AWC 本の感想>『龍の館の秘密』   永山



#5522/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ
★タイトル (AZA     )  09/05/29  22:28  ( 30)
本の感想>『龍の館の秘密』   永山
★内容
 当初は二十八日に帰るつもりが、六月一日辺りに延びる見込みになったのも
束の間、一転して、明日三十日に一旦帰宅する予定に。マスク着用者が減って
いるとのことで、ちょうどいいタイミングだったかも?
 ばたばたして、書き込みのネタが用意できなかったので、本の感想を棚卸し。

本の感想>『龍の館の秘密』(谷原秋桜子 創元推理文庫)13/5341
 行方不明の父親を探しに、スペインへ渡る費用を貯めようと、アルバイトに
勤しむ女子高生の倉西美波。今回、彼女がありついたのは、「立っているだけ
で一日二万円」という、普通ならありそうもない条件。やがてトラブルに巻き
込まれ、何故か辿り着いたのは京都にある「龍の館」。偶然にも親友と巡り会
ってほっとしたのも束の間、殺人事件が発生。庭の池に固定された被害者は、
どうして溺死寸前まで声を上げなかったのか(「龍の館の秘密」)。
 何の因果か、治験に手を出す羽目になった美波。施設に泊まり込んでのバイ
トは、相部屋の二人がひと癖もふた癖もありそうな女性で、落ち着かない。と
ころが……(「善人だらけの街」)。

 長さから言って、表題作がメインなのですが、前作「天使が開けた密室」に
比べると、だいぶ落ちるかなあ。だまし絵という非常に本格ミステリ色の濃い
小道具を登場させながら、消化不良に終わったような。代わりに、あるパズル
を応用したトリックが用いられているのだけれど、何となく浮いている感じ。
 散りばめられた伏線や暗示は、分かり易くはあるものの、適切な配置で、読
者に手掛かりを拾う心地よさを味わわせてくれる。
 物語の締め方が、あまりにもベタで、ちょっといただけない。別の締め方を
予想していたせいもありますが、これはないだろうって思った。
 「善人だらけの街」は、着想がユニーク。何が起こってるんだ?という興味
で引っ張り、予想が付きづらい。ただ、その解決に些か特殊な物を持って来た
のはマイナス。これを普遍的な別の物に置き換えることができていたなら、傑
作とまでは行かなくても印象に残る佳作になっていただろうに……惜しい。

 ではでは。




#7304/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ    *** コメント #5522 ***
★タイトル (AZA     )  12/08/10  21:21  ( 24)
本の感想>『砂の城の殺人』   永山
★内容
・『砂の城の殺人』(谷原秋桜子 創元推理文庫)14/5441
 高校生の倉西美波は、海外で行方不明になった父を捜す旅費を貯めるため、
相も変わらず、割のいいバイトを追い求める日々。冬休み前、ひょんな成り行
きから、廃墟専門カメラマン瑞姫の助手を務めることになる。その二日目、向
かった先は瑞姫自身に縁のある古い家屋で、昔、瑞姫の母親が失踪した現場だ
という。瑞姫は「今日は母に会える気がする」という予感から、ここに来たら
しいが……果たして、砂上の楼閣のように崩れ去りそうなその家を調べてみる
と、ミイラ化した死体が見付かった。
 青春ミステリ第三弾。

 前作ではやや落ちたかなと思いましたが、持ち直した。本格ミステリらしい
道具立てやトリックに、サービス精神を感じます。一筋縄で行かない真相は、
懲りすぎな気がしないでもないけれど、これも読者をもてなす心意気かと。
 不満を述べると――道具立てやトリックは面白いのだけれど、見せ方が今ひ
とつかなあ。手掛かりのひっくり返し方にしても、悪くはないものの、決め付
けというか後出し的なずるさを感じなくもなし。凝っている割に、登場人物が
少ないため、犯人が誰かという興味は薄いし。
 キャラクター面に関わるストーリーでは、今回、大きな進展あり。この分だ
と、いずれ海外冒険譚的な本格ミステリもあり得る?
 ともあれ、作者の軸足は本格ミステリにあると思うので、この路線で続けて
いってほしい。ライトノベルの仮面を被った本格ミステリ。ライトノベルが本
格ミステリになろうとしたんじゃなく、芯はあくまで本格ミステリ。

