#7999/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA ) 13/12/15 21:56 ( 25)
本の感想>『体育館の殺人』 永山
★内容
・『体育館の殺人』(青崎有吾 東京創元社)16/5551
放課後、体育館で活動を始めようと集まる卓球部、演劇部、放送部の生徒達。
舞台の幕が降りていたことがいつもと違っていたが、それ以外は普段通りのは
ずだった。幕が上がると、そこには生徒の他殺体があった。
卓球部の早苗は、部の先輩が疑われる流れに、刑事の兄ではなく、校内一学
業優秀でアニメオタクで、なおかつ学校に住んでいるという噂の裏染天馬に助
けを求めた。気乗りしない様子が露わな裏染だったが、高額報酬に釣られて引
き受けることに。
鮎川哲也賞受賞の、館シリーズパロディ(?)本格ミステリ。
文章は下手ではないが、稚拙で、巧いというレベルじゃない。ただ、すらす
ら読めることは確か。いや、時折飛び出すアニメ関連の用語に引っかからなけ
れば、の注釈付きだけど。
シリアスで進むのかと思ったら、裏染が登場した辺りから、何故かユーモラ
スになったのも、ちょっと違和感があった。
でも、ミステリの部分が優れている。だからこその鮎川哲也賞受賞でしょう。
特にロジック。現場のすぐ近くに落ちていた、たった一本の傘から繰り広げら
れるロジックだけで面白い。密室トリックも現実味は抜きにして、ユニーク。
と、絶賛したロジックですが、一点、ポケットに関する論理展開には、やや
首を傾げた。結果的には正しかったってことになるんだろうけど、もっと検討
すべき選択肢があるだろうと思う。
ともあれ、今の時代にここまでエラリー・クイーン風の本格ミステリは、な
かなかお目にかかれない。二作目、三作目を読みたいと思わせる作者です。
ではでは。
#8342/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ *** コメント #7999 ***
★タイトル (AZA ) 14/11/13 22:16 ( 40)
本の感想>『水族館の殺人』 永山
★内容
・『水族館の殺人』(青崎有吾 東京創元社)18/5562
夏休みまっただ中、風ヶ丘高校新聞部の三人は、部活動の一環として、隠れ
人気スポットである丸美水族館の取材に訪れた。開館間もない時間帯に、館長
の案内で館内を回りながら取材をしていると、サメの水槽の前で異変が。職員
の一人が水槽内に転落し、サメに噛み付かれた!
一見、事故死に思えたが、水槽上部のスペースに駆けつけてみると、明らか
な殺人の痕跡が。早速、警察が捜査を開始するが、被害者の上半身を丸呑みに
したサメの搬出など、普段と異なる状況に戸惑い気味。さらに、防犯カメラの
おかげで容疑者を十一人に絞り込めたのはいいが、そこからが進まない。逆に、
全員のアリバイが成立してしまった。
刑事の仙堂と袴田は、やむなく最終手段に出る。かつて『体育館の殺人』を
解決に導いた高校生に、袴田の妹である柚乃を通じて呼び出しを掛けるのだ。
学校の開かずの部室に暮らし、アニメオタクで秀才だがだめ人間の裏染天馬は、
今回も事件を解き明かせるのか。
鮎川哲也賞受賞の作者が放つ、館シリーズ(?)の長編第二弾。
デビュー作『体育館の殺人』に引けを取らない、推理尽くしの作品でした。
ロジックにこだわり抜いているんですが、アニメ絡みのネタも事件とは無関
係に多数仕込まれており、何だかガチャガチャしています。前作はまだ理解で
きるネタが多かったんですが、今回はほとんど分からなかった。それでもまあ
すらすら読めたので、文章力は前回よりだいぶ上がったのではないかしらん。
まだ巧いというレベルには達してないですけど。
裏染の推理は主に、現場近くに残されたモップとバケツを元に展開され、こ
れでもかと言わんばかりに丁寧にロジックを組み立てていきます。それでいて、
何度かひっくり返される、つまりは間違える訳で、その間違える部分も含めて
よくできていると思います。ただ、前作が“一本の傘が手掛かりですよ。問題
点はこれこれここういうことですよ”と明確に提示されていたのに対し、本作
は“モップとバケツが手掛かりですよ。でもどこが問題なんでしょう?”って
感じだったかな。読者がもう少し参加しやすいよう示してくれたら、より楽し
めたかも。
疑問に感じたのは、この犯行を本当にこの時間内にやりおおせるかどうか?
