長編 #2316の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
10 紀美子にとって真夜中の町の探索は、日課のようになった。 どれほど体が疲れてようと、眠い目をこすり、マンションを出て三十分ほど、 ぶらぶらと家の近所を散歩する。 まるで何かを確認するように、毎夜、同じコースの同じ景色を見て回る。 元は、無言電話に起こされ、寝つけずに外に出たのが最初であった。だが、最 近ではこの真夜中の散歩の方がメインになりつつある。 体が覚えたのか、午前三時前になると自然に目が覚めた。 今日は四時まで待っていた。 しかし、いつもの無言電話がかかってくることはなかった。 紀美子が、無言電話の相手に話しかけたことは、正解だったのだ。おそらく、 あの言葉で、かける気がそがれてしまったのだろう。 こうなることは、紀美子にも十分に予想がついた。 あの、毎日の無言電話のせいで、迷惑を被っていたのは事実だ。 だが、目が覚めてから、三十分も待っていた。 なぜだろう。 そう考えて紀美子は、電話の向こうの彼(彼女?)の声を聞きたかったのだ、 と、自答した。 だから。 ……わざわざ、買ったばかりの留守番電話をセットして、家を出て来たのだ。 かかって来ないと、思いながら。 「はあ、なんなんだろ」 紀美子は、わざと声を出してつぶやいた。 下を向き、地面を追い、再び顔をあげると、通りの先の方で緑や黄色のライト が点滅していることに気づいた。 昨日まではなかったのか、それとも電気が入っていなかったのか。ちょうど紀 美子より一回り大きいぐらいの白いクリスマスツリーが、店のシャッターの前に、 ぽつんと置かれてあった。 「……きれい」 そう言って、紀美子は、生まれて初めて「きれい」という言葉を口に出したよ うな気がした。 誰もいない、紀美子の部屋。 電話のコール。留守番電話のメッセージ。 『……及川です。三十分ほど、外に出ます。何かありましたら、メッセージを 入れてください。無理にとは言わないけど』 そのまま、電話は何も残さずに切れた。 いつものコースより、さらに遠く歩き続けて、私鉄の線路沿いに片づけられた 屋台を見つけた。 ラッキーダコ軒という、たこ焼き屋の屋台だ。赤いちょうちん、ダンボールの 切れ端にフェルトペンで書かれた看板。そして、ソースの香りを思い出した。 紀美子には、たこ焼きについて、どうしても忘れられない詩がある。 それは、紀美子が中学生の頃に、何かの雑誌か新聞で見かけた詩で、誰が、ど ういう意図で書いたものか。解説でも載っていたかは、覚えていない。 内容はこうだ。 「あじけんの、 したくまえ、 たこやきを、 にょうぼと、 はふはふと、 やたいにて、 くっていた。 なつかしい、 あのころの、 れんあいよ。」 最初の文字をつなげると、「あしたにはやくなあれ」になる。 なんとも、ぶっきらぼうな言葉の連なりである。 あじけんとは、なんだろう。そう意識したのが、この詩との関わりの最初だっ た。 (つづく)
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