#833/1158 ●連載
★タイトル (sab ) 10/04/16 11:25 (141)
ひっきー日記23 ぴんちょ
★内容 10/04/16 11:27 修正 第2版
「やっぱりどう考えても、ひきこもりの一人、であるより
かは斎藤環であった方がいいし、ぷーたろーの一人、であ
るよりかはワタミの社長であった方がいいと思うよ」と俺
は言った。
「全然関係ないじゃん」とヨーコさんが言った。
「なんで」
「だって斎藤環の病院で何をやっていようとあなたに関係
ないじゃん」
「なんで、だって医療なんて最も典型的な制度なんだから、
そんなの関係ないっていうんだったらほとんどアウトロー
じゃない」
「違うんだなぁ」と言うとヨーコさんは次の話を紹介して
くれた。
『或るいじけた薬剤師の話』
【1】
その男は本当に下衆な野郎だった。売春婦が客の懐具合を
知ろうと思って腕時計とか手のマメなどをチェックする様
に、彼も人の持ち物を検査した。小説を読むのにも、まず
年譜から読んだ。尤も彼の心情としては「もう死んでいる
作家だったら安心して読めるが、まだ生きているんだった
ら凄い傑作を書くかも知れないんでなんとなく落ち着かな
い。だから生きていても終わっているような作家だったら
安心だ」というものだったのだが。それでも分厚い文学全
集の1冊を上から見ると巻末の年譜のところだけ手垢で黒
くなっていたので、お前一体何を読んでいるの、と思わざ
るを得なかったが。そして年譜ばかりを読んでいる内に、
彼は「自分もこの中の一人になるべきだ」と思う様になった。
【2】
作家になりたいのなら今すぐに書けばいいのだが、彼には
別段語るべきコンテンツが無かったので、とりあえず作家
生活を支えるのに都合のいい職業は何かと考えて、彼は薬
剤師になった。そして病院の薬局で働くようになると医者
と接する様になった。そこでも彼は持ち物検査をした。「こ
いつは終わっているなー」と思えるような医師としか安心
して接する事が出来なかった。例えば進行性の病気を患っ
ている医者とか40歳を超えても子供が出来ない人とか。
「こいつはこの代で終わりだ」と思うと安心出来た。若い
研修医などは本当に見ていて辛かった。「こいつは女医と
結婚して子供も医者にするだろうし、友達も医者一家だろ
う。そうやってどんどん閨閥を作って行くのだ」と思うと
彼は憂鬱になった。そして、どっかに欠点はないかとその
研修医について徹底的に持ち物検査をするのだった。どこ
の医学部出身か、医者でも自分より偏差値的に低いのでは
ないか、家柄、門地、宗教はどうなんだろう、などと。結
局何も見付からない場合には、「あいつは禿げないかなぁ」
とか、「針刺し事故でC型肝炎に感染すればいい」などと
日々呪うのであった。そんな或る日彼は若い研修医のズボ
ンのすそがほつれているのを発見して「あいつの底を発見
したぞ」と思って安心した。
彼は病院の勤務が終わると近所のスポーツジムに通ってい
た。そこには可愛い女性インストラクターが居た。或る日
その女が彼の病院に来た。そして白衣を着ている彼を見付
けて、「あらぁ、お医者さんだったんですか?」と言った。
彼も、直ちに、違う私は薬剤師ですと言えばよかったのに、
特に否定もせず「いやぁ」などと口ごもりながら後頭部な
どをかいていた。そしてアパートに帰ってからもの凄い恥
ずかしさと劣等感に襲われて、以後スポーツジムには行か
なくなったし、そのまま病院も辞めてしまった。それから、
「兎に角医者にならないと本当の自分じゃない」と思って
勉強を始めたのだが、この時彼は、「確かにこの世の中に
は、本当に価値のあるもの、よきものがあって、それを持っ
ている奴がいるのだ」と思っていた。それは絶対的に医療
医学の筈だった。が、ふとAmebaVisionで藤田社長のお食事
風景を見たら、「今更受験勉強なんてして何になるんだ」
と思えたし、ミクシィの社長とかはてなの社長とか、更に
はイチロー、シウバその他色々がべたべた貼り付いて来て、
まるで圧縮ファイルを解凍したように彼の脳の中でじわーっ
と広がっていった。「こんなのが次から次へと押し寄せて
きたのでは、いくら持ち物検査してもとても追いつかない」
