長編 #2332の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
黒い川が僕を呼んでいる。寂しさに耐えかねている僕を呼んでいる。 孤独だった。このまま青春が過ぎ去るのがたまらなく悔しかった。 僕は再び来ていた。この思い出の黒い川に。僕はもう26になろうとしていた。思 い出の黒い川は以前と少しも変わりなく流れていた。死神が僕の胸のなかを飛翔して いるのがはっきりと感じられていた。このまえここへ来たときからもう何年になるだ ろう。僕はあのときは池田の下宿からずっと歩き続けてこの川縁を歩いていた。そし て今は大学にクルマを止めてそのままこの川縁へ来た。いつからかジャンバーの内ポ ケットの中に綺麗に折り畳んで持ち歩くようになっていた白い自殺用の柔道の帯を忘 れずに僕は持ってきていた。 試験があと一ヶ月と迫っているのだが、僕は留年しそうな気がしてたまらなかった 。僕は極度の不眠症に陥っていた。毎日2、3時間しか眠れなかった。そして悪夢ば かりを見て唸されていた。 毎日毎日が孤独との戦いだった。僕は学校へ行ってもほとんど誰とも口をきかなか った。そしていつも教室の端の方に腰かけて石のように固くなって座り続けていた。 誰も僕に話しかけて来る人はいなかった。たまに僕に声かけてくる友人もわななく 僕の口唇と小さなかすれた声しか出ないためあまり会話にならなかった。そして友人 も僕に喋りかけるのをあまりしないようになっていた。 孤独だった。いつもいつもこの浦上川の黒い流れは僕の心を鏡のように写してい 驍謔、だった。この川の流れは僕の涙のようだった。僕の悲哀感と寂しさをそのまま 表現したような川の流れだった。 僕はもう何年前になるだろう。僕は何年か前のようにふたたびこの川縁をあの秋月 町の方向へと歩いていた。幸せはそこにあるような気がしていた。この川縁をずっと 歩いていった果ての所に。 思い出のその場所は、僕が高三の頃あの子と出会ってから一週間ぐらいして日曜日 に尋ねていった所だった。結局あの子とは出会えず僕は寂しさを胸いっぱいに抱えな がらバスに揺られて夕暮れどき虚しさとカラスの鳴く声に包まれながら家に帰ってき た。あのときのあの場所へと僕はいまふたたび向かっていた。なんだか高校の頃に戻 ったような嬉しさも少し感じられて僕の孤独感は少し癒されていた。 今度こそはあの子が大きな瞳をらんらんと輝かせながら両手をいっぱいに広げて僕 を迎えてくれる。疲れ果てた僕を抱きしめてくれる、という気がいっぱいにしていた 。 彼女の白いふくよかな胸に抱かれて僕の26年近くの苦しい人生が報われる気がし ていた。 でも、ふっと湧いていた僕の幸せな幻想も冷たい北風が吹くとともに川面の方へと 流されていった。川面の上であの子が僕に向かって手を振っているようにも感じられ た。寂しげなとてもいたたまれないような別れの合図を。 そして僕は半分泣き被りながらふたたび川縁を秋月町の方へ、秋月町の方へと歩き 続けていた。北風とともに僕の青春は過ぎ去ろうとしているようだった。背中に吹き つけてくる冷たい北風とともに。 そして僕はあの子の笑顔が風とともに吹き流されてゆくのを感じるとともに歩く元 気を喪くしかけていた。足が重かった。何年前かと変わらないしだれ柳の下を歩きな がら僕は自分がめっきり歳をとってしまったことを自覚していた。 ああ、僕の頭が腐り始めている。毎日の深酒がいけないのだ。僕はこの頃3日か4 日で1、8リットルのホワイトリカーを空けている。そしてそれでようやく2、3時 間の睡眠をとれていた。 僕はもう発狂寸前だった。僕はもう分裂病の一歩手前の人間になっていた。吃りは もうトランキライザーを飲んでも効かないようになり、少し緊張するとすぐにチック が出るようになっていた。 僕は淋しく一人ぼっちで廃人になりつつあるらしかった。川縁を歩きながら自分が このまま灰になって吹き飛ばされていきたいな、と何度も思った。 僕の躰が灰となり 浦上川の川面に散っていったら そして僕の苦悩と寂しさもすべて喪くなり 僕は白い翼を持って天国へ旅立てたら あの子の待つ天国へ 旅立てたら
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「長編」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE