AWC 海鷲の宴(16−6)  Vol


        
#7037/7701 連載
★タイトル (USM     )  99/ 3/22  18:22  (147)
海鷲の宴(16−6)  Vol
★内容

  その頃、ロブソンが文句を並べていた「ミネアポリス」は、「神通」を押さえる
 どころではなかった。遅れて突入してきた「那珂」率いる第七水雷戦隊の初春級駆
 逐艦の相手だけで手一杯だったのだ。敵は旧式艦ばかりなのだが、何せ直衛に当た
 っていた「メレディス」以外に、「ミネアポリス」の周りには味方がいない。駆逐
 艦6隻による5インチ砲の猛射は、「ミネアポリス」の各所を次々と食いちぎり、
 穴を空けて行く。「ミネアポリス」も反撃し、「有明」の後甲板に8インチ砲弾を
 見舞って火災を発生させ、落伍に追い込んだ(のち沈没)が、数の差ばかりは如何
 ともし難く、闇の中に向かって火を噴き続けていた主砲も次々と沈黙した。
  その窮状を救ったのが、「アトランタ」「ジュノー」率いる駆逐艦部隊の突入だ。
 特に、駆逐艦部隊の指揮用として従来の1800トン型やオマハ級に代わって建造
 された二隻の巡洋艦は、一隻あたり5インチ砲16門という通常の駆逐艦の3倍の
 火力を存分にふるい、日本軍の駆逐艦を寄せ付けなかった。この砲火をもろに浴び
 た駆逐艦「子日」は、あっと言う間に艦上構造物や船体を穴だらけにされ、火達磨
 と化して沈み始めた。さらに第六水雷戦隊にもこの炎の矢襖は火を噴き、「望月」
 「夕月」を立て続けに撃沈。さらに「初霜」と軽巡「神通」にも集中砲火を見舞い
 大破炎上させた。
  しかし奮闘する米軽巡部隊は、直後に災厄に襲われた。近接砲戦ではかなわじと
 見た七水戦の各艦が、必殺の酸素魚雷を次々と放ったのである。見張り員の訓練不
 足や火災炎の水面での照り返し、その他諸々の悪条件が重なって雷撃の察知が遅れ
 た両艦は、50ノット近い高速で獲物に向かって押し寄せて来る、数十本の酸素魚
 雷の射線の真正面に、頭から飛び込む形となってしまったのだ。見張り員が、海面
 下を疾走する青白い物体を発見して、大声を上げようと口を開いた時には、全てが
 手遅れとなっていた。
  次の瞬間、「アトランタ」と「ジュノー」に酸素魚雷が立て続けに命中し、舷側
 から水柱が高々と噴き上げた。「アトランタ」は、艦首と右舷中央に一本ずつが命
 中し、32ノットの全力で疾走していた6000トンの軽巡は、一撃で突進力を失
 って海上に停止した。爆圧と水圧で「アトランタ」は艦首から第一砲塔の直前まで
 の船体を滅茶苦茶に引き裂かれ、右舷の破孔からは激しく黒煙と蒸気を噴き上げて
 30度以上も傾斜している。一部の将兵は早くも艦に見切りをつけ、高く持ち上が
 った左舷側から海に飛び込み始めた。だが、被雷時の衝撃で艦首脳部が人事不省に
 陥ったのか退艦命令が発せられた様子はなく、大多数の乗組員は脱出の機会を失っ
 て艦と運命を共にしつつあった。
  一方「ジュノー」は、左右両舷の中央部と艦尾に一本ずつの魚雷を受け、竜骨を
 真ん中で断ち切られたうえに汽缶爆発を起こして、一瞬で真っ二つにへし折れた。
 同時に、破裂したボイラーから発生した高温高圧の蒸気が逃げ場を求めて艦内を荒
 れ狂い、623名いた「ジュノー」の乗組員は、僅か数分の間に150名足らずに
 まで減少した。この数少ない生き残りも、垂直に屹立した艦内から脱出する術など
 あろう筈もなく、数分のうちに、艦が沈没する時に巻き起こす渦と無数の破片、そ
 れに海面に浮かぶ重油の膜と濛々たる蒸気を残して、乗艦と共にソロモンの海底深
 く没し去っていった。