と彼は思った。「とにかく表に出よう。部屋に閉じこもって
いるから頭が変になるのだ」と思って、表参道などを散歩し
ても、「この通りに一人でも若い医者がいると思うとまった
りできない」と感じた。「だからもう、世の中から医者が一
人もいなくなればいい。それだけじゃない。金持ちも芸術家
も学者もスポーツ選手も…成功者は全部居なくなればいい。
なんじゃこりゃ。文化大革命かッ。ポルポトかッ」。
【3】
ここらへんまで来て初めて彼は、「おかしいのは自分の欲望
のあり方ではないのか」と気が付きはじめた。「そういえば
昔テレビでひきこもりの青年のドキュメンタリーをやってい
た。彼の唯一の趣味は詰め将棋だったのだが、テレビで羽生
を見た瞬間に捨てたと言っていた。あの気持ちはよーく分か
る。しかし羽生は羽生ではないか。何で羽生が成功すると詰
め将棋を捨てるんだろう。それはおかしいのではないか。だっ
たら若い研修医が居るからって医療を否定するのもおかしい
のではないか」。
【4】
彼は成功者になるまでは、世の中には登場出来ないと思って
いた。「勿論、素人の娘さんには手出し出来ない」と思って
いた。そこで性欲処理の為に風俗に通いつめた。そして風俗
店のフィリピン人だの日本人店員だのとはすぐに打ち解ける
事が出来た。やがて店員の真似事などもする様になった。あ
る時風俗店の店長が彼に言った。
「最近桜田商事もうるさいし、だんだん景気も悪くなってい
くんで、何時までも風俗をやっている訳にはいかねぇんだ。
そこでフィリピンの女を入れて介護ビジネスでもやろうかと
思って」
「へぇー」と彼は言った。「俺は薬剤師だからその気になりゃ
あ何時でもケアマネージャーになれるんだぜ」
そんなこんなで店長と彼はフィリピン人を使ってケアホーム
の経営を始めた。
【5】
そして実際に介護ビジネスを始めてみると、介護を必要とし
ている人々が「どうにかして下さい」と彼にしがみついてき
た。そこで彼は思った。「この俺でさえ制度をでっち上げて
しまえば困っている人達は信者のようにすがりついてくる。
という事は、あの病院が制度であり得るのも、病院にありが
たみがあるのではなくて患者の方に”ちゃんとしていてほし
い”という待望があるからなんじゃないのか。だけれどもあ
の病院だって、誰かがでっちあげたのだろう。俺がケアホー
ムをでっちあげたように。考えてみりゃあ日本の医療なんて、
いや日本の全ての制度なんて、ペリーに脅かされて無理矢理
でっちあげたものだろう。それでも制度として成り立ってい
るのは寝惚けた大衆が、ちゃんとしていてほしい、と待望す
るからだ。制度なんて実は空っぽなんだろう、ただ雑魚に縁
取られているだけで。それは皇居が雑居ビルに縁取られてい
るようなものだ」
彼はケアプランを作成しながらも自分に群がってくる奴らを
むなくそ悪いと思っていた。かつて小説ではなくて年譜ばか
りを読んでいた自分を思い出すからだった。
#834/1158 ●連載 *** コメント #833 ***
★タイトル (sab ) 10/04/16 11:27 ( 98)
ひっきー日記24 ぴんちょ
★内容
社会 ←−−−・
↑ ↑
(待望) |
↑ |
【a】 親 親には内緒で 【b】
↑ |
(待望) |
↑ |
子供−−−−→・
斎藤環大先生の『ひきこもりシステム模式図』は下記U
RLで参照出来るけれども
http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/jiritu/03/siryo03-1.html
俺にはひきこもりシステムがあんなに単純な同心円になっ
ているとは思えない。
上に描いた図が俺の考えている”ひきこもりシステム”だ。
【a】ルートの説明
上の図で”社会”と書かれているのは国家でもいいのだが、
これはでっちあげられたものだ。日本に限らず世界中の国
家はでっちあげだ。たとえばアフリカや中東諸国の国境線
を見れば定規で引いたように真っ直ぐなのだから、誰か机
の上で線を引いた人がいたというのが想像出来る。
その様な国家なり社会なりを「根拠のあるものだ」と思い
込んでいるのは、上図の”親”などの大衆に「世の中はちゃ
んとしているに違いない」という待望があるからだ。
