#8156/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA ) 14/05/09 22:08 ( 28)
本の感想>『人魚は天に還る』 永山
★内容
・『人魚は天に還る』(三木笙子 東京創元社ミステリフロンティア)
14/5351
見世物小屋で大評判を取っていた人魚が、ある金持ちに買われていくことに
なった。人魚は最後の願いとして観覧車に乗りたいと言い出す。厳格さと恐ろ
しさで知られる座長とともに、観覧車の箱に乗った人魚だったが、てっぺんに
達した頃合いに、座長の叫び声が響き渡った。下りてきた箱を覗いてみると、
中には腕を切りつけら、血を流す座長の姿のみ。そこへ降ってくる飛沫。人形
は空中で泡となって消えたのか(表題作)。著名な真珠店から、高価な真珠三
粒が盗まれた。程なくして、金魚鉢に使う白い砂利の中から、真珠が一粒出
てくる。盗人が入れたのだとしたら、何のために? 同じ頃、教会に現れる怪
しい人物も噂になっていた(「真珠生成」)。
明治の帝都を舞台に、美貌の天才絵師と雑誌記者が遭遇する様々な事件。
読み始めて最初に驚いたのは、てっきり、天才絵師の方が探偵役で、雑誌記
者がワトソン役だと思っていたのに、逆だったこと。雑誌記者が語り手という
訳ではないのだけれど、主な視点は雑誌記者を通しているので、斬新と言えば
斬新な設定です。ただし、このスタイルだと、探偵役である雑誌記者が、思い
付いた推理を読者に対して伏せていることが丸分かりになってしまうので、問
題ありとも言えます。
内容は……薄味かなあ。人情譚の部分に重きを置くのはいいんだけど、ミス
テリの部分が薄い。上述の理由も合わせて、あんまり推理している感じがしな
い。インパクトのなさも薄味と感じた理由の一つで、四編からなる短編集なん
ですが、冒頭のシリーズ第一作が、ホームズの物語の形を借りて、キャラクタ
ー紹介のために書いたような雰囲気。
インパクトのある表題作は三つ目に配されていますが、これを冒頭に持って
きて、三つ目にはもっと完成度の高い物を置くべきだと思います。
ではでは。
#8205/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ *** コメント #8156 ***
★タイトル (AZA ) 14/06/29 23:04 ( 26)
本の感想>『世界記憶コンクール』 永山
★内容
・『世界記憶コンクール』(三木笙子 東京創元社ミステリフロンティア)
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“記憶に自信ある者求む”――新聞に載った求人広告に、義父の勧めで応募
した博一は、即座に採用された。大学教授を名乗る男から記憶力を高める訓練
を受けつつ、報酬を得ていた博一だったが、ある日を境に男とは連絡が取れな
くなる。ホームズ譚の「赤髪連盟」を彷彿とさせる出来事に、何が隠されてい
るのか(「世界記憶コンクール」)。
表題作をはじめとして、美貌の天才絵師・有村礼と雑誌記者・里見高広、そ
して彼らにまつわる人々が関わった事件とその顛末を描いた短編集。
前作『人魚は空に還る』に続くシリーズ第二弾。前作に比べると、レベルア
ップしています。冒頭を飾った表題作は、シリーズの特色を表すのに最適な出
来だと思いました。続く三編も、高広の両親の馴れ初めを描いたり、前作で登
場した事件関係者の成長を描いたり、あるいは高広と有村との出会いを描いた
りと、実にバラエティに富んでおり、楽しませてくれました。
人の優しさだけでなく、黒さも描いており、そこからさらに話をまとめる手
腕は、かなりのもの。明治・帝都の風俗や慣習などを取り入れ、それを事件と
絡ませ、魅力的な謎に仕立てている点も見逃せない。前作に比べると、解決の
方も鮮やかになったと感じました。
本作で不満を述べるとしたら、有村の存在の薄さ。美貌の天才絵師だなんて、
いわゆる萌え狙いっぽいキャラクターを用意しておきながら、名探偵ではなく
ワトソン役(しかも記述はしない)というのは前作からの設定なので仕方ない
として、今回はほとんど動いていない。もうちょっと活用のしようがあるので
はないかと。
ではでは。