AWC U.L. 〜 the upper limit 〜 7.原点   永山


        
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★タイトル (AZA     )  01/03/17  01:09  (200)
U.L. 〜 the upper limit 〜 7.原点   永山
★内容
 ニールセンは「はい」と素直にうなずき、決断を下す。
(やむを得ない。ここはクイーン二枚を残して、フォーカード狙い。悪くても
フルハウスを)
 期待しつつ、カード三枚をチェンジする。ディーラーを兼ねる立会人の手か
ら、三枚のカードが新たに配られた。
 その一番上をめくると、クラブのクイーン。幸先よい。だが、ニールセンの
希望は次の二枚で打ち砕かれた。スペードの十とダイヤのジャックだったのだ。
 この回のニールセンの手は、クイーンのスリーカードに確定。
(敵はフルハウスかストレート。スリーカードではかなわない。むざむざ、余
計に五百エッジを取られることはない)
 ニールセンは下りることを選択した。
「何だ何だ、そんなことじゃあ、運気はどんどん出て行くぜ。はっはっは!」
 勝ち誇るゴブリングは、獲得した五百エッジを鷲掴みにして、己の手元に引
き寄せる。
 そのとき、ゴブリングのカードが手から落ち、表向きに散らばった。
「おっと、いけねえ」
 相手が降りた場合、勝者はカードをオープンしなくてよい。だが、この“不
測の事態”のおかげで、ニールセンは知らないままのはずだった手札を知るこ
とになる。
「……何だと?」
 驚愕して、次に呆れ、声がかすれる。
 ゴブリングの手札は、ハートとクラブのエース、シア屋のキングとクイーン、
そしてクラブの十。つまり、単なるエースのワンペアだったのだ。スリーカー
ドで勝てていたではないか。
「何故……交換しなかったんです……?」
 すっかり意気消沈した口調で、ニールセンが尋ねる。ゴブリングはカードを
拾い、立会人に渡しながら、「うん?」と応じた。その顔が凶悪に笑っている。
 これではっきりした。偶然ではない、わざとカードを落とし、ニールセンに
見せたに違いない。
「そりゃ決まってる。交換しなければ、俺の手札を強いと思い込むだろう。普
通のポーカーなら、あんたもこうも簡単には引っかからないだろうが、枚数を
減らした特別ルールのおかげで、その思考が働かなかったようだな。ま、五百
エッジは授業料だと思いな。はっはっは!」
 ニールセンは肩を落とし、歯ぎしりをした。
 初歩的な手口だが、その鮮やかさに知らず、口を半開きにしていたカシアス。
彼の隣で、グレアンが楽しげにつぶやいた。
「早速出たぜ、はったりがよぉ。恐い恐い」
 二回戦の前に、カードが新しい物と取り替えられた。一対戦が終わる度に、
新しいカードに交換するのは、無論、印を付けてのいかさまを防止するためだ。
 参加料をテーブルに置く。今回は順序が入れ替わり、ニールセンの方から先
に配られた。クラブのエース、ハートのクイーンとジャック、ダイヤのジャッ
クと十。先に交換しなければならない。
「五百エッジ、まずは賭けよう」
 気持ちで負けないよう、先と同じ額を提示する。ゴブリングもこれを受けた。
(普通のポーカーと同じと考えていいのだ)
 内心、結論づけるニールセン。
(先ほどは、考えすぎた。浮き足立っていた。普通に考えればいいのだ。ここ
は……ジャックのペアを残すのは当然として、あと一枚、何か残すべきかどう
かが肝心)
 じっくり検討していると、ゴブリングから催促の声が飛んだ。
「時間稼ぎはなしだと言ったはずだが? ええ?」
「了解している」
 ニールセンは、ジャックのペアとエースを残した。新たに来た二枚は……。
(よし。フルハウスができた)
 思わず、ガッツポーズをしてしまいそうになった。こらえて、ポーカーフェ
イスに努める。ハートのエースと、クラブのジャックが来た。
(この特殊なポーカーで、エースを含んだフルハウスは、かなり強い手だ。出
来易さから言って、フルハウスを目指すのが無難。そしてエースを含んでいる
