#8533/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA ) 15/05/14 22:14 ( 35)
本の感想>『眼球堂の殺人』 永山
★内容
・『眼球堂の殺人』(周木律 講談社ノベルス)14/5441
行き来するのさえ一苦労の山奥に、天才建築家・驫木が建てた眼球堂。その
名の通り、眼球を模したかのような形状の巨大な建物は、数学的な趣向を凝ら
してあった。驫木の招きにより、各界の天才と目される男女四人と放浪の数学
者・十和田、その追っかけフリーライター藍子らが眼球堂に集う。そこで驫木
が、建築学は他の全学問の上位に位置するとの持論を改めて展開し、不穏な空
気に包まれる。翌朝、建物内部に幾本も立つ柱の一つに、驫木らしき人影が突
き刺さっているのが発見される。だが、事態を確認しようにも、柱まで観に行
く方法がない。しかも眼球堂から外へと通じるドアはロックされ、皆閉じ込め
られてしまった。そんな中、さらに続く殺人。果たして犯人は誰で、どんな目
的で、いかにして殺しを遂行しているのか。
第四十七回メフィスト賞受賞の、王道を行く本格ミステリ。
※ネタバレ注意です
非常に凝っていて、作り込まれた本格ミステリと言える一方、その良さが十
全に発揮されたとは言い難い出来映えでもある、評価の難しい作品かな。大掛
かりな物理的トリックや眼球と数学に拘った仕掛けが、あまりにも作り物めい
ていて、そういう方法をありとするのなら、そこまでやらなくても同じ手口で
もっと単純なやり方があるでしょ、と思わずにはいられない。
最後の仕掛けも、恣意的な選択をした記述によるもので、アンフェアではな
いのだろうけど、必然性に乏しい。
登場人物達が最初のトラブル発生後、脱出を早々にあきらめるところに違和
感がなくもなし。せめて、人を呼ぶ努力はしようよ。煙を立てるとかして。あ、
大勢出てくる天才達も、さほど天才っぽく描けていないのも気になったです。
あと、館トリックの見当を付けたあとの、探偵役の行動にも疑問。降りてい
ったタイミングで仕掛けを発動されたら、ひとたまりもなく死んじゃうよ。
ユニークだと感じたのは、探偵役の態度。“何らかの代案を持ち合わせてい
ない限り、人の考え(案)に否定的な意見を述べる資格はない”的な信条は、
これまでの推理小説にありそうでなかった?
文章は巧い箇所とそうでない箇所との差が割と顕著だった気がします。そこ
に叙述トリックが仕掛けてある、という訳でもないし。
何だかんだ言いつつ、面白く読めました。既存のトリックやキャラクターを
一旦分解し、再構築した感じか。
ではでは。
#8546/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ *** コメント #8533 ***
★タイトル (AZA ) 15/05/26 22:34 ( 31)
本の感想>『双孔堂の殺人』 永山
★内容
・『双孔堂の殺人』(周木律 講談社ノベルス)10/3331
天才建築家・驫木が、湖畔に建てた双孔堂(ダブルトーラス)。それは巨大
な鍵を重ねたような形をしていた。建物の所有者は、謎に包まれた数学者・降
脇。
警視庁の刑事・宮司は妹に懇願され、放浪の数学者・十和田のサインをもら
うために、休みを利して双孔堂を訪れる。十和田が双孔堂に滞在しているとの
情報を妹が聞きつけたのだ。が、そこで彼を待ち受けていたのは、同時発生し
た二つの密室殺人だった。しかも、十和田が殺人犯として逮捕され、犯行を認
めているのだという。
第四十七回メフィスト賞受賞作の続編。
※そこそこネタバレ注意です
うーん。決してよい出来とは言えないシリーズ第一作よりも、さらに落ちる
感じだなあ。
ミステリにおける謎の提示が、今回はいまいちだった。もっと不可思議さを
クロースアップして、印象づけてくれれば、もう少しよい感想を抱けたかもし
れません。ただ、物語自体は単調だし、伏線の拾い方は乱暴だし、文章も明ら
かに劣化しているように思えたし、多少の手直しでは厳しいか。
名探偵が犯人として逮捕され、しかも探偵自身も認めているというのは珍し
い設定で期待したんですが、尻すぼみに終わってしまい残念。頻出する数学ネ
タは煙に巻こうとしているだけで、事件の本質とはあんまり関係ない気が。テ
ーマを表そうとするのなら、星の王子様だけで事足りる。
事件が解決したあとに描かれるシーンは、探偵vs犯人の構図が続くことを
宣言しているようだけど、特撮ヒーロー物の匂いが少し漂ってて、浮いている。
今後レギュラー陣になるであろうキャラクターに、何らかの秘密があるという
のも含めて。
あと、探偵が真相を推理し得た時点で、真っ先に考えるべきは館から消えた
人物についてだと思うんだけれども、関係者を前にしての謎解き披露の後回し
になっているのは、変な気がしたです。
ではでは。