長編 #2167の修正
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『Angel & Geart Tale』 第六章 十月になり、弘前が寒くなるころ、最初の、あの日の撮影が撮り直しになり、僕 の部屋のブラインドを、もう一度、使うことになった。その日は、祝日の十月十日 で、ちょうど、その日は、彼女が出ている8mmの撮影が終わる日でもあった。 その一週間ほど前に、兼子さんから、僕のところに、撮影のために、ブラインド を借りたいという電話があった。僕は、彼女と逢うために、当日の朝に、ブライン ドを持っていきたいと言った。だが、兼子さんは、一方的に、『前の晩に、ブライ ンドを取りにいく』と、僕に言って、乱暴に、電話を切った。 十月九日の、撮影の前夜、兼子さんが、僕の部屋のブラインドを借りに、来た。 僕は、十月十日が、彼女に逢える最後のチャンスだと、そのときは思っていたので、 とても、緊張した。僕は、彼女に逢いたいので、『明日の朝、撮影現場に届ける』 と、言った。実際、前の日の晩に、部屋のブラインドを持っていかれてしまうと、 部屋の前の道路から、僕の部屋が、まる見えになってしまうのは、あきらかな事実 であり、この議論は、あきらかに、僕のほうに、分があった。しかし、兼子さんは、 また、前のように、強硬に主張して、僕のいうことをきかない。 僕は、どうしても、彼女に逢いたいので、そこで、あきらめず、『ブラインドの ない部屋では恥ずかしいし、ブラインドを返しにくるのを待ってもいられないのに、 撮影を見学したい』と、兼子さんに言った。兼子さんは、僕の申し出を、『できれ ば、来てほしくない』と言って、あっさりと、断った。僕は、カッとなって、『な んで、だめなんだ!』と、叫ぶように、聞いた。そうしたら、兼子さんは『現場で、 僕を嫌がっている人がいる』と、僕に、はっきりと言った。僕には、すぐに、それ が、彼女のことだと、わかった。その言葉で、彼女とのことは、もうだめだと、僕 は、思った。その一言で、死にたくなるほど、落ち込んだ。 僕には、なぜ、彼女が、僕を嫌いなふりをしているのかが、よく、わからなかっ た。それとも、本当に、ぼくのことを、嫌いになってしまったのかもしれないとも、 考えた。彼女が、少しずつ、遠のいてゆくような気がした。 その日の夜は、僕は、ブラインドのないままの窓から、星を見ながら、自分の部 屋で、寝た。今日まで、彼女が、僕と同じくらい、僕のことを愛していてくれてい ると、信じていた。それは、事実だったのか、誤解だったのかが、わからなかった。 僕には、どう、考えてみても、彼女の行動が、理解できなかった。 あくる日の、十月十日の午後、僕は、兼子さんの言葉を無視して、撮影現場に行 くことにした。本当は、自分の部屋で、兼子さんが返しに来るのを、ただ、待って いなければならないのだが、窓にブラインドがないので、そうしているのも、恥ず かしかった。それに、僕は、どうしても、彼女に逢いたかった。たとえ、彼女が、 心変わりをしていたとしても、彼女に逢って、それを確かめたかったのだ。 僕は、自分の部屋のドアを開け、撮影現場のアパートへ、向かった。アパートへ の道程を、とても遠いものに、僕は感じた。アパートについて、撮影が行われてい るはずの部屋の前で立ち止まり、ベルを鳴らした。ベルを鳴らすと、兼子さんが出 て来た。 『取りに行くと、言ったのに来たのか?』と、兼子さんは、皮肉たっぷりに、僕に 聞いた。僕は『ブラインドがないと、恥ずかしくて、部屋に居られないから、取り に来た』と、僕は、答えた。 兼子さんは、部屋の中に入って、すぐに、ブラインドを取って、出て来た。僕は、 そのとき、いままでの僕の態度で、兼子さんに、僕が、彼女のことを、好きなこと を悟られたと、その瞬間に、直感的に、わかった。 兼子さんの口調は、穏やかだったが、とてもじゃないが、撮影を見学したいと、 言えるような状況ではなかった。兼子さんの顔は、かなり、不愉快そうな顔をして いました。僕は、兼子さんが、部屋の中に入ったときに、彼女が嫌な顔をしたか、 彼女が兼子さんに僕を帰すように言ったのだと、思った。僕には、もう、彼女を信 じることが、できなくなっていたのだ。 僕は、急に、胸が痛くなった。そして、痛くなった胸を、押さえた。そのときの 僕には、『いや、いいです』と、言うだけで、精一杯だった。僕は、返してもらっ たブラインドを持って、自分のアパートの、自分の部屋に帰った。その後、何日も、 僕は、寝込んだ。これで、彼女とのことは、もう終わってしまったのだと、僕は思っ た。もう、彼女のことをあきらめて、もう、忘れるしかなかった。僕は、苦しんだ。 