AWC 三宮晴樹とその友人達(49)           ハロルド


        
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★タイトル (GSA     )  98/ 6/27   2:11  ( 75)
三宮晴樹とその友人達(49)           ハロルド
★内容
「ちょっと待てよっ!」譲治が天を仰いだ。「何でそこで裏切んだよ!」
「んなこと言ったって事実だから仕方ねえべ」晴樹は開き直った。そしてすぐに譲
治に耳打ちした。「大丈夫、大丈夫。僕達二人が引き分けに持ち込めば、どちらも
戦犯じゃないって言えるんだから」
「晴樹は失点1。譲治も本来なら失点1だけど、嘘ついたからペナルティとして失
点1が加わって合計失点2」郁太郎が言った。
 譲治は耳を疑った。「ペナルティって何だよ! 冗談じゃねえよ」
「間違った証言をするようじゃね」郁太郎は言った。「嘘つくのは論外だよ」
「ちょっと待って」善三が言った。「それで思い出したんだけど、もしこの四人の
中でワールドカップについて間違った情報を僕達に与えたら、それは十分戦犯の資
格があるんじゃない?」
「そんな奴が本当にいるのか?」郁太郎は尋ねた。「もしこの中でワールドカップ
の時だけの、にわかサッカーファンがいて俺達を混乱させたら、それは十分ある」
「ずっと気になってたんだけど」善三は説明し始めた。「アルゼンチン戦の後で僕
は『日本の応援がアルゼンチンの応援に聞こえる』って言ったよね」
「それはさっきも言ったが、日本を貶めることにはならない。だから君に失点はな
い」
「問題はその後だよ」善三は言った。「日本の応援歌を歌う者として『志村けんを
トゥールースに送ろう』と言った奴がいたよね」
 善三の台詞に触発されて、晴樹と譲治が何かを思いだしたように郁太郎の方を向
いた。
「確かにいたな」譲治は郁太郎を見つめながら言った。
 郁太郎は他の三人の視線を浴びながらも平静を保っていた。
「確かに私はそう言った。しかし何度も言っているようにギャグや冗談は失点には
ならない」
「そういう問題じゃない」善三は言った。「このときの話は、対アルゼンチン戦の
終わった後に行われたということが大事なんだ」
「どういうことかね?」
「つまり次回のクロアチア戦での応援の改善策なんだから、当然『志村けん』さん
はクロアチア戦への会場に送るという意味になるわけだよね?」
「そうなるな」
「で、『志村けんをトゥールースに送ろう』と言った?」
「そうだが、それが何だ?」
「クロアチア戦の会場は、ナントだよ。トゥールースじゃない」
 郁太郎の表情に初めて変化が表れた。彼は心持ち蒼白になったようだった。
「そういえば」晴樹が言った。「僕もあの時、何か引っかかってたんだよ。『何で
今頃トゥールースなのか?』って」
「まさか郁太郎くーん」譲治がニヤニヤ笑いながら言った。「まさかワールドカッ
プの時だけのにわかサッカーファンだったなんて言うんじゃないだろうねえ」
 郁太郎の態度にはっきりとした変化が表れた。彼は酷くうろたえている様子だっ
た。
「わかった、本当のこと言うよ。確かに俺はあまりJリーグの試合はあまり見てな
い。でもだからといってそれだけのことで俺は俺なりに日本代表を応援していたし、
第一間違いもそれだけだから、譲治の言ったことよりは罪はないと言えるぜ。まあ
俺はさしずめ失点1ってとこかな」
「何だとこの野郎」譲治は言った。
「間違いが他にもあったんじゃないかな」晴樹は言った。「今まで気になってたこ
とをもう一つ思い出したんだ。僕にジャマイカのイメージダウン番組を頼んだとき
の放送する順番についてだけど、『日本がジャマイカに勝った後に、ジャマイカの
イメージアップになる番組を放送してジャマイカに勝たせる』って言ったよね」
「いや、あれは・・・」郁太郎は言い訳しようとした。
「しかし日本対ジャマイカはH組最終戦だから、その前にジャマイカが勝たなきゃ
ならないんだよな。その後の日本戦の後に放送しても仕方がない」
「はい、失点2」譲治が言った。
「じゃあ結局、譲治とタイ、引き分けということで・・・」郁太郎は呟いた。
「まだある」晴樹は言った。「この議論を始める前に、日本対ジャマイカの試合は
F組最下位決定戦と言ったな」
「えっ? まさか・・・」郁太郎は呆然としていた。
「そう。もう気付いてると思うけど、日本はF組じゃありません。H組でした」
「はい、失点3」

 郁太郎は、昼休み中の朝礼台の上で『だっちゅーの』ポーズをしながら、無理の
ある甲高い声で、モーニング娘の『モーニングコーヒー』を歌っていた。多くの生
徒がその光景を見ながら罵声をとばしていた。晴樹と善三と譲治はその様子を見守
りながら囁き合った。
「『恥ずかしいわ』って歌ってるけど見てるこっちの方が恥ずかしいよ」譲治は言っ
た。
「でも意外とあいつ、初めから自分が歌うつもりでやったんじゃないかな」善三が
言った。
「もしそうだとしたら」晴樹は言った。「せめて今度のジャマイカ戦だけでも勝っ
てくれたら、あいつも少しは報われるかもな」

 その翌々日、晴樹の願いも虚しく日本は仏世界杯でジャマイカに2対1で破れ、
H組最下位が決定したのである。
                                                              (98/06/27)




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