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★タイトル (NXN ) 98/ 6/ 6 23:49 (196)
おんなのこ2 第4章(学園ラブコメ) 凡天丸
★内容
第4章 披露宴だよ!
「いつまで寝てるのっ、いくら日曜日だからって、いい加減に起きなさいっ!」
まもなく正午になろうという頃、ママが怒って、あたしの部屋に上がってきた。
「夜おそくまで長電話ばかりしてるから起きられないのよっ。一昨日もおそくまで
電話してたみたいだけど、ちゃんと授業受けられたのっ!?」
そう言いながらママは、あたしのタオルケットをひっぺがそうとしてきた。
「うるさいなぁ…起きるから出てってよっ。エッチッ!」
あたしは裾をつかむと、足で思いきりタオルケットを蹴りとばした。
「なんですかっ、その言い草はっ。もう起きてこなくてもいいですっ! そのまま
お布団に丸まって、納豆でも作ってなさいっ!!」
ママは、怒って出て行った。
自分でもママに八つ当たりしている事はわかっている。原因が湧ちゃんだという事
も。でも愛娘が、たった二日間で、今までの人生に匹敵するほどの心身の疲労を受け
ているんだから、少しはいたわってくれてもいいのにな……
1時過ぎ、ようやくベットから起きあがって下に降りると、キッチンのテーブルの
上に、ポツン…と、オムスビが二つ置いてあった。
その横には、”あら、ずいぶんお早いお目覚めですね。ママは、パパとお芝居を見
に行ってきますから、夜は納豆でも食べてなさい”というママのおき手紙があった。
あたしはその紙切れを丸めて、ポイッとゴミ箱に捨てると、居間で寝ころんでテレ
ビを見ながらおにぎりを食べた。かえってひとりの方が、気が楽だったから怒らない
よ。結局ママも、まだまだコドモなのだ。
//
食べてからも畳の上でゴロゴロまどろんでいると、ふいに玄関の呼び鈴が鳴った。
居留守をつかっちゃおうとしたけど、お客さんはしつこく何度も呼び鈴を鳴らすも
んだから、とうとう負けて応対にでた。何よりも近所の迷惑も考えずに、あたしの名
前を叫び続けている声には聞き覚えがある。
「あぁっ、やっぱり居たぁ!」
あぁ、やっぱり‥‥でた‥
「何してたのよぅ、ねぇ、あがっていい?」
ドアを開けるなり、どやどやと知美(ともみ)と沙世(さよ)が入ってきて、靴を
脱ぎ散らかして、遠慮なしに階段を上がっていった。その後から梁子(りょうこ)も
入ってきた。
「チャウスッ」
「な、なんなのよっ!? みんなで勝手におしかけてきてぇ!!」
あたしは、心の中の静かな湖面を、モーターボートで侵し乱されたような思いがし
た。できればこのまま帰って欲しかった。でないと梁子達にも、八つ当たりしてしま
いそうで、恐かったからだ。
「何だよ、休みなのにわざわざ人呼びつけといて、そんな言い方ないだろ?」
梁子もおかしなことを言う。
「いつ、あたしが呼びつけたのよぅ!?」
「あん! アンタ聞いてなかったのかい? 昼ごろ、あんたのおふくろさんから電
話があって、今日、アンタがひとりで退屈してるから皆で遊びに来てやってくれ
って頼まれたんだよ」
地響きのように怒りがムクムクと頭をもたげ、心がパチパチとスパークした。どう
やらあたしは、ママを甘くみていたようだ。
「……にしても何だい!? 昼の最中に、ヨレヨレのパジャマ着て、髪はボサボサ、
前歯と口唇にノリつけて覇気のない顔してさぁ……不幸な少女そのものだね」
「な、なによぉぉぉ。自分宅で、どんな格好してたっていいじゃないっ」
とは言いながらも、スリットの入ったベロアのミニをオシャレに着こなした梁子と
自分を比較して、恥ずかしくなったあたしは、口唇のまわりを舌でなめながら手櫛で
髪をとかした。
「ちょっとぉーっ、何してるのぉー!? 早く来なよぅー!!」
二階のあたしの部屋から甲高い知美の声がして、とりあえず、梁子と一緒に階段を
上がっていった。
部屋に入ると知美達は、勝手に絨毯の上に自分達が持ってきたお菓子やジュースを
ひろげて場をつくり、CDまでかけてくつろいでいた。
「さぁ、さぁ、座って、座って。舞子はここね。梁子さんはそこね」
