長編 #2215の修正
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「傷心旅行」(3)−鬼畜探偵・伊井暇幻シリーズ− 久作 ●第二の死体(唯野敬観:タダノ・タカミ) あぁあ、この村の駐在になって三年、今まで大した事件もなく無事に過ごしてき たというのに、どうして変死体が立て続けに出てくるんだ。誰かワシに恨みでもあ るのか。ワシももう五十を過ぎて巡査部長だ。出世なんぞ考えていないが、せめて、 平穏に残りの年月を勤め上げたい。田舎の駐在になって喜んでいたというのに。 中元要蔵、十六歳。若いのに手首なんぞ切って死によって。馬鹿タレが。そりゃ、 本人は苦しかったのかもしれん。悩んだんだろう。だがな、十年早いってヤツだ。 十年経って振り返ってみろ。その年頃が一番楽しかったように思えてくるもんだ。 人間の記憶なんてアヤフヤなものだ。ワシのように三十五年も外勤巡査をしていた ら、よぉく解る。たかが五分前の事件でも、目撃者の証言はバラバラ。所詮、人間 の目なんて、見たいようにしか見ていないもんだ。 だけどな、最近、それでイイと思うようになってきた。見えたようにしか、見え ないんだ。だから、もう少し、辛抱していれば、激辛の事件がホロ苦い程度には薄 まっていたろう。自分を騙し騙し生きていく。それが普通なんじゃないか。反論し たくなるだろう。尤もだ。ワシだって、こんなことは認めたくない。だが過去にな ってしまえば、怒りも治まっていくもんだ。強硬に反論すればするほど、ハッキリ と、それが解るだろう。感覚は現在のことだが、人間は時間を生きている。過去か ら完全に自由ではない。今生きているってことは、一瞬後にも生きているかもしれ ないソのことの前提でもある。今は過去。未来は今。そんなモンだ。 「ごめんなさぁい」おや、伊井のオカミさん。鄙には稀な美人だよなぁ。ワシが 単身赴任だったら放っておかないんだが、コブ付きだからなぁ。残念だ。 「あの、中元の要蔵ちゃんが自殺したって聞いたんですけど」 「は? あぁ、確かに自殺と断定しています」 「あの、自殺の理由は? いえ、思い当たることもございまして……」 「新聞で読まれたでしょ。あれ以上のことは言えない規則なのですが」 「お立場は解っています。でも、行きがかりがございまして……」美人だよなぁ。 「ここだけの話ですよ。いえ、大したことでもないのですが、中元君の日記の最 後のページに両親に向けて『ごめんなさい、もう生きていたくないんです。ご めんなさい』と書いてあったのです」 「じゃ、具体的に理由は書かれてなかったんですのね」 「えぇ、ま、悩み多き年頃でしょうし」 「実は、要蔵ちゃん……。一ヵ月ほど前、強姦されたんです。大森政子さんに」 「ええっ、冗談でしょ、女が男を……」 「いえ、ウチの美朝ちゃんが鎮守の森で目撃したんですの」 「しかし、事実としても自殺の原因とは……。普通、悦ぶんじゃないかな」 「悦ぶなんて……。そんな頭の悪い、もとい頭の硬いフェミニストかセックス至 上主義者みたいなことを仰しゃらないでくださいな」 「しかし……」 「要蔵ちゃん泣いてました。この上なく悔しく恥ずかしかったに違いありません。 ところで、大森さんの方は?」チラと流してくる視線のモノスゴイこと。美人 にゃトゲがあるって言うが、まっことチクチクする。 「それが……。だいたい白骨死体が大森さんの物かどうかもハッキリしていない 状況ですし……。目下、身元不明の死体遺棄事件として捜査中で。それと大森 政子失踪事件は、とりあえず別件として」 「いえ、あれは政子さんです。そして強姦が原因で要蔵ちゃんは自殺したのです」 「そ、それじゃまさか、行方不明の大森政子は中元要蔵が……」 「さて、それは如何でしょう。何百年も昔から、この村では不思議な行方不明が 起こっていますのよ。何度も。いつも骨だけが残っていると記録に……」 「そんな、この科学の時代に言い伝えなんて。伊井さん、冗談はよして下さい」 「言い伝え? ほほほ、言い伝えねぇ。ほほほほほ、そうかもしれませんわ。ほ ほほほほ、そうだったら宜しいんですけれども。ほほほほ」段々遠ざかるオカ ミの高笑いを聞きながらワシは、今度こそ署長に頼んで転勤させてもらおうと、心 に決めていた。 ●進展(小林純) やっぱりナンだか気色悪い。ハッキリしないってのは。見た限り衒学さんって先 生なんかより賢そうだから、何か解ってるかもしれない。ずっと納屋に篭ってるけ ど、きっとインテリに違いない。言葉の端々に知性が感じられるもの。それに、先 生とは比べるのも失礼なくらいに、シブい美青年だし。変態なワケないよ。 「ごめんください」僕は、とりあえず扉の前から小声で呼びかける。返事はない。 留守なのかな。えぇい、入っちゃえ。ん、二階に人の気配。僕は梯子段を登り、二 階に顔を覗かせる。 「んーはぁ、んーはぁ、んーはぁ」何てことっ! 僕が馬鹿だった。やっぱり衒 学さんて変態だったんだ。ごめんなさい、先生。やっぱり僕、先生だけを愛してる。 「んーはぁ、はぁはぁ、おおおおおっっ」衒学さんは運動靴に鼻を突っ込んだ侭、 白くてムクムクした牝犬の中に射精した、みたい。グッタリ仰向けになった侭、僕 の視線に気付いて、振り返る。あああっ、こっちを見るな! 「あ、ははははは、これはトンダ所を見られたなぁ。ま、そんな所に突っ立って ないで、こっちに来て座りたまえ」ヤだよ。変態がうつる。 「何してんですか」冷たい声。そんな爽やか好青年の顔したって騙されないよ。 「いやぁ、イイ靴が手に入ってさ。どうにも我慢できなくって。ははははは」 「靴?」ああっつ、それ僕の靴だよ。朝から見えないと思ってたら。 「この犬、メリーっていうんだけどさ。こいつが今朝、くわえてきたんだ」 「くわえて来たって……。だいたい犬相手に何してるんですか。動物虐待だよ」 「ひと聞きの悪いこと言うなよ。こいつだって悦んでるんだからさ。その証拠に こいつ、女の靴を拾ってきたらシてくれると解ってて、ほら」と指差す先には、 ドッサリと靴の山。 「だ、だからって……」 「へへ、この靴、少し脂性の若い女のみたいだが、イイんだよ。ズックにコクの ある刺激的な臭いが染みててさ。どう、嗅いでみるかい」 「結構です。僕、自分の足の臭いなんて嗅ぐ趣味ないもん」 「ええっ、これは君のだったのか。探してたんだ。灯台もと暗しだった。あぁあ、 君こそ我がシンデレラ。十二時を過ぎても離すもんか」衒学さんが僕に襲い掛 かってきた。僕は二階に引きずり上げられ俯伏せにされ……、靴も靴下も脱がされ た。ジタバタもがいてみても拘束は緩まない。 「はぁはぁ、確かにこの香りだ。あぁあ、素晴らしい、かぐわしい」 「やっヤだよぉ。やめろよっ」足の裏を高い鼻が這いずり回り、指の股が舌に押 し開かれ舐め回される。汚いよぉ。暑いからムレてるのに。くすぐったい。……で も、妙な気分。 「あああああっ、へくっ」やがて衒学さんは再び犬に埓を開けた。と、スッキリ した視線の爽やか青年に戻り、 「で、何の用だい」こうやって普通にしてれば美青年なのにね。苦行から解放さ れた僕は急いで靴を引っかけ、更なる凌辱を警戒しながら、 「えと、大森政子の事件に就いて聞こうと思って。だって英雄、じゃなかった。 変態、変態を知るっていうから、こういう事件に詳しいかなと……」 「それを言うなら、燕雀、安んぞ鴻鵠の志を知らんや、だろうな。実は血の臭い に混じって別の臭いもしてたんだ。あの時。脂の臭いだ。人間のじゃない。そ れをズッと考えていたんだが今朝、漸くハタと気がついたんだ」 「何だったんです」 「バターだよ。オムレツ食ってて解ったんだ」 「へぇぇ?」 「ええーー、それって強引じゃないですかぁ」僕の瞳は疑念に満ち満ちていた。 「いや、きっと正解さ。勿論、答え合わせは必要だけどね」 「今度は何ですか。降霊会でもするんですか」僕の瞳は疑念と通り越して、冷淡。 「文学少年だったんだろ。要蔵君って。犯罪記録を書き残している筈だ。フィク ションとして」 「でも、どうやって? ……まさか、盗む!」 「いやいや正当に入手する。麻美ちゃんと同人誌仲間なんだろ。追悼特集を組む からって両親立ち会いのもとに家探しするんだ。同情は、あの娘の特技だから チョロイもんだろ」ちょっと、そういう言い方はないんじゃないかい。 (つづく)
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