長編 #2218の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ネイビークライシス 長い長い雨が止んだ。 ずいぶん長い間、雨が降っていたので、ゆき子は晴れの日を忘れそ うになっていた。 赤い羽をした名を知らぬ小鳥たちが、うれしそうにはしゃぐ。 ゆき子も小鳥になりたいと思い、白い両手を精一杯広げてみる。 あたたかな日の光が、ゆき子の白く幼い体を包む。 「いいきもち」 言ってみる。言ってみた。 体がそう感じたわけではない。 このあいだテレヴィで知ったのだ。 「ゆき子」 白衣をまとった、やさしそうな青年が声をかける。 ゆき子は、その青年とおなじように微笑むと言った。 「お兄様」 *************************** 横須賀米海軍基地。 敷地内にあるスナックから鼓膜がぶちやぶれそうな大音響のハード ロックが響く。 にわかにざわめく店内。 「囲まれているな」 同期の酒田銀次がシリアスにつぶやく。 「しらねえぞぉ」と、俺。 まわりはいかれた野郎にとり囲まれ、俺達はまったくもって身動 きできない。 ただ、ギンギンに輝く無数のライトと、壁を震わすハードロックボ イスだけが頭の中をかけまわる。 「へへっ、ショータイムの始まりさぁ」 銀次は喜んでいる。こいつは本物のアホだ。 「おまえ、責任とれよ」 俺は言った。当然だ。もともと、こいつが悪い。 現役バリバリ、鋼鉄のような筋肉を持つ米海軍兵士たちに取り囲まれ 俺はびびっている。 銀次は喜んでいる。彼らを激怒させた張本人は、わくわくしながら 言った。 「Hy PiccoloMan!!」 銀次は右手中指をおッ立てて叫んだ。 20人はいると思われる兵士たちが、いっせいに向かって来た。 乱闘、いや破壊活動だ。椅子が飛び、テーブルが飛び交う。 プロレス番組なんか目じゃない。 俺は椅子で米兵の頭をぶん殴る。その後ろにいた兵士が、俺めがけて 拳を打ち込んでくる。それを椅子でかわして殴りかえす。 銀次も同じような戦法でやっている。なんといっても相手は世界最 強のアメリカ海軍である。組織もでかけりゃ兵士もでかい。 まともに取っ組み合いをやれば死んでしまう。 「死ねぶた野郎!!」 あいかわらず銀次は過激だ。 得に、今日はアルコールでいかれているからアブナイ。 こんなヤツと同期なんて思いたくない。あぁ、いやだ。 そう思いながらも、取り敢えず目前に迫る危機を回避せねばならな い。 俺はおおきく椅子を振り回す。 「銀次責任とれよ!」 俺は、楽しそうに米兵を殴り倒す銀次に叫ぶ。 「一ヶ月くらいの上陸止めぐらいガマンしろい」 冗談じゃない。なんで俺が上陸止めなんだ。いや、それぐらいで済 めばいい。へたすりゃ懲戒免職だぞ。 店内にMPが突入してきた。MP、ミリタリーポリス。 銃身の短いウージータイプの機関銃で武装してのお出ましだ。 「銀次、けーさつだぁ!!」 俺の頭は混乱していた。MPが来たということは俺たちは逮捕され るということなのかぁ。しかし、俺は悪くないぞ。それでも逮捕さ れるのかぁ!? いやだ、いやだ、いやだ。 銀次とどうして同期なんだぁ!! 「Be Quiet!」 MPは機関銃で威嚇射撃をした。 興奮しきった店内が静かになった。 俺はくたびれたソファーに座り、ぼーっと天井をながめていた。 雨漏りのあとが、くっきり残っている。あっ、ゴキブリだ。 軍の食堂から毎夜なにをくすねているのか、しっかり太っている。 「おい、ゴキブリまでデカイぜ」 俺は隣で、やっぱり同じように座る銀次に言った。 「たいくつだなぁ」と、銀次。 好き放題あばれておいて、なに言ってやがる。きっと今頃幹部連中 がおれたちの処分を考えているころだ。 そう、自己紹介が遅れた。 俺の名は堤五郎。今年で26才になる独身男。 職業は海上自衛官、と、いっても下から数えたほうが早いぺえぺえだ。 昇任試験を4回受けているが、なかなか受からない。 隣に座っているのが酒田銀次。呉教育隊(自衛隊の教育機関)出身 の同期だ。 「そういえば教育隊のときの班長さぁ、俺たちの事身ながら今年は 不作だっていってたな」 「へへっ、243期は不作だよん」 楽しそうに言うな。まったく、こいつと同期なんて思いたくないね。 今から7年も前、俺は教育隊を終業した。 そのとき銀次とは一度別れたのである。寂しさもあったが、これか ら始まる部隊勤務でコイツと一緒はいやだった。 なにせ、銀次は教育隊時代からこの調子だったので、俺自身もうん ざりしていたのだ。これが本音だった。 ところが悪夢はふたたびやってきたのだ。 2年間ほど掃海艇部隊で勤務した俺は、横須賀にあるエンジニア養 成のために自衛隊が作った、第2術科学校へ入校することになった。 そこへいたのだ、悪魔が。 俺は数ヶ月耐えることにした。 とにかく、学校を卒業すれば再び別れるのだ。数ヶ月間耐えよう。 しかし、神様はいじわるだった。 二人そろって同じ艦へ赴任することになったのだ。 それからずっとコイツとは腐れ縁でつながっている。 「なんか部屋の外が騒がしいな」 銀次が俺の思考を妨げた。 どうやら、MPが外をあるきまわっているようだ。 と、突然、部屋のドアが開いた。 「釈放ですよ」 そこに立っていたのは、ぴっちりとスーツを着込んだ長身の男だっ た。 *************************** ゆき子にとって彼は兄であり、親であり、あるいは世界の指導者 だ。 瀬戸内海に浮かぶちいさな島。 二人以外、誰もいない世界で、生まれたばかりのゆき子にとって彼 の存在理由は大きかった。 「この国はまもなく終末を迎える」 彼がいつものように、ゆき子に語るお話し。 「誤解と偏見が、良識ある人々を狂人扱いしている。まともな判断 能力を失った日本人の行く末に待つものは死だ」 やさしいマスクの下には、熱い魂が眠っている。彼はそんなひとだ。 「わたしはこの国を救うために、おまえを作った」 ゆき子を形作っている粒子がゆれた。感激しているからだ。 ゆき子はこころを持っている。 やさしさやさびしさやきびしさを知っている。 「わかりました、お兄様」 彼のお話しが終わると、ゆき子はきまってこう言った。 それを聞いて彼はにこにこしながら、ゆき子の頭を撫でる。 ゆき子にはこれがたまらなくうれしかった。 自分が生きている事を感じるからだ。 **************************** 「いまから、きくかぜへ向かってもらいます」 黒塗りの海上自衛隊パトカーを運転しながら男は言った。 「あんた警務官なの」 俺は聞いた。聞かなくてもわかるが、念の為に。 「横須賀地方総監部所属の浅沼というものです」 やっぱり、警務官だった。知らない人の為に説明しておくと、警務 官というのは自衛隊内の治安を守るおまわりさんの事だ。 米軍でいうところのMPに相当する。 「きくかぜは緊急出航しました」 浅沼なる海上自衛隊警務官はドキリとすることを言った。 「緊急出港?基地に横付けしてないの!?」 「現在、ハワイ沖に向けて航行中です」 ハワイだってぇ。横須賀からそのまま母港の呉市へ変える予定じゃ なかったの。これだから艦船勤務はいやなんだ。 「やっぱり航空部隊へいけばよかった」 そうだ、そうすれば銀次と付き合うこともなく、平和な日々がおく れたのだ。 「横須賀基地からヘリで移動してください。手配は出来てますから」 「緊急出航ってなにがあったのさ」 銀次がぶーたれ顔で聞く。おまえがぶーたれるんじゃない。 「詳しいことは艦にもどってから聞いてください」 当然といえば当然の答えがかえってきた。 護衛艦の行動はすべて極秘なのだ。こんなところで、警務官が教え てくれるはずがない。 そうこうするうちに、パトカーは海上自衛隊の横須賀基地へ入って いった。 海上自衛隊自慢の、白い巨大ヘリコプターがローターを回してい るのが見えた。 正式名称HSS−2B。護衛艦に搭載できる設計になっている。 内部は高精度コンピュータで埋め尽くされている、空飛ぶハイテクの かたまりだ。 俺たちはパトカーを降りると、まっすぐヘリポートへ向かった。 「なぁ、五郎」 銀次はなさけない声を出した。 「なんだよ」 俺は青い顔をしている銀次をみて心配した。いままでの、強気の銀 次からは想像もできない。 「どうした、気分でも悪いのか」 銀次は首を横に振りながら、ぼそりといった。 「俺なぁ、高所恐怖症なんだ」 −2− へ・・・
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