苦しみは、通り過ぎてゆく、ひとときのものにとどまらず、それからも、ずっと、 続いた。そして、いま、この瞬間にも・・・。 彼女が言った『アブノーマル』『ストイック』という言葉を、ノイローゼになる くらい、僕は憎んだ。落ち込んだときには、いつも、彼女の声がした。『アブノー マル』『ストイック』と、僕を、ばかにしている声が、部屋の壁や、道の電柱や、 だれもいるはずのない空間から、聞こえた。 彼女は、なぜ、僕のことを好きなはずなのに、そんなふうに、悪口を言って、二 人の出逢いを、ぶち壊しにしたのか。あれから、何度も、彼女と、すれ違ったが、 彼女の態度は、以前とは、まったく変わらず、彼女は、僕に、あいまいな、ほほえ みを投げかけてくれた。僕には、彼女の真意が、まったく、わかりかねた。最初か ら、誤解だったのか、僕が勝手に抱いた幻想だったのか。彼女は、永遠に答えてく れそうにない。 毎日、毎日、そのことばかり、考えていた。また、何度も、死のうと思った。自 殺によって、死ぬことで、彼女に抗議しようとも、何度も、考えた。でも、僕は、 まだ、心の奥底のどこかで、彼女を信じていた。きっと、何かの間違いに違いない と思って、彼女を信じていた。 それから、何週間が過ぎたある日、彼女を見た。大学の階段で、彼女とすれ違っ た。しかし、彼女の容姿は、以前の彼女と少し、違っていた。彼女は、もう、長い 髪の少女では、なくなっていた。膝まであった長い髪を、彼女は切ったのだ。なぜ、 彼女は髪を切ったのか、僕には、わからなかった。僕の気のせいかもしれないが、 すれ違ったとき、彼女は、泣きそうな顔をしたようだった。僕は、激しく動揺した。 彼女が失恋したから、髪を切ったんだと、僕には、すぐに、わかった。ただの想像 に過ぎなかったが、直感的に、僕には、わかったのだ。 僕には、彼女が髪を切ったことが、とても、ショックだった。どうして、切った のか、なぜ、切ったのか、僕は、とても、心配した。しかし、それにしては、彼女 が髪を切ったことは、不可解な謎だった。僕が彼女を思っているほどではなくても、 彼女は僕のことを好きなはずだった。それならば、なぜ、僕との共演を拒んだのか。 そして、どうして、彼女は、髪を切ったのか。彼女の行動には、疑問が多すぎた。 僕は、どんなことをしても、彼女と、連絡を取らねばならないと、僕は、思った。 僕は、その日のうちに、彼女が髪を切った理由を調べた。なんとなく、兼子さん のところに行きにくいので、加茂谷さんのアパートに行って、事情を聞いた。加茂 谷さんの話では、『兼子さんの映画に出て、気分が変わったせいで髪を切ったと、 彼女が言っている』ということだった。 そこで、僕は、『彼女が、僕のことを、何か、言っていなかったか、どうか』と、 いうことを、加茂谷さんに、聞いた。加茂谷さんは、何も知らないと言った。僕は、 加茂谷さんの言葉を不審に思い、『でも、六月に兼子さんが、彼女が嫌がっている から共演を降ろすというふうに、僕に言っていました』と、僕は、加茂谷さんに、 聞いた。加茂谷さんは『そんな話は知らない。何かの勘違いじゃないか』と言った。 僕は、そんなはずはないと、心の中では思ったが、加茂谷さんがそう言うのであれ ば、反論しても、しょうがないと思ったので、それ以上のことは、何も聞けなかっ た。 彼女へ連絡する手段は、そのときの僕にはなかった。もう、永遠に、彼女とは、 逢えないのではないかと、そのときの僕は、あきらめていた。それでも、彼女への 想いだけは、いつまでも、消せなかった。それどころか、彼女への想いは、ますま す、強くなる一方だった。毎日、少しずつ、心の傷は拡がった。近づこうとすれば するほど、彼女が遠くなっていった。彼女への連絡先を知るには、兼子さんに聞く しか方法は、ないようだった。そのころには、兼子さんが彼女のことを好きで、妨 害していることが、僕にも、うすうす分かってきた。 でも、それにしても、なぜ、彼女は、僕がスタッフから外されても、平然と、8 mm映画に出演し続けていたのか、僕には、わからなかった。最初から、そのことを、 不審に思っていた。彼女という人間と、そして、彼女の人格が、僕には、まったく、 理解できなかった。 それから、何ケ月も、時が過ぎた。彼女のことを心配した心労で、僕の心と体は、 日に日に、衰弱していった。彼女が髪を切ってから、何回か、兼子さんや加茂谷さ んに会って、話をしたが、彼女のことは、何も聞けなかった。 その年の十一月に、彼女に逢ったきりで、何ケ月も逢えず、いつのまにか、年を 越していた。僕の体は衰弱していった。だが、それよりも、ひどかったのは、心の 痛みのほうだった。毎日のように、うなされるような幻想や妄想に苦しんだ。