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★タイトル (GVB ) 98/ 9/ 7 2:49 (156)
AWCで起こったいろんなできごと(5) ゐんば
★内容
●1992年
【1月・砂漠の嵐作戦】
1月の定例OLTで、AWCのメンバーが少女小説誌「コバルト」に投稿して、
掲載されたら作者のコメントに「AWCの皆さん見てますか〜」と書いて喜んで、
ついでに賞金を手に入れようという裏イベントの計画が持ち上がった。
隔月刊で毎号募集、枚数30枚、賞金20万円とお手頃なターゲットであると
みな張り切っていたが、よく考えると当時のAWCには少女小説家はほとんどい
なかったのになぜコバルトがターゲットになったのかわからない。
この企画は「砂漠の嵐作戦」と命名された。かくして次のコバルトの発売日に
はむくつけき男たちがコバルトを買うという光景が全国の書店で見られたのであ
る。
さて結果であるが、総崩れに終わった。唯一青木無常さんだけが佳作として名
前だけが載るところまで行った。後にこの作品はAWCにアップされたが、無常
さんの普段の作風からはかなり無理をしたものであったことを付け加えておく。
【2月・五ハ戦争】
ことの発端は浮雲さんが「無味感想」と題する文の中で、時代を写した小説の
例としてカメ猫さん(現松原優一さん)の長編「香港再開」を取り上げたことで
あった。
これに対して洛井忍さんが反論した。「香港再開」の欠点を指摘しこう言った。
『私はこの小説を審判者不在の無法小説と位置付けさせていただきます』
洛井さんは言葉の過ぎた点についてカメ猫さんに謝っている。
まあ、感想を言い合う場であるからカメ猫さんも別に怒ってはいない。僕は人
間の善意だけを書くつもりはないからと説明し
『「審判者不在の無法小説」は、小説の基本ルールから逸脱しているのかもしれ
ません。それは、ハロルドさんの「音楽の効用」に対して洛井さんが言っていた
ように記憶しています』
これが火曜日のこと。
それを読んで名前の挙がったハロルドさんが洛井さんに質問した。
『カメ猫さんへの「審判不在の無法小説」ということですが、それは私の「音楽
の効用」への批評の「小説のルールに反する」と同じ意味なのでしょうか?』
そして洛井さんは小説に勧善懲悪を求めすぎてるのではないかと反論した。
2ヶ月ほど前に洛井さんがハロルドさんの小説「音楽の効用」の感想の中で、
主人公の扱われ方が理不尽であると書いたのを受けてのことだった。
これが木曜日のこと。
それに対し洛井さんが説明したのが金曜日のこと。
さらにカメ猫さんが登場し、洛井さんは「香港再会」と「音楽の効用」を同じ
ように言っているわけではなく、自分も「音楽の効用」のことを「審判者不在」
と言ってるわけではないと説明。
ハロルドさんはカメ猫さんの説明には納得して「どうも誤解だったようで失礼
致しました」とあやまり、洛井さんの説明にはまだちょっと納得行かない様子。
これが土曜日のこと。
そして日曜日。
週末ネットワーカー五月うさぎさんがアクセスした。
五月うさぎさんは「香港再会」への感想を書くにあたってこの議論にも触れた。
『ハロルドさんは誤解してるんじゃないかな。「音楽の効用」と「香港再会」の
リンク(ゼルダ姫ではない)は、無意味だと思います。このふたつに共通するの
は、洛井さんが感想を書いた作品、というただその一点のみだと思うのですが』
ゼルダ姫ってのは当時あった「リンクの冒険」というゲームのヒロインである。
と、そんな解説はどうでもよい。
でその深夜。
ハロルドさんは五月うさぎさんの「誤解してるんじゃないかな」という発言に
かみついた。
『もうすでに僕が、カメ猫さんが洛井さんの「審判不在の無法小説」に賛同して
いるという「誤解」は解いております。それに僕は別に「音楽〜」と「香港〜」
をリンクさせてはおりません。僕は一連のカメ猫さんの「香港〜」のギロンとは
全く関与しておりません。もう一度TL9680から読みなおして下さい。』
怒りのおさまらないハロルドさんは月曜日にも
『別の者が横からシャシャリでて
「お前何か勘違いしてんじゃねえの? 誰もお前の『音楽〜』の話なんかして
ねえよ。ああ、カメ猫さんの『香港再会』は面白いなあ。お前『香港〜』に便
乗しようなんて思ってんじゃねえの」
なんて言われたら、誰かって怒るよ!』
と怒りのアップ。
他のメンバーはハロルドさんがいったい何をそんなに怒っているのかピンとこ
ない様子であった。
ハロルドさんはその理由について、五月うさぎさんのメッセージだと
『これを読むとまるで僕が、「洛井さんが感想を書いた作品」以外にも、共通点
