#7750/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA ) 13/05/30 21:52 ( 21)
本の感想>『七つの海を照らす星』 永山
★内容
・『七つの海を照らす星』(七河迦南 東京創元社)15/4551
学校にはつきものの七不思議。児童養護施設の七海学園もご多分に漏れず、
七不思議があった。それは過去に起きた言い伝えだけでなく、現代も度々発生
し、子供達や職員らを騒がせ、悩ませていた。ピンチに助けに現れた先輩は、
そのときすでに死んでいた? 空き家の少女の幽霊。血文字の短冊。非常階段
のてっぺんから消えた子。開かずの門の高所の閂を開ける子供の手。女六人で
通ると七人目のささやきが聞こえるトンネル etc……。
学園の保育士である春菜は、ときに独力で、ときに知り合いの助けを借りな
がら、謎を解き、最善の答を見つけ出そうと奔走する。鮎川哲也賞受賞の連作
短編集。
よかった。連作かつ長編として成立させるために、無理をしている箇所があ
るものの、そこを言い立てるのは野暮だろうと思わせるだけの趣向と技巧、そ
して題材選びの妙で魅せてくれています。
某作のトリックが似ている点も含めて、村瀬継弥の作風をちょっと連想しま
した。不可能性は村瀬作品に軍配が上がりますが、物語に流れる優しさは本作
の方が好き、というか押しつけがましくさがあんまりなくて、いい感じ。
この分なら、傑作の呼び声が高い続編『アルバトロスは羽ばたかない』も、
大いに期待ですね。
ではでは。
#7754/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ *** コメント #7750 ***
★タイトル (AZA ) 13/06/02 22:00 ( 29)
本の感想>『アルバトロスは羽ばたかない』 永山
★内容
・『アルバトロスは羽ばたかない』(七河迦南 東京創元社)18/6552
※粗筋をフェアに記すのが結構難しいため、本書のカバー折り返しから引用し
ています。
児童養護施設・七海学園に勤めて三年目の保育士・北沢春菜は、
多忙な仕事に追われながらも、学園の日常に起きる
不可思議な事件の解明に励んでいる。
そんな慌ただしい日々に、学園の少年少女が通う高校の
文化祭の日に起きた、校舎屋上からの転落事件が影を落とす。
警察の見解通り、これは単なる「不慮の事故」なのか?
だが、この件に先立つ春から晩秋にかけて春菜が奔走した、
学園の子ども達に関わる四つの事件に、
意外な真相に繋がる重要な手掛かりが隠されていた。
鮎川哲也賞作家が描く、季節を彩る五つの謎。
『七つの海を照らす星』に続く、清新な本格ミステリ。
前作『七つの海を照らす星』(東京創元社)を読了してからの方が、本作の
よさをより味わえるでしょう。あとは、とにかく読んでとだけ言うのが、最良
の感想かもしれない。
真相が示された瞬間、世界が反転する。ついさっき、今の今まで手の中にあ
った物が、さらさらと崩れて指の隙間から落ちていき、姿を見せていなかった
物が手のひらに残る。そんな感じ。
全体を貫く一つのエピソードの合間に、四つのエピソードがカットバックの
ような形で挟み込まれた構成。その四つのエピソードで描かれる謎と解決も、
よくできている。我が子を崖下に突き落とした母親の真意、生徒の集団消失、
読み込めないディスクの秘密、そして施設を訪れた親が刃物をちらつかせると
いうサスペンスフルな展開まで。
とてもシンプルでとても巧妙なミステリに、心地よくだまされました。
ではでは。