知美の指図であたしは絨毯の上に、おずおずと正座した。なんだかあたしん宅じゃ
ないみたいだ。
「ハイッ、それじゃカンパイしようよ」
ペットボトルのジュースを四つの紙コップに注ぎ終えた沙世が、あたしにジュース
を手渡しながら言った。
「ねぇ、梁子。なんなのコレ?」
なんかムードが違うことに違和感を抱いたあたしは隣に座っている梁子に尋ねた。
「アンタに恋人できたお祝いすんだとさ」
「なっ、なによそれぇぇぇぇっ!☆」
「いいから、いいから。あたし達、自分の事のように心から喜んでるのよぅ」
沙世があたしの肩にポンッと手をおきながらにこやかに笑った。
「そう、そう。沙世とも話し合ってたんだ。この中の誰かが先に恋人つくっちゃっ
たとしても、妬んだりしないで、温かく祝福しあおうねって」
そんな知美の笑顔は、喜んでいるというよりは、楽しんでいると言った方が当たっ
ている。
「アタシは、ヤメとけって言ったんだけど、こいつらが勝手に盛り上がっちまって
さぁ」
そう言う梁子の眼も笑ってるよ…
「それではぁ! 舞子と湧ちゃんの末永き幸せを願ってぇぇ、カンパァァイ!!」
知美が膝立ちになって乾杯の音頭を取ると、次々とあたしの紙コップに皆の紙コッ
プが当たってきた。少しパジャマにジュースがこぼれた。
「いやぁぁ、嬉しいねぇ。あんたにもついに春が来たかぁぁ…ウイッ」
「ウヒックィ…これでようやく、あたしも肩の荷がおりたよぅぅ…シクシク」
知美と沙世が、酔っぱらいのフリをして、泣き笑いをまじえながら、交互に世迷い
言をほざいている。完全に遊ばれてる感じ……
「でぇ? 愛しの湧ちゃまは、今日、どうしてんのぉ?」
向かいに座っていた知美が、あたしと梁子の間に割り込んできて、馴れ馴れしく肩
に手をまわしながら、披露宴での酔っぱらった親戚のオジサンみたいに聞いてきた。
「知らないわよっ。きっと寝てるんでしょっ」
「するってぇとナニかい? 夕べもおそくまでTELTEL(てるてる)してたっ
てかぁぁ、いいねえぇ若いモンはぁ、オイちゃんヤケちゃうっちゅぅぅのっ!」
バコッ☆ とあたしの背中を叩いて、身を仰け反らせながらジュースを一気に飲み
干す沙世。酔っぱらいよりも質が悪い…
「けどアンタもよく身がもつねぇ…昨日はどんくらい長電話したのさ?」
タバコをくわえたまま、ベランダごしの窓を開けてしゃがんだ梁子が、ジッポを擦
りながら、かったるそうなため息まじりで尋ねてきた。
梁子はヘヴィースモーカーで、あたしん宅に来た時は、いつもベランダに顔だけ出
してタバコを吸う。勿論なんども注意したけど止められないらしい。
「えっと…晩御飯食べてすぐだったから……8時ごろから………4時くらいだった
かな…」
「えっ!?」
梁子、知美、沙世が揃って絶句した。
「ちょ、ちょっと待ってよ… 8時からでしょ? 8、9、10…… うそっ!!
8時間よおぉぉ!?」
「…うん、8時間くらいしてた……」
知美も沙世も、すっかり宴会気分はフッ飛び、ア然としてあたしを見つめている。
「信じらんないね……アタシなんか長くったって、せいぜい5分がいいとこだよ」
まぁ、それもどうかと思うけど。知美達も同感らしく、返す言葉を失っている様子
だ。
「…で? そんなになに話してたのよ」
知美が話をもどして尋ねてきた。
「べつに……」
「べつにって事ないでしょぉ、8時間よぉ、は・ち・じ・か・ん・っ」
あたしの両肩を掴んで揺すりながらムキになって知美が聞く。
「ほ、ほんとにたいした事、話してないのよぅ。ただ湧ちゃんがコードレスを持ち
歩いて一緒にテレビ見せられたり…宿題つきあわされたり…お風呂に入れられた
り…アルバムの説明聞かされたり…布団の中で本読まされたり…子守歌うたわさ
れたり……」
と、内容を教えていると、どんどん皆のアゴがのびていった。
わずかに残っていた宴の余韻さえも、屋根の上を横切ったジェット機が、洗いざら
い持ち去っていってしまった。
「ね…ねぇ、それってちょっと…ヤバくない?」
「う、うん。なんか…ね」
顔をひきつらせながら見合う知美と沙世が、さらに空気を重たくする。
「な、なによぅ。い、言っときますけどねぇ、あたしはそうゆう趣味じゃないから
ねっ」
「湧はどうなんだよ?」
