静かに流行っている唄があるんです」 運転をしながら隣で彼女がしやべり始める。 薄茶色のサングラス。軍服姿にはそれさえも似合っている。 「別れの唄です」 整った横顔に少しだけ笑みを浮かべて続けた。 「出逢いと別れが此処には満ちていますから」 俺の中で昨日の唄が想い出される。 生きていたら・・・・か。 生きたいと、何物にも変え難く思う。 戦場でただ生き延びる事を考えている、自分を知っている。 ほどなく目的の場所に着いた。 こじんまりとした、小さな家。 「マリア」 彼女がドアを開ける。 「フラン、やっぱりあなたね」 後ろ姿でマリアは答えた。 波打つ亜麻色の髪が静かに振り返る。 透き通る白い肌。化粧さえしていないのに赤い唇。 そして、閉じられた瞳。 「入って、今お茶でも入れるから」 「ええ、ありがとう」 スムーズな手の動き、身のこなし。 とても見えていないとは思えない。 「相変わらず凄いのね。見えてるみたい」 「見えているも同じよ、この家の中でならね」 入って行こうとする彼女を思わず留めていた。 黙って首を横に振る。 「どうしたの、フラン。誰かいるの?」 「いいえ、御免なさい。時間がないの。 今日は貴方の顔を見に来ただけ、また来るわ」 「私は貴方に、彼女を逢わせたかったわ。 私達がまだこんなに傷みを残しているのに、 貴方は違うのね。 傷さえないのね。 だってそうでしょ、貴方はあの後一度だって此処を訪れもしなかった」 いやに力の入った口調で彼女が言う。 「否定はしない。だが、弔いかたは人それぞれだ」 どんな作戦であれ傷跡は確かに残ってゆく。 それをどう処理していくか、それが出来るのが人間であり、それが出来ないのも ・・・・。 「どうした、フラン・ウォレンス中尉」 細い線。睨み付ける蒼い瞳。 俺は彼女の顎を軽く上に引いて 「「 。 「あんたらしくない」 「・・・・・」 唇の端を軽く噛んで無言で答える。 どれくらい時間が経っただろう、俺達は無言のまま車を走らせていた。 別れ際に彼女が言った。 「発つのはいつ」 「たぶん明日」 そう答え車から降りた。 「飲むか」 少しの沈黙の後。 「いいえ、よすわ。 貴方が何処かで死んだ時に、貴方の為に泣きたくないから」 「そうさな、それがいい」 目の前に拡がる何処でも代わり映えのしない基地内の風景。 其でも美しい時がある。今の様に。 夕映えを映し建物のシルエットが闇の様に浮かび上がる。 あと少しすれば辺りは本物の闇に包まれるだろう。 発つにはいい。 タラップを上がり、用意された輸送機に乗り込む。 「グレイ中佐!」 その刹那、呼び止められる。聞き覚えのある声。 俺は思わず振り返っていた。 「ウォレンス 「「」 息を切らせ近付いて来る。 手から何か小さな物を投げてくる。受け取る。 白いドレス、金色の髪、蒼い瞳 「「。 暫くは忘れられないだろう。 シートに凭れ掛かる、ゆっくりと離陸していく。 手の中に残されたのは再生用のボイステープだった。 それは、ハスキーボイスでやけに響きわたる声の甘く切ない スローバラード 「「 別れの唄だった。 89・ 9・21 時 枝 玲
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE