長編 #2303の修正
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近世大坂出版統制史序説(5) 夢幻亭衒学:Q-SAKU/MODE OF PEDANTIC 五、まとめ ここからは言いたいことを言いますので口調が変わりますが、他意はありませ ん。単に、趣味です。 個々の絶版事件・疑獄から、以下のことが言える。 まず第一に、統制システムの実際に於いて、奉行所と本屋仲間行事の間に、馴 れ合いの関係が看て取れる。「本命的精殺義」の事案で明らかになった裏工作(? )を思い出して欲しい。結果として取り締まり強化の方向を進めたこの事案は、 示唆に富む。 奉行所は取締の範囲を広げるに当たり、行事側から願い出る形をとれと言う。 行事は、それを受け手続きの方法を問い返す。奉行所は指示を与え、お膳立てを 約束する。猿芝居である。 此処で取り締まりの対象を確認しておこう。大雑把に云って二つある。版権絡 み(重・類版)と、既成権威への異見である。前者は経済的、後者は政治的な規 制である。近世に於ける出版統制は、本屋の同業者組合「本屋仲間」加入者が、 相互の商業利益を守るため版権の確立を目指したものであった。そして、この本 屋仲間成立と相前後して、幕府の出版統制法令が整備されていった事実を思い返 してもらいたい。 本屋側としては自らの経済的利益を守るため、重・類版の取り締まりを実現せ ねばならなかった。それがために幕府に本屋仲間創設を願ったのだ。世は泰平で ある。識字率の向上のため、重・類版が出現し問題となるほど出版が一つの市場 として確立し、書物の影響が無視できなくなったのだろう。幕府は思想統制機構 の創設を急がねばならなかった。此処に、両者の利害は一致した。 この時代の他業種「株仲間」の機能としては、次のような所が通説だろう。則 ち、商人としては特権者として独占的、排他的な商業活動と幕府、藩公認の特権 商人であるとの”信用”。幕府としては、特権の見返である「冥加金」「運上 金」にるる収入、そして商人を組織として把握することによって法令の徹底が期 待できる。 しかし、数ある商品の中で、「本」は特別な位置にあった。「本」の商品価値 は昔は、内容にあったのだ。広い意味での、情報である。情報の商品としての特 異性は、人間の思考に直接訴えることと、同時に同一の商品を複数の人間が共有 できる点にある。特に後者は、”場””集団”を構成せしむる。政治とは畢竟、 一定の状態に人々を導くこと、若しくは固定する行為である。故にメディアは政 治の道具として甚だ有効である。有効である以上、諸刃の剣だ。だからこそ、幕 府は書物を統制しようとした。異見の抹殺である。固定の政治とも言える。 前期の「猿芝居」は、商人尾経済利益と、幕府の政治利益の一致を示す、甚だ 饒舌な場面である。この場合、取り締まりの強化は、本屋が自らの経済利益擁護 を訴える形で行われただろう。そして実際には、強化という果実は、幕府の政治 利益とも一致していた。これぞ、政治であろう。 統制の実際から次に浮かぶのは、統制というものの杜撰さである。張り切って (?)絶版書「大学或問」の引用を指摘したはいいが、「大学或問」違いで、こ ともあろうに幕府制式の学・朱子の「大学或問」だった。しかし、これは笑い事 ではない。権力者の「杜撰」は「恣意的」と同義なのだ。権力者は殆ど宿命的に 恣意的だが、その歯止めとして法が存在する。これは別に近代に限った考えでは ない。儒書でも、まずは君主が法(のり)を遵守することが要求されている。上 長としての権利は天から無条件に与えられたものではない。然るべき義務を果た し初めて認められるものだ。義務を果たさなければ、天命が革され、放伐される のだ。仁政なくして忠良な民は存在し得ない。 続いて浮かび上がるのは、宗教論への敏感さだ。この点は指摘するに留めたい。 どうやら幕府支配の根幹に関わる問題のような気がする。政治と宗教が蜜月関係 にある以上、政治は安泰だ。宗教とは、人々を一定の状態に引きつける力が強力 な点に於いて、政治の別名なのだから。 最後に、天皇への過敏さが挙げられる。「桃園」の事例を思い起こして戴きた い。これも指摘するに留め、将来の課題としたい。只、この過敏さと徹底した対 応は、強調して、指摘しておきたい。 本来なら統制の対象である筈の本屋が統制の主体ともなっていた近世大坂に於 ける出版統制は、非常に強力な政治支配の形態と言えよう。何処が強力か? そ れは本屋たちが書籍のプロであること、そして幕府自体が表立って統制するより も厳密に、敏感に統制し得るためだ。では、彼らは幕府支配の走狗だったのか? 実は、そうではない。彼らは誇り高き浪速の商人(あきんど)であった。或る 時は行事として統制の尖兵となっていた人物が、行事の役に就いていない時には 逆に統制の槍玉に上げられている事例も少なからず、ある。当たり前である。売 れりゃ、イイのだ。商人が、自己の利潤を追求するに忠実な者ならば、彼らこそ 商人である。幕府の禁令なんざ、ヘッポコピーの、お尻ペンペンなのだ。 結論である。厳しい法整備を進める老獪な幕府、天皇に就いてはワケ解らない 侭(?)に無関係の言葉を字面だけで削除するほど過敏な反応を示すシステム自 体、直接的な経済利益擁護のために統制を積極的に受け入れ多分は自ら市場を狭 め、そして逆に経済主体としての側面では利潤追求のために禁令を冒す本屋たち。 これらの者たちが絶妙なバランスで絡み合う社会。そこには、一つの、完成した 政治世界が広がっていたのである。 日本、我が愛しき、そして麗しき祖国よ。……ケッ。 (了) 以上は昨年、日本史ボードにアップした物に加筆、修正したものれふ。 尚、間接的ながら、 示唆を与えてくれた書物を以下に掲げ敬意と感謝を表します。 S・ミルグラム「服従の心理」河出書房新社 京大日本史辞典編纂会「新編 日本史辞典」東京創元社 「情況 −特集 メディアと権力」1993・7月号 情況出版 書名は覚えていないが本屋で立ち(勃ち?)読みしたSM雑誌
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