長編 #2286の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
子どもを捕らえることは、予想以上に困難だった。 この辺りの密林は何処も、狂暴な獣達が多く徘徊している。そういった状況の中に 存在する村では、弱い女子どもは常に村の中央にいて、滅多に村を離れない。 既に小銃等の武器を作り出す事は出来ていたが、それでも二十人足らずの、しかも 戦いに関しては素人のロバート達が村を襲撃するのには無理があるように思えた。 暫くの間はラジコンによる村の偵察が行われたが、一向に埒が開かない。 「ロボットを使って見てはどうでしょうか?」 誰かがそう提案した。 それは一瞬、漫画じみた発想に思えたが不可能な事ではない。 もともとこの研究所には義手や義足を研究してた科学者が多くいたし、この二年間 の努力の甲斐あって、簡単なものなら直ぐにでも開発できるまでの機能が整ってきて いた。 早速、この提案は実行に移される事となった。 「それがあのロボットたちなのね」 自分達のしてきたことを誇らしげに語る仮面の男、ロバート・ボイヤーにティナは 明らかな不快感を見せた。 「そうだ。我々はこの何もない原始の世界に、高度な文明の産物であるロボットを作 り出したのだ。 だが……」 不意にボイヤーの声が悲しみを帯びた。そしてその表情が曇って行くのが、仮面の 上からも感じられた。 研究所の中においては、かなり高度な自給自足が出来るようにはなっていたが、原 材料の精製からロボットを製作するのにはかなりの努力を必要とした。 幸いな事に、旧時代の都市が存在したと思われる地点では金属を多く含んだ岩石が 採掘され、彼らの為に大いに役立ってくれた。 そして、ロボットを製作するために研究所のスタッフの大半が、彼らの最低限の生 活を維持するための仕事をする者を除き動員された。 さすがにランディスも、このロボット製作には協力を惜しまなかった。その献身的 な貢献の理由を彼は「これもティナ達が平和に暮らせる世界を、蘇らせるためだから な」と笑って話した。 こうして3台のロボットが完成した。 このロボットはすぐに、選ばれたメンバーの手により目的の村の近くに運ばれた。 研究所から直接発進させるには、一度に入れられるエネルギーの量に問題があったか らである。 実験はほぼ成功した。 1台が途中で停止してしまったものの残りの2台がそれぞれ一人ずつ、男の子を捕 らえてきたのだ。捕獲の際、村人達の激しい抵抗にはあったが、彼らの使う槍や斧な どの石の武器は、ロボットの金属製のボディには全く無力であった。 「ロボットにも、何か武器を付けよう。そうすればもっと速やかに子ども達を捕らえ ることが出来る」 研究所に帰るヘリの中で、誰かが言った。手足を拘束されてヘリの隅にうずくまっ た少年達を見つめながら。 鼻唄を歌うものもいた。 彼らはまるで、釣果に浮かれる釣り人達の様でもあった。 翌日よりすぐに、少年達の教育が始められた。 しかし『教育』というのは言葉だけで、それは『調教』と呼ぶべきものであった。 言葉(英語)を解さず、獣のような唸りを上げて抵抗する少年達は彼らが一個の人 間である事を、教育する側に忘れさせた。 ある年のアメリカの誘拐事件に関する統計で子どもが誘拐された場合、大人のとき と比べて生きて帰ってくる率が低いと出ている。 証言力のある大人のほうが、生かしておけば犯人にとっては不利なはずだが、冷静 な話が出来る分だけ、相手が人間だという事を認識させられ、殺すことに抵抗を感じ るためだという。 逆に相手が子どもである場合、泣き声に逆上したりする事も多く、また人間を殺す という実感がないままに殺してしまうためではないかとその報告はまとめられている。 この場合もそれに似ているかも知れない。 少年達が研究所の人々と同じ人間であることは、忘れ去られていた。 抵抗する少年達には容赦のない、折檻が加えられた。殴る、蹴る。時には棒や鞭な ども使われて。 やがて少年達が抵抗を諦めると、本格的な教育が始められた。しかしこれも彼らの 予想していた様には進まず、その度に厳しい懲罰が少年達へ与えられる。 一方、新たなロボットの製作、そしてその量産体制も進められて行った。だが、生 産されるロボットはいつしか子どもを捕獲するためのものと言う目的よりも、各種の 小型化された武器が搭載され、兵器としての色合いが強くなっていた。しかし研究所 内には、この事に疑問を持つものはいない。 量産化されたロボットは次々と子ども達を村から連れ去って来た。それを阻止しよ うとする大人達を殺しながら。 小さなその村が滅びるのに、時間はさほど必要とはしなかった。 「思ったよりも、この世界には人間が多く生き残っている様です」 廊下を歩きながら報告書に目を通すロバートに対し、報告書の作成者は事務的に言っ た。 「しかし……一つ一つの村はどれも規模が小さいな。それに、ここから随分と遠い」 「仕方ないでしょう。今後は村を壊滅させない程度に、子ども達を連れて来る様にし ます」 「そうだな。まだ、いま以上に遠い土地に手を延ばすには余裕がないからな」 実際、滅ぼしてしまった村に代わりに子ども達を供給してくれる新しい村を見つけ 出すのには、大いに時間が掛かってしまった。 