長編 #2362の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「先生、靖子のこと嫌いでしょ」 唐突娘は、唐突に物を言う。茜は、私の目をじっと凝視して、その言葉に対す る私のリアクションを、漏らさないように構えている。 「靖子ちゃんって、茜ちゃんの友達の? んー、苦手な存在ではあるよ」 「でしょ。やっぱり、そうやないかなぁと思ってたんですよ。前、連れて来た 時、私、気使いましたもん」 「感性っていうか、価値観が私にとっては、明後日の方向を向いてるかなあ、 って思ったけどね」 よく考えてみれば、何も私が、目の前にいる茜の、友達のことを悪く言うこと はないのだが、根が正直な私は、ついつい茜のペースに巻かれてしまう。 「でも、嫌いとかって訳やないよ」 一応の、フォローはいれておく。あくまで、彼女よりも年長者であるというこ とを、誇示しなければならない。仮にも、茜に先生と呼ばれている存在だ。彼女 なりの社交辞令かもしれないが、ここは立場を明確にしなければならない。私は、 一度しか会ったことのない靖子についての分析を、即興ででっちあげなければな らない。 「彼女は独特の人生観を持ってると思うねんけど、それはあくまで他者に対し て向けられている目から、感じ取ったものでしかないような気がするんよ。若さ も考慮して、まだ彼女には個としての歩く道を考えれるだけ、人間関係が構成さ れていないと思う。けれど、背伸びしちゃうから、取り繕う術だけは出来上がっ てるんよね」 「あー、なんとなくわかるぅ」 本当か? 私は、ほとんどデタラメなことを言っているだけなのだ。適当に小 難しいことを言って、その場をしのごうとしているだけだ。 「靖子は背伸びしすぎて、漬け物になってるんですよ」 「漬け物?」 「薬漬け」 「ああ、ドラッグね……」 茜に限らず、この年代のコはたまに、自分の頭の中でしか処理の出来ていない 言葉を、そのまま口から発音してしまう。自分が理解してさえすれば、相手に意 味が伝わらなくてもかまわないらしい。 「そんなに、いろいろやってるんだ。靖子ちゃん」 私が同調すると、茜は、待ってましたとばかりに、首を前後に揺らしながら話 を始める。かなり光沢のきつい金色をした髪が、なびく。 「そうなんですよ。もう、あいつ、めちゃくちゃですよ。14の時に、いれあ げてたホストに、教え込まれたらしくって、今でも、色々やってるんですよね」 「茜ちゃんは、しないの? クスリ関係」 「あたしは真面目ですよ。若い時、やんちゃでラリってたこともあったけど、 今はなんもしてません」 若い時って……、このコは16だ。このコの言う、若い時っていうのは、おそ らくは13、4の頃のことだろうが、それならばあまり、時間が経っている訳で はない。そういうのは、若い時とは言わない……。 「色々やってたの?」 「あたし、シンナーしかしてませんよ。本当ですよ。でも、男と女まぜこぜで ボケてた時、あたしが初めて連れて来たコが、まわされたんです。それで、やめ た」 「茜ちゃんは、無事だったの?」 「ええ。あたしは、ブサイクやもん。相手にされないんですよ」 けらけらけらと、茜が笑った。確かに、彼女は美人とは形容し難いが、個人的 にはころころしてて、好きなタイプのコだ。もっとも、私は別にレズではないの で、茜に対して恋愛感情がわくことはあり得ないが。 ふと、私の心の中に、意地悪な感情が芽生えた。 そういえば、彼女と純粋な下ネタを話したことが一度もない。これまで、何度 も私の仕事場(と言っても自宅の自室)を訪ねて来て、その度、ドラッグの話や、 ヤクザの話、友達の男関係の話などを、目を爛々と輝かせて語ってくれる彼女の、 直接的な下の話を聞いたことがなかった。 彼女は処女には見えない。いや、雰囲気で、そうでないことはわかる。だとし たら、経験数が少ないのか。案外、こういうタイプのコの方が、下ネタの方向に ハマりやすいかもしれない。 うまくハマらせれば、どんなボロが出るかわからない。もしかしたら、とんで もないことを口走るかもしれない。 これは面白い。 私は、それとなく下ネタの方へ、話を持って行くことにした。 「茜ちゃん、今、つきあってる人いないん?」 