長編 #2327の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
僕はさっきからずっと夕陽を眺めていた。そして僕は窓辺からそっと離れた。 2年ぶりにあの松山の思い出の国際体育館に行く決心をつけたのだった。あのコの 瞳が待っているような気がしていた。あのコが薄暗い観客席の片隅で悲しい化粧をし て待っているような気がしていた。 道を歩いている僕をあのコの瞳が見ている…僕を照らしている…という思いが最近 頻繁に起こっていた。そして思い出の高総体の日は近づきつつあった。僕がそう感じ てきたのは5月の初旬ぐらいからだったろう。 大きな瞳と白いまるっこい頬とそして白いまるっこい肩。そしてその上のギリシャ 文字めいた模様。 眠っていてもくっきりと僕の目に浮かんでくるその文字。 僕はそれが活水高校の制服だっていうことを最近やっと気づいた。遅かった。遅過 ぎた。そして僕は青春を見喪ってしまったのだ。 でも高校の頃も僕は気づいていたのかもしれない。でも僕は何の行動も取らなかっ た。僕はその悔しさをバネに必死になって勉強するだけだった。それしか僕にはでき なかった。ラジオの伝言板のコーナーに出すなんていう才覚は僕には沸いて来なかっ た。 あのコの瞳は太陽のようだった。そして頬もまるっこくてあのコの顔は太陽のよう だった。 あのコは僕の知らない処であのコだけの楽しい青春を送っていることだろう。きっ と僕の知らない誰かほかの男と一緒に。 そしてあのコだけの輝く青春を… 僕の知らない処でのあのコだけの輝く青春 を … あのコの思い出は僕の暗かった2年間のこの青春時代の移行期において僕を暗闇か ら照らしてくれていたたった一つの太陽だった。僕の青春時代を照らしてくれていた たった一つの太陽だった。 彼女の丸っこい白い肩にはギリシャ文字めいた刺繍がしてあってそれが僕の目を幻 惑させた。薄暗い観客席の中で憂愁に打ち沈む僕の目を幻惑させた。 その模様は僕と彼女を天国へと運んでゆく幸せな白い船のようだった。まっ白い幸 福の船の船縁に刻まれた幸福の彫刻のようだった。 僕の高校一年の終わり頃からの三年間の懸命な努力は虚しい塵となって消え、そし てその塵の消え去ったあと僕には空白の…そして長い6年間は続くであろう長い大学 生活が残されていた。 僕に残されていたのは長い果てしもない霊界の道のようだった。白い…まっ白な霊 界の道のようだった。 ----コートでは北側のコートで僕らの東高の試合が始まっていた。河野(僕と一緒 に来た友人)は友だちが試合に出ているので北側の長崎東の(たしか川棚高校だった と思うけど)試合を熱心に見ていたけれど、僕は南側の方のコートの試合を見たりし ていた。僕らの座っている所はガラ空きで僕らは2人ポツンと座っていた。 そのときだった。僕のななめ前方5mぐらいの所にとても可愛いとても目の大きい 少女が僕を見つめて立っているのに気づいたのは…。ちょっとポッチャリした感じで そして今まで見たこともないほど目が大きくて…。そして今までに見たことがないほ ど美しい少女だった。 彼女は始め横顔を見せて立っていた。でも大きな目で僕を見つめて…。今思うけど 彼女はそっち側の顔の方が自信があったからだろうと思う。そうして横目で…大きな 大きな目で…僕を見つめて立っていた。4分ぐらいそうしていただろう。でも僕は俯 いたりコートの方を見たりして知らないフリをし続けた。僕は中学2年の頃から大き な声がでないというノドの病気に罹っていて静かな所以外では女の子と恥づかしくて 口がきけなかったから… 彼女はそして今度は真っすぐに僕を見つめ始めた。横顔で見つめていては駄目なの だろうと思ったのだろう。でも僕は依然として無視し続けていた。でも無視し続ける ことはとても辛いことだった。彼女より僕の方がきっと何倍も何倍も苦しかったと思 う。僕はもし喋りかけられたらどうしようと思って苦しくて苦しくてたまらなかった 。 僕は苦しみながらも彼女を僕の記憶のうちの女性の誰かと照らしあわせていた。川 崎さん… 僕が中三の秋ごろ一目惚れしてラブレターを書いたけど出さなかった川崎 さんによく似ている。目の大きさといい顔の輪郭といいよく似ている。川崎さんなの だろうか。僕の胸に三年近くになる思い出が蘇み返ってきていた。また高校二年の後 半、昼休みに誰もいない運動場で突然川崎さんへの愛慕の念に駆られて駆け出したあ の青春の発作みたいな光景も思い返されてきていた。一度も口をきいたこともなかっ たけど僕は彼女の青白い肌とちょっとポッチャリとした肉体を体育発表会の予行練習 のとき砂場の横に淋しげに立っていた体操着姿のあの光景のままに思い出していた。 再び彼女に付き添っていた小さい2人の少女が彼女に帰ろうと催促したようだった 。でも彼女は『もうちょっと待ってね』とでも言ったようだった。彼女は依然として 微笑みつづけていた。 やがて彼女は僕に背を向けて歩き始めていた。なんだか僕からすべての幸せが去っ てゆくような気がしていた。またこれからの苦しみに満ちた年月が始まろうとしてい るような気もした。彼女が去ってゆくのは僕の少年期が去ってゆきそして僕の青年期 が…苦しみに満ちた青年期が…始まるような気がしていた。 彼女は途中で一回フッと振り向いた。でも僕は試合を見ているフリをするだけだっ た。寂しげに試合を見ているフリをするだけだった。 彼女たちは歩いて行っていた。僕からどんどん遠去かっていっていた。 僕はいつの間にか目を潰っていた。そして目を開けたとき彼女の姿はもうほとんど なかった。ノドの病気が追いやったのだ。彼女のちょっと太めの悲し気な背中が行き 先を喪ってオロオロと入口の方で動いているのが見えただけだった。 それから3日間、ボクは狂ったようになって勉強した。将来きっと耳鼻科の医者に なると思っていたのだ。----
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