長編 #2291の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ティナは目を固く閉じ、最期の瞬間を待った。 あるいはヒューイ一人なら、ロボット達の攻撃を避けることが出来たかも知れない。 しかしヒューイは背中にティナを庇い、槍を構えたままその場を動かなかった。 「……………」 いくら待っていても、ロボット達が攻撃してくる様子はない。ティナはそっと目を 開けてみた。 相変わらずロボット達は銃口をこちらに向けて、回りを取り囲んでいる。 しかしボイヤーの命令が下ったのにも関わらず、ロボット達が攻撃をして来る気配 はない。 −−プシューッ−− 一体のロボットが黒い煙を上げながら、その場に崩れ落ちた。 それを合図にしたかのように他のロボット達も次々に煙を上げて倒れ始めた。そし てティナとヒューイを取り囲んでいたロボット達は一体残らず、役に立たないスクラッ プとなった。 「な、何が起きたのだ」 ボイヤーが狼狽えた声を上げる。 それとは対照的にティナの目は輝いた。そしてヒューイの顔にはそれまで以上の不 敵な笑顔が浮かぶ。 ティナとヒューイの目には、ロボット達が出現した入口から現れた少年少女達の姿 が映っていた。あの工場で働いていた子ども達だ。 そして彼らに続いて現れたのは、ティナとヒューイの大事な友人。ヒューイに勝る とも劣らない戦士ラガと、全身に受けた傷も完全に癒えず、ラガの肩を借りながら歩 いてきた少女ミン。 「ヒューイ」 「ラガ」 「ミンちゃん」 「ティナ」 それぞれに友の名を呼び合う。四人の胸に様々な思いが交錯し合う。 「ミンちゃん、大丈夫なの」 ティナはミンの元に駆け寄り、ラガに代わってその小さな体を支えた。 いくら回復力が早いとはいっても、死の直前まで行った怪我である。そう簡単に癒 えるはずはない。 「この馬鹿は、足手まといになるから来るなと言ったのだか、這いながらでもついて 来ようとするんでな。仕方無く連れてきた」 相変わらず乱暴ではあるが、ラガの言葉にはミンに対する優しさが感じられる。 「ティナが心配だったから……ラガに無理を言って、ついて来ちゃった」 気丈にもミンは笑って見せた。 「チッ、ティナ一人でも手を焼いていたのに、足手まといが二人も増えたか」 友の登場を喜んでいるはずなのに、ヒューイは憎まれ口を吐いて見せる。 「ふん、一人前の口を聞くようになったものだな。貴様などどうなろうと知ったこと ではないが、よちよち歩きの小僧にミンの大事な友達を任せるには、あまりにも不安 だったのでな。村は親父に任せて来てやったんだ」 「フフフッ、ハハハハハハ」 ボイヤーの高らかな笑い声が彼らの再開の言葉を遮った。 「なるほど。貴様が子ども達を扇動していたのか! この蛮賊め」 「なんだ、あいつは」 ラガはボイヤーの仮面に明らかな不快を示した。 「ティナの親父さんの友達らしい。そして、どうもこの黒くて固い獣達の親玉でもあ るみたいだ」 「どうする、この獣達はここに捕まっていた連中の力を借りて、ぜんぶやっつけたが ……。あいつもやるのか?」 「ティナ次第だな」 ヒューイとラガ。二人の勇敢な戦士の目がティナに注がれた。 ボイヤーの狂ったような笑い声が響いていた。 「行きましょう、もうここも危ないわ」 いつの間にか炎がこの部屋にまで廻っていた。 他の子ども達も次々に部屋を後にする。四人も彼らに続いて出口に向かった。 「ちょっと待って」 ティナが足を止めた。 「ラガ、ミンちゃんをお願い」 そっとミンをラガに預けた。 「ティナ」 「先に行ってて」 「だけど、もう火が」 「お願い」 ティナの強い意志に押されヒューイ達はミンを連れて部屋を出た。 踵を返し、ティナはボーイヤーの元へ戻っていた。部屋の隅々では小さな炎が上がっ ている。 ティナはボイヤーの前で足を止めた。ボイヤーの笑いがぴたりと病んだ。その横に は付き添うようにミディアがいる。 「なぜ彼らと行かぬ?」 ボイヤーの声は落ち着いてた。それは決して気のふれた者の声ではない。 「ボイヤーさん、ミディアさん。あなた達もいっしょに行きましょう」 「……………」 ボイヤーの口許が微かに微笑んだ様に、ティナには見えた。 そしてゆっくりと語り出すボイヤーの言葉は優しさに満ちていた。 「この私に、彼らと共に生きろと言うのか…………せっかくだが、それは出来ない。 確かに………どうやら私のやろうとしていた事は、この世界に必要な事では無かった のかも知れない。だが、私は飽く迄も文明人だ。君の様にこの世界に同化することは 出来ないのだよ。 