長編 #2214の修正
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「傷心旅行」(2)−鬼畜探偵・伊井暇幻シリーズ− 久作 ●密談(オクトパス) 「行ったようじゃな」 「ん? うっわああああっっ、仏像が喋ったっっ」何を驚いておるのじゃ、この 馬鹿は。さっきから床の間に立っていたというのに。 「馬鹿、落ち着け、仏像が喋るか。それにワシは仏像ではない。阿修羅像じゃ」 「オ、オクトパスか?」だと、当たり前じゃ。もっと早く気付け。 「なんで阿修羅像なんだ?」 「うむ、最近は相手の欲望が無段階にワシに実体化するようになったのじゃ。相 手の想うが侭の姿になってしまう」 「だから、原因を聞いてるんだ。理論じゃねぇ」 「いやさ、美少年の格好の侭で出歩いていたら、坊主に押し倒されてしもうた」 「へぇ、今時チャンと女犯の戒律を守って男色に走る坊様もいるんだ、感心だな」 「うむ。密教系であった。そもそもワシに斯道を教えたのも佐伯真魚という者じ ゃった。その頃ワシは香川県に住んでおったのじゃが」 「讃岐の佐伯真魚? それって弘法大師・空海じゃねぇか。お前、歳幾つだ」 「あん? まぁ、それでな、その坊主、修行時代に阿修羅像をオナペットにして おったよぉでの。その欲望がワシの肉体に実体化してしもぉたのじゃ。なにせ 阿修羅と童子像は美少年の代名詞ぢゃからな」 「で、ここまで阿修羅像の格好で帰ってきたのか」 「うむ。擦れ違ったバァさんたちが伏し拝んでおったわ。かっかっか、それにし ても、お前も悪よのぉ。大上段に振りかざしたら小林君も硬化する。馬鹿の振 りをしながら浮気のことを知ってると伝えるとは、仲々どぉしてエゲツない」 「へっへっへ、普通、そぉは想わねぇよ。正解だけどな。それが解るたぁ、お前 も相当エゲツないぜ。実際、俺はお前程エゲツない奴を知らないしな」 「ほほぉ、ワシは一人だけ知っておるぞ」 「ほえ? 誰だ」とぼけるんじゃない。お前だ、お前! 「おほん、それはそぉと、お前に家族がいるとはのぉ、意外じゃ」 「一応な。そりゃそぉと、眉間に皺寄せて喋るなよ。不景気な顔だぜ」 「仕方なかろぉ、阿修羅なのじゃから」 「うぅむ、しかし、それがソソルと言えば、ソソルんだよなぁ」 「これこれ、何をするぞ、罰当たりめ」乳首は弱いのじゃ、あぁ、感じてしまう。 「ぐっふっふ、イイじゃねぁかよぉ、減るもんじゃなし」 「うぅむ、それが実は減るのじゃ」 「へ? 何が」 「襞が」 ●到着(小林純) へぇ、先生のお姉さんなんていうから、どんな化け物かと思ったら、奇麗な人。 和服がとっても似合ってる。 「お世話になります。小林です」 「こちらこそ宜しくね。あたしは志摩里。弟の暇幻が、いつもお世話になってま す。この娘はウチで働いてくれている守山麻美ちゃん。仲良くしてね」 「よろしくぅ」プックリした頬の狸系美少女、歳は十八ぐらい。ポッテリ丸みを 帯びた小柄な体にオーバーオールとTシャツ、元気そうな小麦色に似合ってる。ど うせだったらシブい美青年がヨカッタんだけど……、いけない、いけない、僕には 先生がいるんだ! 先生、待っててね、今はナンだか目が合わせられないけど、き っとスッキリした顔で帰るからね。と、志摩里さんがキリッとした眉をひそめて、 三間四方萱葺きの粗末な納屋を見遣り、小声で言うことには、 「一つ言っておきたいんだけど、ウチには衒学っていう二男が居候してるんだけ ど、近付いちゃダメよ。