長編 #2165の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
『Angel & Geart Tale』 第四章 弘前大学があった、弘前は、僕が住んでいる青森市から、列車でも、車でも、一 時間ほどの、街だった。その弘前市は、それほど大都市でもなく、かといって、そ れほど田舎というわけでもない、城下町であり、城跡やお寺があるほかには、なん の特色のない地方の小都市という表現が、ちょうどぴったりとくる街であった。僕 が通うことになった大学は、駅から、商店街を通り抜け、住宅地に、すこし、さし かかったところにある文京町という街に建っていた。文京町という、その名のとお り、大学の施設と、学生が入るアパートだけで、九割以上が支配された街だった。 僕が、親にむりやり入れられた大学寮は、その大学から、さらに、田園地帯に入っ た、緑ヶ丘というリンゴ畑の中にあった。 弘前大学の寮に住んでいる人々は、自治という言葉を大事にして、重んじていた。 寮においての、自治という言葉は、世間一般で使われているのと同じく、自分たち のために、自分たちの事を、自分たちの責任において、処理をするということを指 しているように、僕には見受けられた。また、ある意味では、地方公共団体におい て、選挙で、代議員を選出して、運営にあたるという、自治をさしているようにも 思えた。つまり、自治寮においては、寮生の選挙で選ばれた委員会のようなものが あり、寮費を決めたりや、その他の雑事や事務を執り行っていた。 その自治寮では、女子寮その他と合同で、運動会をしたり、炊事遠足をしたりし ていた。僕が、初めて、彼女と出逢ったのも、その寮の行事の一環の、炊事遠足で だった。もともと、寮という形態が、気に入らなかった僕は、いつ、寮を出ようか ということしか、考えていなかった。そんなわけで、運動会や、炊事遠足にも、そ れほど身が入らず、なんとなく、参加していただけだった。 炊事遠足にいった、その日も、なんとなく、気がのらなかった。世俗のくだらな い人間と交わっても、無駄で空虚な時間を過ごすだけなのだということを、そのと きの僕は、実感していた。それは、いまも、まったく変わらず、実感している、と らえようのない、無意味で、虚無な空間だ。そのころの僕も、現在の僕も、けっきょ く、それを受け入れることができなかったのだ。 その日は、春らしい、とても、穏やかな気候だった。炊事旅行の会場である、な だらかな丘陵も、まだ、弱い、のどかな日差しに照らされて、春そのものといった 趣があった。その風景のなかでも、僕の心は晴れなかった。僕の入っていた寮の炊 事遠足といっても、女子寮と合同のもので、野外での炊事も、女子といっしょに、 グループを組んで行うものであった。同じグループになった女の子たちが、女性と しての魅力に欠けていた、というわけではなかったが、ほとんど、関心もなかった し、ただ、作業のように、料理をしていただけだった。 料理をしていると、少しは、気が晴れて、楽しかった。僕の心の中では、いつも、 声がしていた。『こんなはずではなかった』と。 人生は、いつも、理想の形とは、ほど遠いものであった。ほんの少し、何かが違 えば、何かが変わったはすだと、いつも、思っていた。ちょうど、そのゴールデン・ ウィークのころには、高校を卒業して、二ヶ月ほどしか、たっていないころだった。 高校の卒業式の日に、『あたしと、結婚してくれない』と、言って、泣いた女の子 が、いた。第三者の、他人の目から、見ると、かなり幸せに見えたかもしれない。 はた目から見ると、女の子にモテル、羨ましい男に見えたに違いない。だが、僕と、 相手の女の子にしてみれば、かなり、深刻な事態でしかなかった。 昼過ぎには、ごく当然のように、炊事遠足が終わり、ほかの多くの人々は、高原 に出て、バレーや、何かをしていた。 そんなとき、ふと、目をあげたら、彼女と、目が合った。彼女は、髪の長い人だっ た。彼女の髪は、とても長く、ひざのあたりまで、あった。彼女はとても、清楚で、 とてもきれいな人だった。彼女と目が合ったときに、火花が散ったような気がした。 少なくとも、僕が認識している現実では、激しく、火花が散った。そのとき、どう して、彼女を好きになったのかは、いまだに、わからない。でも、電流で打たれた ような、衝撃を感じた。彼女の、その繊細な、可憐で、清楚な、美しさに魅かれた わけではなかった。僕は、なにか、運命的なものを感じた。彼女なら、僕のことを 理解してくれて、やさしく包んでくれそうな気がした。なんとなく『彼女と結婚す る』と、僕は直感した。二人が、本当に、赤い糸で結ばれていると、感じた。 彼女は、目を見開いて、僕を凝視した。それから、とても恥ずかしそうに、目を 伏せた。彼女も、僕と同じような感覚の衝撃を感じているようだった。そして、僕 と同じように、彼女も、運命的な、なにかを感じているようだった。 それが、彼女との初めての出逢いだった。僕は、彼女の、あまりの美しさに、びっ くりした。それと同時に、僕は、恋をした。しかも、信じられないことに、それは、 普通の恋愛ではなく、なんらかの、運命的なものを、僕に感じさせたのだ。 そのときの、僕の心には、まだ、高校時代の恋愛のことが、深い傷痕として、た め息として、残っていた。でも、彼女と付き合えるなら、その傷ついた心から、立 ち直れると、思った。というよりも、彼女と出逢って、付き合うことが運命だと、 信じていた。いつか、必ず、どこかで、きっと、知りあって、付き合えるような気 がした。 だが、それこそが、僕の人生の、苦悩の始まりであったのだ。そのときは、何も、 僕たちは、気付かなかったが、なにか暗い陰が、僕たちに忍び寄っていた。幸せと 不幸は、表裏一体のものとして、必ず、同時に訪れた。だから、僕は、その表裏一 体のものを拒むことができなかったのだ。悪魔は、いつも、僕と彼女のそばにいて、 耳元の誘惑となり、僕たちを苦しめようと、狙っていたのだ。僕は、彼女を不幸に しないように、懸命に努力した。だが、結局は何もできなかったのだ。いまだに、 ときどき、何かに、いたたまれなくなる。何をしても、満たされない。過去を拭え ない。僕の、この苦悩に勝るものが、この世の中に、ほかにあろうか。 それから、僕は、毎日のように、大学で、彼女の姿を、なんとなく、探すように なった。彼女は、僕に逢うと、恥ずかしそうに、目を伏せた。僕たちは、愛し合っ ていた。僕たちが、出逢うのには、それから、一年あまりの歳月を必要とした。僕 たちは、お互いに、相手との、交際を夢見て、そのことを疑う事なく、信じて、毎 日を過ごしていたのだ。 ゴールデン・ウィークを過ぎたころ、僕は、寮のくだらない暮らしに飽き足らず、 映画研究会というサークルに入ろうと、思い立った。その入部の動機を、簡潔に、 説明すれば、自分の手で、8F映画を作りたいという、ただ、それだけのことだっ た。 僕は、入学式のときに配られたサークル案内のパンフレットを見ながら、映画研 究会に電話した。その番号は、呼び出し電話だった。電話に出たのは、当然のよう に若い男で、その男は、『月曜と木曜の夕方六時から、文化系サークルのプレパブ で、活動しているから、興味があるなら、顔を出すように』と、僕に、言った。彼 の声から察すると、彼は元気はまあまあ、あるが、風采の上がらないような感じが した。実際に会ってみると、そのとおりの男だった。 次の月曜日に、言われたとおりのプレハブに行ってみると、いまにも、つぶれそ うなプレハブだった。その、ぼろぼろで、薄汚れた、プレハブの幾つかの部屋の中 から、映画研究会の部屋を探しあてた僕は、ガタガタと音を立てる渋い戸を開けて、 その部屋に入った。外観に、負けず劣らず、その部屋は薄汚れていた。ちょうど、 その部屋では、数人の男が、雑談のような討議をしていたところだった。僕が入っ ていくと、その中の、黒い革ジャンを来た、風采のあがらない男が、 『君が、新入生か?』 と、僕に聞いた。彼は、石倉という、この映画研究会の部長だった。 少し、頭の薄い男が、 『なんだ、男か? 女の子なら、よかったのに?』 と、言った。この頭の薄い男は、兼子孝徳といった。この発言に象徴されているよ うに、彼は、女目当てで、サークルをやっているような男であった。が、そのとき は、まだ、僕は、この兼子という男が、卑怯とか、そういう雰囲気がなかったので、 僕は、彼に、それほど、悪意を持っていなかった。 その日の、サークルの会合は、僕に気を使ってか、すぐ、終わり、その夜に、飲 みに連れていってもらった。ともかく、僕は、映画研究会に入部することになった。 映画研究会に入部して、一ヶ月ほどして、8mm映画を作りたいという、僕の願い は意外にあっさりと叶った。僕は、自分で主演して、自分で監督をして、映画を作っ た。助監督は、石倉さんで、あとの出演者として、副部長の加茂谷さんや、兼子さ んに頼んで、出てもらった。その年の五月に撮り始めた映画の撮影は、大幅に、長 引き、結局、秋の学園祭の直前まで、かかった。 一時は、学園祭に間に合いそうもないと、思ったが、なんとか、間に合わせて、 上演することができた。僕の、個人的な感想としては、観客には、総じて、好評だっ たようだった。僕は、とても、満足だった。ただ、一時間にも及ぶ、8mm映画を作っ たので、いささか、金が、かかり過ぎて、僕は、学費を使い込んでしまっていた。 それで、僕は、夕方から、夜にかけての、アルバイトにすることにした。そのアル バイトを何カ月も続けた僕は、その間、映画研究会に出れなかった。そして、僕は、 そのまま、自然消滅という形で、サークルを辞めた。映画研究会の活動に、僕にとっ ては、気に入らない部分があったのだ。一部の部員は、映画が好きというよりも、 女の子が目当てだった。僕には、それが、気に入らなかったのだ。 僕は、8Fを作り、それが、観客に喜んでもらえただけで、満足だった。それに、 僕には、もうひとつ、入りたいサークルがあった。僕は、何も言わず、映画研究会 から消えて、来年の春には、あたらしいサークルに入ろうと、もう決めていた。
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