最初は、ソフトに、あたりさわりのないところから入り込む。 「そんなん、いませんよ。あたし、全然もてないんですよ」 「そうかな。でも、茜ちゃん、周りに男の子は多いんでしょ」 「あきませんよぉ。男いても、たいてい靖子が窓口開けてるんです」 「へえ。靖子ちゃんって、結構、男の子くっついてるんやね」 「あいつは、やりまくりますよ」 食らいついた、と私は思った。後はもう、私のペースで、好きなように話を持っ ていける。 「やりまくりって、どのぐらい?」 「どのぐらいって……もう、毎日違う男と寝てるし、拒まないんですよ」 「いつも開けて待ってるのね」 「そうそう。おめこぱっかん、してるんですよ」 来た来た来た。いきなり、女性器の名称を包み隠さず言うあたりは、さすがに、 16の女の子である。これだけ明るく言われると、むしろいやらしさがない。しか し、意地悪な私がこれで満足する訳がないのだ。彼女に墓穴を掘らせて、恥ずかし がらせなければ意味はない。 「ぱっかん、ね。かわく暇もないのね」 「そうですよ。あいつ、いっつも、おめ汁ぐちょぐちょにして男のこと待ってる んです。パンツにシミつくって」 「靖子ちゃんのそういうところに、セックスアピールがあるんやないん? 男の 子にとっては」 「靖子の前やったら、男、みんな、ちんぽ立ててるみたいですよ。あいつ口の形 がいやらしいんですよ。だから、みんな靖子にフェラしてもらいたくなるみたいで すね」 調子に乗り始めたのか、茜は、私がネタをふらずとも、一人でどんどんスケベな 発言をしてくれる。私のにらんだ通り、このコはハマるタイプだ。 「それに靖子、クリトリス肥大してるんですよ。触ったことあるんです」 「どこで?」 「お風呂で。やりすぎで大きなったんちゃうかな、あいつ」 「大きくなるもん? あれって。茜ちゃんも、大きくなっていった?」 それとなく、茜自身のことを聞き出そうとする。 「あたしは、そんなんちゃいますよ。もてないし」 失敗。逃げられた……。そう簡単には、ボロを出さんか。 「あいつ、この前、すごい大きいちんぽ入れられて、おめこ裂けたって言うて ましたもん」 「へーえ」 「大きいちんぽの男、靖子のフェラが気に入ったらしくて、口の中でばっかり、 ちん汁出したがるらしいんです」 「ふーん」 「靖子、くわえるんは好きやけど、おめこからぬいてすぐに、くわえさせるん はやめろって言ったんです。ちん汁も嫌いやけど、自分のおめ汁なめたないって」 「ほーお」 ちんこ、まんこ、ちんこ、まんこ、いい加減イヤになってくる。こうまで、あっ けらかんと禁止単語を使われると、面白くもなんともない。逆に“アソコ”とか、 “アレ”とかいう、慎ましやかな表現を使わない分、いやらしいことだという気 がまったくしない。これではバカにされているようだ。 私は段々、腹が立ってきた。茜に、というより、このコと同じレベルで会話を している私自身が、情けなくて腹が立つ。仮にも、私はプロの漫画家。創作家の はしくれである。絵や言葉を使った表現には、細心の注意をはらっている。 その私が、たかだか16の小娘の言う、ちんぽやおめこに、なんで翻弄されな ければならないのだ。 なおも茜は、靖子という存在の上に成り立っている下ネタを、マシンガンのよ うに話し続ける。 ふいに、部屋のドアをノックする音が聞こえたので、私は、茜を制して、立ち 上がった。ドアの向こうに立っていたのは、村井仁鐘、私の幼馴染みだった。ム ライジンショウと読む彼は、近所の寺の息子で、よく私の仕事を手伝ってくれる、 ありがたい友人だ。 部屋の中に入ってきた仁鐘は、茜の姿を見つけると、情けなく頭を下げて、 「こんちは。どもども」 と、言い、じゅうたんの上に座った。そして、製図机の上に置いてある、私の 描きかけの原稿を手にして、 「進んでへんやん」 と、呆れたように言い棄てた。嫌いな人間から言われれば、これほど腹の立つ 台詞もないが、彼は友達だし、仁鐘が呆れているのは昨日、電話で私が酔っ払い ながら「心を入れ換えて、原稿描きまくる。生まれ変わった私を見て」などと、 言っていたのを覚えているからなので、私は「すんません」と素直に頭を下げた。 (つづく)
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