あの納屋に隔離してるの。変態がうつるから」 「変態には免疫があるつもりだけど……」 「暇幻とは比べものにならないぐらいの変態なのよ」 「ええっ、そ、そんなに変態なんですかっ」想像を絶する。 「そうなのよ、変態なのよ」志摩里さんが子細らしく頷き、 「ほら、この看板、よく見てみて」と納屋にかかった「夢幻亭衒学」と達筆な毛 筆書きの看板を指差す。ホケと看板に目を遣る。暫らく眺めていたら、なんだか妙 にザワザワと胸騒ぎがしてきた。鳥肌がたつ。志摩里さんの腕に身を押し付け袖を 摘まむ。呼吸が荒くなっているのが自分でも分かる。 「怨念がこもってるって感じでしょ」 「……」志摩里さんの言葉に無言で頷いちゃう僕。 「伊井一族には呪いがかけられているのです。何百年にもわたって」低く沈んだ 声が頭上から降ってくる。あぁあ、志摩里さんって女性にしては低音。 「何故、何故呪いが……」雰囲気の呑まれ僕の声も震える。 「そのうち話す時がくるかもしれません。しかし、今は言えません。ただ、我が 一族は犬神の呪いにより、一代に一人、妙な性癖の男が生まれるのです」 「で、この代には暇幻先生と衒学さんの二人が妙な性癖をもつに至ったと……」 「え? いえ、衒学だけですよ。呪われているのは」 「でも……」納得いかない僕。先生が変態じゃないなんて。 「あぁ、暇幻も確かにナカナカの変態だけど、あれは後天的なものなのよ」 「ほぇ、生まれついての変態って感じで、板に付いてるのに」 「ふふ、あんなの可愛い方よ。上には上がいるものなのよ。あれは高校時代に、 変わってしまったのよ。ある女性に恋をして、愛してしまって、片恋だったも のだから、どうも恋愛について内向的になっちゃって、それだけだったらイイ けど、それが酷くなってフェティシズムにまで進行しちゃって……」 「じゃ、じゃあ僕は、物体……」なんだよ、納得いかないぞ。 「ううん、小林君は特別みたいよ。一緒に暮らすなんて初めて。小林君のオカゲ で社会復帰できそうよ。男の子ってのがヨカッタのかもね」 「は、はぁ」どこかシックリこない論理だけど、ま、イイか。 ●目撃(守山麻美) 熱く潤ったモノに私の指が締めつけられる。根元はまるでゴムバンドで縛られて いるように、痛い。指がピクンピクンと脈打ってくる。指からゾクゾクッとする感 覚が、腕を伝い広がり、脇をくすぐり、胸を内側から愛撫する。凄くイイ締まり。 私はボオゥとなって志摩里さんの首筋に顔を埋める。すると、シナやかな腕が私の 頭に纒わりつき柔らかく抱いてくれる。 指からの衝撃は緩まない。私は徐々に追い詰められていく。男の人のファロス感 覚も、こんなのかしら。グングンと昇って行った後、ユックリと舞い落ちていき、 フゥワリと優しさに受け止められる。呼吸が漸く落ち着いてくる。 「今日は激しかったわね」からかうように志摩里さんが言う。 「そ、そんな」私は鼻をモジモジと志摩里さんの首に擦り付ける。 「小林君を思い出して、興奮してたんでしょ」イヂワルな声。 「違うもん。私、男の子になんて興味ないもん」 「じゃ、どうしたの」私の顔を持ち上げ覗き込む志摩里さん。 「……私、見ちゃったの。凄いモノ」 「何を?」志摩里さんの目が好奇の視線を差し込んでくる。ちょっと、快感。 今日の午後七時頃、初めて「夢幻亭」に来た小林君と挨拶した後、買い物に行っ たきたでしょ。その時、帰りに鎮守の森を通り掛かったの。近道だから。