長編 #2216の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「傷心旅行」(4)−鬼畜探偵・伊井暇幻シリーズ− 久作 ●掠奪者の末路(伊井志摩里) ウルサイわよ、衒学、ちょっと待ちなさい。すぐに読んであげるから。ふぅむ、 「掠奪者の末路」ねぇ、オドロオドロしそうだわ。仲々奇麗な字ね。……解ってる ってば。朗読すりゃイイんでしょ。さ、読むわよ。 掠奪者の末路 中元 要蔵 その晩の月は、青く澄み切っていて、小さく固く、輝いていた。美しい月を見上 げ歩きながら、隣にMさんが寄り添ってくれていると、想像してみた。誰もいない 隣に目を向け、Mさんの無表情で呆やりとした横顔を思い描く。僕を求めてはいな い、だけど決して拒んでもいない人工的な程に超然とした眼差しが、嬉しい。 甘えたくなって、Mさんの肩に頬を載せた、つもりになる。心臓が胸いっぱいに 拡散して、触れ合う左腕が溶けていく。Mさんの心臓から送り出された血液が、僕 に流れ込み駆け巡り、皮膚の内側を愛撫し舐め回し味わい尽くして、再びMさんの 中へと戻っていく。こめかみの辺りが重くなる。僕の肉体が開いていく。夏草の裾 に纒わりつく音が耳に響き、靴底を通して小石が足裏を揉みしだく。肌に触れる着 衣が、微かなザワメキとともに小刻みの愛撫を加え、僕を凌辱する。一陣の風が背 後から駆け抜けざまウナジを嬲り、去っていく。自分の呼吸の音が乱暴に耳から侵 入し、脳をまさぐる。 僕は何かに足元をすくわれ倒れた。僕は、誰もいる筈のない林の中で、俯伏せに なった侭、Mさんの肉体が覆い被さってくるのを期待して、起き上がらなかった。 耳は自分の荒い呼吸と動悸を貪っていた。土に押し付けた皮膚は、冷たさを感じる 神経だけを残し、なくなっていた。もう僕に、背中はない。僕は存在しなくなって いた。僕しか存在しなくなっていた。 突如、僕は肩を掴まれ仰向けにされ叫ぼうとした口に柔らかい何かを押し込まれ た。下着ごとジャージが膝まで擦り降ろされる。急に空気に晒され、血液を充満し たファロスの存在を思い知らされた。頭上に持ち上げられた両肘の間接に重く鈍い 痛みがのし掛かってくる。動けない。漸く目の焦点が合った。目をギラつかせた中 年女が、醜く卑しい笑いで顔を埋め、見下ろしている。呼吸が再開する。口の中を 占拠した布から、生ゴミのような腐った蛋白質の臭気が滲み出てくる。吐き気が、 ひっきりなしに込み上げてくる。涙が溢れ、止まらない。 「くっくっく、おっ勃てちゃって。君みたいな歳頃は女とヤりたくって仕方ない でしょ。イヤラシイ想像をして毎日オナニーしてるんでしょ。お姉さんが溜ま りきった欲望を吸い出してあげるわ」Oだった。独身の中年女。男の無根拠な 思い込みに付け込んで、精を吸い取っている淫乱な吸血女だ。碌に働きもせず、男 を手玉にとっている。 「初めてなの。怖がらなくてもイイのよ。オマンコに歯が生えてるワケじゃなし」 女は腰を浮かせ、くねらせて僕のファロスをドロドロになった部分に宛てがった。 入れさせまいと逃げ場を探す僕の目に、剛毛に覆われ醜くたるんだ下腹が見えた。 「やめろ」と叫んだつもりが、情けない呻きとなって鼓膜を震動させる。 「ふふふ、天国に連れて行ってあげる」Oは狡い猫のような上眼遣いになって、 下卑た笑みを浮かべると舌舐めずりした。 僕は辱められた。Oの穴は熱く腐肉のようにヌルヌルしてイヤラシイ舌舐めずり の音を立てながら、僕を凌辱した。半分萎えたファロスはいきり立った時よりも、 遥かに簡単に何度もOの腐り切った箇所へと、嘔吐した。Oは僕の上で腰を躍らせ ニタニタと汚く笑いながら、下品な声を上げ続けた。時折、覆い被さってきては、 「男の子の乳首ってピンクで小さくてコリコリしてるわね」。中年らしい卑しく醜 い言葉を播き散らしながら、太く白さの目立つ舌と厚ぼったく締まりのない下品な 唇で、僕を犯した。 