をほじくり出そうとしているように受け取れます。それにこの文章の前後の文章
から考えると、まるで僕が他の人と一緒になって「香港〜」のギロンに参加して
何か間違ったことを言っているみたいです』
と説明。
さて次の土曜日。
週末ネットワーカー五月うさぎさんは今週もアクセスした。なにやら自分に話
が振られている様子。
もともと議論好きの血が開花した。160行にわたる大論文を用意し、日曜日
アップしたのである。
(1)カメ猫さんが洛井さんの意見に賛同したとかしないとかを「誤解」といっ
てるわけではない。
(2)無法小説と反ルール小説を結びつけたカメ猫さんにではなく、洛井さんに
反論するのはおかしい。それこそリンクである。
(3)自分は週末にしかアクセスしてない。もう「誤解」は解いているというハ
ロルドさんのメッセージをその時点では読んでなかった。
それに対しハロルドさんは(3)に対してはそんなこと知るかと反論。(1)
については自分が誤解でしたと謝ったあとにそういったらそう思うのは当たり前
であると反論。そして(2)については洛井さんが「審判不在の無法小説」を最
初に唱えたからであり、自分は最初から洛井さんに「香港再会」に対して言って
いるのは「音楽の効用」に対してと同じ意味かと質問していると反論。
それを読んで五月うさぎさんは普段の行動パターンを変えて月曜日に登場した。
(3)はみな周知の事実であり、(1)は別MSGの同じ言葉を結びつけるのは
無理があり、(2)については洛井さんは言ってもいない「無法小説=反ルール」
の説明を求められているのだからやはりリンクであると回答……。
えーっと。これ私すごく整理して書いてるんですが、実際にはこのやりとりが
200行近くにわたって続き、ハロルドさんは興奮しているし、五月うさぎさん
はちょっと茶化しつつ理屈っぽく書いてるわけです。周りの人間にはいったい二
人が何を争っているのかもはやわけがわからなくなっております。
とにかく「リンク」がキーワードなのだが、リンクしたしないがなぜそんなに
問題になるのかが理解できないのだ。
そこで状況を整理しに登場した人がいる。らいと・ひるさんである。
らいと・ひるさんはハロルドさんの心理状況を推理しつつ現状を分析。
3メッセージにわたった分析をらいと・ひるさんはこうまとめている。
『まあ、一番簡単な答はこれです。
洛井さんはすぐRESが返ってきた。だけど、五月さんはRESが返ってこな
い。だから、まるで無視されているような感覚に陥ってしまった。
でなければ、説明がつかない怒りです。
これはたぶん、パソコン通信独特のタイムラグのジレンマからくるのでしょう』
そして、ハロルドさんに一番キレたときのメッセージを撤回するようにすすめ
る。
これを読んだ五月うさぎさんはかなりハロルドさんに批判的だったことに驚き
つつ批評、
『でもこれ、ハロルドさんの人間性にケリを入れてない?(笑)』
らいと・ひるさんはハロルドさんを悪く書きすぎたことを反省し謹慎を宣言す
る。
そしてこの週末、攻防は山場を迎えた。ハロルドさんの168行にわたる反論
に対し、五月うさぎさん380行の反論返し。直球勝負のハロルドさんに対し挑
発と「論理の剣」で攻めまくる五月うさぎさん。総野次馬と化すAWCメンバー。
そして水曜日。
ハロルドさんは反論の中で今はまだ貴方に対して誠意が抱けないとしつつ、こ
の議論が終わる際には自分の落ち度は謝罪すると和解を示唆した。
『五月さん、これは論戦の敵としてではなく、OLTの友人として、感想を分け
あった仲間として貴方に忠告するのだが、もし僕を「論理の剣」で突き刺そう
とするのなら、その剣が「両刃の剣」となっていないか確認することをお勧めす
る。そしてそのような貴方にとっても危険な凶器は、いますぐにでも捨て去って
ほしいと思う』
そしてこれからはアクセス回数が減るよと言い残した。
次の週末。五月うさぎさんは現れなかった。
ハロルドさんは事実上の終結宣言。約束通り自分が怒りすぎたことを謝罪。
次の週末。五月うさぎさんはちょっとだけ現れて「また来週続きを」と言い残
して去る。ハロルドさんはもうやめたらといい、アクセス回数が少なくなるので
レスしないかもといい、しばらくAWCの表舞台から姿を消す。
そのあと二週間たって五月うさぎさん登場、一ヶ月前のハロルドさんの意見に
反論する。そしてハロルドさんがこのまま消えるなら勝利宣言して、ハンドルに
撃墜マークをつけて「五月うさぎ☆」と名乗るよと誓うのであった。
しかしハロルドさんは現れなかった。こうしてのちに「五ハ戦争」と呼ばれる
ことになる論争は、どちらが勝ったということもなく終結する。
まだまだ続くよ1992年