  水雷戦隊の戦いが混戦模様を呈する一方、主力同士の砲撃戦は一方的な展開とな
 りつつあった。何せ、日本側は緒戦で司令部を丸ごと失い、おまけに戦艦一隻が大
 幅な戦闘力の低下を来している。さらに、第41任務部隊にはレーダー射撃と言う
 アドバンテージがある。艦自体の攻防性能でも、戦艦・巡洋艦とも米軍に分があっ
 た。これでは、多少の練度の差など問題にならない。日本軍が「扶桑」「山城」
 「青葉」「加古」「衣笠」「古鷹」の戦艦2・重巡4なのに対して、米軍は「イン
 ディアナ」「メリーランド」「バルチモア」「ボストン」「ルイスビル」「フィラ
 デルフィア」「サヴァンナ」「フェニックス」「セントルイス」「ナッシュビル」
 と、戦艦2・重巡3・軽巡5を揃えている。質量共に上回る相手と不利な状態で戦
 う羽目になった第八艦隊主力は、奮戦空しく次々と被弾炎上して行った。
  「扶桑」は、「インディアナ」から砲撃を受けて10発近い16インチ砲弾を叩
 き込まれた。中央部を撃ち抜かれていた前檣は、さらに2発の巨弾を直撃されて完
 全な廃墟と化し、6基の主砲塔も半数が破壊されたり、電路を寸断されて旋回不能
 に陥っている。
  「山城」は、「メリーランド」を相手取って2発の命中弾を与えたが、旧式とは
 いえ対16インチ弾装甲を施された「メリーランド」に、14インチ砲で友好打を
 与えることはできず、逆に3発の16インチ砲弾に主要装甲部の貫通を許し、機関
 室の一部を破壊されて速力の低下を来していた。
  この二戦艦よりももっと悲惨なのが、後続の重巡部隊だ。個艦の戦闘力では、排
 水量7000トン、8インチ砲6門しか持たない古鷹級は、軽巡とはいえ6インチ
 砲15門を備えたブルックリン級に及ばない。そのうえ米艦隊には、8インチ砲9
 門を備えたバルチモア級2隻と「ルイスビル」がついている。どう考えても勝ち目
 はない。それでも4隻の旧式重巡は、「フィラデルフィア」に酸素魚雷を見舞って
 脱落させ、「サヴァンナ」の主砲塔2基を叩き潰すという健闘を見せたが、8イン
 チ砲27門、6インチ砲54門を総動員しての逆襲をくらい、たちまち4隻とも多
 数の命中弾を受けて炎上し始めた。特に、「衣笠」には中央部から後甲板にかけて
 4〜5発の6インチ砲弾が次々と着弾し、青くなった艦長の高柳十五郎大佐は、早
 々と魚雷の投棄を命じた。

 「おい、そこの若いの! ちょっと手伝え、こいつを放り出すんだ!」
  中央後部寄りに6インチ砲弾を食らって炎上する「衣笠」の右舷通路を走ってい
 た斎藤進吉一等水兵は、廃墟と化した61センチ四連装魚雷発射管のところで、突
 然呼び止められた。見ると、屋根が吹き飛んだ挙げ句、上のデッキから落ちてきた
 梁に潰されかけた発射管室の中で、発射管分隊長らしき年配の少尉が圧搾空気のノ
 ズルと格闘している。すぐ脇で砲弾が炸裂したのか、発射管の周りはひどい有り様
 だった。生存者は、分隊長一人だけらしい。
 「こいつ……って、魚雷ですか?」
 「魚雷以外ここに何が残ってるんだ? とにかくちょっとこいつを持ってろ」
 「は、はいっ」
  よく見ると、崩れかけた上層のデッキでは火災が起きており、いつ火のついた可
 燃物が落下してきてもおかしくない。まだ次発装填機の中にある魚雷が誘爆したら、
 この辺り一帯の部分がまるごとふっ飛んでしまう。それに気がついた時、斎藤一水
 は、熱帯の火事場にいるにも関らず背筋が凍る思いがした。
  作業は、途中で通りかかった二等水兵を捕まえてなおも続行され、10分近く掛
 けてようやく、最後の一本が圧搾空気の抜ける音と共に発射管を飛び出して行った。
 「よし、とっととここを離れるぞ。さっきから支柱が軋みっぱなしだからな」
  言われて、初めて気付いた。頭上のデッキは今にも崩落する寸前だったのだ。二
 人の水兵は、自分達がまだ生きていることを天に感謝した。発射管室跡を離れた直
 後、金属が破断する音と共に露天甲板の中央部が抜けて、さっきまで三人が立って
 いた場所に、鉄骨や火の着いた木材が落下してきた。
 「命拾いしたな。ところで、お前らどこの分隊……」
  少尉の声を遮って、轟音が轟いた。一つは敵から、もうひとつは味方から。
 「……なんだ?」