どのくらいの時間が経ったのか。漸く満足したのか、Oは動きを止めた。耳障り な声と荒い息遣いを僕の耳に押し込んできた。 「ヨカッタわよ。またシてあげる。パンティは上げるわ。それでアタシを思い出 してオナニーなさい。ほっほほほほほほ」Oは汗にまみれた醜く勝ち誇った顔 を振り上げ、高笑いすると、立ち去っていった。 女という醜い存在の最も汚れた部分と接することにより、僕は穢された。行為の 途中からは、怒りも悲しみも冷たく固まっていた。月が中天へと近付いている。M さんの求めない、そして拒まない優しく涼しげな顔が浮かぶ。僕は横向きになり、 赤子の様に体を丸め、目を閉じた。 「Mさん」フと唇を滑り出した空気が音となった時、僕の目から、止まらない涙 が溢れてきた。もう一度、より強くMさんの名を呼んだ。 ふらふらとOの家に近付いていった。目的はなかった、と思う。周りは人家も人 影もない。嬌声が聞こえてくる。腐り切った牝豚め。嫌悪感が悪寒となって、背中 を粟立たせる。生け垣のすき間から覗き込む。三十坪ほどの庭に五坪ほどの池を拵 えている。水は澱み腐臭を放っていそうだ。まるでOのように。 Oは池の中央にある一畳ほどの志摩に全らで寝そべっていた。醜くブヨブヨした 浅黒い膚が、月光を受け、妙にヌラヌラと輝いている。不格好にたるんだ、輪郭の 呆けた肉体が寝そべった侭、小刻みに跳ねている。 「チビはイイ子だね。そうだよ。もっと、お舐め」Oの股間には小さな座敷犬が 蹲りせわしない音を立てている。舐めているらしい。骨の髄まで腐り切った女だ。 バターを全身に塗りたくり、犬に舐めさせ悦ぶなんて。吐き気がしてきた。 「今日のアノ子、今ごろアタシを思い出してオナニーしているわね。嫌がりなが らも何度も出してたわ。きっと次は、あの子の方から……」言葉の終わりは喘 ぎに変わり、くぐもったイヤラシイ響きになった。殺意を感じた。音を立てないよ う気を付けながら僕は、自宅に向かった。 翌朝には僕は、心を決めていた。ベッドの中で、そう決心した時、屈辱は甘美な 感情へと変わった。胸から下腹へと降りて行き、ファロスの中に充満し、膨れた。 Mさんが優しい無表情の侭、手を伸ばしてくる。僕の手もシッカリと自分のファロ スを握り締める。ファロスから甘美に変換された憎悪を吐き出す時、僕にはハッキ リと、血塗れでのたうち回るOが見えた。 学校の帰り、僕はMさんが住む旅館の納屋に寄った。Mさんに犬が飼いたいと、 言ってみた。Mさんは犬が大好きで、白いムクムクした大きい犬を飼っている。難 しそうな金文字の本が並んだ大きな本棚を背にMさんは、子供みたいに無邪気に明 るく犬にまつわる話を色々してくれた。内容は覚えていないが、犬と人間との友情 物語だった、と思う。僕は、とても満ち足りた気持ちでウットリと、Mさんの楽し げな顔をみつめていた。 物語が尽き、軽い気まずさが訪れた。僕は思い切って野良犬を四匹捕まえるから、 手を貸して欲しいと頼んでみた。Mさんは怪訝な顔をしたけれど、理由も訊かず、 承知してくれた。 Mさんは僕を連れ山に登った。僕は早足になって、大股なMさんに付いて行く。 段々と息苦しくなってくる。二十分ほど登った時、とうとう僕は弱音を吐いてしゃ がみ込んだ。Mさんが振り返る。 「座ったら疲れが湧いてくるだけだ」Mさんの大きな掌が僕の肩に載る。ピクン と無意識の裡に、体が反応する。肩に意識が集中してしまう。Mさんの手が、僕の 脇へと滑り込み、持ち上げにかかる。温かく、少し湿っている。僕は赤ん坊のよう に、為すが侭に任せる。 「ほら、立ちな」と言いながらMさんが、僕のお尻を軽く叩く。叩いた後も少し、 ホンの少しの間、掌は留まっていた。ゾクゾクッとしてファロスがビクッと反応す る。深く、ゆっくりと息を吸い込み目を閉じる。 Mさんが後から抱き付いてきた。肩と首の繋ぎ目の、なだらかな肉に甘く噛み付 いてくる。