林の中か ら呻き声と残酷な笑い声が聞こえてきた。私、ソッと木陰から覗いたのよ。そした ら、中元の要蔵ちゃんが大森のおばちゃんに押し倒されてて。要蔵ちゃんは私の同 人誌仲間、十六歳の高校生。美少女との交換法則成立が証明済みの美少年。大森の おばちゃんは三十半ばのイカズ後家、ムッチリ色黒のイケイケ・オバサン。その大 きいお尻が生白くスリムな要蔵ちゃんの腰の上で跳びはねてる様子は圧倒的だった わ。要蔵ちゃんは左右に顔を激しく振って呻き声を上げてた。叫べなかったのよ。 なんたってパンティを口に押し込められてたんだから。涙に濡れた頬が、セクシー だった。おばちゃんはニタニタ笑いながら腰を遣ってて、要蔵ちゃんは何度もイか されてたみたい。美少女だったら助けたんだけど、男の子だもんねぇ。 ●惨死体(小林純) 「ふぅ、清々しい朝ね。小林君が、この四週間ていうものヨク働いてくれたから 楽をさせてもらったし。はぁあ、こうやって縁側に座って啜る番茶って最高」 美人はイイなぁ、こんなこと言ってもババ臭くないんだよね。変な人。三十一って いうけど、もっと落ち着いてるし、もっと若々しいし。 「麻美ちゃん、衒学も呼んできて。出がらしだけど番茶が残ってるから」お、本 邦初公開の夢幻亭衒学さん。どんな人だろう。先生の弟っていうぐらいだから……。 「タタリじゃー、タァタァリィじゃー」あああ、何、何、目の焦点が合っていな い若い男が納屋から大きなアクションでユックリ走ってくる。これが衒学さん? 「はいはい、タタリなのよね、衒学、はい、お茶」志摩里さんが湯飲みを渡す。 「タァタァリィじゃぁぁぁ」大口を開けて喚きながらゴクゴク喉を鳴らして番茶 を流し込んでいる。あんまり、刺激しない方がヨさそうな人だな。 「は、はじめまして、小林っていいます」あぁぁ、怖いよぉ。ひっ、ギョロ目で 睨まないでよお。あああ、凄くオドロオドロしい顔。 「ん? おおっ、はじめまして。夢幻亭衒学、ここの二男坊兼居候です。ところ で、お嬢さんは、どちらの小林さんですか?」 「えっ、お嬢さん?」目を丸くする志摩里さん。 「おっ女の子ぉ」丸い目を一層丸くする麻美さん。隠す積もりはなかったんだ。 そんなに見つめるなよ。言いそびれただけ。そんなに驚かないでったら。 「あ、あの、どうして僕が女だって?」今までバレたことなかったのに。 「簡単ですよ。臭い、臭いです」まともにしてると色白端正な美青年。どうして あの醜い先生の姉弟って二人揃って美形なんだろ。先生って本当の兄弟なのかな。 「臭いって何?」背後に回り込んだ麻美さんが鼻をクンクンさせながら、僕の肩 に顎を載っける。どうしたんだろ。僕の体に今まで触れようともしなかったのに。 あれ? 志摩里さんってこんなに近くに座ってたっけ。肌が触れ合ってる。 「いやぁ臭いっていっても普通の人にとっては感じない程度のものですよ。私の 嗅覚は常人の三千倍でしてね。うぅむ、志摩里姉さんは筋金入りに女にしか興 味を抱かないから、そんな格好させる筈ないし……、ははぁ暇幻兄貴ゆかりの 方ですね。ずばり、でしょ。ははは」よく笑う爽やか青年だな。チョッとイイ。 「ところで衒学、何が崇りなの」志摩里さんがイツの間にか僕の肩に腕を回して る。あれ、麻美さんの豊かな胸が腕に押し付けられ……、暑いってば、夏なのに。 「いえね、ゆうべから血の臭いがムンムンしてるんです。南風に乗って。人間の 血です。それも、おびたたしい。一人分のようですが。