AWC 海鷲の宴(20−3)  Vol


        
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海鷲の宴(20−3)  Vol
★内容


  「オバノン」が致命的な船火事を起こして漂流を始めた頃、その隣では僚艦の
 「シヴァレア」が「天鶴」艦爆隊の猛爆を受けていた。「天鶴」の艦爆隊は、一航
 艦でも最古参・最精鋭で知られた「高雄」艦爆隊から横滑りしてきた搭乗員が揃っ
 ている。中には急降下爆撃という概念が生まれる前から爆弾の投下索を握っている
 者や、上海事変当時に発生した米砲艦「パネー」誤爆事件の当事者だったという猛
 者まで存在する。それだけに、その技量は凄まじい。投弾された9発のうち実に
 7発が、狙い違わず全長115メートル足らずの駆逐艦を直撃したのだ。
  命中箇所は、艦首錨鎖庫、2番砲座、艦橋直後、1番魚雷発射管脇、第二煙突、
 後部砲座群、そして艦尾爆雷庫。
  結果、「シヴァレア」はありとあらゆる搭載弾薬が誘爆し、ボイラーから噴き出
 した火炎と高圧蒸気に見舞われ、艦底の数箇所に大穴を開けられた。
  軍艦として考えうるおよそありとあらゆる沈没原因に同時に襲われた「シヴァレ
 ア」は、猛烈な火炎と黒煙に包まれて横倒しとなり、最後尾の彗星が投下した爆弾
 が命中しないうちに沈み始めた。

  一方「シヴァレア」の隣に位置していた「ソーフライ」には、「雲鶴」隊が襲い
 かかった。この隊は「天鶴」隊ほど運が良くなかったらしく、突入角度が悪かった
 せいもあって、投弾前に9機中3機が対空砲火によって撃墜されていた。命中弾も
 6発中2発に留まっている(命中率33パーセントは、充分大きい数字だと言う話
 もあるが)。しかし、この2発は、狙いすましたかのように艦橋上部の対空射撃指
 揮所と後部砲座群に命中し、「ソーフライ」から対空能力の大半を奪い去った。


  こうして駆逐艦3隻が沈黙したことによって、駆逐艦16隻で構成された輪形陣
 の外郭に大きな穴が空く。その穴から、彗星や天山が次々と突入を開始した。輪形
 陣の内郭を形成しているのは、戦艦「ニュージャージー」と重巡「ボストン」「キ
 ャンベラ」「クインシー」、軽巡「クリーブランド」「モントピーリエ」「コロン
 ビア」だ。数こそ少ないが、個々の対空弾幕は駆逐艦とは比べ物にならない。「ニ
 ュージャージー」は、5インチ高角砲20門に40ミリ機銃80丁、巡洋艦も、
 5インチ高角砲12門に40ミリ機銃48丁を装備している。輪形陣自体も、直径
 が小さいぶん相互支援がやりやすい。対空弾幕の密度は、俄然跳ね上がった。

 「なんて弾の数だよ……ヘボの花火師じゃあるまいし、数を上げればいいってもん
 でもないだろうに」
  「尾張」艦攻隊長の須藤淳少佐は、圧倒的な弾幕を目の当たりにして呆れたよう
 に呟いた。軽口にも聞こえるが、そうでないことは彼の表情を見れば判る。見開か
 れた目。引きつった唇。脅えているのだ。艦攻乗りとして少なからぬ経験を積み、
 幾度となく戦闘機の迎撃網や対空砲火の修羅場の中を潜り抜けてきた彼をして、で
 ある。
  それほどまでに、第50任務部隊各艦が撃ち上げる対空砲火の濃密さは、常軌を
 逸したものだった。輪形陣中郭だけで、92門の5インチ砲と368丁の40ミリ
 機銃。対空弾幕はほとんど壁と言える密度だ。
  しかし、その壁に強引に突っ込んで投弾を敢行する猛者がいた。「高雄」所属の
 艦爆隊だ。目標は、輪形陣左翼の最後尾に位置するバルチモア級重巡----「クイン
 シー」である。

