AWC 海鷲の宴(15−5改訂版) Vol


        
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海鷲の宴(15−5改訂版)  Vol
★内容

 「ざまぁ見やがれ、ジャップども! 俺達の力を思い知ったか!」
  アべンジャーの雷撃手席で、「エセックス」雷撃隊長のデニス・フーバー少佐
 は歓声を上げた。彼らの眼下では、日本軍の空母「龍驤」が、高さ百メートルに
 達しようかという水柱を上げて、海面をのたうっている。珊瑚海以来、久々に合
 衆国空母航空隊が溜飲を下げた瞬間だった。

  フーバー率いるアベンジャーの雷撃を受けた「龍驤」は、合計3本の魚雷を片
 舷に集中して食らい、大量の浸水を生じたうえに、続いて降下してきたドーント
 レス隊から500ポンド爆弾3発を叩き込まれて爆弾庫が誘爆し、沈没寸前だっ
 た。日本軍の対空砲火も果敢に撃ち上げられたが、いくら対空専門の直衛艦がつ
 いているとはいえ、軽巡2、駆逐艦6の護衛戦力で守り切れるものではない。
  勢いに乗る米軍は、駆逐艦「霞」に魚雷2本を見舞って撃沈し、さらに「飛鷹」
 にも500ポンド爆弾2発を命中させた。「飛鷹」もまた、火災炎と黒煙を吹き
 上げたが、さすがに24000トンの巨艦はこの程度ではくたばらない。しかし、
 このとき受けた傷は意外に深く、彼女は本国に回航された後、1年近くに渡って
 ドック入りを余儀なくされることとなる。

  その頃、米軍もまた日本軍に劣らぬ災厄に見舞われていた。被害を受けた艦の
 戦力価値で言えば、日本軍以上かもしれない。
  まず、航空戦力の要である「エセックス」が、250キロ爆弾4発、魚雷4本
 を受けて大破炎上、辛うじて機関や弾薬庫は無事だったものの、3基のエレベー
 ター全てと舵を破壊されて、長期に渡る戦線離脱に追い込まれた。さらに、第一
 次ソロモン海戦で受けた損傷を応急修理して、急遽戦列に加わった重巡「ヒュー
 ストン」が、被弾炎上した艦攻の体当たりを受けて魚雷発射管が誘爆し、損傷続
 きの不運な戦歴にピリオドを打たれた。
  続いて、三隻の巡洋戦艦が猛攻を食らった。「サラトガ」「レンジャー」は、
 巧みな回避運動と濃密な対空砲火によって、艦上構造物の一部を爆砕される程度
 で済んだが、「ユナイテッドステーツ」は、訓練不足による焦りの為か、回避運
 動を誤って僚艦の重巡「ポートランド」と衝突し、そこに食らった魚雷で推進器
 を吹き飛ばされて航行不能に陥り、味方駆逐艦の雷撃で処分された。
  「ユナイテッドステーツ」に衝突された「ポートランド」も、第一砲塔の直前
 で船体を切断され、浮いているのがやっとという状況となっている。
  また、両軍とも保有艦載機の半数以上を喪失している。空戦や対空砲火による
 被害も大きかったが、母艦ごと撃沈されたり、格納庫内で炎上した機数がバカに
 ならない。これは、両軍の母艦航空隊すべてが、当分の間活動不能に追い込まれ
 たことを意味していた。


 9月20日 東京 陸軍参謀本部

 「海軍からの情報によれば、敵空母機動部隊はニューカレドニアのヌーメアまで
 後退し、当分の間動く素振りを見せていないということです。この機会にガダル
 カナルへ兵力を投入し、一気に米軍を駆逐しましょう!」
  杉山元参謀総長に向かって熱弁を振るっているのは、参謀本部の辻政信中佐だ。
 「そのガ島に展開している『海兵隊』とやらだが……一体どのような軍隊なのか
 ね?」
  杉山が訊ねる。珊瑚海で海軍が敗北したという情報は陸軍にも伝わっていたが、
 陸軍内部では、それは海軍の失敗であり、我々陸軍は海軍とはわけが違う、とい
 う観測が蔓延していた。
 「米兵は贅沢に慣れきった貧弱な集団であり、精強を誇る皇軍兵士が突撃を行え
 ば、散り散りに逃げ崩れてしまう」という根拠のない意見を唱える高官までいる
 有り様だった。
  もっとも、この時期にいたってなお、陸軍内部では自分達の主敵をソ連と考え
 る意見が強く、重要度の低い米軍について真剣に研究している者は皆無だったか
 ら、参謀総長たる杉山すらこの程度の認識しか持たないのも無理はなかったが。

 「は。自分も確たる情報を持っている訳ではありませんが、海軍陸戦隊のような
 ものかと」
 「なんだ、陸戦隊か。ならば、フィリピンで戦った陸軍以上に貧弱だな。一万人
 以上いるとは言うが、我が精強なる皇軍部隊なら、一個連隊もあれば十分だろう」
  大間違いである。日本の海軍陸戦隊は、鎮守府の警備や治安維持が主任務で、
 装備も兵力も合衆国海兵隊とはまるで比較にならない。いくら認識が低いとはい
 え、辻のこの発言は、後に帝国陸軍史上一、二を争う痛恨の大エラーとなるので
 あった。


  9月29日 未明

  参謀本部の方針によってガダルカナルに投入されたのは、第20師団から抽出
 された一個歩兵連隊、連隊長の名をとって、別名「百木連隊」と呼ばれる兵団だ
 った。彼らは、夜陰に乗じて同島西岸に上陸、密林の中に分け入って橋頭堡を築
 いた。
  だが、これが後に「餓島」とも呼ばれる地獄のような島嶼戦の幕開けとなるの
 である。この日午後、ハワイから到着した30隻の輸送船団。地獄への水先案内
 人の第一号であった。

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