幸運に助けられて、何もかもが一発で成功し、ハプニングにも瞬時に対応して、
ようやく時間内に収まる気がする〜。
そんなこんなで、ほぼロジックのみでそこそこ楽しませてくれた物語でした
が、最後に来て大きな“爆弾”が。まさか、こんな動機だったとは……と唖然
とさせられました。
三作目も期待大。あ、次からは脚注をつけてほしいな。アニメネタに関する
解説を(笑)。
ではでは。
#9191/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ *** コメント #8342 ***
★タイトル (AZA ) 17/02/11 21:07 ( 31)
本の感想>『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』 永山
★内容
・『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』(青崎有吾 東京創元社)15/4461
風ヶ丘高校学食の外で見付かった、食器とお盆。丼の食べ残しを見ると、こ
の“犯人”、好きな具が二つ選べる二色丼を頼みながら、ソースカツを丸々残
していた(「もう一色選べる丼」)。神社での夏祭りにやってきた面々は、あち
こちの屋台で買い物をする。そのおつりが何故か五十円玉ばかり(表題作)。
演劇部部室で見付かったノートには、五年前の卒業生・宍戸による不思議な記
述が。始業式後、部室から教室に向かった宍戸は女生徒二人が抱き合う姿を目
撃する。あわあわしつつ一旦その場を離れ数分後にまた覗きに戻ると、出入り
口から目を離していないのに、教室は無人に(「天使たちの残暑見舞い」)。音
を立てずに割れた花瓶の謎(「その花瓶にご注意を」)。
鮎川哲也賞作家による初の短編集&日常の謎ミステリ。
『体育館の殺人』『水族館の殺人』の二長編で、ロジカルな本格ミステリを繰り広げ
た作者が、短編ではどんな物を見せてくれるのか、またどんな日常の謎を描くのか、興
味のあるところ。蓋を開けてみると、ロジックこそやや薄めになったものの、本質は変
わらない、推理の積み重ねに拘ったミステリに仕上がっていると感じたです。ただ、短
編集としてまとめるには、格となる一本が見当たらない。表題作は、東京創元社ではお
なじみ“五十円玉二十枚の謎”を連想させるタイトルですが、それとは全く無関係な内
容で、発想は面白いものの、実際にはそううまくは行くまいという印象が強い。複数の
感想サイトで編中のベストか次点に推されている「天使たち・」は、現象は詩美性があ
ってよいのですが、体験者の宍戸はこのあと自力で何にも調べなかったのか、調べれば
すぐに分かる。分かったならこんな恥ずかしい記述、即座に破棄したに違いない。だい
たい、音で気付くはず。「もう一色・」はロジックの一つに承服しがたい点がある。
「その花瓶・」はややこしいこと考える前に匂いで気付きそうな。てことで、個人的に
は粗筋に書かなかった「針宮理恵子のサードインパクト」がいかにも青春ミステリでよ
かったかな。構造上、謎の提示がされないのは勿体ないけどしょうがない。あと、末尾
のおまけに関しては、アニメのワンシーンて感じで、“二人”の仲がこれまでの作品で
仄めかされていたほど険悪ではなく、むしろ滑稽に映ったんですが、どうなんだろう。
てな訳で、裏染シリーズを読んできている人なら必読でしょう。
ではでは。