長編 #2219の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ネイビークライシス 空中遊泳約1時間。 俺たちはコンピュータに抱かれながら、海上を航行中の護衛艦きく かぜへ着艦した。 さすがにパイロットはうまい。着艦時にいくらかの振動はあったも のの、きくかぜのヘリ甲板へきれいに降りた。 「銀次、ついたぞ」 俺は床で震えながら丸くなっている酒田銀次の体を揺さぶった。 「おっ、おう着いたのか」 えらそうに返事をする。さっきまで震えていたくせに。 パイロットと一緒にヘリを降りる。パイロットは待機室へ、俺たち は艦長室へ。 出航に遅れた報告をしなければならない。あぁ、気が重い。 「海士長、堤五郎ほか1名、ただいま護衛艦きくかぜに着隊いた しました」 「うん、ごくろう。ずいぶんのんびりだったね」 艦長は俺達の手前80センチのところに立って、にこにこしながら イヤミを言った。 この、にこにこしながらイヤミをいうのはこの人の得意業だ。 「はい、申し訳ありません」 銀次が精悍な顔でおおきく言った。 艦長はにこにこしながらもういよとばかりに自分の椅子に座った。 俺たちは、いそいそと艦長室を出る。 「それじゃ、着替えて持ち場へ行こうか」 銀次は悪びれたようすもなく、とっとと着替えにいった。 きくかぜの総排水量は5200トン。護衛艦の中では大きな部類 に入る。エンジンはガスタービン、簡単にいえばジェットエンジン。 と、いっても別に飛行機じゃないんだから空を飛ぶわけじゃない。 ジェット推進で、スクリューを回して走るのだ。 このタイプのエンジンはすべてそうだが、コンピュータによる制御 で稼動させる。 ちなみにエンジン本体が1億円、制御用コンピュータのMCSが 6千万円である。 このとんでもないバケモノを制御するのが俺や銀次の仕事だ。 現在、きくかぜに乗艦する俺たちガスタービン制御員は全部で6名。 「それじゃぁ、アメリカ海軍の救助のために緊急出航したんです か?」 俺は操縦室で任務を聞き、少し腹がたった。 洋上でアメリカ海軍のフリゲート艦が事故を起こした。 しかし、第7艦隊は演習中で動けないので、きくかぜへ向かって ほしいと米国国防総省から依頼があったというのだ。 ふざけんじゃない。自分の国の船ぐらい自分たちで助けろよ。 「俺たちゃアメリカから給料もらってんじゃないぞ」 俺はMCSのコンソールパネルをチェックしながら言った。 「まぁ、しかしペンタゴンは、そう思ってないんだろ」 制御員の先輩である山田海曹が、俺の言葉にチャチャをいれる。 「どういう事です」 「米国防総省ペンタゴンは海上自衛隊をファミリーとして見ている ってことさ。そうでなきゃ、海上自衛隊の敷設艦や音響測定艦に、 ペンタゴンの役人が乗艦したり、米海軍士官の研修を護衛艦でやっ たりするわけなかろう」 言われてみればもっともだ。きくかぜも、つい1ヶ月ほど前に米 海軍の士官候補生とやらが10人ばかり乗ってきた。 1週間ほどで帰っていったが、それでもけっこう大変だった。 「だから国内最大級の組織なんだろ」 銀次が偉そうに言う。 ふんっ、皆な知ったかぶりしておもしろくない。 そりゃ、俺だって海上自衛隊が陸上や航空自衛隊と違うことぐら い知ってるわい。だから、入隊したんじゃないか。 あぁ、おもしろくない。 操縦室へ機関長がやってきた。体の大きな人で、きくかぜの幹部 の中では一番体重がある。 「堤士長、内火艇のエンジン見といてくれるかね」 俺は機関長にいわれるままに操縦室を出ると、艦外に吊るしてある 内火艇へ向かった。 艦橋と煙突の中間に吊るしてある小型ボート。岸との連絡や遭難 時の救助につかうために、艦の両舷1隻づつ計2隻を保有してある。 ランチという呼びかたもあるらしいが、俺たちは内火艇と呼んでい る。 そのうちの一つに俺は上っていった。 冷たい潮風が吹いている。はっきりいって寒い。 きくかぜは高速航行しているのだから風がふくのは当然だが、こん なに寒いとは思わなかった。艦内にいるとわかんないんだよね。 「ジャンパー持ってくればよかった」 そんなふうに思いながらも、俺、けっこうここが好きだったりす る。 仕事がら、艦内から出てくることはほとんどない。 