  第八艦隊で起きた爆発の主は「扶桑」だった。既に直撃弾を受けて、天蓋と二本
 の砲身が綺麗さっぱり消失していた第三砲塔に、さらにもう一発の16インチ砲弾
 が落下したのだ。遮るものなく弾薬庫まで到達した巨弾は、その最深部で信管を作
 動させた。次の瞬間、「扶桑」全体が噴火した。

  扶桑級の特徴----というか欠点は、艦全体に漫然と配置された6基の36センチ
 連装主砲塔だ。特に、第三砲塔と第四砲塔の弾薬庫が機関部を挟みこんでいるため、
 大型の機関を搭載出来ず、速力向上の抜本的な対策が打てないことが、扶桑級が旧
 式艦と呼ばれる大きな原因となっていた。
  だが、本当の問題は、主砲塔の漫然とした配置そのものにあった。艦の全長に対
 して、装甲防御区画の全長が長すぎるのだ。当然、防御区画が大きいと言うことは
 装甲重量の増加を招く。それでは速力に響くので、装甲重量は可能な限り減らした
 い。ここから、主要区画のみに装甲を施す「集中防御」の概念が生まれたのだが、
 扶桑級の場合は、艦の全長のほとんどが主要区画になってしまうのだ。限られた装
 甲重量でこの全体を防御しようと思ったら、装甲そのものの厚さを削るしかなく…
 …そのうえ、艦全体に急所が分散しているというのも問題となった。「扶桑」に止
 めを刺したのは、この一点だった。この光景を目撃した「山城」のある下士官は、
 思わずこう洩らした。
 「なんてこった……戦艦が鰤の切り身になっちまった」

  「扶桑」のありとあらゆる場所で誘爆が発生していた。扶桑の艦内には、4つの
 主砲弾薬庫と2つの機関部がある。それらが、第三砲塔弾薬庫への被弾を引き金と
 して一斉に爆発したのだ。この結果、全長209メートルの「扶桑」の船体は、実
 に七つに分断された。これだけコマ切れにされると、もはや文字通りの「鰤の切り
 身」だ。船体のそれぞれの残骸は、なおも各所で誘爆を繰り返しながら、猛烈な火
 炎と水蒸気と黒煙に包まれて急速に沈んで行った。当然ながら、生存者など一人も
 いない。

  一方、第41任務部隊の艦列の最後尾では、「バルチモア」が沈もうとしていた。
 原因は、斎藤一水達が投棄した酸素魚雷だ。当てずっぽうに撃った魚雷など、本来
 当たるわけがない。しかも、「衣笠」は第八艦隊の艦列のかなり後方に位置してお
 り、「バルチモア」は巡洋艦部隊の先頭を走っていた艦だ。
  ところが、このとき「バルチモア」の艦内では深刻な事態が発生していた。機関
 が突然故障し、艦が停止してしまったのだ。性急な艦隊編入による機関科員の練度
 の不足と、機器類の擦り合わせが不十分だったことが原因だ。訓練の手間を惜しん
 で新造艦を戦場に投入した代償は、正当な形で支払われた格好となった。おまけに
 艦自体が未熟なために応急班の練度も低く、迅速な対処指示ができないまま浸水は
 急激に広がって行く。合衆国海軍は、本来救えた筈の貴重な新鋭重巡を、むざむざ
 と一隻失うことになった。
  さらに、「ボストン」にも魚雷一発が命中していた。「バルチモア」の故障によ
 る落伍と突然の被雷で、第41任務部隊の各艦は混乱し、隊列が大幅に乱れている。
 その中で、最も練度の低い「ボストン」が貧乏くじを引き、どてっ腹に大穴を空け
 られた。こちらは、当たり所がよかったのと応急班の班長がたまたまベテランの下
 士官だったため、沈没に直結するような事態は避けられたが、艦は左舷に大きく傾
 斜し、本国で修理を行わない限り戦列復帰が不可能なことは明らかだった。

----------------------------------------------------------------------------

                                   Vol




前のメッセージ 次のメッセージ 
「連載」一覧 Volの作品 Volのホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE