長編 #2287の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ランディス、起きろ。起きてくれ、ランディス!」 ロバートは激しく扉を叩く。 「何だ騒々しい……。待ってろ、今開ける」 中から突然夜中に起こされ、まだ意識のはっきりしないランディスの声が返って来 る。 「どうしたんだ、こんな夜中に」 たった今着替えたのか、それともその格好のまま眠っていたのか、いつも通りに研 究所での制服に身を包んだランディスが扉の向こうから表れた。 「どうしたんだじゃない! 急げ、逃げるぞ」 ロバートはいきなりランディスの手を掴むと、そのまま廊下を駆け出した。 「お、おい。逃げるって、何処に? 何があったんだ、ちゃんと説明しろ」 ロバートの手を振り切り、当惑しきった表情でランディスが尋ねる。 「火事だ、火事が起きた。もう消火のしようも無い。スプリンクラーも付けていたは ずだが、所詮は素人の俄か仕事だ、何の役にもたたん!」 「火事!? いったいどうして」 「奴等だ!! あのガキ共が逃げ出そうと企んで、発電機をぶち壊しやがった」 説明するのももどかしそうに、ロバートは一気に説明をした。 「なんだって! アダム……アダムはどうした?」 アダムとはランディスの助手をしていた少年の名前である。新しい世界の担い手と してランディスが付けた名前だった。 「真っ先に焼け死んだ。やつが反乱の張本人だったんだ」 逃げる場所など何処にも無い。 密林を徘徊する獣達に対して絶対的な安全圏を作り出していた建物は、いまや中に いるものを炎の中に閉じ込める檻と化していた。 火の廻りも予想以上に早かった。こうなるとその管理がいかにずさんだったか分か る様々な薬品が引火し、炎の勢いを助けていた。 それと同時に、それらの薬品から発生する有毒なガスが建物に充満していた。 出口を求めて走り廻るロバートとランディスは、その途中に誰とも会うことは無かっ た。 「他の……連中は……もう、みんな……死んでしまったの……かな」 ガスに喉をやられたランディスが苦しそうに呟いた。 「止まるな……ランディス、走るんだ」 ランディスが弱気になっているのを感じてロバートは激を飛ばした。 「だめだよ……ロバート。仮に……逃げ出せたとしても……外は危険な獣がうろうろ している。どっちにしろ……俺達は終わりだ」 「何を言ってる! そんな弱気でどうする……ティナちゃんに……ティナちゃんに生 きて会うんだろ」 「ティナには……会えるよ。今までそれを口にしたら……気が狂ってしまいそうで… …言えなかったが……ティナはもうとっくに死んでいる。だから……ここで死ねば天 国でまた……ティナと会えるさ」 「ランディス……」 ここで二人の会話は中断された。 炎が何かに引火したのだろう。突然の轟音と共に天井が崩れ落ちてきたのだ。 「ロバート!!」 叫びながらランディスが駆け寄ってくる。それがロバートの記憶する、生きたラン ディスの最期の姿だった。 夜が開けた。 暗いうちにその胃袋を満たした肉食獣は、各々の寝床に帰り眠りに就く。 夜に脅えていた草食獣達もおそるおそる、肉食獣達が眠りに就いたのを確認しなが ら互いに身を寄せ合っていた隠れ家を離れ、草を噛み始める。 冷たく心地良い風が吹き抜ける。 この危険な密林の中で、ほんの一瞬だけ訪れる爽やかな時間。 「う……ううん」 顔中に激痛を感じてロバートは目を覚ました。 「!」 目の前に黒く焼けただれた亡骸があった。 「ランディス!!」 ロバートにはそれが友人の顔であることがすぐに理解でき、その名前を呼んだ。し かし返事が返るはずはない。 「ランディス……」 友の死を知って、ロバートの目に涙が溢れ、気を失う寸前の出来事を思い出した。 ランディスは崩れ落ちる天井から、その身を呈してロバートを救ったのだ。 ロボートはそっと自分の生命を救ってくれた友人の亡骸を、体の上から退かす。そ れから激痛の原因を探ろうとして、自分の顔に手を充ててみる。 「ぐうっ!」 指に伝わる感触から、その顔がどういう状態なのか瞬時に判断できた。顔中に大き な火傷を負っているようだ。 「すぐに手当をしないと……」 横に退かしたランディスの亡骸に目を遣り、感謝をしながらロバートは立ち上がろ うとした。 「痛っ!」 今度は右足に激痛が走る。瓦礫の下敷きになっていたのだ。 「誰か! 誰かいないか!」 声の限りに人を呼んでみる。しかしそれに答える者はない。ロバートを残し、研究 所の人間は皆、死んでしまったようだ。 「すまんな、ランディス……。せっかく助けてもらったのに、やっぱり俺もここで死 ぬ運命にあるようだ……」 飢えて死ぬのだろうか…… それとも身動きの取れぬまま、肉食獣の餌食となって しまうのか。いずれにしろ、助かる見込みは無い。 生きることを諦め、ロバートは横になる。 「助けてもらって、こんな事を言うのも何だが…… 皆と一緒に焼け死んだ方が楽だっ たみたいだよ………」 何処からか、獣の鳴き声が聞こえてきた。 しばらくの静寂。 仮面の男……ロバート・ボイヤーは自分のために生命を落とした友人を思い出し、 そしてティナは生きていることを疑わず、懸命に探して来た父の死を知って。 「それじゃあパパは」 「そうだ……私を庇って死んだのだ」 ティナは心の中で張り詰めていた物が切れるのを感じた。もうティナの耳にはボイ ヤーの声も入らない。ティナの目には周りの近代的な光景も映らない。 「ティナ……ティナ」 誰かに肩を揺すられてティナは正気へ返った。いつの間にかティナの横にボイヤー が立っていた。 「え……あっ」 ティナはボイヤーの顔を隠す仮面を見つめたが、その目は虚ろである。 ボイヤーはそのティナの目を見て静かに首を横に振る。 「すまない……君にはいくら詫びても詫び足りない。あの時、私が死んでランディス ……君のお父さんが生き延びるべきだった。そうなっていれば、君にこんな辛い思い をさせる事はなかったのに」 「いいえ……」 残された気力の全てをかき集める様にして、ティナはようやく言葉を絞り出す。 「パパが……パパがその意志でボイヤーさんを救ったんです……私は今……パパの事 を誇りに……思っています」 やっとの思いでこれだけのことを言い終えると、ティナはボイヤーの胸に泣き崩れ た。ボイヤー腕が力強くティナの小さな体を抱き締める。 ティナはボイヤーの温もりに、今は亡き父の面影を感じ泣いた。
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