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★タイトル (GSC ) 01/02/16 22:54 (115)
わたしのコンサート鑑賞(8) /竹木貝石
★内容
豊田市ジュニアオーケストラ 特別演奏会
期日 2001.2.12(月)
会場 豊田市コンサートホール
開場 PM 6:30
開演 PM 7:00
主催 豊田市ジュニアオーケストラ保護者会
協賛 豊田市
後援 豊田市教育委員会・(財)豊田市文化振興財団
演奏 豊田市ジュニアオーケストラ(団員 63人及び団友)
指揮 尾高 忠明
独奏 景山 誠治 (バイオリン)
プログラム ノート
1 モーツァルト 「ディベルティメント」 ニ長調 K.136
第1楽章:アレグロ 第二楽章:アンダンテ 第三楽章:プレスト
2 ブルッフ 「バイオリン協奏曲 ト短調 OP.26
第一楽章:アレグロ・モデラート 第二楽章:アダージョ
第三楽章:アレグロ・エネルジコ
3 モーツァルト 交響曲 第41番 ハ長調 K.551 「ジュピター」
第一楽章:アレグロ・ビバーチェ 第二楽章:アンダンテ
第三楽章:メヌエット アレグロ 第四楽章:モルト・アレグロ
車で行くのに懲りたという訳でもないが、今夜は妻と電車で出かけた。
JR鶴舞駅で地下鉄に乗り換え、川名駅のプラットホームでKTさんと落ち
合い、再び電車に乗って28分、終点の豊田駅で降りたら、ちょうど仕事帰り
のKS君も来ていた。
駅から参合館までは、ほんの100メートルくらいの距離である。
豊田市は確か、名古屋・豊橋に継ぎ、愛知県で第3番目に人口の多い市の筈
なのに、なんとなくおっとりしていてせせこましくない。これも三河人のひい
き目かもしれないが、なにしろ昨日来た(多分初めて訪れた)ばかりなのに、
親しみとなつかしささえ感じるから不思議だ。
4人はエレベーターに乗って、十階のコンサートホールに上がる。今夜は自
由席だが、早く到着したため、7列目のほぼ中央に座ることができて良かった。
私の勘が的中し、演奏会は昨日にも増して素晴らしかった。聴衆も厳粛で、
演奏の合間のざわめきもほとんど無く、豊田市民の中でも一級の音楽愛好家が
寄り集ったのかとさえ思われた。
開演までの間、妻にジュニアオーケストラの紹介文を読んでもらう。
結成が平成8年12月、現在の団員数63名、団友9名、名誉指揮者の尾高
忠明ほか、指導者6名、指導補助エキストラ18名と書いてあり、毎年の定期
演奏会、各種イベントや競演に参加している。
舞台の上では、コントラバスの女性演奏者が一人、入念にチューニングをし
ていた。
クラシックコンサートの醍醐味は、なんといっても弦楽器の生の音色であり、
コントラバスの重厚な響きである。他の音は電子楽器やCDによってある程度
ごまかせるが、生の弦楽器の音だけは、いくら録音・再生技術が進歩しても、
絶対に代用できない。そこが生演奏の魅力なのだが、もう一つ、生演奏ならで
はの価値を見逃す訳にいかない。それは、ただ1回、その時限りの音楽であり、
2度と同じ演奏を聴くことが出来ないという点である。当たり前のことながら、
それもまた重要な要素であって、演奏者も観客も、つかの間の緊張に身を任せ、
目前の音楽に耳を傾けるのだ。上手とか下手とか言う以前に、二度と再現でき
ない一瞬の演奏に集中すること、それが実演の実演たる意義であって、レコー
ドやCDだと熱心に聴かない曲でも、実演では感動するのである。
開演時間がきて、団員がしずしずと舞台に登場する。年齢層は若く、トラン
ペット・トロンボーン・コントラバス・大太鼓など、女性のメンバーが多いそ
うだ。
演奏前のチューニングの見事さに、まず私は心を打たれた。整然と、しかも