じゃあその待望はどこからやってくるかと言うと、例えば
モー娘。にだって、一人だったらどうって事ないが、辻、
加護、ごっちん…と集団になると、そこに清潔さとか秩序
を期待するようになるのであって、同様に社会に対しても
秩序や公正さを期待するのだ。それはムルソーが、秩序が
保たれるのであれば喜んで死刑になると思った様なものだ。
「人間という哀れな生き物の苦労は、わしなり他のだれか
なりがひれ伏すことのできるような、それも必ずみんなが
いっしょにひれ伏せるような対象を探しだすことでもある
からだ」(『カラマーゾフの兄弟』原卓也訳)。
一方上図の如く、子供も親に対して待望しているのだけれ
ども、それは秩序や公正というものではなくて、聖母マリ
アの憐れみ様なもので「こっちがどんなに汚れていても愛
してくれるでしょ」という様なものだ。
しかし親は社会に対して秩序や公正さを期待しているので、
「こんなに汚れた子供がちゃんとした社会で通用する訳が
ない」と思っているのだ。我が子が社会で通用すればいい
なあと思いつつも。
以上の様な仕組みで【a】ルートは遮断されているのだ。
尤もこうやって【a】ルートについてあれこれ考える事自
体ひきこもり的であって、【b】ルートが開いていれば
【a】ルートなどどうでもいいのだ。
【b】ルートの説明
俺は断言するが、ひきこもりから脱出するには【b】ルート
しかない。又最初からひきこもらずに済んだ奴らもここを
通って行ったのだ。
しかし今【b】ルートは”なんらかの理由”で閉ざされて
いる。しかし一回閉ざされてしまえば【a】ルートしか見
えないので「通せんぼしているのは親ではないのか」と思
う様になるのだ。斎藤環などもこの【a】ルートを開けよ
うとしている。
【b】ルートが閉ざされているのは、親に原因があるかも
知れない。というのも、「世の中はちゃんとしているだろ
う」と待望する親に育てられれば、子供も又そう思うだろ
うから、自分が【b】ルートを通って社会に直接アクセス
しようと思っても、「こんな駄目な俺が通用する訳ない」
と思うかも知れないのだ。
しかしここで「だからやっぱり親の責任だ」と親を責めて、
親の方でも「そうだったのか」と心底反省したとしても、
親が開けられるのは【a】ルートだけなので、意味が無い
のだ。
だからとにかくひきこもりは自分で【b】ルートを突破す
るしかないのである。
仮にそれで欧米の若年ホームレスの様になったとしても、
それはひきこもり自身の有り様の一種だったと思って、自
分の人生と思って諦めるしかない。
#835/1158 ●連載 *** コメント #834 ***
★タイトル (sab ) 10/04/16 11:28 (175)
ひっきー日記25 ぴんちょ
★内容
この俺流”ひきこもりシステム”を解っているにも関わら
ず、俺はひきこもり状態にあるから、やっぱり【a】ルー
トの親の愛をチェックしてしまうのだ。そして俺の求める
のは聖母マリアの愛の様に打算0%のものだった。
俺は親の愛の純度を調べる為に台所のテーブルの下にワイ
ヤレスマイクを仕掛けておいた。その録音がこれだ。
父:なんだよ、このパン。
母:ケイが好きなのよ。
父:そのスープもケイの好物だな。…あいつ何で降りてき
て食わないんだ。
母:昼夜逆転しちゃっているんでしょ。
父:このままひきこもるんじゃないだろうな。
母:まさか。学校が始まれば元に戻るわよ。
父:Iも京都に行っちゃうしな。ケイにはしっかりしても
らわないと。
母:最後はケイに頼るしかないものね。
父:跡取りだからな。ケイにはしっかりしてもらわないと。
そして夜中にテキストにおこして一発変換する。
父:なんだよ、このパン。
母:”金蔓”が好きなのよ。
父:そのスープも”金蔓”の好物だな。…あいつ何で降り
てきて食わないんだ。
母:昼夜逆転しちゃっているんでしょ。
父:このままひきこもるんじゃないだろうな。
母:まさか。学校が始まれば元に戻るわよ。
父:Iも京都に行っちゃうしな。”金蔓”にはしっかりし
てもらわないと。
母:最後は”金蔓”に頼るしかないものね。
父:跡取りだからな。”金蔓”にはしっかりしてもらわな
いと。
俺の親の愛には欺瞞がある、と言ったらヨーコさんが3つ
