長編 #2326の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
20 線路沿いの薄暗い道を、私鉄電車のライトが照らしていた。 踏切の音は、さほど大きくもなく、近寄っても耳障りでないほどに、鳴り響い た。 男は、誰も人の通らない、薄暗い道を走っていた。 吐く息の白さが、クリスマスイブだというのに、妙に、年の暮れの寂しさを感 じさせた。 バス停の前を通りがかったところで、男は立ち止まり、ゆっくりとベンチの方 に近づいた。 ベンチにうつ伏せになって眠っている女の顔を確認し、男は驚いて揺り動かし た。もしや、死んでいるのではと思った。 女が寝息をたてていることに気づき、男は、ふうとため息をついた。そして、 ポケットからクラッカーを取り出し、彼女の耳元で、上向きにクラッカーを鳴ら した。 パン! 大きな音がした。目を覚ました彼女は、飛び上がり、目を丸くしながら男の顔 を見た。彼女の顔をのぞき込んでいた男は、無邪気な笑顔を見せ、 「メリークリスマス」 と、言った。 女は起き上がり、 「あれ?」 と、首を傾げた。 「あれ、じゃないでしょう。こんなところで」 男が言った。女は、きょろきょろと辺りを見回した。 「今、何時?」 「もうすぐ、日付が変わります」 「そうか。飲み過ぎて、バス降りてここで休んでるうちに、眠っちゃったみた い……。ごめんなさい」 「随分、心配しましたよ」 男の言葉を聞いて、女は、ホッとした気分になったような気がした。 「さあ、早く帰らないと。お父さんも、登喜子ちゃんも心配してます」 「ごめんね。こんな時間に。仕事は終わったの?」 「ええ」 「そうだ。大晦日の日は、いいんでしょ?」 「ええ」 「一つだけ、わがまま言わせて。あのね。近くで、除夜の鐘が聞きたいの。ど こでもいいから」 「でも、大晦日はだって……」 「お父さんも、登喜子も連れて、みんなで行きたいの。みんなでじゃないと、 意味がないんよ。家族揃って、同じように、同じぐらいに落ち着いて、安らいで なければ、なんの意味もない」 「それじゃ、僕は……」 「駄目。あなたがいないと、それこそなんの意味もないの。私は、あなたにお 母さんのことを、たくさん話さないといけないの。私が小さい頃、ずっとお母さ んの側にくっついて離れなかったことや、大人になってから、反抗して家を出て 行ったことまで、何もかも。それに、あなたはこの先、家族になるんでしょ」 女は、男の手を握った。 「無理にわかってくれなくてもいいから、私の言いたいこと、聞いていて欲し いんよ。私と対等に」 「うん」 さあ、帰ろう。彼女は思った。 そして、この、今日という日の夜が、昨日までより、遥かに新鮮で美しく感じ られた。 私はどうして、こんなにもたくさんのものを愛するようになれたんだろう。 彼女にとって今、もっとも安らいでいられる人と歩きながら、懐かしい母の面 影を、思い出していた。 (おわり)
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