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海鷲の宴(12−1) Vol
★内容
第二部第五章 決戦
1942年5月27日 1400時 ニューギニア島北東部
この日、第八艦隊によるモレスビー侵攻の枝作戦として、トラックを本拠地とす
る第四艦隊が、ニューギニア北東部の拠点ラエに襲いかかった。連合軍の守備隊が
せいぜい数百人規模の陸上兵力と魚雷艇数隻に過ぎないところへ、軽巡2、駆逐艦
7に守られた2000人の大兵力が襲ったのだ。
既に、午前中に行われた護衛艦隊の艦砲射撃で、陸上施設はあらかた叩き尽くさ
れ、連合軍は基地を半ば放棄して、背後のジャングルとオーエンスタンレー山脈に
逃げ込んだものの、重火器も食料も失った状態で戦える訳も無く、それから数日と
経たずして、白旗を上げて降伏して来た。MO作戦の第一段階は、まずは順調に進
展していた。
6月5日 0600時 ニューギニア東方沖
東の水平線上に朝日が顔を出すと同時に、第八艦隊旗艦「赤城」の発着艦指揮所
で、発艦よしの信号灯が振られた。
6隻の空母の甲板上には、ずらりと爆装した九九艦爆や九七艦攻、護衛の零戦隊
が並べられている。その中には、今年制式採用されたばかりの二式艦上攻撃機「天
山」や、航続距離を削った代わりにエンジン出力を強化して、速力と降下性能を向
上させた零戦三二型、九九艦爆四型などが含まれている。
先頭の零戦の傍らで待機していた整備兵が、車輪止めのチョークを外すと、一際
大きなエンジン音を轟かせたその零戦は、飛行甲板を一杯に使って飛び立って行っ
た。零戦隊に続いて、九七艦攻、九九艦爆、天山といった機体が追従する。
第一次モレスビー攻撃隊は、零戦54、九七艦攻27、天山27、九九艦爆45
の合計153機。甲板に立ち並ぶ将兵の帽振れに見送られて、颯爽と翼を翻し、艦
隊上空で緊密な編隊を組むと、西へ向かって飛び去って行った。
一方その頃、6隻の空母の格納庫内では、現れるかもしれない敵空母に備えて、
第二次攻撃隊の対艦装備が急ピッチで進められていた。
0730時 ポートモレスビー
「東海上に大編隊、少なくとも100機以上。距離60海里!」
レーダーからの報告に、マッカーサーは直ちに、戦闘機隊の発進を命じた。滑走
路上に並べられていたP39、P40といった機体が、次々と滑走路を蹴って飛び
立って行った。続いては、B17フライングフォートレス、A20ハボック、B26
マローダーのような双発又は四発の爆撃機だ。長大な航続距離を活かして、索敵爆
撃を行わせようと言う訳だ。
「日本軍の空母がいくら強力だろうと、こちらは言わば不沈空母だ。戦艦が陸上基
地と撃ち合って勝てないのと同様、空母と陸上基地が戦って勝てる道理が無い!」
マッカーサーは、攻撃隊が飛び立って行く様子を司令部の窓越しに眺めながら、
自信たっぷりに言った。
(来るなら来い、日本軍。バターンでの借りを、十倍にして叩き返してやる……)
0750時 モレスビー南東海上 第16任務部隊旗艦「エンタープライズ」
「ポートモレスビーより入電。日本軍の艦載機の攻撃を受けているようです」
「タイムアップ寸前で、同点タッチダウンが間に合ったと言うところだな。これか
らサドンデスの延長戦だ。索敵機からの報告はまだか?」
「まだ入っていませんね。多分モレスビーの北東海域だとは思いますが……」
「ああ。だが、意表を突いて半島を廻りこんだ北側と言う事も考えられるからな。
攻撃隊はいつでも出せるように準備しておけ。ジャップを叩きのめす絶好のチャン
スだぞ!」
「アイ・サー!」
ハルゼーの号令に、ベイツ参謀長は快活な声で応じた。
同時刻 ポートモレスビー
一方こちらは、第16任務部隊司令部のように浮かれている場合ではなかった。
迎撃隊の戦闘機は奮戦しており、なおかつ数の上でも2倍の優勢を保っていたが、
それでもジーク(零戦)「「開戦以来、連合国の航空機を片っ端から食い続けてい
る恐るべき相手「「を押し返す事が出来ない。逆に一度に2機、3機とまとめて落
とされて行く。もちろん、ジークの方も落ちてはいるが、キルレシオは4対1「「
つまり、ジークを1機落とす間に味方は4機落とされている「「に迫る勢いだ。
特に速度の遅いP39は、今や殆ど空中から姿を消していた。速度性能ではジー
クを大きく引き離していた筈のP40も、旋回性能では遠く及ばないため、格闘戦
に引きずり込まれてばたばたと食われていた。おまけに、今回のジークはエンジン
出力を強化しているらしく、頼みの綱の速度性能でも、さほどアドバンテージが確
保出来ていない。少しでも急降下が甘かった機体は、あっと言う間に捕捉され、20
ミリ機関砲の太い火箭を叩き込まれて、空中分解して落ちて行った。
そして迎撃隊が手こずっている間に、攻撃隊は悠々と基地上空に侵入して来た。
基地のあちこちに設けられた対空砲が、一斉に火を噴き始める。一機の九七艦攻が、
直撃弾を食らって空中爆発し、ばらばらの破片になって地上に落ちて行った。だが、
残りは臆する様子もなく突進して来る。なおも攻撃隊を阻止しようと、対空砲火を