左手が胸に、右手が股間に宛てがわれ、まさぐりだす、のを妄想するう ちに、ファロスが痛いぐらいに張り詰めてくる。再び歩き出すMさん、今度はノン ビリした歩調になっている。僕は、膨れたファロスが学生ズボンに擦れるのに悶え ながら、やっぱり遅れながら付いていく。 「あ、いたいた。ちょうど四匹いる」Mさんが指差す木陰には、獰猛な顔の犬が 舌を出し、こちらを窺っていた。 調教は二十数日にわたった。まず、パンから始めた。バターを塗ったパンを与え る。犬たちは、貪る。バターを塗らないパンを与える。貪ろうとした犬どもを、折 檻する。バターを塗ったパンを与える。犬たちは貪る。バターを塗らない肉を与え る。貪ろうとした犬どもを、折檻する。バターを塗り縛り上げた鼠を生きた侭、与 える。犬たちは、貪る。バターを塗らず縛り上げた鼠を生きた侭、与える。犬たち は、見向きもしない。調教は成功した。そして、仕上げに三日間の絶食。 絶食の間、犬たちは騒がしく吠えた。怒り猛々しい声を聞きながら、Oに犬たち が襲い懸かる場面を夢想し、興奮した。ファロスは張り裂ける程に膨張した。何度 も、手淫した。 澱み汚れた池。身も心も醜いOの死に場所には相応しい。淫乱なOは、池の島で 身度茂ないブヨブヨの浅黒い裸身を晒している。バターを塗りたくった全身が、ヌ ラヌラとエゲツなく輝いている。哀れな座敷犬が股間に蹲り、さかんに小さい舌を 遣う。Oは卑猥な嬌声を上げている。たるんだ肉体がブルブルと揺れる。 僕は四匹の犬たちを放す。先頭を切って飛び懸かった黒犬が、ダラシなく開いた Oの股間に噛み付き、引きちぎった。続く赤犬が叫び声を上げようとするOの喉笛 を噛み破った。身をかわし逃れた座敷犬は、島の端で震えている。もがき狂うOは バランスを崩し、不様に池に転落する。水飛沫が散る。ジタバタとむくんだ四肢を 暴れさせるOから微かにヒュウヒュウと湿った音が聞こえる。敗れた喉で断末魔の 叫びを上げているらしい。僕は、その音を聞き妙に可笑しくなる。池は赤く黒く濁 っている。僕は軽く笑いながら、可愛い犬たちの活躍を見守る。犬たちが汚い尻に、 たるんだ腹に、むくんだ腿にムシャぶりつき引き裂き食いちぎっている。怒張が限 度を迎えビクビクと蠢く。赤黒い飛沫が庭に降り注ぐ。犬たちは割いた腹に鼻面を 突っ込み、好物の内蔵を貪っている。臨界点に達したファロスが指に救援を求める。 指が到着するや否や、尿道を無理矢理に押し開き塊となった憎悪がドロドロと噴出 する。夜だというのに視界が真っ白になる。 Oは、もう微動だにしていない。膝の力が抜け、その場にへたり込む。静かだっ た。池からは軽い水音と、クチャクチャと犬たちが咀嚼する音だけが聞こえてきて いた。呼吸を静めるうち、大きくなった犬たちのザワメキに目を開ける。いつの間 にか十匹、いや、それ以上の腹を空かせた野良犬たちがOの肉塊へと殺到している。 醜くブヨブヨとたるんだ肉体が、汚らしく血塗れの骨へと、見る間に形を変えてい く。僕は座り込んだ侭、ジャージの中へと手を差し込み、すでに再び張り切ってい たファロスを掴んだ。カリカリと犬たちが骨に付いた肉を、こそげ落とす音が聞こ えている。僕は、今度は少しくしごき、二度目の射精を迎えた。 そして、ことは簡単に終わった。呆気なかった。僕の心は四週間ぶりに平安を取 り戻した。冷たく固く、こめかみの所で脈打っていた憎悪は、消え去った。心の汚 れは清められた。身の汚れは清めようもない。生きているうちは、あの汚辱は時と して、予告もなしに僕を叫ばせるだろう。Mさんの無感情な、だからこそ優しい横 顔を想い起こす時だけ、呪わしい凌辱を忘れていられる。だから、僕は生きていけ る。これからも、ずっと、生きていく。已上。 、だってさ。はぁあ、長かった。喉が乾いちゃった。 (つづく)
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