彼女 が、僕のことを好きで、苦しんでいるような妄想だった。胃が痛くなり、めまいや、 立ちくらみがして、吐き気がした。僕には、もう、なにもかも、わからなくなり、 なにが、どうなってもいいと、思うようになっていた。 彼女が、腰まであった髪を切ったことに、僕は、かなりショックを受けていた。 彼女が髪を切った原因として、僕が思い当たることが、ひとつだけ、あった。思い 当たること、というのは、僕とのことが、うまくいかないから、彼女は、髪を切っ たのではないかということだった。彼女が髪を切ったのを見てから、事態は、さら に悪化したような気がした。彼女へ、連絡を取れないことが、はっきりしたからだ。 彼女が髪を切ったという、行動は、僕を、圧迫し、切り刻み、さいなんで、苦し めた。僕のたんなる想像に、すぎないかもしれないが、僕は、それが真実に違いな いと、確信していた。それにしては、彼女は、僕の住所を知っているはずなのに、 どうして、連絡をくれないのだろうか、わからなかった。 僕は、だんだん、彼女にかんする妄想に苦しむようになっていった。彼女が自殺 したり、僕と逢えなくて、彼女が苦しんでいるといった、妄想だった。僕の苦しみ は、永遠に続くのではないかと思うくらい、つらいものだった。僕は、妄想や、自 分のためらいに対する自責の思いに苦しんだ。僕は、彼女に、何もしてあげられな いことにも、胸の詰まるような思いが、心に込み上げてきた。 もしも、彼女が、僕のために、髪を切ったとしても、そのことは、それほど、気 にしてはいなかった。ただ、もし、そうだとしたら、彼女の純情が、とても、怖かっ た。彼女の気持ちに応えてあげられないことに、罪悪感を持っていた。僕の心から、 毎日、血が流れていた。傷が、かさぶたを作っても、血を拭うこともできず、また、 そのかさぶたに傷が付き、血がこぼれ落ちた。僕の人生は、自分の目から見ても、 他人の目から、客観的に見ても、あきらかに、空転していた。そういう状態でも、 生き続けることができたのは、彼女という希望があったからだった。彼女は、僕の 苦しみの原因であったとともに、僕の生きる希望でもあったのだ。 僕の部屋は、一階の道路に面した窓を持っていた。母には、部屋を替えたいと、 何度も、言っていた。僕の部屋は、一階で、窓が、道路のそばだったので、一日中、 ブラインドを下ろしたままだった。昼も、夜も、一日中、一年中、ブラインドを下 ろしたままだった。そういう部屋に居るのは、精神衛生上良くないと、私は、母に 言った。現実に、僕の部屋は、精神衛生上、よくなかった。あの部屋ではなく、も う少し、ましな、せめて、青空や星空が、見れる窓がある部屋だったら、僕の一生 は変わっていたのかもしれない。 しかし、母は、僕に引っ越しを許さなかった。この嫌がらせは、僕が寮を出たこ とに対する、報復であった。この行動、ひとつ取り上げてみても、母は、あきらか に、異常者であった。僕が、母に無断で、引っ越しをしようとしたら、母は、仕送 りを止めた。僕は、母に、『この部屋は、精神衛生上よくない』と、抗議した。母 は、僕に言った。『自分で選んだ部屋なんだから、引っ越しは許さない。引っ越し したいなら、自分で働いて、大学を出ろ』と。 そのときの僕は、なんとも思っていなかったが、いまになって、考えてみると、 やはり、あの部屋は、決して、よいものとは、いえなかった。僕の、鬱屈した感情 は、いつまでも、回復しなかったのも、そのせいかもしれない。あのころの僕には、 ほんの少しでいいから、青空や星空が必要だったのだ。 神は、完全に、僕を見捨てたわけではなかった。あのときは、子供たちへのボラ ンティアだけが、僕の救いだった。それを、正確に言い換えれば、実際に、救われ ていたのは、僕だった。僕の精神を安定させてくれたのは、子供たちだけだった。 子供たちに接することだけが、僕の救いだった。 しかし、僕の心には、漠然とした不安があった。その、はっきりとしない不安と は、彼女のことだった。『このまま、ボランティアを続けていれば、僕は、苦痛に 耐えられるが、はたして、それでいいのだろうか?』と、僕は、悩むようなった。 僕の後ろに、影のように、死の匂いがつきまとった。何かに、いたたまれなくなっ た。彼女のために、進めば、行き着くところは、死か、破滅か、狂気しかないよう に思った。毎日毎日、僕は、死ぬほど苦しみ、悩んだ。 雪が降り、正月が過ぎたころ、僕は、決心をした。ボランティアに逃げず、彼女 のために、全力を尽くそう、と、僕は、決めた。僕は、その年かぎりで、ボランティ アを辞めた。
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