ティナ、子どもの君には分からないかも知れないな。」 ボイヤーは立ち上がりティナに背中を向けた。 「待って! 何処に行くつもりなの」 「もうすぐこの研究所は炎に包まれる。この世界は私が与えようとした文明を、拒否 したようだ。ならば私も、この建物と共にこの世界を去ろう。 フフッ、思えば私もあの時、友達といっしょに天に召されるべきだったのかも…… だが今日まで生命を長らえたのは、君やヒューイ君達、新しい時代に撒かれた種を 神が古い時代の私に見せる機会を、お与えになったのかも知れん。 さらばだティナ。強く生きるがいい」 そしてボイヤーは炎の中へと消えて行った。 「だめ!」 その後を追いかけようとするティナの前に、ミデイアが立ちはだかった。 「これでいいのです。やはり博士や私は、この世界に必要な者ではなかったのでしょ う。博士とは私が行きます」 「でも……でも」 ティナの目には涙が溢れている。 「聞き分けなさい、ティナ」 「いや、ママ」 ママ……その言葉にミディアは嬉しそうに微笑んだ。そしてティナの後方に向かっ て話掛ける。 「出ていらっしゃい、ヒューイ。そこにいるんでしょう?」 ミディアに呼び掛けられ、立ち去ったはずのヒューイが姿を現した。 「さあ、ティナを連れて行って。決して放してはいけませんよ」 「分かってる」 力強く頷き、ヒューイはティナの体を抱え上げた。 「さあ、行って!!」 部屋を囲む炎が強くなるのを見て、ミディアが叫ぶ。それに呼応してヒューイは出 口へと駆け出した。 「いやあっ! お願い、放してヒューイ。私の………私のママとパパが!」 ティナ達が去って行くのを見届け、ミディアはボイヤーの後を追った。 ボイヤーはティナのために用意した部屋のベッドで横になっていた。 ここにはまだ、炎は廻っていない。 「博士………」 「ミディアか」 ボイヤーの顔からはあの仮面は外されている。 「あの子は………ティナちゃんには、分かっていた様です」 「そうか」 「それから、私の事をママと呼んでくれました」 「当たり前だ。あの子は素直な子だからな」 満足そうなボイヤーの横にミディアはそっと腰を降ろした。 「はい、本当に良い子です」 「ミディア、お前もティナ達と共に行っていいのだぞ」 「私はあなたの妻です。あなたと共に」 「フフフ、天国に行ったら、私は重婚罪になってしまうな。いや、どちらも同じお前 か?」 ミディアはクスリと笑ってみせた。ボイヤーは体を起こし、ミディアの肩を抱いて 口づけを交わした。 「あの子は強く生きます」 「ああ、そうだ。何と言っても私とお前の娘だだからな」 ボイヤー……いや、ランディスはとても満足そうに言った。 「ティナ、どうしたの?」 燃え盛る建物を見つめながら涙を流すティナに、ミンが心配そうに声を掛けた。 「なんでもない。なんでもないのよ、ミンちゃん」 ティナは腕で涙を拭い、この小さな友人に微笑んで見せた。 『そうだわ、私より小さなミンちゃんが、私より辛い思いをしながらもこんなに強く 生きているんだもの。私が泣いてちゃ行けないわね』 「ティナ、これを」 どこに持っていたのだろうか。ヒューイが小さな首飾りをティナに差し出した。 それはミンがくびに掛けているものとそっくりな、首飾りだった。 「えっ? 私にくれるの」 「もらってくれるかい」 「ええ、ありがとう」 ヒューイはぎこちなく、それをティナの首に掛けてやる。 ラガがにやりと笑うのがティナには見えた。 「ほら、ミンちゃん。お揃いね」 嬉しそうにティナは首飾りをミンに見せた。 「おめでとう、ティナ」 ティナ以上に嬉しそうにしたミンは、思わずティナの首に抱き着いて言った。 「えっ? 何なのミンちゃん」 「だって、これでティナもちゃとヒューイの奥さんになる事が決まったんだもの」 ティナは理解した。この首飾りは婚約指輪のような物なのだ。なるほど、以前、ラ ガに首飾りを取られそうになったミンが必死で抵抗したのを思い出した。 「そんな…私、そんなこと知らない………」 驚いたティナは首飾りを外そうとしたが、やめた。 「いいわ、ヒューイ。お嫁さんになってあげる」 ティナはヒューイの頬にキスをした。 『さようなら、パパ……ママ。私はこの世界で生きて行きます』 ティナは気付いていない。見知らぬ世界に迷い込み、泣いてばかりいたひとりの少 女が、今、消えてしまったこと。 そしてひとりの逞しい少女が誕生したことを。 【野生児ヒューイ・完結】
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