  「クインシー」は、バルチモア級重巡の4番艦として建造された艦だ。この艦名
 は、以前はアストリア級重巡洋艦の6番艦に付けられていたものだ。その先代は、
 第一次ソロモン海戦において、日本軍の重巡部隊の殴り込みに遭って撃沈されてい
 た。戦没した艦が遺した戦訓(たとえそれが、見張りは厳重にと言うごく基本的な
 ことがらだとしても)を忘れぬものとするため、その名を新造艦に受け継ぐという
 合衆国海軍の伝統にしたがって、この艦は誕生したのだ。

 「艦長っ……!」
 「だめだ、舵そのまま!」
  エリオット・ホーラン「クインシー」艦長は、咄嗟にこちらを振り返った航海長
 をどやしつけた。彼の言いたいことは判っている。ここで爆撃を回避しなければ、
 「クインシー」は多数の1000ポンド爆弾を食らってえらいことになるだろう。
  しかし、ここで転舵して輪形陣を崩すようなことにでもなれば、その穴から雷撃
 機が空母を狙って突入してくることは目に見えているのだ。
 「重巡一隻の命と空母五隻の安全の交換ならば……」
  艦橋の窓の外を睨みつける。急降下してくる9機の彗星。最後尾の機体が、高角
 砲弾の爆発に巻き込まれて火を噴いた。
 「……安い買い物だ!」

  数秒後、4発の500キロ爆弾が「クインシー」を直撃した。


  左翼の巡洋艦の艦上に爆炎が踊り、黒い破片が飛び散った。同時に、噴水のよう
 に景気よく撃ち上げられていた火箭の数が激減する。輪形陣中郭に、大きな空隙が
 空いた。その代償は決して小さくない。「クインシー」を目標とした「駿河」隊
 9機のうち、投弾前に1機、投弾後に3機が、そして脱出時に直掩機に追いすがら
 れて、隊長機を含む3機が撃墜された。無事に帰路につけたのは、たった2機にす
 ぎない。それでも彼らの犠牲は報われた。まだ投弾を終えていない彗星41機と天
 山70機が、空母と言う極上の獲物に向かって突撃するための突破口が開かれたの
 だ。但し、その突破口はこれまで以上の茨の道だったのだが。

  空母という種族の艦艇は、基本的に露天甲板を艦載機の発着以外の目的には殆ど
 供用できないという、宿命じみた制約を持っている。また、その前後は艦の全長以
 上の延長に渡ってクリアでなければならず、いきおい航空機運用設備以外の艦上艤
 装は、飛行甲板の両側へ追いやられる形となる。しかし、だからこそ、この配置は
 対空火器の設置には理想的だった。実用主義の米海軍が、これに目を付けないわけ
 がない。7隻の空母の舷側には、ところせましと対空火器が敷き詰められていたの
 だ。輪形陣を突破した攻撃機は一ヶ所の穴を通ってくるのだから、これは狙う方と
 しては極めて有り難い。
  空母の間近にまで迫った攻撃隊を出迎えたのは、それまでにも増して密度を濃く
 した、嵐のような対空砲火だった。


 「いいぞ、ガンガン撃て! ジャップを近付けさせるな!」
  主翼付け根から火を噴いた天山が空中で爆発四散するのを見て、ハルゼーが右手
 を振り上げる。これで撃墜10機目だ。
 「とは言ったものの……」
  確かに少なからぬ数の日本機が火を噴いて落ちてはいるが、攻撃隊はそれ以上に
 数が多い。不意に輪形陣の一角で鳴り響いた爆発音に、ハルゼーははっとなった。
 「『ベローウッド』被弾!」
  見張り員が叫ぶ。双眼鏡を向けると、輪形陣の最右翼に位置していたインディペ
 ンデンス級空母の飛行甲板中央部から、盛大な爆炎が噴き上がっていた。続いて、
 前部にもう一つ。艦尾近くにも爆弾2発が命中した。それでなくとも、排水量僅か
 10000トンそこそこの軽空母である。500キロ爆弾4発もの直撃は、この小
 艦には酷な打撃だった。「ベローウッド」は、この状態でさらに魚雷2本を受けて
 海上に停止し、数時間後、友軍駆逐艦の手によって雷撃処分された。