のテキストを送ってきてくれた。題して『喪男の求める愛、
3連発』。
『あれか、これか−愛の欺瞞』キルケゴール著。小川圭治訳。
おそらく不幸な恋が、その根拠を欺瞞にもつという場合に
は、その痛みと苦悩は、悲しみがその対象を見出しえない
ということにある。欺瞞だということが明らかになり、当
の女性が欺瞞だと気が付いた場合には、それは直接的な悲
しみであって、反省的な悲しみではない。その弁証法的な
むずかしさを、人はすぐに理解するであろう。なぜなら、
彼女はいったいなにを悲しんでいるのだろうか。彼がもし
欺瞞者であったのなら、彼が彼女を捨てたのはよいことで
あった。いや早ければやはりほどよいことであった。彼女
はむしろ、その事を喜ぶべきであって、彼女が彼を愛した
ことこそを悲しむべきであろう。だがしかし彼が欺瞞者で
あったということは、一つの深い苦悩なのである。しかし
それが欺瞞であったかどうかというこの点こそが、悲しみ
という恒久運動の中にある不安なのである。一つの欺瞞が
欺瞞であるという外面的な事実について確信を得ようとす
る試みそのものが、すでにまったく困難であり、しかもそ
れによって事柄はけっして片付かないし、あの「悲しみと
いう永久」運動も停止しない。欺瞞は、愛にとっては絶対
的な逆説であり、その点に反省的な悲しみの不可避性があ
る。愛のさまざまな諸因子は、個人の中ではきわめてさま
ざまな仕方でむすびつくことができるのであって、愛はそ
れゆえに一人の人間においては、他の人間においてと同じ
ものではない。利己的なものがまさっている場合もあるし
同情的なものがまさっているときもある。しかし愛がどう
であろうと、個々の要因に関しても、全体に関しても、欺
瞞は、愛はそれを考えることはできないのに、どうしても
考えようとする逆説であり、またありつづける。
(コメント。これはちょっと難解でしょう)。
『ものぐさ精神分析』岸田秀著の解説。伊丹十三。
(コメント。前提状況を説明すると、岸田秀の母親はサー
カス(?)を経営していた。彼女は岸田にギターなど遊ぶ
ものは買い与えたが、書籍や文房具は買い与えなかった。
そして大学進学にも反対した。家業のサーカスを継いでも
らいと言った。しかし岸田は反対を押し切って進学した。
そして母が亡くなった時に申し訳ないと思った)。
岸田はやがて、なぜ自分がこれほごまでにも母に罪悪感を
もっているのかを自己分析しようとする。「母は私を愛し
ている」、「母は私を愛していない」という二つの前提を
たて、それぞれを前提とする証拠集めの作業を行い、それ
はノート数冊分にも及ぶ、その結論は、母親の愛情の欺瞞
性であった。すなわち、それは、「わたしの母親像は、わ
たしの自発性、主体的判断にもとづいて形成されたもので
はなく、母がわたしを支配し、利用するためにわたしに植
えつけられたものである」ことの発見であり、その結果、
「やさしく献身的、自己犠牲的で、どんな苦労もいとわず、
何の報いも求めず、ただひたすらわたしを愛してくれてい
た母というイメージの背後から、ただひたすらおのれのた
めに、わたしがどれほど苦しもうがいっさい気にせず、お
らゆる情緒的圧迫と術策を使ってわたしを利用しやすい存
在に仕立てあげようとしていた母の姿が浮かびあがってき
た」。これは岸田にとって、恐るべき真実の露呈であった。
本来、子供にとって母親が自分を愛していないという事実
は耐え難いことであり、従って、彼は「自分を愛していな
い母親」そして「自分を愛していない母親に対する憎悪」
を「抑圧」し、母親は自分を愛している、そして自分は母
親を憎んでいないという自己欺瞞の上に、自我を築くこと
になる。少年としての岸田もそうしてきた。しかしそれは
神経症への接続せずにはいられない。
『自己と他者』レイン著。志貴晴彦、 笠原嘉訳。
ある看護婦が、ひとりの、いくらか緊張病がかった破瓜型
分裂病感謝の世話をしていた。彼らが顔を合わせてしばら
くしてから、看護婦は患者に一杯の紅茶を与えた。この慢
性の精神病患者は、お茶を飲みながら、こういった。<誰か
が私に一杯のお茶をくださったなんて、これが生まれては
じめてです>。この患者についてのその後の経験から、この