多分、死んでいる」衒 学さんったら切れ長の大きい目を釣り上げて淡々と喋るもんだから鬼気迫る。 「血……、真っ赤な血……」ああっ、志摩里さんがウットリ僕の耳に吐息を吹き かけてきた。ダメだよぉ。と、その時、四十絡みの小柄なおじさんがが門から転げ 込んできた。 「たったいへんだぁぁ、人死にだあっ」 「川上の亀蔵さん、どうしたの、一体」志摩里さんが落ち着いて声をかける。 「おっお館さまぁ、おっ大森っ、大森の政子がっ、政子がぁぁ」 「政子さんが如何したの」志摩里さんが番茶の湯飲みを亀蔵さんに手渡す。 亀蔵さんの話を要約すると……。大森政子っていう三十六歳の独身女性が真新し いバラバラ白骨死体で見つかった。集落からポツンと離れた自分の一軒家で。診療 所の先生が見たところ、見つかった白骨は女性のものだったし、背格好も合ってた から政子さんらしいって。バラバラにされた骨は政子さんの家の池に放り込まれて た。池の水は、血の池地獄のようにドロドロ赤く染まってたって。近寄ったらプン と生臭くて、骨には白い意図のような神経や水でふやけた肉や空っぽになった血管 が纒わり付き、垂れ下がり、何かフォークのような物でコソゲ落としたみたいだっ たって。引っかき傷が一杯ついていたし。絡まり合った長い髪が一塊、池の底から 見つかった。 話し終わった亀蔵さんの周りを衒学さんが「タァタァリィじゃーー」と凄い形相 で叫びながら腿を高く掲げ踊り狂ってる。亀蔵さんは肩にメリ込むほどに首を竦め、 固く目を閉じブルブル震えている。この踊りって、売り出したら村おこしにイイだ ろうな、とボンヤリ考えながら、僕は不吉な予感に戦慄していた。 ●中元要蔵(守山麻美) 「あれって殺人なのかなぁ」夕食の後に、お茶を啜りながら小林君が呟く。 「多分ね。だって一晩のうちに白骨化したんだから」志摩里さんが小林君をウッ トリ眺めながら答える。あ、志摩里さん、欲情してる。ふふふ、今夜は3Pかな。 と、何かを思い付いたみたいで志摩里さん、私に向かい、 「政子さんて中元の要蔵ちゃんをレイプしたのよね。要蔵ちゃんって、どんな子 なの。麻美ちゃん、仲良しなんでしょ」 「まぁね、同人誌仲間なのよ。あの子はジュネ系の漫画とか小説、書いてる」 「あ、ジュネって僕も好きだよ」小林君が目を輝かせ私の方を向きながら、 「麻美さんもジュネ系?」 「ううん、私は男の子に興味ないもん。私は香り高い純文学の私小説」 「え、私小説?」志摩里さんが怪訝な顔をして、 「麻美ちゃんってオナニーよりセックスの方が好きな娘かと思ってたけど……」 「それって偏見よぉ。私はイナタラクションとしてのセックスの方が好きよ」と、 反論しておいて言葉を続ける。 「でね、要蔵ちゃんって触れなば落ちん風情の美少女タイプの美少年でさ。去年 の夏、宇和島であった夏コミで、私の高校の時の制服を着せ、セラムンのコス プレさせたの。ウェスト詰めなきゃズリ落ちるってんで、ちょっとムッとした んだけど、モロ似合っててさぁ。私もムラムラしちゃったもん。実際、ワッハ マンのコスプレしたオニイサンが高笑いを上げながら追い掛け回してたわ。確 か、久作とかいうペンネームの……」 「ええっ、久作? それって暇幻先生のペンネームだよ」驚く小林君。 「まぁ、暇幻ったら全然変わってないのね。元気そうで何よりだわ」あくまで落 ち着いてる志摩里さん。
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