激しく撃ち上げる陣地に向かって、九九艦爆が列を成して急降下して行く。次々と
爆弾架を離れた250キロ爆弾が、対空砲陣地目掛けて落下する。
直撃を食らった砲座が、木っ端微塵になって吹き飛んだ。中途で折れ飛んだ砲身
や、砲架の残骸、数瞬前まで人間の形をしていたものなどが、吹き上げられた硝煙
や土砂に混じって散乱する。
航空基地の滑走路には、艦攻が運んで来た800キロ爆弾が、盛大にばらまかれ
た。コンクリート舗装された滑走路がそこいら中で弾け飛び、鉄と火薬と言う、乱
暴な方法で耕されて行く。
そして、兵舎や格納庫、倉庫や司令部といった施設にも、容赦なく爆撃の手は及
んだ。立ち並ぶ建造物が、500キロ爆弾を直撃されて次々と崩壊する。大量の潜
水艦用魚雷を貯蔵していた弾薬庫が、大音響と共に火柱を上げて吹き飛ぶ。
地上を逃げ惑う基地要員を、零戦や投弾を終えた九九艦爆の機銃掃射が薙ぎ倒し
て行く。
「いかんな……」
攻撃隊指揮官の富沢幸一大尉は、基地の被害状況を見て顔をしかめた。
見たところ、モレスビーの軍事施設は盛大に炎と黒煙を上げて燃え盛っているよ
うに見える。だが、見た目は派手にやられているように見えても、実際のダメージ
はそれほどでもない事を、富沢は見抜いていた。特に、航空燃料や重油のタンクが
丸ごと無傷で残っている上に、港湾施設はほとんど手付かず。さらに滑走路も、半
分以上は使用可能なようだ。対空砲座も、未だ盛んに砲火を撃ち上げて来る。地上
掃射中の零戦の一機が、至近弾を受けて弾片にコクピットを撃ち抜かれ、錐揉みを
起こして地表に激突した。
富沢は、後席の電信員に指示した。
「前原、司令部に打電だ。『施設の破壊不十分。第二次攻撃の要あり』」
0820時
攻撃隊からの報告を受けた第八艦隊では、対艦装備だった第二次攻撃隊の兵装転
換で、整備科の要員がパニックを起こしかけていた。苦労して対艦用の徹甲爆弾や
魚雷を装着したのに、それを外して陸用爆弾に付け替えろと言って来たのだ。
第二次攻撃隊は、総数200機近い大所帯だったから、兵装転換も大変だ。
そこへ持って来て、先程艦隊が敵重爆に発見された。
直掩隊の零戦に追いかけられた敵機は、慌てて爆弾を投棄すると逃げて行ったが、
その直後、「榛名」の無線が敵の通信と思しき暗号をキャッチしたのだ。間違いな
く、敵はやって来る。各艦の整備班は、血を吐く思いで兵装転換を急いでいたが、
そのスピードにも自ずと限界があった。
最初の爆撃隊が、艦隊上空に姿を現したのは、それから15分後だった。
同時刻 第16任務部隊
「陸軍のB17より入電! 『われ、敵機動部隊を発見せり。戦艦1、空母6、重
巡6、軽巡2、駆逐艦多数』」
「よし、攻撃隊を出せ! 獲物はすぐそこだぞ!」
ハルゼーは、勢い込んで叫んだ。その声に後押しされるかのように、甲板上にず
らりと並べられた、F4F、ドーントレス、デバステーターが、次々と発進して行
く。その中に、一際巨大な図体を持つ、見慣れない銀色の機体が混じっていた。
グラマンTBFアベンジャー。
つい数ヶ月前に制式採用されたばかりの、ピカピカの最新鋭艦攻だ。
デバステーターとは比較にならないほど頑丈に防弾された機体の腹の中に、800
キロ航空魚雷又は1000ポンド爆弾を納めて、デバステーターよりも時速80キ
ロ以上も速く飛行出来る優秀機だ。その立役者とも言えるのが、新たに開発された
ライト&サイクロン1700馬力エンジンだった。
この機体ならば、マーシャル沖での雪辱を果たす、アベンジャー「「復讐者とな
ってくれるに違いない。そう信じて、甲板上に整列した将兵達は、腕が千切れんば
かりに帽子を振り、飛び立って行く攻撃隊に声援を送っていた。
0825時
「機長、2時方向!」
「見つけたか!」
重巡「最上」から発進して哨戒飛行を続けていた零式水上偵察機は、つい今しが
た攻撃隊の発艦を終えたばかりの、第16任務部隊を発見した。
「『赤城』に連絡だ。『われ、敵艦隊を発見せり!』」
0830時 第八艦隊
「何だって!? また対艦兵装に戻せだぁ!?」
「天城」の格納庫で、胡麻塩頭の整備班長が素っ頓狂な声を上げた。
さっき出された対地兵装への転換命令で、フル回転で陸用爆弾への付け替えを急
いで、ようやく八割方の作業を終えたところに、またしても再転換命令が出たのだ。
「いくら敵空母が見つかったってなぁ……」
不貞腐れていても始まらない。上からの命令は絶対だ。整備員達は、片付け掛け
ていた対艦用の徹甲爆弾や魚雷を引っ張り出すと、攻撃隊の兵装再転換に取り掛か
った。一刻でも早く装備を完了するために全員で作業に掛かっているので、取り外
された陸用爆弾は、片付ける者もいないまま床にごろごろと転がっている。
「こんな状態で、敵の爆弾を食らったら……」
整備班長は、ふと浮かんだ不吉な考えを、頭を振って脳裏から追い払った。今は
余計な想像を巡らせている場合じゃない。ともかく、攻撃隊の対艦装備を仕上げな
ければならないのだ。
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