ごく短時間で音合わせを済ませ、余分な音は一切出さず、その爽やかさはまる
で一曲の音楽を奏でるに等しい。こんなにも荘厳なチューニングを、私は今ま
でに聴いたことがない。
プログラムの第1曲目は、モーツァルトの有名なディベルティメント。細か
くて速いフレーズを、数十人もの人が一糸乱れず演奏すること事態容易でなく、
幼いときから血のにじむような練習を重ねてきたことを察するだけでも、感激
なしでは聴けないのに、先ほどのチューニングで度肝を抜かれた後の私は、た
だあれよあれよと思うまもなく、第三楽章まで終わってしまった。
第2曲目は、待望のブルッフだ。私に言わせるなら、クラシック音楽のジャ
ンルの内、名曲が一番揃っているのはバイオリンコンツェルトである。その中
でも特に美しいこの作品を、5大バイオリン協奏曲に含めたとしても異存はな
い。
ソリストの景山誠治の名を、私は知らなかった。近頃の私は、ラジオのクラ
シック番組をあまり聴かないし、コンサートにもほとんど出かけないから、名
高い演奏者の名前を知らなくて当然だが、内心では「地方に住む上手な演奏家」
くらいに考えて、あまり期待していなかった。
ところが、曲が始まるやいなや、思わず涙がにじんできて、彼の美しい音色
と息就く暇も与えない情熱的な演奏に、最後まで引き込まれっぱなしだった。
紹介文によれば、景山氏は今40歳くらいだろうか? 全日本学生コンクー
ルの小学生の部と中学生の部に優勝し、国際コンクールにも幾つか入賞してい
る。ロン・ティボーコンクールで、1位無しの第2位に選ばれたというから、
正に一流のレベルである。
道理で、堂々たる演奏と自由奔放な技巧が、無理なく調和している訳だ。音
量の大きさと音色のまろやかさは抜群で、久々に大満足できた。
あえて難を言えば、フレーズの最高音を高めに取る癖があり、それは激しい
情感の表現法として概ね成功しているが、ときに限界を越えるほど音がうわず
りそうだった。第二楽章では、歌わせたい所で若干音量が弱くなり、ふと
「ヨゼフ・スークだったら、こういう箇所をいかにも朗々と挽いて聴かせるだ
ろうなあ」
という感想が心中をよぎった。しかし、ヨゼフ・スークと比較されるという
のは、やはり景山がただ者でないことになる。
ともかく、機会があればもう一度聴きたいバイオリニストであった。
休憩後の第3曲目はオーソドックスに演奏され、指摘すべき欠点は1箇所も
ない。『ジュピター』については、若き日の懐かしい思い出が幾つかあり、大
学入試前後の頃を思い出す。
「太鼓の響きが一番良かった!」
と妻が言い、確かにこの曲は大太鼓が活躍する。
そして、レコードだといつも退屈に感じる第二楽章も、今夜ほど短いと感じ
たことはなく、さすがモーツァルト最後の交響曲だけのことはある。
「所詮は豊田という田舎町のジュニアオーケストラ」
と、演奏を聴く前は軽く見て、むしろ我々が声援しバックアップしてやらね
ばならないくらいに思っていたが、それはとんだ誤解であり、これほどの気概
と実力があるからには、必ずや立派な楽団として立ちゆくであろう。
思えば、私が東京の大学に在学中、毎晩のように音楽会に行ったものだ。そ
の頃、東京交響楽団・東京フィルハーモニー管弦楽団・日本フィルハーモニー
交響楽団などを聴いて、大いに楽しませてもらった。しかし、当時日本の一流
オーケストラの演奏技術は、今回聴いた豊田市ジュニアオーケストラに及ばぬ
くらいであった。地方都市では、僅かに京都市交響楽団と高崎交響楽団しか無
かった時代のことで、今や隔世の間がある。
そんなことを考えつつ、参合館を後にし、夜の地下鉄に乗って帰宅した。
[2001年(平成13年)2月12日 竹木 貝石]