幸いな事に、始めのほうに連れて来た子ども達の教育が進み、ある程度の事が任せ られるようになったため調査に使える要員に余裕が出来る様になっていたが。 「で、教育の方は?」 「はい。何せ全く知識の無い獣の様な状態の者に二十世紀の知識を教え込まなくては ならないのですから。しかし努力の甲斐あって、現在七名の少年少女が、各セクショ ンに於いて助手を務められるようになっています。また、来週早々には三名が使える ようになる予定です」 「そうか」 ロバートは満足気に頷く。子ども達が徐々に使えるようになり、この世界に文明を 蘇らせると言う事が、段々と現実みを帯びて感じられて来る。 「どうだい、ランディス? 研究の進み具合は」 ロバートは久しぶりに訪れる友人の元に、出来るかぎりの笑顔を見せた。 「よう、ロバート。久しぶりじゃないか」 「すまん、この所忙しくてな。同じ建物の中にいながら、なかなか君の顔も見にこれ なくて」 「まあ、仕方無いさ。君が頑張ってくれるおかげで、俺もこんな研究が続けられるん だ。おまけに優秀な助手までつけてもらって」 ランディスがふと視線を送った先では、一人の少年が忙しげに動き廻っている。 一見すると髪もきっちりと整え、研究所の制服に身を包んでいるために他の職員と 見分けがつかないが、彼は一番最初に連れてこられた二人の少年のうちの一人であっ た。 「しかし正直な話、この世界の人間が、ここまで使えるようになるとは思わなかった よ」 「おいおい、それは無いぞ、ランディス。この世界に文明を蘇らせるという事も、子 ども達を使おうと言ったのも、みんな君だぜ」 「はは。得てして多くの科学者は提言はするが、自ら実行はしないものだ」 「その調子の良さは学生の頃から、全く変わってないな」 「君だっていつでもみんなに頼られ、いつの間にかリーダーにされてしまうのは、あ の頃と一緒だよ」 二人は互いの若い頃の姿を思い出して笑った。 深夜。 研究所の人々は、一部当直の者を除いては深い眠りに就いている。 天空には無数の星が輝く。 しかし、一歩建物を出た外の密林ではそんな星々愛でるような余裕を持つものは無 い。仮に、そんな感傷に浸る者があるとしたら、その者は次の瞬間にはその天空に召 される事となるだろう。 密林のなかでは太陽の消えた夜こそが、最も危険な時間である。 狂暴な肉食獣のほとんどが夜行性である。その底無しの食欲を満たすのには、己の 姿が獲物の目に付きにくい夜こそが都合いい。 夜目の効かない草食獣達は、木の洞や根元、あるいは少しでも見通しのいい開けた 地で互いに身を寄せ合い、辺りに気を配りながら長い危険な夜が開けるのを待ち続け る。 そうしながらもやはり今夜も何匹かの犠牲者が出る。今もまた、密林の何処からか 「きゅーん」というような、悲しい叫びが聞こえた。 まだ夜は長い。朝日が登るまでには、まだまだ多くの犠牲者が確実に出ることだろ う。 研究所の入口は、頑丈な鉄の扉で塞がれていた。 長い年月の間に風化して崩れ落ちた壁も、完全に修復されている。建物はほとんど 新たに作り直されていると言った方が正しいだろう。 密林に住む強力な爪を持った大猿でも、この扉に傷をつけることさえ難しい。 研究所の中は、その外を徘徊する獣達には絶対に侵入されることの無い、安全圏で あった。 また中にいる人々もその事を確信し、疑うことはなかった。 「ふぁーっ、もう二時か」 男は大きな欠伸をしながら腕時計に目をやった。男と共にカプセルのなかで止まっ た時間の中にいた時計は、男の目覚めと共にまた時を刻み始めていた。 その腕時計は、男にとって心の拠り所となっていた。 時間に拘束される必要の無い世界に有りながら、時計が刻む一秒一秒の時を気にし ながらでないと落ち着いて何もすることが出来ない。 原始に帰った世界にきてもなお、男は悲しいまでの現代人であった。 「コーヒーでも煎れてこよう」 「ああ、頼む」 男は一緒に当直にあたっていた相棒に、一声掛けて廊下へ出た。 「今度暇な時に、ポットでも作ろうか。コーヒーを飲む度に給湯室までいくのも面倒 だからな」 こういったところでまだ、日常生活には不便な残されていた。彼らがもともと科学 者だと言う事もあってか、むしろ日常の小物のほうが不足していた。 「ありゃ、豆が無いな」 給湯室に入って、男はコーヒーの豆が切れていることに気が付いた。 「ちいっ、明日の朝にでもまた、採りにいかなきゃならんな」 コーヒー豆と言っても本物ではない。密林の中に自生しているよくにた植物を代用 しているに過ぎない。 コーヒーを諦め切れず、男は給湯室をしばらく捜し廻ってみが、ついに見つからず そろそろ諦めようかと考えたとき、なにやら廊下のほうから物音が聞こえた。 「誰かいるのか? コーヒーなら無いぞ」 男の他にも何人か夜通しで起きている者がいる。その誰かが、やはりコーヒーを煎 れに来たのだろうと思った。 だがしばらく待ってみても返事は返って来ない。 「気のせいか?」 そう思って廊下へ出た途端、男の後頭部に痛みが走った。何か鈍器が降り下ろされ たのだ。 「ぐっ……」 廊下に倒れ、意識が遠のいて行く中で、男は己を襲った犯人の姿を見た。 「だから……原始人なんかを……」 研究所の中に入れるべきじゃなかったんだと思いながら、男は意識を失った。
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