梁子の鋭いつっこみが、矢となってあたしの身体を貫いた。
その事は、一番懸念していたことだった。湧ちゃんがジャレてその気をみせる度に
あたしはしきりに現実から眼をそむけ、この子は、ちょっぴり人よりも、スキンシッ
プの表現が大胆なだけなんだと心に言い聞かせていたのだ。
「……たぶん」
「たぶんって何だよ。ホントはアンタも、湧が異常だって思ってんだろ?」
「………」
あたしは俯いたまま、膝の上でパジャマの裾を握りしめ、顔をあげることができな
かった。
「ねぇ舞子。早いうちに別れたほうがいいよ…」
普段とは違う沙世の真剣な口調は、妙に重みがある。
知美も後を追って、重たく口を開く。
「あたしもそう思うな。でも変ね……」
「何が?」
沙世がチョコンと跳ね返す。
「だってあの子、あんなに可愛らしいんだもん。わざわざ舞子なんかに興味もたな
くったって、男の方から声かけてくるんじゃない?」
「まぁ、それもそうね。女子校ならともかく、ウチは共学で、しかも絶対多数で男
子の方がだんぜん多いもんね。あたしらでさえ、たまにラブレター貰うんだもん。
あの子なら、もう何十通も貰ってるかもね。ねぇ舞子、そこんとこどうなの?」
「ねぇ、舞子っ、聞いてんのっ!?」
背中を知美に叩かれて、あたしはハッと我にかえった。
「えっ!? う、うん……聞いた事あるわ……湧、湧ちゃんて、男の人嫌いみたい
なの。なんか、男の人は下品で、不潔で、野蛮で、自分勝手で、エッチで…だか
ら大嫌いって…」
あたしは虚ろな口調でそう答えながら、胸の中ではズタボロに傷ついていた。
…そうなんだ……みんな結構ラブレター貰ってるんだね…あたしなんか湧ちゃんに
貰ったのが初めてだったのに…………
しばらくは、立ち直れそうにない。
「ちょっと舞子。あいつホントにそんな事、言ってたのかい?」
「うん…」
あたしは頷きながらも、梁子もラブレター貰った事があるのかなぁ…と、その事ば
かり気にしていた。本音を言うと、梁子だけは貰っていない事を願っていた…
「舞子……湧とは早く手を切った方がいいよ。アイツ、あんな顔して、けっこう男
経験が豊富なのかもしれないよ」
「えぇっ、ま、まさかぁ……そ、そんなっ、湧ちゃんにかぎって……」
湧ちゃんまでっ……やけにノドが乾き、あたしはジュースを一口飲んだ。
「ありえない事じゃないだろ? もう高一なんだから、一つや二つの男性経験くら
いあるさ。そして付き合ったヤツラが揃いも揃って皆、下品、不潔、野蛮、自分
勝手、スケベだったとしたら……同性愛にはしったっておかしくないよ」
梁子の推測はやけに現実的に聞こえ、あたしのノドをカラカラにさせる。
じゅる‥ごくん、ごくっ‥‥ごくん‥
一瞬、間をとってから、知美と沙世も追告する。
「…やっぱ別れたほうがいいよ。あんたにその気が無いにしても、外から見ればや
っぱり、舞子が男よりも女の子に興味があるんだなって思われちゃうだろうし」
「そうだよ。もし、そんな噂が学校中に広まっちゃったら、一生、男の子と付き合
えなくなっちゃうかもよ」
そ、そんなぁぁぁ!! 嫌っ、そんなの絶対嫌っ!!
あたしは、いつの間にか空になった紙コップを、震える手で握り潰していた。
知美と沙世の予言を思い描いただけで、背筋が凍りつき身の毛もよだつ。そして頭
の中を、湧ちゃんの天使のような悪魔の笑顔が、キャイキャイと輪廻を繰り返してや
まなかった‥‥‥
//
‥‥‥あれから何時間もかけて念入りに”舞子に人並みの不純異性交遊を!”作戦
会議が続いている。
だけど、その作戦のほとんどは、あたしを蚊帳の外に出し、知美、沙世の二人の間
だけで練られていた。
いわば、二人が作戦参謀で、あたしが任務遂行にあたる兵士といった感じだ。
梁子なんて、10分もたたないうちに呆れて帰ってしまった。あたしも出来ればそ
うしたかったけど、どこにも行くあてもないし、ただ部屋の隅で膝を抱えておとなし
く、会議が終わるのを待っているしかなかった。
あたしは一人、離れて見ていて、その、まるで旅行の計画プランでも相談している
かのような、和気藹々とした作戦会議に、一抹の不安を覚えた。
まさか、特攻隊じゃないよねぇ‥‥‥
−−第4章 おしまい!
第5章 作戦開始! に、つづく…−−