長編 #2346の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
SAPAシリーズエピソード2 魔女狩り。3000年前の忌まわしいキーワード。 ファラル・ケイムは自分のデスクに山積みになった書類を見つめながら、ため息 をついた。チャイルドワンスの声名文のなかにたびたび出てくる魔女狩りという言 葉。まさか3000年前の連合軍が使った言葉を真似たわけではないのだろうが。 「いやな言葉ね」 ぼそりと誰もいないオフィスで言う。デスクの端に置いた一枚のフォトグラフに 向かって。何気なく、それに触る。記憶が、3000年前の記憶が鮮明に浮かび上 がる。それに写っているのはポール・ミルン。軍神と呼ばれたひとりの青年。 「ポール・・・ いやな予感がするの」 それは自由を賭けた戦いだった。しかし後には、多くの犠牲者と多くの破壊が残っ た。テラは崩壊し、ジュピターやマースも巨大な破壊の前に崩れた。多くの人々が 嘆き、苦しみ、そして死んでいった戦い。太陽系大戦。 ポール・ミルンはたしかに戦いを勝利に導き、軍神の名を欲しいままにしていた。 でも、ファラルは知っている。本当は、ポールは苦悩していた事を。そして自殺し た事も。 ポールは軍神などではない。軍神になれるほど強い精神力はなかった。 連邦軍の統合司令部で、自らの命を絶ったのだ。護身用の拳銃で。即死だった。 ラミー・クライムとラジアンを乗せたホバーは、ジャックされた巡視船エルゴニ クスの飛行甲板に降りた。 「静かね」 派手な攻撃を受けると思っていたファラルは拍子抜けした。船はなにもなかった かのように静かだ。 「いや、中から異臭がする」 ラジアンは船内へ駆けるように入っていった。後を追うラミー。 「なによ、これは」 船内には死体の山が出来ていた。片腕のないもの、目玉がえぐられたもの、臓物 をひきずりだされたもの。大量の血の海。それらは腐り果て、異臭をはなっている。 「神官がいないわね」 ラミーとラジアンは船橋へと向かった。足元にまとわりつく肉片や血液を蹴るよ うに。 「ザンルフが殺されていたら、俺たちの仕事じゃなくなるな」 「どういう事?」 「だってザンルフ・カイを救助するための出動なんだろ。すでに殺されてたら、 この事件はただの殺人事件だ。そんなものコア部隊の仕事じゃない」 「まあ、そうね。でも、チャイルドワンスだって簡単には神官を殺したりしない んじゃない。生かしておけばSAPAを脅迫できるもの」 船内の通路を走りながらラミーとラジアンは話した。神官を生かしておけば、い ろいろと便利に使える。チャイルドワンスだってそのつもりでこの船を狙ったのだ ろうから。 突然、ラジアンが立ち止まる。 「どうしたの」 「フウーッ!!」 ラジアンが唸る。体長100センチにもなる黒猫が、毛を逆立て威嚇する。その 姿はかつて密林の王者とまでいわれた猛獣そのものだ。 「クワーッ!!」 ラジアンは暗闇へ飛び込んだ。しばしの沈黙。 「ラジアン?」 ラミーは一歩、踏み出す。 「!」 突然、闇の中から現れた怪物。身長は3メートルを超え、醜悪な身体から何本も の触手が生えていた。全体が水をかぶったように濡れている。 「グゲゲゲ・・・」 怪物はゾクリとするような目つきでラミーを睨んだ。 「趣味悪いわね」 怪物の脇にラジアンが倒れていた。ぬいぐるみのように、ピクリとも動かない。 「チッ!」 ラミーはマントの中からビームサーベルを取り出す。暗闇でサーベルはオレンジ に輝いた。 ラミーの身体が空を舞う。サーベルが風を切る音をたてた。 ”ブゥン!!” 怪物の身体をオレンジの光が裂く。真っ黒な血しぶきが吹き出した。 「グゲゲゲ・・・」 たしかに肉はえぐられているのに怪物は死なない。床にトンと降りたラミーの身 体をなめるように見つめる。 「ラジアン、いつまでも寝ているんじゃないの!」 ラミーに呼ばれたラジアンはムクリと起き上がった。ラジアンは無数の命を持っ ている。死ぬことなどありえないのだ。 「クワーッ!」 黒猫が首のない怪物の頭に飛び掛かった。 「おもしろい見世物だろ」 船橋の船内モニターで怪物と魔女の戦いの見ていたチャイルドワンスのナンバー 3、ジェームス・ケラーは隣の席に掛ける男に言った。 男は黒いスーツに白いネクタイをしており、黒いマスクで顔を隠していた。なぜ 顔を隠すのかわからないが、本人はファッションだといって取ろうとはしない。 「悪趣味だな」 男はモニターを見ながらつぶやく。 「おいおい、この計画を立てたのはあんただぜ、マスクマン」 マスクマン。男はいつからかチャイルドワンスの連中からそう呼ばれていた。 「DNAの組み替えで造ったバケモノがあんなに醜いとは思わなかった」 「その組み替えもあんたの差し金だろ。だいたい、そんな大掛かりな事どこでやっ たんだ?」 「知り合いに頼んだだけだ。チャイルドワンスだけじゃ頼りない」 「なんだと!」 ジェームスは席を立つと、マスクマンに掴み掛かる。 「おちつけよ。研究所を味方につけたんだぜ」 ジェームスはマスクマンを睨み付けると自分の席に戻る。 「マスクマン、協力は感謝するがあんたはチャイルドワンスのメンバーじゃない。 少しは遠慮してほしいものだな」 「そうだな、注意するよ」 ラミーが空を舞う。暗闇の中で、ビームサーベルの輝きが怪物の醜悪な身体を切 り裂く。怪物はそのたびに血まみれとなる。しかし、死なない。 「ラジアン!」 ラミーの掛け声とともに、ラジアンが飛び掛かる。鋭い爪が怪物の肌に食い込む。 ラミーはビームサーベルの先端を怪物に向ける。サーベルのオレンジ光がレーザー のように発射された。 「グェグェ・・・」 怪物がケラケラ笑っている。ラミーは唇を噛んだ。 「ウニャニャ」 ラジアンは再びチャレンジ。ポーンと飛び上がり怪物の首筋に食らい付く。 怪 物の触手がそれをはらう。しなやかな鞭のようにラジアンの黒い毛皮を叩く。 「ウギャー!」 ラジアンは空中で木の葉のように舞い、そして床に落ちた。 怪物の触手がラミー目掛けて伸びる。右から、左から、何本も何本もラミーに襲 い掛かる。ラミーは必死にサーベルで、迫りくる触手を切り落とす。ビームで焼く。 しかし、触手はテラテラと濡れたような輝きを放ちながらラミーの身体に巻き付 いてくる。 「放せバケモノ!!」 一本の触手が巻き付くと、それに習うように残りの数百本もの触手が巻き付く。 ねばりのある液体に濡れた触手が、ラミーの可憐な身体を取り込んでいった。 「気持ちが悪い」 べたべたと身体に張り付く、ねばりのある液体。性感を刺激しながらうごめく触 手。ラミーの意識は遠くへ消えていこうとしていた。 快楽死。 そんな言葉が似合う死にかた。ヴィーナスレノアの魔女には似合いかもしれない。 そんなことを思いながら溺れていく。 「・・・ラミー・・・ラミー・・・ラミー」 どこかで声が聞こえている。 「・・・ママ?」 それは遥か昔に死に別れた母の声。 「・・・ラミー、もうやめてちょうだい。お願いだから、普通の女の子でいて」 「ママ。そうね、あたしは普通じゃない。生まれた時から、大人たちを脅かした 吸血鬼。神父を殺害し、キリストに戦いを挑んだ女」 「・・・ラミー。あなたは私の大切な娘なの」 「ありがとうママ。でもね、あたしはルシファの恋人なの」 こいびと・・・ それなのに、今はアフロディテの味方をしている。愛と美と豊 穣の神アフロディテ。あたしは堕天使ルシファの考え方に共感したはずなのに。 「クククッ・・・」 笑っている? 誰かがあたしを笑っている。笑うがいいわ、いまやあたしはルシ ファからも見捨てられた。 「起きろよ、淫乱の魔女」 暗い牢屋のような部屋でラミーは目を覚ました。一瞬、地獄の闇かと思ったが、 そうではないようだ。 「生きている?」 ラミーはゆっくりと、固い床から身体を起こした。 「目が覚めたかい、淫乱の魔女」 ラミーの前に青年が立っていた。ヘラヘラといやらしく笑っている。 「誰よあんた」 「チャイルドワンスのジェームス・ケラーだ」 ラミーはべっとりと濡れたマントからビームサーベルを取り出す。輝きとともに サーベルの先端をジェームスの鼻先に突きつけた。 「慌てんじゃねえよ」 ジェームスはスッと、闇の一点を指差した。 「!」 そこには震えながら座り込む男。神宮府の神官、ザンルフ・カイがいた。 「変なマネしたら、あのオッサン殺すぜ」 「なにが望みよ」 「へへっ、そうだな」 ジェームスはいやらしく笑いながら、ラミーの身体をなめるように見る。 「オナニーしてよ」 「?」 ラミーは何を言われたのかわからずキョトンとする。 「オナニーしろって言ったんだよ。やらなきゃ、オッサン殺すぞ」 「ガキがぁ、誰に向かって言ってんだ」 「へへっ、脅しじゃねえぞ」 ジェームスは神官のところへ行き、ザンルフの胸倉を掴むと手に持ったナイフで 鼻の先端を削った。漆黒の闇の中、真っ赤な血が吹き出す。 「うわーっ!!」 ザンルフの叫び声。泣き叫び、命ごいをする。 「助けてくれぇ、欲しいものは何でもやる。金でも女でも君の好きなだけ」 ジェームスはケラケラ笑った。 「聞いたか? これが神宮府の最高権力者のお言葉だ」 −3−へ・・・
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