述懐に含まれている単純な真理が実証されるにいたった。
ある人間が、他人に一杯のお茶を供するということは、
それほど容易な事柄ではない。ある婦人が私に一杯のお茶
を出す場合、彼女は自分のティーポットやティーセットを
みせびらかしているのかもしれない。彼女は、私をいい気
分にさせて、私から何かを得ようとしているのかもしれな
い。彼女は、私が彼女をすきになるように仕向けているこ
とだってありうる。彼女は、他者たちに歯向うという彼女
自身の目的のために、私を見方に引き入れようとしている
こともありうる。彼女が、ティーポットからお茶をカップ
につぎ、受け皿つきのカップを持ったその手を無造作に突
きつけるために、負担にならないように二秒以内に私がす
ばやくそれに手をかさなければならない、というような事
態が起きるかも知れない。その行動は、機械的なものであっ
て、そこには私に対する認知がひとかけらも存在していな
いといっていい。一杯のお茶が私に手渡されたけれども、
私に一杯のお茶が供せられることはなかったといえるので
ある。
「こいつら全員喪男です」とヨーコさんは言った。「喪男っ
て完璧な愛を求めるんだよねぇ。メーテルの愛みたいな。
でもそれは喪男の脳内にあるもので、それを外部に求めて
もしょうがないでしょう。外部から与えられたものが自分
の脳内のとは違うと言って欺瞞だのなんだの言っても馬鹿
でしょ」
「そういえば」と俺は言った。「内の母親は…この前PC
を買ったんだけれども。家族用に。富士通のデスクトップ
なんだけれども、マウスがワイヤレスで、感度が良すぎて、
ちょっと触れただけでカーソールが敏感に反応するんだよ
ねえ。それで思い通りに動かないって俺の母親はイライラ
していたけれども、ああいう感じで、俺の事も思い通りに
動かしたいんじゃないの?」
「だから、あなたがそれを分かっているんだったら、ああ、
お母さんは又、例によってイライラしているんだなってあ
なたがバッファを持てばいいじゃない。分かる? あなた
のお母さんがバッファ零人間で、あなたもバッファ零だっ
たら、がちがちになるじゃない」
…と言ったところで、そもそもこの母親との関係は【a】
ルート周辺の事であり、ひきこもりから脱出するには【b】
ルートを開通させなければならないので、あまり意味がな
い。仮に【b】ルート遮断の原因が母親にあったとしても
母親に開けられるのは【a】ルートだけなので、ひきこも
り脱出には貢献しない。
#836/1158 ●連載 *** コメント #835 ***
★タイトル (sab ) 10/04/16 11:28 (109)
ひっきー日記26 ぴんちょ
★内容
それから今までひきこもっている。勿論俺はリスカ等自傷
行はしないし、又直接親を殴る蹴るという事もしなかった
けれども、壁をぶちやぶったり、中二階のテラスから車の
天井に思いっきり飛び降りて屋根をべっこり凹ませたりは
した。
どういう時にぶち切れるかというと、例えば比較的平穏な
日々が続いた後の或る日の昼下がりに「お茶でも飲まない?
桜餅を買ってきたから」などと声をかけられて、渋々台
所に行って黙ってお茶を飲んでいると母親が「ケイちゃん、
どうする?」
「何が」
「お母さんもお父さんも死んだら」
「えっ」俺は顔を上げないまま母親の方を見た。手の平に
湯呑みを乗せてもう片方で包み込むようにして持っている。
自殺なんてする訳ねえ。夫婦の会話はちゃんとマイクで聞
いているんだから。しかし何時かは両親は死ぬんだよなぁ。
その時俺はどうするか。どっかの元ひきこもりは家庭教師
で生業をたてているとネットに書いてあった。俺にはそん
な学力は無いからPCでも教えるかな。ふと俺はそう思っ
た。「パソコンの家庭教師でもやろうかなぁ」俺は言った。
「えっ?」驚いた様に母が目を見開いた。
「京王ストアとかに貼ってあるじゃん。家庭教師やります、
とか。ああいうのを貼っておけば誰かが教えてくれって言っ
てこないかなぁ」
「あんたが誰かの家で教えるの?」
「そうだよ」
「そんな事してその家で何かなくなったりしたらあんたの
せいにされるんじゃないの? それにお母さん、整体に行っ
ているけれども、そこの先生は絶対に患者と二人にならな