知らない人に護衛艦乗ってるというと、「海みながら仕事できて ね」なんて、言葉が返ってくるが、勝手な勘繰りである。 たしかに俺は海が好きだ。 しかし、航海中は操縦室と機械室と居住区の間を行き来するだけ で、こうやってのんびり海眺めるなんてほとんどないのだ。 濃紺色の海。そこをトビウオがはねた。 「あっ、バッタだ」 笑いたければ笑え。本当にバッタだと思ったのだ。 ちょうど秋、日暮れの草むらにふみいった時、小さな体にいっぱ いの羽をひろげてパタパタと飛んでゆく、あのバッタにそっくりな のだ。 まぁ、海にバッタがいるはずがなく、すぐにトビウオだとわかっ たのだが。 エンジンの整備のために、エンクロージャを剥がす。 小さなディーゼルエンジンがむき出しになった。 「燃料は入っているな、えっとオイルは・・・」 「おーい、五郎」 下から声が聞こえる。この声はヤツだ。うん、まちがいない。 「五郎くーん」 俺は宙吊りの内火艇から下をのぞいた。そこには見慣れたヤツがい た。 「銀次か、どうした」 「ほれ、飲め」 銀次は缶コーヒーをさしだした。 「おう、上ってこいよ」 俺は缶コーヒーを持ってきた銀次を、内火艇に呼んだ。 袖の下もらったら邪険にできない。 「ほっかほかだよーん」 うん、たしかに熱かった。 「もうすぐ現場到着だってよ」 「まぁ、燃料もオイルもあるしビルジも溜まってないから、いじる 所はないよ」 「そうか」銀次はにこにこしながら缶コーヒーを飲んでいる。 俺もひとくち飲んだ。熱い液体が体内をかけまわった。 **************************** ゆき子は無数に飛び交う電子信号の中を徘徊している。 ときどき、気の狂ったヴァイナリィがぶつかってくる。 「キャハ、おもしろい」 ゆき子はそれを見てけらけら笑う。くすぐったいのだ。 いや、快感に近いのかもしれない。 ゆき子はsexをしらない。 しかし、もてあますほどのパワー。そして深い洞察力と探求心で、 その知識はここ数日でかなりのものとなっている。 あるいは、それはゆき子という少女の体を包みこむ、ネットワーク という巨大な生き物の胎内だからなのか。 ホワイトノイズの中にチラチラと、それはまるで風にふかれてい るかのように見える。 「感じちゃう」 このあいだ見たテレヴィで覚えた言葉だ。 ずいぶん歩き回って、ようやくゆき子はみつけた。 アメリカ海軍のセキュリティゲートだ。 「みーつけた」 ゆき子はそのちいさな体にいっぱいの力を蓄える。 「いけー!」 おもいっきり、蓄えた力を放出した。 白いイナヅマのような電気が、重く閉ざしたゲートを破壊した。 **************************** 2機のHSS−2Bがローターを回し始めた。 空飛ぶコンピュータの異名を持つ、海上自衛隊自慢の白い巨大ヘリ。 このハイテクの申し子は、いままさに天高く舞い上がろうとしてい る。 艦上はざわめいていた。 俺は揺れる波の上、内火艇からそれをぼんやり眺めていた。 米艦の状態確認のため、艦長と機関長が内火艇で移動する。 機関長が俺に内火艇の後部艇員をやれといってきたのだ。 内火艇は、操舵手である艇長と前部と後部に付く艇員の3名で動 かす。 「もっと速力をあげろ」 機関長から言われれば、断れない。 内火艇は波を蹴って、コバルトブルーの海間を走る。 傷付いた米フリゲート艦が目前に迫っていた。 「でかい」 俺のすなおな感想だ。 フリゲート艦っていえば護衛艦のことだ。護衛艦っていったらきく かぜのことだぞ。きくかぜは5200トン しかし、こいつは1万トンはある。1万トン。 海上自衛隊で1万トンある船っていったら、南極観測船のしらせぐ らいだ。 それが、アメリカじゃぁゴロゴロしてんだ。 「ゴキブリもでかいなぁ」 ぼーっと、そのでかいフリゲート艦を眺めていた時、突然爆音が 俺の耳をつんざいた。 「なんだぁ!」 巨大なフリゲート艦の艦橋部分から炎が立ち上ったのだ。 艦長や機関長も立ち上がって唖然としている。 俺はなにが起こったのかわからず、ただ、ゆれる内火艇の上に立っ ているしかなかった。 −3−へ・・・
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