のだから。ゴブリングが勝つとしたら、エースのワンペアとクイーンかキング
のスリーカードを組み合わせたフルハウスぐらいだが、確率は低い)
 自信の光を隠しつつ、相手の様子を観察するニールセン。
 ゴブリングは、さほど間を取らず、三枚を交換した。
(三枚ということは、何かのペアを残したんだろう。仮にそれがエースだとし
ても、そこからフルハウスに持って行くのは難しい。よしよし、勝てる)
 ニールセンは上乗せを始めた。
「三百エッジにしましょう」
「みみっちいな」
 鼻で笑うゴブリング。ニールセンも仮面の下で、嗤っていた。言うまでもな
く、相手が調子に乗って額を釣り上げたところを、叩くつもりだ。
「俺は、倍の六百エッジだ。俺の方がたくさん持っているが、この程度ならい
いだろう?」
「……やむを得ません。ここは、連敗する訳にいかない。何としてでも勝ちた
いのです。それも、大きく」
 ニールセンは、額を言わずに、コインの山を押し出した。七百エッジある。
二回戦開始前に手元にあった額の、ほぼ半分を賭けたことになる。
「おお。凄いな。それははったりか? さっきやられたお返しに、俺を下ろさ
せようと考えているのか?」
「答える必要はありません」
「そりゃそうだ」
 ゴブリングは金額を確認後、四百エッジを置いた。これで双方、同額を賭け
た形になった。
「では、開いて」
 立会人の冷静沈着な声が響く。
 ニールセンは自信を持って、手札を開いた。
 が、敵方の手元を見て、愕然とする。現実の前に、自信は一気に粉砕された。
 ゴブリングの手はキングのフォーカードだった。薄ら笑いを浮かべ、余裕の
ある態度で口を開く。
「これはこれは、運がよかった」
「馬鹿な!」
 ニールセンは、わざと大声を張り上げた。勝利を確信していただけに、落胆
も大きい。それを押し流すため、次に引きずらないための行為だ。
「馬鹿なとは、何だい? 俺の手に、けちを付けるのかい?」
「いや、何でもありません」
 ニールセンは自らを落ち着かせようと、静かに応じる。カードを立会人に渡
し、今得た教訓を分析する。
(……過信は禁物。推測は必要だが、確率を絶対視するな)
 当たり前のことを、心中で幾度となく唱え、肝に銘じる。それから手持ちの
額を確かめた。千五百十五枚。
(残り時間は……)
 十四分だと知れる。すでに次のカードが配られた。
(あと、五勝負か、多くても六勝負。対戦前の額に戻すことを考えるか、それ
とも生き残りだけを目指すか)
 選択を己自身に迫るニールセン。ところが、やがて彼は思い直した。
(まず一勝。全てはそれからである)
 肝に銘じ、第三戦に臨んだ。
 この回、ニールセンはまたも敗北した。ゴブリングが十のワンペアからフォ
ーカードを完成させたのだ。しかし、この高い役を相手に、賭け額を抑えるこ
とには成功し、わずか二百一枚のコインを失うだけで食い止めた。
 第四戦も負けた。同じフルハウスだったが、ゴブリングにはエース三枚が含
まれていた。ニールセンは百五十一エッジの損失で凌いだ。
「ニ〜ルセン」
 カードが配られる最中、小馬鹿にしたようなアクセントで、ゴブリングが言
った。
「頼むから、もっと大きく賭けてくれよ。おまえさんが落ち目で、手持ちも乏
しくなってきてるのは分かるさ。いくら何でも、みみっちすぎるぜ」
「賭ける額に関しては、私の側にアドバンテージがあるのだから、好きなよう
にさせてもらいたいものです」
 淡々と返すニールセンに、表情を歪めるゴブリング。
「しかし、限度ってものがあらあな。おまえなら分かっていると思うが、敢え
て言う。でかい勝負に出られるのは、千エッジを越えている間だけだ」
「確かに」
 ニールセンは一言だけ述べ、考え込むような顔つきになり、カードを見る。
 ゴブリングのカードチェンジを受けて、ニールセンは言った。
「私は交換しない。ゴブリング君の初戦のようにね」
「何――」
「そして、残り全額を賭けます」
 悠然たる態度のニールセン。その前には、千百六十三枚のコインが積まれた。
「馬鹿な」
 ゴブリングが焦りを初めて見せた。カードを握り潰さんばかりに、手の平を
閉じる。困惑に眉をしかめ、推量しようとしている。
「俺の初戦のように交換しない、だと? つまり、はったりか?」
 ニールセンは答えず、唇の端だけで笑った。
「……分からん」
 自分の手札及び捨札に、視線を落とすゴブリング。ヒントを得ようとしてい
るのだろう。だが、焦りの色は消えない。
「ゴブリング、早くしなさい」
 立会人が宣する。ゴブリングは、今度は自身のコインを見た。すでに、五百
五十エッジを賭けている。
「……いくら何でも、はったりで、全額勝負できる訳がない。意味深に、俺の
初戦のように交換しないと言ったのも、俺を勝負に引きずり込むための罠だ。
今回は下りた」
 ぶつぶつ言い捨ててから、カードを放ったゴブリング。参加料を加えた五百
五十一枚のコインが、向こう側からニールセンの手元にやって来た。
 ニールセンはカードを裏向きのまま立会人に渡し、コインを手元の袋に入れ
ながら、ゴブリングに対して言った。
「惜しかったですね。さっき、私はただのワンペアだったんですが」
「何だと?」
 声が裏返ったゴブリング。両方の手の拳を固め、テーブルの上で震わせ始め
る。
「はったりだったと言うのか?」
「さあ、どうでしょう? 信じる信じないは、そちらのご自由」
 挑発する風に笑って見せたニールセンは、さらに肩をすくめ、首を小刻みに
振った。
「俺のお株を奪ったつもりか」
 ゴブリングが額にしわを浮かべ、色のよくない歯を覗かせる。歯ぎしりが聞
こえてきそうである。
「せいぜい、得意になってろ。次で潰す!」
 立会人は、吠えるゴブリングをたしなめるでもなく、静かにカードを配り終
えた。ゴブリングは、ひったくるようにしてカードを手に取った。
 対照的にニールセンは、ゆっくりと取った。
 そうしないと、手に、全身に、震えが出てしまいそうだった。
(私としたことが、危ない橋を渡ったものだ)
 前回の対戦を思い返し、内心、深い息を吐き出し、新たに安堵していた。そ
して頭を何度か振って、きれいに忘れる。今が大事だ。
 この第六戦を、ニールセンはあっさりあきらめた。敵に最初からよい組が来
たのが、手に取るように分かった。かっかしているゴブリングを、ブラフで立
て続けに下ろさせるのは難しい。さっさと下りて、参加料の一エッジだけを捨
てる。
 それに、この行為は、相手をさらに怒らせる効果もあったようだ。ニールセ
ンはポジティブに捉えた。
 第六戦、カードが配られる。ゴブリングが、まだなお怒りを内包したままの
ようだ。その証拠に、札を、先と同様、ひったくるように掴む。
 ニールセンは、前回よりは自然な動きで札を取り上げた。手の中でカードを
一枚ずつずらし、見ていく。そのまま、空いている手を顎先に当て、考えに耽
った。
 しばらくすると、ゴブリングが突然、言い放った。
「どうせそっちに主導権があるんだ。最初の賭ける額は、ニールセンが決めろ」
 流れを呼び戻す意図があるのだろう、ゴブリングは抑えた口調で言う。ニー
ルセンは、しばらくぽかんとしていた。
「では、ニールセン。最初に賭ける額を」
 立会人に催促され、思い出したかのように応じる。
「……五百エッジ……にしときましょう」
「OK。受けた!」
 立会人が目を転じるよりも早く、ゴブリングが叫ぶ。その言動は、闘志に溢
れていた。間を全く置かずに、交換するカード二枚を、机に投げる。そして立
会人から新たな二枚を受け取り、手元に加えた。
 ニールセンはこの一瞬、ゴブリングの瞳に、落胆が表れたと見て取った。気
配は瞬く間に消えたが、間違いない。ましてや、あれは演技ではない。
(奴の手は……スリーカードを残して交換し、結局スリーカードのままだと見
ていい)
 ニールセンは信じた。そして、自分の手札を確かめ、仕掛けた。
「ゴブリング」
「……何だ?」
「これから、私はカードの交換をする訳だが」
「当たり前だろうが」
 鼻で笑うゴブリング。ニールセンは、それをコピーして見せた。真似をされ、
ゴブリングの顔色が変わるのが分かる。
「一枚だけ換えようと思う。その一枚を、君が選んでくれたまえ」

――続く




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