い様に女の事務員をおいているのよ。変な事にならないよ
うに。…お母さんはそうやってあなたが表に出るよりは、
誰かしっかりした人についていた方が…」
ここら辺で俺の握っている湯呑みは既にガタガタと震えて
いたのだが、「何で俺の自立の邪魔をするんだよ」という
自分の台詞で切れたぁーーーーー。「誰だよそのしっかり
した人っていうのは。俺にヒトラーユーゲントにでも入れっ
ていうのかよ、ムカつくなババァ」と叫ぶと冷凍庫の横に
置いてあったゴミ箱に集中的に蹴りを入れる。電話台の上
の電話機やメモ帳やペンなどを辺りにぶちまけるとカレン
ダーを壁から引っ剥がして床に叩き付けた。乱暴にドアを
開けて自室に向かって走る。部屋に帰ったら帰ったで、そ
ういえば俺が原付の免許を取った時に、「よく取れたわねえ、
あんたなんて絶対に警察に認められないと思っていた」と
か言っていやがったな、あのババァ、そこまで俺が世間に
ハブにされていると思っているのか、と思い出して壁を殴っ
て穴を開ける。更に、去年学校で備品のPCが無くなった
時に、「もしかしてあんたのせいにされているんじゃない
かしら」とか言ったな、あのババァと壁に穴。それからカ
エデのぼやけた写真を見せた時に、「この女があなたの事
を好きだとは思えない。あんたに魅力があるとは思えない
もの」。ババァ。ばばぁーーーー。そして壁に穴。それか
らベッドにもぐりこんだ。
30分ぐらいして怒りがおさまった頃にふと思ったのはマ
イケル・ジャクソンの事だった。彼は父親に「お前の顔はニ
キビで汚い」と言われたんだよな。それからバーブラ・スト
ライザンドの母親もバーブラの事を醜いと思っていてショー
ビジネスの世界には入れなかったんだよなぁ。そしてバー
ブラは風俗に走った。俺もヨーコに走るか。確かにヨーコ
はクラスの素人女子連合とは違ってとっつきやすいよな。
多分俺があの素人女子連合は清潔に違いないと思っている
様に母親も世の中ちゃんとしているに違いないと思ってい
るんだろうな。しかし、夜になればひたすら俺の為に食事
を作るのだから、やはり俺の事は気になっているのだろう。
「愛する息子が生きる世の中はちゃんとしていなければな
らない。そんなちゃんとした世の中に息子が参加出来るわ
けがない」とでも思っているのか。
夜中に俺はスカイプでヨーコさんに言った。「まったく俺
がパソコンの家庭教師をやったら不審者に思われるかも知
れないとか言うんだよ。こんなんじゃあとても誰かと所帯
を持つなんてあり得ないよなぁ」
「誰かそういう子がいるの?」
「そりゃあ、いたよ」
「じゃあその子がいいって言えばいいじゃない。何で親の
承認がいるの?」
「そりゃあ…」
「なんでその子の愛が本物かどうかを親に納得させる必要
があるの?」
「俺がもっと成功していれば親も納得するんだろうなぁ」
「どんなに社会的に成功したって親からなんて離れられな
いんだから。荻野アンナって知っている?」
「しらん」
「荻野アンナって不思議だよなぁ」と独り言の様に言った。
「何で結婚出来なかったんだろう。芥川賞作家だよ。慶応
の助教授か何かだったんだよ。それなのに親が駄目だって
いったから結婚出来ないんだから。なんでだろう。それで
今は親の介護。一生親に付き合うつもりかなあ。絶対に捨
てないと駄目だよ。私は絶対に捨てる」とヨーコさんは言っ
た。
#837/1158 ●連載 *** コメント #836 ***
★タイトル (sab ) 10/04/16 11:29 ( 66)
ひっきー日記27 ぴんちょ
★内容
或る晩の父母の会話。
母:ちょっとこれ見て。
父:なんだこれ。なにこれ。精神病院じゃないのか。
母:違うわよ。そこに思春期外来というのがあって。
父:こんな所に行ったらますます社会から遠ざかるんじゃ
ないの。だって、これ、過去に精神病院に通院歴があると
かになるんだぜ。
母:そんな事言って、なんかしたらどうするの。
父:えぇ?
母:あの子が何かしたらどうする積もり。
(沈黙)
父:猫を思い出したよ。
(沈黙)
父:赤紙が来たらどうする?
母:え?
父:もし赤紙が来たらあいつを戦争にやるんだろう。
母:だって逃げられないんでしょう。
(沈黙)
父:あいつが無能力のままだったらいいんじゃないのか?
母:結婚したら私なんて追い出されちゃうかもね。
父:そんな事考えているのか。
母:自分だって追い出したいんじゃないの? でも誰かに
家は継がせたい。娘は追い出したし。
父:何言ってんだ。
この会話の中に出てくる猫というのは昔妹が拾ってきた猫
だ。まだ子猫だったが去勢された。猫AIDSになるとい
うんで一歩も外に出してもらえなかった。もっとも数ヶ月
そうしておいたら自分から外に出ようともしなくなったが。
ああいう心配性の親に育てられると俺みたいにひっきーに
なるのか、とも思う。俺の母親は超心配性だ。家に誰もい
ない時に父母の寝室を家捜しした事があった。驚くべきも
のを発見した。母子手帳が3冊出てきたのだ。俺と妹の間
に子供がいたのだ。あれは羊水検査とかなんとかで異常が
発見されて中絶されたんじゃないのか。池沼の子供を産ん
だって社会に適応出来ないから。そういえば例の音楽掲示
板に『木枯し紋次郎』という昔の時代劇のテーマソングが
うpされていたが、紋次郎は天保の大飢饉で間引きに合い
そうになって逃げてきた、と書いてあった。案外現代でも
間引きはあるんじゃないのか。
いや、そうじゃなくて猫の事は俺も理解出来るし俺だって
仮に結婚出来て奥さんが妊娠して羊水検査でひっかかった
ら中絶するかも知れない。でももし子供がいて赤紙が来た
ら何としても逃がしてやると思う。ヨブ記じゃあるまいし。
#838/1158 ●連載 *** コメント #837 ***
★タイトル (sab ) 10/04/16 11:29 ( 61)
ひっきー日記28 ぴんちょ
★内容
自分が死んでも子供が死んでも秩序を守りたい場合がある
とヨーコさんが言った。
私の母は、世の中はちゃんとしていると思っていたの。世
の中というのは税務署とか銀行みたいな感じだけれども。
だから勿論そんな世の中に自分が参加出来る訳がないと思っ
ていて、それで歌舞伎町などで働いていたの。そこに私が
生まれたんだけれども、当然、こんな娘が世の中に通用す
る訳がない、だって世の中はちゃんとしているのだから、
と思っていた訳。
で、私が高校の頃に家で飼っていた犬がフェラリアにかかっ
たのね。その時に来た獣医がすごいいい加減で、午前中に
来て注射を打って午後に来て又打って、今度は2、3日来
なかったり、又立て続けに来たりして、おかしいんじゃな
いのか、と思って私は注射を打った回数と請求書をチェッ
クして「おかしいんじゃないの、これ」と文句を言ったの
ね。玄関先で。そうしたら奥から母親が顔を出して、「ど
うもすみませんねぇ、うちの娘が生意気を言って」
「何言ってんの、お母さん、私は家を代表して文句を言っ
ているんだよ」
「お医者さんにそんな事を言うもんじゃありません」
みたいな感じ。その犬はほとんど、のたうち回って苦しん
でいたので私としてはどこか別の動物病院に連れていって
安楽死させた方がいいんじゃないか、と思ったのだけれど
も、「そんな事したら世間様に相手にされなくなる」とか
言う。
今度は、その母親が病気になったんだけれども、大きい病
院に入院して、回診に来た医者の背中に手を合わせる訳。
何でそんな事するんだろう。治療は全然上手く行っていな
いし苦しむばかりなのに。私としては、もっと小さいクリ
ニックで緩和ケア中心にやってもらえばいいのに、と思っ
たのだけれども、「そんな事をしたら野垂れ死にする」と
か言うの。
なんでうちの母がこういう発想をするのかというと彼女の
脳内はこういう意識になっているんじゃないかと思った。
原理−執行者−受け手
聖書−司祭 −信者
法律−法律家−被告
医学−医者 −患者
うちの母親は原理主義者だからこの左側のものが好きな訳。
これは例えば血圧計とか体温計みたいなものでしょう。そ
こにもし執行者が現れて人間的な計らいをすると原理が台
無しになると思うんだよ。だからペインクリニックで安楽
死するよりかは意味の無い延命手術を承諾する事になる訳。
フロイトですら『快感原則の彼岸』なんて書いていながら
自分の手術となると、「外科医らしく冷たく接する様に」
なんて言ったんだって。
多分そういう感じで赤紙が来たら戦争にやるんじゃないの?