  次に攻撃機が向かったのは、輪形陣左翼後方の「メイン」だった。やはり、オハ
 イオ級空母の巨体は、これだけの数の艦船の中でもひときわ目立つ。大物食いを狙
 う搭乗員の目の色が変わったのも、無理はない。ところが、オハイオ級空母四姉妹
 の中でももっとも遅くに竣工した彼女は、他の姉達よりも対空火器を一段と強化し
 ていたのだ。それが、彼女に向かった17機の天山の不運だった。天山の操縦士の
 目には、「メイン」が被弾もしていないうちから突然火災を起こしたように見えた
 ことだろう。次の瞬間、横殴りの豪雨のような機銃弾の嵐が襲ってきた。
  文字通り一瞬で、第一波の9機が火網に絡めとられた。先頭の機体は5インチ砲
 弾の破片を主翼内燃料タンクに受けて、炎と煙の帯を曳きながら海面に滑り込んだ。
 別の一機は、40ミリ機銃弾を風防前面に食らった。猛スピードで突っ込んできた
 弾は、3人の搭乗員を串刺しにするように、前方の操縦員から順に次々と貫いてゆ
 き、最後に胴体内の操舵索を切断して、機体の外へと飛び出していった。この他に
 も4機が投弾前に撃墜された結果、無事に魚雷を投下できたのは2機のみ。そして
 彼らのうち一機は、投弾と同時に機体が軽くなって浮き上がったところを40ミリ
 機銃弾に粉砕され、もう一機は、輪形陣内から脱出する際に、重巡「ボストン」の
 20ミリ機銃の一連射を浴びて撃墜された。「紀伊」から出撃した天山9機は、こ
 うして全滅した。
  それに比べれば、第二波の9機は運がよかったと言える。彼らは、少なくとも
 1本の魚雷を「メイン」の左舷に叩き込み、なおも5機の脱出に成功したからだ。
  しかし、第一波とあわせて2本の魚雷を左舷に食らった「メイン」は、それでも
 何事もなかったかのように全力航走を続けていた。56000トンの巨体は、一本
 や二本の航空魚雷ではどうなるものでもなかったのだ。しかも、うち一本の爆発力
 はバルジで食い止めてしまっている。被害らしい被害と言えば、左舷の高角砲塔
 1基と機銃座2基が、水柱の直撃を受けて吹き飛んだくらいのものだった。

  一方、輪形陣のちょうど反対側に位置していた「オハイオ」は、末妹ほどの幸運
 には恵まれなかった。「オハイオ」に襲いかかったのは、「近江」「愛宕」の天山
 隊18機と、「紀伊」「尾張」の彗星18機。合計36機による鉄床攻撃だった。
  これによって、「オハイオ」は500キロ爆弾5発と魚雷4本を叩き込まれ、右
 舷に傾斜を生じて艦載機の発着が不可能となった。さらに、装甲甲板唯一の弱点と
 も言えるエレベーターへの直撃弾が格納庫内で炸裂して、雷装したまま近くに駐め
 られていたアベンジャー3機を巻き込んだ。これによって生じた誘爆はさらなる誘
 爆と大火災を引き起こし、「オハイオ」は一時、第50任務部隊司令部が自沈処分
 を検討するほどの猛火に包まれた。これがエセックス級なら確実に2回は沈んでい
 るほどの大損害であったが、戦艦譲りの頑丈さを誇る彼女は、これでもまだ致命傷
 を受けてはいなかったのである。この戦いから生還した「オハイオ」は、真珠湾で
 1ヶ月の修理を行っただけで前線に復帰し、敵である日本軍のみならず味方の将兵
 さえも呆れさせるタフネスぶりを見せ付けることとなる。

  この他に空母の中で攻撃を受けたのは、輪形陣の先頭を走っていた「エンタープ
 ライズ」だったが、「近江」彗星隊が投下した9発の500キロ爆弾は、回避運動
 によって全て目標をそれ、水柱を上げた。被害らしい被害と言えば、飛散した破片
 で機銃座についていた兵員7名が死傷しただけだった。


  「オハイオ」への激しい攻撃を最後に空襲は一段落し、日本軍の攻撃隊は西の空
 へと引き揚げていった。それとほぼ同時に、ハルゼーが俄然張り切りだす。
 「送り狼を掛けるぞ。上空退避させていた攻撃隊に集結命令を出せ! 健在な空母
 は戦闘機隊の発艦にかかれ!」
  こうして20分後、F6F112機、ヘルダイバー80機、アベンジャー80機
 の攻撃隊が、日本軍機の消えた方角を目指して飛び去って行った。






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