長編 #2223の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ネイビークライシス 喫茶店らふぇーる。 呉駅前、マンションから歩いて3分程度のところにある。 洋館風のちょっとしゃれた店だ。 俺は降り続くどしゃぶりの雨の中を小走りに急ぐ。 傘をさしているものの、雨の勢いが強すぎて使い物にならない。 そんな豪雨から逃げるように店の前に立った。 重い木製のドアをゆっくりあける。奥のテーブル、やせた黒縁 めがねの男がこちらを見た。 「どうぞ座ってください」 男、近藤多一郎は紳士的な笑顔で椅子を薦めた。 俺は椅子に座る。テントドレスを着たウエイトレスが注文を聞きに くる。 「アメリカン」 ぶっきらぼうに言う。ウエイトレス、軽い会釈をしてさがった。 「どうしてあんな事したんですか」 単刀直入に聞く。いろいろと遠回りの話しをしてもしょうがない。 「国家のためですよ」 やせ細った体。学者風の男の口から漏れた言葉は意外だった。 どちらかというと、反体制を掲げるような感じ見えたのだが。 「あなたの口から、国家なんて言葉がでるなんて思いませんでした」 「君は勘違いをしているようですね」 多一郎は勝ち誇ったような笑顔をみせる。 「君にとって国家とはなんですか」 なんなんだこいつは。だから学者はイヤなんだ。 「自分は哲学とは無縁の生活をしているものですから」 俺は早く終わらせようと思った。 とにかく、多一郎にウイルスをばらまく事をやめさせればいいのだ。 しかし、多一郎にはそんな気はなさそうだった。 「国というのは、我々国民生活の集合体の事でしょう。会社で働き、 月々もらう給与で生計を立てる。毎日を一生懸命に生きている人々 の集まりでしょう」 やっぱり共産主義者か。こんなのとかかわっているとろくでもない 事になりかねない。 「自分に哲学はわかりません。とにかく、あなたがウイルスをばら まくことを止めてくれればいいんです」 「わたしはそんな国家を守りたいだけなのだ」 「あなたがウイルスをばらまく事をやめれば守れますよ」 自分のしてることをたなにあげて、なにが国家をまもるだ。 多一郎の表情が少し陰った。 「君は自衛官でしょう」 「だから、それがどうしたというんですか」 「日本国民の生命財産を守ることが自衛官の使命だと、自衛隊法の 前文には書いてあったとおもうが」 「だから、あんたがバカなことしなけりゃ国民は平和なんだよ!!」 俺はおもわず感情的になる。 「今のときの流れが、この国にとって正しいことなのか。わたしは疑 問を感ずるのです」 「PKOがどうだとかいう話しは聞きたくないね」 「どうしてですか」 「自衛隊のことなにもしらんヤツが、文献の知識だけでカナキリ声 だして反対しているのを見ると頭くるんだよ!!」 なんだか、多一郎にうまく乗せられている気がする。 「なんだ、あなたはわたしの気持ちをわかってくれているのではな いですか」 「え?」 いかん、やっぱりペースに飲まれた。 「今のこの国の世論は、自分たちの首を絞めている事に気付いてい ないんです。このままじゃ、この国は崩壊する」 「いや、だからそういう事じゃ・・・」 「平和というものは、本当の意味で戦って勝ち取らなきゃならない。 たとえば、自分の子供の命を奪おうとするものに対して、親は自分 の命と引き換えにしても守ろうとするでしょう」 「いや、俺が言いたいのは・・・」 「自衛隊という組織は、国民の生命と財産を守るためのものです。 しかしながら、その事を噛み絞めている人々がいったいどのくらい いるというのでしょう」 俺はなんだかおかしくなった。 なんのかんの言いながら、コイツも自衛隊というものを知らない。 「買い被りすぎだな」 ウエイトレスがにこにこしながらアメリカンコーヒーをはこんで来 た。俺はそれを口にふくんだ。 「あんた自衛隊をどのくらい知ってんの?」 多一郎はキョトンとしている。 「つまりさぁ、あんたも文献の知識だけでしゃべってんじゃない。 「どういうことですかな」 「自衛隊、俺の場合海上自衛隊だけど・・・ 俺たちは政治家のいいなりなるつもりもなければ、国民の盾になる つもりもない。 もっとも、防衛大学出たような高級幹部がどう考えているのかは 知らんがね。 すくなくとも俺達兵隊は、アホな日本国民のために死を選ぶことは しないよ。俺たちが死を選ぶときは、それは俺自身のプライドを満 足させるときだけさ。 あんた、プライドもってるかい? 自分の命と引き換えにできる だけのプライドを」 「そういった考えは自衛官としては不適切でしょう」 「だから、海上自衛隊を知らないといったんだ。もちろん集団行動 をしているのだから命令には従う。 ただし、いざとなれば現場の判断、臨機応変にやる」 「そんなバカな話し・・・」 「昔さぁ、太平洋沖で韓国漁船が遭難したことがあって、俺たちき くかぜは海上保安庁の要請で現場へ急行したんだ。 荒れ狂う波に襲われながら、彼ら韓国人たちは沈没しかけた船の上 で救助を待っていた。 しかし、台風がきていて海上は荒れていたんだ。 俺たちは艦の上で、どうする事もできずにいた。 そのとき、ひとりが救助にいくからと飛び込もうとした。 もちろん、海上は荒れている。飛び込めば命の保証はない。 きくかぜ幹部は自分の部下を死なせるような事はできない。 だから飛び込む事は許可できないといった。 しかし、彼は飛び込んだんだ。 台風で荒れ狂っている海へね。 結果、彼は運よく死ぬことはなく、韓国人たちも全員救助された。 彼は命令違反を犯したが、だれも彼を責めたりしなかった。 それどころか、表彰されたんだ。 これが海上自衛隊っていう人間組織さ。 そして、彼を尽き動かしたのは、自分は自衛官であるというプラ イドなのさ」 「しかし、潜水艦なだしおと釣り舟の第一富士丸が衝突したとき、 命令で救助しなかったと・・・」 「あんた、あんな話し信じているのか? なだしおはちゃんと救助したさ。あんなのはマスコミがでっちあげ たウソなんだよ。ニュース番組をおもしろくするための演出なんだ。 自衛隊はそれに利用されたんだ!」 多一郎は唖然としていた。やっぱりコイツはなにもわかっちゃいな い。 無責任にスピーカーでがなりたてている右翼と同じだ。 「話しはついたな。とにかく、もうバカなことはやめてくれ」 俺は席を立った。とにかくこれでおしまいだ。 「わたしはやめない」 多一郎は平然という。 「まだ、そんなことを・・・」 「すでに矢は放たれた。すべてはわたしの手の中にある」 「あんた、本当の目的はなんだ」 「君をなんとか仲間にしたいと思ったんだが、無理のようだな」 多一郎はテーブルの上に手を組み、ジッと俺を凝視している。 「本音をいうとだね、わたしはこの国の王となりたいのだ」 なにいってんだ、このバカは。 「あんた、精神病院いったほうがいいぜ」 俺ははきすてるように言うと、テーブルを離れ店を出ようとした。 多一郎は黙ってこちらを見ているようだ。 重い木製のドアを開けたとき、後ろから声が聞こえた。 「宣戦布告だな」と・・・ −7−へ・・・
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