#839/1158 ●連載 *** コメント #838 ***
★タイトル (sab ) 10/04/16 11:30 ( 86)
ひっきー日記完 ぴんちょ
★内容
結論として俺がひきこもりから脱出出来たのは、やったか
ら、としか言いようがない。相手は風俗嬢でもなんでもい
い。やってしまえば…、とこう言った段階でまずひきこも
りは「自分の求めているものはそういうものじゃない」と
言うと思う。でもそれは、醜形恐怖の様に自分が醜いと思っ
ている人のすっぱい葡萄でしょう。ではどうして自分が醜
いかと感じるかというと、イデアの世界に生きているから
だと思う。それは例えば『恋愛レボリューション』の頃の
モー娘。全員を精製して一人の象徴を作り出してそれに見
られているとでも思っている感じではなかろうか。「いや、
そこらへんを歩いている適当にブスな女子高生も俺の事を
醜いと思っている」と感じたなら、モー娘。の結晶がその
ブスな女子高生にのりうつっているからなのだ。つながっ
てしまっているとしか言いようがない。
ラカンは孔雀の羽も天井板の節穴も”目”に見えるのは人
間の方に「見られたい」という欲望があるからだ、と言っ
た(これを対象aという)。その欲望は去勢という切断に
よって起こると言った。去勢すれば目でないものが目に見
えてくると。
斎藤環も同じ様に、治療者によって去勢すれば女でないも
のが女に見えてくるから良い事だと言う。二次元に萌えろ
と言う。”みやすのんき”に萌えろという。それはモー娘。
を煎じ詰めたようにありとあらゆる魅力を兼ね備えている
が、ちょっとリアリティーに欠けるかも知れないので、ナ
ウシカみたいに残酷な行為をさせれば萌えるんじゃないの
か(『戦闘美少女の精神分析』)、そうやって『汝の症候
を楽しめ』(ジジェク)と言っている。馬鹿言ってんじゃ
ねえ。
全くの逆だろう。孔雀の羽も天井板の節穴も”目”に見え
るのは欲望があるからではなくて視線恐怖という不安があ
るからだろう。だからひきこもっているんじゃないの。そ
の不安をなくすには孔雀の羽も天井板の節穴も”目”とは
違うのだ、と知るしかない。それにはやるしかないんだよ。
やってしまえば、「これは、みやすのんきの漫画とは違う
なあ」と分かる。「そんなの最初から分かっている。でも
俺は醜いから」という奴はまだ分かっていないのだ。
とにかくやろうと思った人へのアドバイスは以下である。
1)看板の出ている風俗店に行くべし。
2)衛生面には注意すべし。コンドーム装着の事。
3)緊張をやわらげる為に市販の精神安定剤を利用するの
もいい。(アタラックスなど)。
4)一回でフィニッシュできなくても焦らない事。俺は1ケ
月かかった。キルケゴールは一回の失敗で諦めたので一生
童貞で終わった。
5)風俗嬢にはまるな。時間と金の無駄。風俗の女とは4、
5回でおさらばしてほしい。
風俗店は出来れば待合室のあるようなところがいい。とい
うのもそこで穴兄弟に出会える可能性があるからだ。そう
いう奴が大きく世界を広げてくれる。俺はそこで出会った
奴と「素人でもやらせるんじゃないか」「やってみようか」
という話になった。ここまでくればただの非モテだろう。
ただし、やはり風俗店に通い詰める様な奴はその程度の野
郎だから気を付けた方がいい。本当は学校でその手の悪友
を得られたらよかったのだが。
最後に、やはりひきこもりは性的な問題だったのかという
エピソードを語ろう。その穴兄弟が別の穴兄弟のおっさん
から聞いた話。そのおっさんは昔ストリップにはまってい
たそうだ。10年ぐらい前までは関東一円、国道16号の
外側あたりにストリップ劇場が点在していたそうだ。そこ
には本番まな板ショーというのがあって、ジャンケンで勝っ
た人がステージに上がってみんなの見ている前でやったそ
うだ。その手の店は全部潰れたそうだが、その後そのおっ
さんは乱交パブにはまって、ふるちんであぐらをかいて店
に入ってくる女を待っていたという。そこまで破廉恥な事
をする癖に、会社でゴルフに行くと風呂場でちんぽを見ら
れるのが恥ずかしいと言う。しかしそのゴルフコンペには
前泊があって9割ぐらいの大人が買春行為に及ぶと言う。
そういう事をした仲間だと、同じ釜の飯を食った仲間とい
うか、やはり穴兄弟的な気持ちになって、何でも話せる様
になるという。尤も話した所で何の役にも立たないのだが。
その程度なんだよ。世の中は。何がラカンだ。そんなの全
然関係ない。
諸君の検討を祈る。