 ではでは。




#7359/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ    *** コメント #7304 ***
★タイトル (AZA     )  12/09/28  21:48  ( 27)
本の感想>『手焼き煎餅の密室』   永山
★内容
・『手焼き煎餅の密室』(谷原秋桜子 創元推理文庫)13/3451
 旧体育館に今春から幽霊の声が聞こえるようになったとの噂が流れる。調べ
てみようと言い出した先輩に付き合って、夜の体育館に忍び込んだまではよか
ったが、ほんの少し目を放した隙に先輩が襲われ、犯人は一瞬にして姿をくら
ます(「旧体育館の幽霊」)。親友の祖母の家を訪ねると、そこには見知らぬ
少年が忍び込んでおり、煎餅の入った紙袋を盗もうとしていた。追い込まれた
少年は何故か煎餅を粉々に踏み砕いて逃亡。一体何のために(「手焼き煎餅の
密室」)。美術室に飾られている曰く付きの翁の面を見に行こうと先輩に誘わ
れ、またもや夜、雪にもめげずに教室に忍び込むと、室内は荒らされ、問題の
面は暗幕の上にちょこんと置かれていた。近付こうとした途端、面は幕ごと起
き上がり、身長二メートルはあろうかという大男?になる。かと思うと抜け殻
になったかのように突然平たく潰れてしまった(「熊の面、翁の面」)。
 美波の事件簿シリーズ長編三作に先立つ前日譚。

 同シリーズの長編ほどには凝った謎ではないし、ロジックも比較的薄味。提
示された不可思議な出来事に対して、探偵役が意外な真相を推理して語る形が
取られているのですが、その推理が直感とまでは言えないにしても、唯一の解
とは思えない、という意味で物足りなかった。ただまあ、それなりに盲点を突
いた答を示してくれるので、それなりの満足感はあります。あ、表題作のあの
内容で、密室と銘打つのは勇み足な気がしましたが。
 個々の作品のミステリ度よりも、シリーズキャラクター達の過去や出会いを
描くのがメインなんでしょう。実際、シリーズのファンにはとても楽しめる内
容だと思います。一冊の短編集としても趣向を凝らしており、作者の本格ミス
テリ心を再確認できる作品。
 できればもうちょっとこってりした短編も読みたいな。

 ではでは。




#7523/9229 ◇フレッシュボイス過去ログ    *** コメント #7359 ***
★タイトル (AZA     )  13/01/24  21:36  ( 23)
本の感想>『鏡の迷宮、白い蝶』   永山
★内容
 その前に、お題募集中なり。

・『鏡の迷宮、白い蝶』(谷原秋桜子 創元推理文庫)12/4350
 西園寺かのこに請われ、彼女の許嫁の別荘にお供することになった修也と猫
のケンゾウ。そこでの食事会で出されたデザートは、シェフ得意のメニューの
はずなのに、ひどい出来映えだった。一方、その別荘の隣の住人は宝石を秘密
の場所に仕舞ったあと、認知症を患い……(表題作)。そば屋で行われる落語
会に出掛けた美波と直海。終了後の打ち上げで丼が出され、皆で歓談している
と騒動が持ち上がる。あるいきさつから空の丼に入れたはずの宝石が、いつの
間にか消え失せていた(「失せ物は丼」)。
 美波の事件簿シリーズ前日譚の連作短編集第二弾。

 短編ならではの切れのよさが感じられず。事件発生(謎の提示)が遅い、あ
るいはぼんやりと示されるためか、物語としていささか退屈な印象でした。謎
のそのものもいわゆる<日常の謎>の一定レベルを越えるものはなく、短編集
として単調だったかな。
 最後に来て、ばらばらだったビースに糸を通すような手並みはなかなかだし、
作品の最後と次の作品の最初が、共通のキーワードで結んである趣向も、にや
りとさせられて面白い。そういったプラスの面を残して、次の第三弾こそは、
こてこての本格ミステリ短編集にして欲しい。前日譚という枠を取っ払えば、
充分に可能だと思うので。

 ではでは。




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